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強制執行·差押えを申し立てて債権を回収できる?
この記事で分かること
- 民事執行には4種類あり、その代表が強制執行と担保権の実行
- 強制執行は権利関係を具体的に実現する手続き
- 強制執行には差押えが必要になる
債権回収のためには裁判で判決を得るなど、債務名義を手に入れ、執行手続きに入る必要があります。裁判所は判決を出しても、取り立てまではしてくれませんし、相手もすぐに支払ってくれるとは限りません。どうしても強制執行するためには差押えが必要になるので、まずは法律問題に詳しい弁護士に相談するべきでしょう。
強制執行には差押えが前提
貸したお金を返してほしいと借主に請求した場合、通常は民法の規定に沿って貸主の権利の有無が判断されます。しかし、貸主に返済をしてもらえる権利があると裁判所が判断しても、裁判所がお金を取り立ててくれるわけではありません。民事執行はそのような権利を具体化するものです。
民事執行の種類
民事執行には4種類あります。特に重要なのが強制執行と担保権の実行です。
強制執行
強制執行は債務名義に基づいて行われる執行手続きです。執行機関に申し立てて差し押さえ、競売による換金などで債権回収する方法のことをいいます。
担保権の実行
担保権の実行は担保権の実行としての競売です。たとえば金銭の貸主が、質権契約を締結して動産を預かったり、不動産に抵当権を設定しておく場合が考えられます。そのような契約を結んでおけば、貸したお金が返還されない場合に、訴えを提起するまでもなく、担保権の実行として直ちに民事執行の申し立てができるというものです。その対象は、担保権が設定された対象物に限られます。
その他の民事執行
それ以外の民事執行は形式的競売、債務者の財産の開示です。形式的競売は「換価のための競売」とも呼ばれます。たとえば遺産を分割する際に、遺産を分けられない時に金銭に替えて分割することもありますが、そのような遺産の換価手続きを形式的競売と呼びます。財産開示手続は、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するために行うものです。債務者の財産が不動産であれば、登記を確認することで容易に分かりますが、債権はなかなか分かりません。そのため債務者による財産隠しが行われることもあり、それを防ぐために債務者の財産を開示させるのです。
強制執行とはどういうものか
まずは強制執行について、詳しく見ていきましょう。
仮に裁判で勝訴し、貸した金銭を返せという主張が認められたとしても、自分で相手の家に乗り込み、財布からお金を抜いて行くわけにはいきません。そのようなことを禁止するのが「自力救済禁止の原則」です。自力救済とは、個人が法の手続きを踏まずに自分の権利を実現することをいいます。もし、自力救済を認めてしまえば、個人による暴力的な取り立ても認められることになり、社会秩序を守れなくなってしまいます。
権利の最終的な実現
日本では自力救済が禁じられており、強制執行はあくまでも国家権力によって行われます。そのために民事執行法で執行手続きが定められているわけです。つまり民事執行法は裁判手続きで決まった権利を最終的に実現するための手続きを定めた法律と言えます。
執行証書等による強制執行
強制執行は、必ず判決手続きを経なければならないというわけではありません。執行証書を債務名義にした場合は判決手続きを経る必要はありません。執行証書とは当事者が公証人に所に行き、金銭の貸し借りを証明し、債務者が直ちに強制執行に服する旨の記述がされている文書のことです。
強制執行と差押えの種類
強制執行の種類と、対象物によって異なる差押えについて見ていきましょう。
強制執行については金銭執行と非金銭執行の2種類があります。
金銭執行 | 金銭執行とは金銭の支払いを目的とする請求権を実現するための強制執行です。 |
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非金銭執行 | 非金銭執行とは、金銭の支払いを目的としない請求権を実現するための強制執行です。例えば建物明渡請求権を実現するための強制執行などが該当します。 |
金銭執行の種類
金銭執行にはいくつかの種類があります。何を対象にするかによって異なります。
不動産に対する強制執行
不動産に対する強制執行は、2種類あります。不動産を競売してその売却代金を支払いに充てる強制競売と、不動産を競売せずに不動産から得られる賃料等の果実から金銭債権を回収する強制管理です。
動産に対する強制執行
動産に対して執行するものです。民法上の動産、登記できない土地の定着物、土地から分離前の天然果実、有価証券(裏書き禁止でないもの)が対象になります。差し押えて、換価して、満足を得るというのは不動産への執行と同様です。
債権に対する強制執行
債権に対する強制執行は、取立てと転付命令が代表的なものです。取り立ては、差押えた債権の取立てができるというものです。転付命令は分かりやすく言うと、債務者の有している債権を、差押え債権者のものにすることです。
その他の強制執行
