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知らないだけでも犯罪かも?④〜ストーカー行為で逮捕されるケースとは?〜

この記事で分かること

  • ストーカー規制法ではつきまとい行為とストーカー行為が取り締まられます
  • ストーカー規制法の大改正があり、親告罪から非親告罪になりました。
  • ストーカーで逮捕されたら、示談が重要になります。

ストーカー規制法の目的は、被害者保護だけでなく、加害者のストーカー行為の防止でもあります。被害者の不安な気持ちも大切にしながら、加害者はどのように謝罪し対応するべきか考える必要があり、そのためにも弁護士の力は重要になります。

ストーカーとはどんな行為か

ストーカーという言葉は、今では日常でも使われるようになっているので、イメージとしては、多くの方が理解していると思います。
ストーカーは英語では「stalker」と表記します。「stalk」は「そっと追跡する、忍び寄る」という意味ですから、ストーカーは「そっと追跡する人」であり、ストーキング(ストーカー行為)は「そっと追跡する行為」になります。

ストーカー規制法のきっかけとなった桶川事件

日本でストーカー規制法が成立したのは、いわゆる1999年の桶川事件がきっかけです。

埼玉県桶川市の大学生だった女性が1999年、裏社会の実業家と出会って交際を始めました。途中から相手に対して不信感を抱き、交際をやめようとする女子大生に対して、男は家族に危害を加えることを告げるなどして脅し、交際を続けさせました。その後、嫌がらせは度を越えたものになり、女子大生の家族は埼玉県警上尾署に告訴するなどしましたが、上尾署は何ら実効性のある手を打ちませんでした。

女子大生がもらったプレゼントを返送するなど、別れる意思を示したことを感じた男は知人に女子大生の殺害を依頼。同年10月26日、女子大生はJR桶川駅前で刺殺されました。なお、被害者の再三の要請をずさんに扱い、ほとんど何の対応もしなかった上尾署については、署員3人が懲戒免職処分となり他に埼玉県警12名が処分を受けました。

事件が与えた影響

この事件がきっかけとなり、翌年2000年にストーカー規制法が成立しました。ストーカー行為という新しいタイプの犯罪被害を認めるとともに、つきまといの段階で警察による警告や、公安委員会による禁止命令などが出せるようにするなど早期に対応ができるようにされました。また、法制定後もストーカーによる殺人事件が起きるなどしたことから、2013年、2016年と2度の改正が行われ、最新のストーカー規制法は2017年1月3日から施行されています。

ワンポイントアドバイス
ストーキングが問題になったのは1980年代からです。
米国でリチャード・ファーレイという男が22歳の女性に1984年から4年間つきまとい、1988年に女性の会社で銃を乱射し7人を殺害、4人に重傷を負わせるという事件が発生しました。これを機に1990年にカリフォルニア州でストーカーを規制する法律が制定されました。

ストーカー規制法と改正

ストーカー規制法がどのような規定で、どのような仕組みになっているのかを見ていきましょう。
ストーカー規制法の正式名称は「ストーカー行為等の規制等に関する法律」です。
「つきまとい行為」と「ストーカー行為」を禁止(ストーカー規制法、以下、条文番号のみの場合は同法、3条)するもので、それを行なっている者に対して警告、禁止命令等を発し、それでもストーカー行為を行う者に対しては懲役又は罰金刑に処するというものです。

つきまとい行為は8つの類型

ここでいう「つきまとい行為」については「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」をもって行う行為です。そしてその行為は8つの類型に分けて定義されています。

  1. 住居や通勤先等の付近で見張りをし、押しかけたり、付近をみだりにうろつくこと。
  2. 行動を監視していると思わせるような事項を告げたりすること。
  3. 面会、交際などを要求すること。
  4. 著しく乱暴な言動をすること。
  5. 無言電話や、拒まれたのに連続して電話、ファックス、電子メール等、SNSを介したメッセージを送信すること。
  6. 汚物や動物の死体等を自宅や勤め先に送付、若しくはそれを知りうる状態に置くこと。
  7. 名誉を害する事項を告げたり、文章を届けたり、メールを送信したりすること。
  8. 性的羞恥心を害する事項を告げ、若しくはそれを知りうる状態に置くこと。またその文書、図画、電磁的記録を送付し、若しくはそれを知りうる状態に置くこと。

このような「つきまとい行為」を行って「その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、または行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならない」(3条)と規定されています。ただし、そのこと自体に罰則はありません。

