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債権者破産とは?デメリットも大きい申立てのメリットと実際の利用
この記事で分かること
- 債権者が債務者を破産させることで被害を抑えられるかもしれない
- 債権者破産は手間と費用がかかり、デメリットが大きくなりがち
- 債権者破産は破産申し立てした債権者を優遇しない
債権者破産は債権の損失を抑えるために行われる手段の一つですが、基本的には債務者が自己破産するためこの方法はあまり用いられません。仮に債権者が債務者に代わって破産手続きをしたいと思っても濫用を防ぐために債務者の情報を集める手間があり、やはり使用を控えたい手続きだと言えます。
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債権者破産とは
債権者破産とは、債権者が申し立てて債務者を破産させる手続きです。債務者自らが申し立てて行う破産手続きは自己破産と呼ばれます。
いずれにせよ、債務者の財産を債権者で分け合い原則として債務を免責する点において同じです。
債権者が破産するときも支払い不能であることの疎明が必要
破産は債務を免責する手続きであり、債権者債務者ともに相応のデメリットが伴うことから支払い不能であることを明らかにしなくてはいけません。証明と呼ぶほどの厳密なレベルではありませんが、疎明である以上は高いレベルでの立証が求められます。
自己破産の場合は自ら支払い不能を疎明する資料を用意できますが、債権者破産の場合は債務者の状況を自らで調べ、まとめる必要があります。これが非常に面倒です。
破産そのものは通常通り行われるが…
破産そのものは通常通り行われますが、管財事件として処理されるため予納金が求められます。ところが債権者が破産を申し立てたことで、申立人が破産管財人に支払う予納金を支払わなければいけないのです。
債権回収の方法としてはマイナー
このように債権者破産は債権者自らが申し立て、当然その準備もしなければいけないため方法としてはマイナーです。よほど債権者にとって有益な事情がない限りは控えた方が良いでしょう。
債権者破産をお考えなら、その理由を明確にし他の手段と一緒に考えることをお勧めします。
債権者破産の申し立てが行われるのはどのような場合?
基本的に債権者破産を行うメリットは少なく、現在もレアケースと言えます。しかし”ジャパンライフ”のように名の知れた会社が債権者破産を申し立てられることもあります。
果たして債権者破産はどのような場合に使われているのでしょうか?
強制執行が困難である場合
強制執行が困難で、財産を差し押さえられない場合に債権者破産をすることが考えられます。債権者破産の申し立てが受理されれば、破産管財人が債務者の財産を調査してくれるからです。
しかし、配当は債権者で平等に分け合うため思ったほどの財産を得られない可能性も十分にあり得ます。
不良債権を損金計上したい場合
債権は会計上資産として扱われます。そのせいで税金が高くなったり不良債権が多い=管理能力が低いというレッテルにつながる場合があります。不良債権は破産した場合に損金計上できるため、無駄を減らす意味で債権者破産することが考えられます。
ちなみに、売掛金だけであれば取引停止後1年の経過を理由に損金算入が可能です。
レアだが企業の違法活動を阻止したい場合も
違法企業の活動を止めるために債権者破産を申し立てる場合もあります。会社が傾いてもなりふり構わず人に害を与え続ける存在への対策として役立つようです。
ただし、基本的にはお金の回収が第一です。
債権者破産のメリット
債権者破産のメリットには次のものがあります。
- 財産を調査してもらえる
- 弁済に決着がつけられる
- 債務者の申し立てを待たなくて良い
- 債務者が処分した財産を取り戻せる
財産を調査してもらえる
債権者破産の申し立てが受理されれば、破産管財人に財産を調査してもらえます。強制執行をする場合のように債権者が特定の財産を調べ、それから充当する手続きとは異なります。
破産は財産の生産を行うため「必要最低限を除くすべて」に射程が及ぶのです。したがって債権者破産の申し立てによって初めて明らかになる財産もあるでしょう。
弁済に決着がつけられる
債権者破産をすれば弁済に決着をつけられます。ポジティブな話ではありませんが相手の財産がないという状態で可能な限りの弁済を受けられます。これ以上の取り立てはコストになると思ったら考えるべきと言えます。
また、債務者が破産した場合は損金計上が可能です。ただし保証人や連帯保証人が残っている場合は回収不能とならないため欠損処理もできません。
債務者の申し立てを待たなくて良い
債務者の申し立てを待たずに破産できる点もメリットと言えます。普通なら経済的困窮に耐えられなくなれば自己破産を申し立てるものですが、中には頑なに債務整理を行わない債務者もいます。
債務者の申し立てを待つことで財産が減る可能性もあるので、もうここまで、と思ったらすぐに債権者破産を申し立てましょう。
債務者が処分した財産を取り戻せる
