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性犯罪の前科は消せない?犯行を繰り返してしまう人の特徴とは?
この記事で分かること
- 性犯罪の種類は非常に多い
- 検察庁では「犯歴票」と呼ばれる過去の犯罪歴を記録した書類を作成し、管理している
- 性犯罪は特に再犯率が高い
性犯罪は再犯が多いと言われています。犯罪で前科がつくと、社会生活を送る上で制限がかかることが多く、生きていく上で不利な場合があります。再犯を繰り返せば、罪も重くなるため、未然に防ぐための対策も必要になってきます。この記事では性犯罪の基本と前科について説明し、さらに性犯罪の再犯率について考察します。
性犯罪と前科についての基本的知識
性犯罪といっても多様な犯罪類型があります。性犯罪と前科について基本的な部分を見ていきましょう。
刑法、刑事訴訟法、刑事訴訟規則、売春防止法、児童買春・児童ポルノ法(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律)などの法令には「性犯罪」という文言は出てきません。刑法では強姦、強制わいせつなどの罪は第22章「わいせつ、姦淫及び重婚の罪」の中にカテゴライズされています。
その意味では性犯罪は一般的な用語であり「性に関連した犯罪」という程度の意味で用いられていると言えるでしょう。
刑法における性犯罪
性犯罪を「性欲を満たすために行われる犯罪」と位置付ければ、刑法では以下のようなものが考えられます。強盗強姦罪を性犯罪に含めるかは難しい問題ですが、「性」に関連するという意味では性犯罪と言ってもいいでしょう。
(準)強姦(致死傷) | (177条、178条2項、181条2項) |
---|---|
(準)強制わいせつ(致死傷) | (176条、178条1項、181条1項) |
(準)集団強姦(致死傷) | (178条の2、178条2項、181条3項) |
わいせつ目的略取等 | (225条) |
強盗強姦(致死) | (241条) |
刑法以外の性犯罪
刑法以外では各都道府県の迷惑防止条例違反(主に痴漢、盗撮、のぞき等)が性犯罪と言えそうです。法務総合研究所が平成27年版の犯罪白書で性犯罪について調査結果を発表していますが、そこでは「性犯罪」は上記の犯罪としています。淫行勧誘(182条)、公然わいせつ(174条)、わいせつ物頒布等(175条)、売春防止法違反、児ポ法違反、軽犯罪法違反、それに淫行条例は含めていません。以後は法務総合研究所の考えに従って説明していきます。
前科とは
テレビドラマや映画、小説などで「前科者」という場合、懲役刑の執行が終わり出所した者を指して用いられることが多いようです。一般的に「前科」という場合は「道交法を除く罰金刑以上の確定した有罪判決を受けたこと」として用いられているようです。そうであれば罰金刑ももちろん、実際には収監されない執行猶予付きの懲役・禁錮刑の判決を受け確定したことも含まれます。
前科によって受ける制約
前科があることによって、以後の社会生活で制約を受けることがあります。
- 国家公務員はその欠格事項として「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者」を官職に就けないとしています(国家公務員法38条2号)。
- また、弁護士は弁護士法で禁固以上の刑に処せられた者を欠格事由としています(弁護士法7条1号)。民間企業では会社の取締役について「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでのもの(刑の執行猶予中の者を除く。)」(会社法331条1項4号)と欠格事由が定められています。
- 禁錮以上の刑に処せられた者は、選挙権や被選挙権が制限されます。
- 禁錮刑以上の刑に処せられた者は海外への渡航が制限されます。パスポートが発行できなかったり、返還が求められたりすることがあります。禁錮刑まで処せられなくても、米国への上陸は認められないことがあります。
一方、「前歴」とは、有罪判決がなくても逮捕や、補導された、また未成年の非行の事実などです。前歴にはこのような前科による不利益はありません。
前科はこうして記録される
犯罪を起こした事実は、人には知られたくないものです。犯歴はどのように記録されているのでしょうか。
市町村の犯罪人名簿
各市町村には「犯罪人名簿」という何とも直接的な名称の名簿が置かれています。市町村長は地方検察庁の犯歴担当事務官(検察事務官)から既決犯罪通知書を受理し、それに基づいて有罪判決や科刑状況を記録します。その管理は厳重に行われています。
検察庁作成の犯歴票
検察庁では「犯歴票」と呼ばれる過去の犯罪歴を記録した書類を作成し、管理しています。これらは刑事裁判の照会や検察事務の中で使われることはありますが、一般の人の目に触れることはありません。
性犯罪の前科そのものは消せない