ストーカー行為

ストーカー行為は「同一の者に対し、つきまとい等・・を反復してすること」(2条3項)です。つまり上記の8つの類型の行為を反復して行えば、処罰できる「ストーカー行為」となるわけです。ただし、①〜④と⑤のメールの部分については「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、または行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合」に限られます。

そのような条件を加えなければ、「その日は忙しいから」と女性がよく使う口実でデートを断られた時に、毎日「明日はどうですか? デートしてください」と誘う「空気を読めない」男性の行為が「ストーカー行為」になりかねません。そのような行為を除く、ストーカー行為に対する罰則は18条から20条(改正前の13条から15条)に規定されています。

規制法改正で処罰対象が拡大

ストーカー規制法は2016年12月に大幅に改正され、2017年1月3日から施行されました。その改正の柱を説明します。

規制対象行為の拡大、うろつきもアウト

規制対象行為が拡大されたことは、改正法の大きなポイントの1つです。まず、改正前の「住居等に押し掛ける」の部分を「住居等に押し掛け、または住居等の付近をみだりにうろつくこと」に変更しました(2条1項1号)。

ネットのコメント等も対象に

従来はつきまとい行為については「メールの送信」だけだったのですが、その範囲を拡大しました。SNSを使ったメッセージの送信や、ブログやSNSの個人のコメント等を送ることも、やり方によって「つきまとい行為」になるように改められました(2条1項5号、同2項)。

ストーカーへの情報提供の禁止

また、つきまとい行為のきっかけになりかねない、第三者による情報提供も制限されるようになりました。相手がストーカー行為等をするおそれがあるのを知りながら、住所などの情報を与えることは禁止されました(6条)。この6条違反に対する罰則は規定されていません。ただしストーカー行為の幇助(刑法62条)となる可能性はあるでしょう。

ワンポイントアドバイス
ストーカー規制法では、改正によって、SNSを介したメッセージの送信だけでなく、被害者のSNSのページやブログ、ホームページへの書き込みも規制しています。

ストーカー規制法の改正で何が変わったか

改正法は規制対象を広げただけでなく、罰則も強化しています。

懲役、罰金を厳罰化

18条  ストーカー行為をした者 1年以下の懲役または100万円以下の罰金(改正前は6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)。
19条  禁止命令等に違反してストーカー行為をした者 2年以下の懲役又は200万円以下の罰金(改正前は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)
20条  19条以外の禁止命令等に違反した者 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(改正前は50万円以下の罰金)

上記のように、改正法では最高で懲役2年に処せられる可能性があります。

親告罪から非親告罪へ

もう1つの大きな改正のポイントとして、ストーカー行為が非親告罪となったことです。親告罪とは「告訴がなければ公訴提起ができない罪」のことです。強姦罪(刑法177条)や名誉毀損罪(同230条)などがその例です。ストーカー行為の犯罪も改正前は親告罪でした(旧13条2項)。しかし、旧13条に相当する改正法18条は2項を削除しました。これにより、被害者の告訴がなくても検察官は公訴提起ができるようになりました。

禁止命令等の制度の改善

禁止命令等の制度も改められました。これまではつきまとい行為に対しては警告を経てから禁止命令という手順を踏みましたが、改正法では警告を経ないでも禁止命令等ができるようになりました(5条1項)。また、緊急の必要がある場合には聴聞を経ずに禁止命令等が出せるようになり(5条3項)、事案によって柔軟な対応ができるようになりました。

禁止命令等の有効期間は1年で、被害者への申し出があれば、1年ごとに更新できるようになりました。

ワンポイントアドバイス
ストーカー行為等の恐れがあるものに、被害者の氏名や住所などの情報を提供することが禁止されました。また、ストーカー被害者に対する避難場所の支援や加害者の更生のための措置についても新設されています。

ワンポイントアドバイス
ストーカー規制法は被害者を守るためには心強い法律ですが、その一方で国民の権利を侵害する危険性を有しています。つまり、被害者の家の近くに近づかないように警告したり、禁止命令を出したりすることは、国民が有する移動の自由(憲法22条1項)との抵触が問題になりかねません。表現の自由(憲法21条1項)などと抵触する部分も出てくる可能性はあります。そうした問題があるため、ストーカー規制法は「この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない」(21条)と定めています。