以上の強制執行以外に、船舶執行があります。総トン数20トン以上の船舶に対して強制執行するものです。これも強制競売の方法で行います。一定規模以下の船舶については、小型船舶についての強制執行となります。また、航空機、自動車、建設機械に対する強制執行もあり、いずれも民事執行規則に規定されています。
強制執行における差押え
強制執行を行うについては、まず差押えが必要となります。強制執行の種類によって異なります。
不動産執行での差押え
債権者が強制競売の申立てをした場合、執行裁判所は強制競売の開始決定をして、債権者のために不動産を差し押さえることを宣言しなければなりません。開始決定がされると裁判所書記官は、直ちに差押えの登記を嘱託し、登記官は登記をして証明書を裁判所に送付します。
動産執行での差押え
動産の差し押さえは執行官に対して申立てをしますが、動産は細々としたものが多いことから、個々の動産を指定することはできません。差し押さえるべき動産が所在する場所を指定します。執行官はその場所で、指定された場所内で差押債権者の債権と執行費用の弁済に必要な限度内で差し押さえるべき動産を選択します。
債権に対する執行での差押え
債権の差押えは裁判所の発する差押命令によって行われます。それによって、債務者は第三債務者への取立てなどの処分が禁止されます。処分とは債権譲渡をしたり、質権を設定したりすることと考えればいいでしょう。また第三債務者は債務者への弁済を禁じられます。
強制執行と差押えの流れ
強制執行や差押えの流れを見てみましょう。
強制執行について、まず必要なのはその法的根拠となる債務名義です。
債務名義の種類
債務名義は強制執行の基礎となる文書で、民事執行法22条の1号から7号まで枝番を含め11種類のそれが明記されています。一般的なものとしては確定判決(1号)、仮執行の宣言を付した判決(2号)などです。
強制執行は原則として判決手続きが必要
執行手続きは判決で確定した権利関係を申立てにしたがって実現する手続きですから、通常は判決手続きが先行します。しかし、常に執行手続きに先行するというわけではありません。前述したように執行証書による執行では判決手続きは必要ありません。執行証書も債務名義の一種です。
債務名義だけでは執行できない
債務名義は強制執行の基礎となりますが、債務名義だけでは強制執行はできません。
執行文の付与
強制執行は「執行文の付与された債務名義の正本に基づいて実施」されますから、債務名義以外に執行文の付与が必要になります。執行文は「債務名義の正本の末尾に付記する方法」により行われます。執行証書以外の債務名義の場合は裁判所書記官が執行文を付与します。
送達証明
執行の申し立てをする場合、執行文の付与に加えて送達証明書が必要になります。強制執行は債務者に債務名義が送達された時に限って開始できるものですから、債務名義が送達されたことを証明する送達証明書が必要になります。執行文の付与と、送達証明書がそろったら強制執行の申し立てが行えます。
差押えから強制執行と担保権実行との違い
では、ここからは、強制執行と担保権の実行との違いを説明します。
担保権の実行とはどのようなものを指すのでしょうか。
担保権について
お金を貸し借りする時に、貸す方としては必ず返してもらいたいと思うはずです。口で「絶対に返すから」と言っても、返す気持ちがあっても返すお金がなければ返すことはできません。そのために返せない時に備えて「借金のかた」をとるのが担保権と言っていいでしょう。抵当権や質権などがよく利用されます。
抵当権と質権
抵当権は、分かりやすく言えば、お金を借りる人が貸してくれる人に「返せない場合は手持ちの不動産から、貸した分だけ持っていっていいですよ」という契約を結ぶものです。もちろん抵当権設定者は債務者には限りません。息子の借金を、父親の土地に抵当権を設定して担保というのはよくあります。質権は目的物を債権者に預け、債権者は弁済があるまで目的物を留置し、弁済がない場合には競売して優先弁済を受けるというものです。市中の質屋さんのやっていることと大差ないでしょう。
判決手続きを経ずに執行が可能
このような担保権を設定した場合、約束の期限に弁済がない場合、訴えを提起することなく、民事執行の申立てをすることができます。そしてその目的物が競売された場合、原則として他の一般債権者より優先して配当を受けることができます。
強制執行と担保権の実行との違い
次に強制執行と担保権の実行の違いを見ていきましょう。
強制執行は原則として判決手続きが必要です(執行証書が債務名義の場合等を除く)。担保権の実行は判決手続きが必要ありません。
強制執行の差押えの対象は債務者の全財産から選べますが、一般債権者に対する優先権はありません。担保権の実行は、その対象は担保権が設定された財産に限られます。しかし、他の債権者に対する優先権はあります。
強制執行・差し押さえには弁護士の知識が必須
強制執行や執行の申立てなどは専門的な知識が必要です。トラブルにならないためにも、法律のプロの弁護士に相談をするのが得策です。特に、強制執行や差し押さえの手続きは複雑なので、債権回収に強い弁護士に依頼するようにしましょう。
- 状況にあわせた適切な回収方法を実行できる
- 債務者に<回収する意思>がハッキリ伝わる
- スピーディーな債権回収が期待できる
- 当事者交渉に比べ、精神的負担を低減できる
- 法的見地から冷静な交渉が可能
- あきらめていた債権が回収できる可能性も