債権回収で気をつけなければいけないのは財産隠しや財産逃しです。債権者に不利益を与える財産の処分を見逃しては配当が減ってしまいます。
債権者破産をすれば破産管財人が否認権を行使して処分した財産を取り返してくれます。ただ、租税が優先される点や、否認権を行使しても財産が高額になると限らない点は注意したいところです。
債権者破産のデメリット
債権者破産のデメリットには次のものがあります。
- 債務者に反論されると進まない
- 手間をかけても配当は同じ
- 予納金は申立人が負担
- そもそも債務者の状況を申立人が疎明しないといけない
債務者に反論されると進まない
債務者が債権者による破産申し立てをそのまま受け入れると限りません。それどころか債務者の意思に反した破産であるため債務者が色々と反論することが考えられます。破産のための資料を集めるだけでも一苦労だというのにさらに足を引っ張られては大変です。
そのため、債権者破産は軽はずみでは難しい手続きです。
逆に言えば自己破産は債務者自ら資料の提出や管財人との話し合いをしてくれるため債権者破産よりも遥かにスムーズです。
手間をかけても配当は同じ
債権者が複数いる状況でも、債権者破産を思い立つのはそのうちの誰かです。つまり債権者破産の手続きをする債権者と、それを待っているだけの債権者がいるということです。
しかし、破産は債務者の財産を各債権者平等に弁済にします。よって、債権者破産を申し立てた人間だけに負荷がかかってしまい労力が不平等となります。
予納金は申立人が負担
債権者破産は自己破産では発生しない負担と向き合うことになりますが、管財人の報酬となる予納金まで申立人が支払わなければいけません。
数10万円から100万円を超える場合も少なくありません。いずれにせよ自己破産より高額です。
そもそも債務者の状況を申立人が疎明しないといけない
そもそも破産は支払い不能であることを疎明しなければいけないので、債権者破産の場合は債権者がその役割を負います。疎明は証明よりもハードルが低いと言え債務者の資産と負債の状況を示さないことには破産を認めてもらえません。
だからこそ、積極的に採用されないのです。
債権者破産の申し立て方法と手続きの流れ
債権者破産の申し立て方法と手続きの流れを紹介します。
- 裁判所に破産申し立てをする
- 審尋
- 保全処分、破産手続きの開始決定
- 換価と配当
裁判所に破産申し立てをする
自己破産と同じく裁判所に破産申し立てをします。先に説明した通り自己破産と同じく支払い不能であることの疎明が必要なので面倒です。
審尋
自己破産の場合は破産原因や現在の状況を債務者に聞きますが、債権者破産の場合は申立人にも事情聴取が行われます。もちろん、債務者の意思に反する破産申立てのため、債務者が非協力的に振る舞うことが十分考えられます。
保全処分、破産手続きの開始決定
自己破産と同じく、財産の仮差し押さえ即ち保全処分が行われます。そして審尋された内容をもとに破産手続きの開始決定を行います。債務者が全く財産を持っていない場合であれば同時廃止も考えられますが、債権者破産という面倒な手続きをしている時点で管財事件になる見通しが必要です。そうでなければ骨折り損というものです。
換価と配当
破産管財人は債務者の財産と負債をすべて把握する役割を持っているため、債権者は証明でなく疎明で事足ります。とはいえ、破産管財人でも抵抗する債務者を相手にスムーズに手続きを行えるわけではないようです。
おそらく、ここが手続きの長さや予納金の高さにつながるのではないでしょうか。
そして、財産をお金に換えたらそれを債権者が平等に分け合います。配当は債権者破産を申し立てた人もそうでない人も平等です。
債権者破産を申し立てる前に検討すべきこと
ここまで債権者破産のことを説明してきましたが、メリットよりデメリットが大きいのが現状です。そこで、債権者破産を申し立てる前にもっと良い選択肢がないか考えてみましょう。
例えば支払い不能でないことがわかった場合、民事再生を選ぶことができます。こちらは破産と異なり最低限の債務弁済を期待できるし、それをきっかけに債務者が生活を立て直すことも考えられます。
債務者が法人である場合は、債務者の持っている価値を他の会社に売ることができるかも知れません。それも一つの債権回収の手段です。(例えば万年赤字だが有料顧客のリストを持っている、など)
相手を追い詰めることではなくこちらの利益を最大化させることにフォーカスしてみましょう。
債権者破産のメリットは薄い。申し立てる際は必ず弁護士に相談を
債権者破産は債務者が行える手続きを代わりに行い、さらに債務者の反対に遭いながらも破産を進めていく負担さえあります。したがって、無策での申し立ては非常にリスクが高いです。
債権者破産をしてなお得られるメリットが大きいのかどうか、一度弁護士にご相談ください。
- 状況にあわせた適切な回収方法を実行できる
- 債務者に<回収する意思>がハッキリ伝わる
- スピーディーな債権回収が期待できる
- 当事者交渉に比べ、精神的負担を低減できる
- 法的見地から冷静な交渉が可能
- あきらめていた債権が回収できる可能性も