ストーカー規制法による警告、禁止命令

ストーカー規制法による警告、禁止命令はどのような手続きで行われるのでしょうか。また、逮捕された場合にはどのように対応すればよいのでしょうか。

警告、禁止命令の手続き

警告と禁止命令について、その手続きを見ていきましょう。

警告

つきまとい等に対する警告は警視総監、道府県警察本部長又は警察署長が発します(4条)。具体的には、被害者が警告の申し出を行って、「前(3)条の規定(つきまとい行為の禁止)に違反する行為があり、かつ、当該行為をした者がさらに反復して当該行為をするおそれがあると認めるとき」は、警告することができるのです。そして、警告をした時はすみやかに申し出をした被害者に通知し、警告をしなかった時は書面でその旨を伝えなければなりません(4条4項)。こうした規定は、警察に頼んだものの、本当にやってくれたのだろうかと心配になる申出者に配慮したものです。桶川事件の教訓が活かされていると言えるかもしれません。

禁止命令が出されるまで、警告前置主義の廃止

これまでは警告をしてもそれに従わない場合に禁止命令へと進む方式でしたが、(警告前置主義)、改正法ではそのような制約はなくなりました。「都道府県公安委員会は、第3条の規定に違反する行為があった場合において、当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるときは、その相手方の申出により、又は職権で、当該行為をした者に対し」禁止命令を出すことができます。

ただし、命令を出す前に行政手続法13条1項の「聴聞」を行わなければなりません。聴聞とは「行政庁と処分の名宛て人が口頭でのやりとりをする手続き」です。この場合、処分の名宛て人は禁止命令を出されるストーカーとされた人です。

緊急時には聴聞不要

ストーカー被害は急を要する場合もあります。そのような時に聴聞手続きを経て禁止命令という手続きを踏んでいたら、手遅れになり大きな被害が生じてしまうことも考えられます。そこで、被害者の身体の安全や住居などの平穏や名誉が害され、又は行動の自由が著しく害されることを防止するために、緊急の必要があると認めるときは聴聞又は弁明の機会を与えずに禁止命令をすることができるとされました。

禁止命令等に違反した場合の罰則

禁止命令等に違反してストーカー行為を継続した場合には、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金が科されます。もちろん、ストーカー行為があればそうした警告、禁止命令等を経ずに検挙できます。その時は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます(18条)。

弁護士による弁護活動

ストーカー規制法違反で逮捕されたら、まず、弁護士を依頼することが大切です。ストーカーの場合、被害者との示談は事件の処分に大きな影響を与えてくるからです。

ストーカー規制法違反の事件では、示談がとても重要になります。被害者がストーカー被害に苦しんで、警告や禁止命令等を申し出るのが普通ですから、その被害者感情はかなり峻烈なものがあるはずです。

また、ストーカー被害は長期にわたることが多く、通常の事件よりも厳しいものになるのが通常です。そのため検察官も被害者の不安要素を重視します。示談にあたっては再犯の防止、被害者の周囲に近づかないこと等の確約や、慰謝料の支払いは当然の前提となると考えた方がよいでしょう。

被疑者本人が被害者と直接示談することは、被害者の保護のためにできないため、弁護士が代理人として謝罪し、示談成立を目指すことになります。

非親告罪になったが、基本的には示談で起訴回避

改正前は親告罪だったために、示談が成立して被害者が告訴を取り下げてくれれば、検察官は公訴提起をできませんでした。しかし、法改正され非親告罪となったために示談が成立して告訴が取り下げられても、不起訴が確約されるわけではありません。

それでも、それほど悪質でなく、同種の前科がなければ、示談が成立する可能性はあり、不起訴になることもあるでしょう。また、起訴されても量刑で示談の成立が考慮される可能性はあります。

ワンポイントアドバイス
ストーカー規制法違反で逮捕されたら、懲役または罰金が処せられてしまいます。前科がつけば、今後の人生に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。弁護士にできるだけ早く相談し、1日でも早い適切な対応が大切です。

ストーカーで逮捕されたら、速やかに弁護士へ依頼

ストーカー事件では弁護士の存在が、その後の処分に大きく影響します。警告を受けた、禁止命令が出された、または身内が警告を受けてしまったら、速やかに弁護士に相談することが大切です。

警告を受けた時点で弁護士に相談すれば、それなりに対応が可能ですし、逮捕された時に迅速に対応できます。もちろん警告、禁止命令が出された時点で、つきまとい行為を一切やめるのが何よりの解決であることは言うまでもありません。

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