性犯罪についての再犯の状況と、前科の記録、公開について説明します。
一生ついてまわりそうな「前科」ですが、刑法には「刑の消滅」という規定が置かれています。
刑の消滅の意味
刑法34条の2には、刑の消滅という規定があります。「禁錮以上の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで10年を経過したときは、刑の言い渡しは効力を失う。罰金以下の刑の執行を終わり又はその執行の免除を得たものが罰金以上の刑に処せられないで5年を経過したときも、同様とする」というものです。
これは前科抹消を規定したもので、一定期間、無犯罪でいることにより前科のない者と同様の待遇を受けられることにしたものです。刑の消滅の効果として、刑の言い渡しが法的になかった状態になります。ただし、過去に犯罪で処罰されたという事実そのものが消滅するわけではありません。
刑の消滅で犯歴はどうなる
刑の消滅により、市町村の犯罪人名簿からは名前が削除されます。例えば沖縄県那覇市の「那覇市犯罪人名簿事務取扱規程」によると、「名簿は1名につき1葉作成」(同規定4条2項)され、「刑法第34条の2(刑の消滅)の期間を経過したとき」(同規定10条1号)には「名簿を閉鎖し、破棄又は焼却する」(同規定10条柱書き)とされています。
無犯罪証明
前科が問題になるのは海外に渡航する時、とりわけ企業等の海外支社に赴任する時に、滞在国からいわゆる「無犯罪証明」の提出を求められた場合です。無犯罪証明は正式には「犯罪経歴証明書」と呼び、警視総監、道府県警察本部長等が発行するものです。
申請者に犯罪の経歴がなければ、その旨が記載されます。もっとも前科があっても「なし」と記載されることがあります。7つのパターンがあるのですが、一般的なものとしては①刑の執行猶予期間が経過した時、②禁固以上の刑の執行を終わり、罰金以上の刑に処せられないで10年を経過した時、③罰金以下の刑の執行が終わり、罰金以上の刑に処せられないで5年を経過した時、です(犯罪経歴証明書発給要綱)。つまり、性犯罪者でも無犯罪証明が取れる場合もあるということです。
履歴書への記入
前科がある場合に履歴書への記入が問題となります。最近の履歴書はあまりありませんが、以前は「賞罰」という欄があり、罰は有罪判決を受けて確定した事実を書くこととされていました。刑の消滅によって前科を書く必要がないという考えもできなくはないでしょう。ただし、最近はプライバシーに考慮して、そのような欄はないのが普通です。
性犯罪者でも前科は公開されない権利がある
個人に前科、とりわけ性犯罪の前科があることを公表すべきであるという声はあります。それが周辺に住む人が被害に遭わないために有用だからという理由です。
米国のミーガン法
性犯罪の前科について、周辺に住む人が知ることができるというシステムが米国では導入されています。いわゆるミーガン法(メーガン法と呼ぶ場合もあります)です。性犯罪者情報公開法のことであり、ミーガンとは性犯罪の被害にあった女児の名前に由来します。1994年にニュージャージー州で制定され、その後、他州や連邦法としても類似の法が制定されました。各州によって差異はありますが、性犯罪者が出所時や転居時に周辺住民に情報が公開されるのが一般的です。
前科を公開されない権利
日本では前科をみだりに公開されない権利は最高裁も認めています。「前科及び犯罪経歴は人の名誉、信用に直接かかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」(最判昭和56年4月14日)というものです。この事件はある自動車教習所の技術指導員が、教習所から解雇されたのがきっかけです。
解雇にあたり教習所は指導員の前科を知るために弁護士会に依頼したところ、弁護士会が京都市に照会し、同市中京区の区役所長が照会申し出に応えて犯罪経歴がある旨を回答したという事件です。指導員が京都市に損害賠償請求を求めていた事件で、最高裁は賠償の一部を認めた原審判決を維持しました。
性犯罪の前科がある人の再犯の確率は高い
性犯罪は特に再犯率が高いと言われます。
強姦、強制わいせつの前刑
罪名別に刑務所への再入者の前刑罪名を見た時に、前回入所した時の刑と同じか同種の刑罰で刑務所に来ている者の比率が高ければ、それは同じ犯罪での再犯率が高いと言えます。1995年〜2014年までの20年間で見ると以下のようになっています。
窃盗 | 73.80% |
---|---|
覚せい剤取締法違反 | 72.80% |
詐欺 | 49.50% |
強制わいせつ | 32.3%(45.5%) |
強姦 | 27.7%(35.0%) |
傷害 | 23.80% |
(平成27年版犯罪白書、出典は矯正統計年報)
これは窃盗で刑務所に入った者の73.8%は、前回刑務所に入った時の刑罰が窃盗であったということです。強制わいせつは前刑と同じ刑罰なのが32.8%ですが、前の刑罰が強姦であった者を合わせると45.5%になり、強姦は前の刑罰が強制わいせつであった者を含めると35.0%になるということです。
窃盗や覚せい剤に比べると同じ、もしくは同種の犯罪での刑務所の入所率は高いとは言えませんが、決して低いとも言えません。そうした性犯罪者の中には常習性のある者が多くいるということは言えそうです。
痴漢、盗撮犯に前科有りが多数
法務総合研究所では2008年7月から2009年6月までの1年間の性犯罪で有罪判決が確定した者の前科を調査しています。性犯罪の類型を10種類に分け、その前科の有無を調べたところ、痴漢の場合は85.0%が性犯罪の前科がありました。また盗撮は64.9%です。この2つの犯罪類型が特に再犯率が高いことがうかがわれます。単独での強姦は20.3%、強制わいせつは21.0%と痴漢と盗撮に比べると性犯罪の前科は多くありません。こうした状況から性犯罪者の再犯率については、その犯罪類型によってかなり異なることは明らかです(以上、平成27年版犯罪白書)。
再犯率でも痴漢、盗撮が高い
法務総合研究所では性犯罪の類型別の再犯率も調べています。性犯罪で有罪判決が確定した者が、その後の5年間で性犯罪の率を比較しています。刑法犯、条例違反も含めての性犯罪の再犯率は以下です。
痴漢 | 36.70% |
---|---|
盗撮 | 28.60% |
小児わいせつ | 9.50% |
強制わいせつ | 8.10% |
小児強姦 | 5.90% |
単独強姦 | 3.60% |
集団強姦 | 1.90% |
つまり、痴漢で有罪判決を受けた人はその3分の1以上の人が5年以内に再び性犯罪を起こしていることになります。強姦や集団強姦、強制わいせつで有罪判決を受けた場合には5年後も服役していて再犯することができない場合もありますが、それを含めても痴漢と盗撮の性犯罪の再犯率の高さがわかります。(以上、平成27年版犯罪白書)
性犯罪の前科がある人の再犯の確率は高い
では、次に性犯罪をする人の特徴、性犯罪で逮捕された場合の対処について説明します。
性犯罪の前科が2回以上の者の調査でも、痴漢の再犯率の高さが明らかです。
法務総合研究所では、さらに性犯罪の前科が2回以上の者が、同型の性犯罪の前科があるかを調査しています。
強制わいせつで有罪になった者を、電車内等でのわいせつ行為(痴漢)と、それ以外に分けてみると、同型性犯罪の前科がある者の比率は以下のようになっています。
強制わいせつ(痴漢) | 100.00% |
---|---|
小児わいせつ | 84.60% |
単独強姦 | 63.20% |
強制わいせつ(その他) | 44.00% |
つまり性犯罪の前科が2回以上ある者の中で、痴漢で有罪になった者は、その前科に必ず痴漢の前科があった、ということです。小児わいせつで逮捕された者の場合、同種の前科を持つ者が8割以上いることになります。(以上、平成27年版犯罪白書)
なぜ痴漢に再犯が多いのか
上記の対象者は痴漢で29人ですが、その29人全員に痴漢の前科があったという結果です。これは痴漢以外の強制わいせつが同型の前科がある人が50%に届かなかったことと比較すると際立った数字と言えるでしょう。この理由は正確にはわかりませんが、電車内での痴漢が、通勤で使っているのであれば平日は毎日のように痴漢行為を行えるシチュエーションにあることにあるのかもしれません。また、比較的手軽に実行できる犯罪という要素もあるかもしれません。
参考:痴漢は犯罪!~「強制わいせつ罪」や「迷惑防止条例違反」など~
性犯罪の前科がある人こそ弁護士に相談
このように性犯罪、特に痴漢は再犯が多いという事実が明らかになりましたが、実際に性犯罪の再犯で逮捕された場合、どのように弁護をしてもらえばいいのでしょうか。
性犯罪は稀に相手が特定できない場合等もありますが、基本的には被害者がはっきりとしている犯罪です。そのため被害者との示談を成立させることが重要になります。逮捕直後に弁護士に依頼し、示談交渉に入ってもらうのが効果的な防御方法でしょう。強姦罪や強制わいせつ罪は親告罪(刑法180条1項)ですから、示談が成立して被害者に告訴を取り下げてもらえば検察官は公訴提起ができません。公訴提起されたら告訴の取り下げはできません(刑事訴訟法237条1項)が、その後、示談が成立すれば量刑に影響する可能性はあります。
再犯防止への努力
示談の成立は重要ですが、大事なことは自らが反省して真摯に謝罪し、更生への道筋を示すことです。何度も犯罪を繰り返す者が「もうやりません」と言っても、被害者は信じてくれないのが普通です。信じてもらうためには真摯な謝罪の姿勢(反省文等を書く)や相手への慰謝料の支払い、再犯防止への具体的な方法を示す必要があります。そうしたことも弁護士は具体的にアドバイスしてくれますから自らの防御のため、更生のためにも、早期に弁護士に依頼すべきでしょう。
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