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暴力事件と傷害事件の違いを解説!傷害罪と暴行罪の構成要件とは?
この記事で分かること
- 暴行罪の構成要件は「人の身体に対し不法に有形力を行使する」です。
- 傷害罪は故意がなくても、暴行の故意があれば成立します。
- 暴行より傷害の方がずっと罪は重くなります。
暴行罪と聞くと、相手にケガも負わせてしまうほど暴力をふるうイメージがありますが、法律においては、暴行罪は相手に傷害を負わせない程度のものを言います。相手がケガを負ってしまうと、結果的重犯となり傷害罪になります。
暴力と傷害の基本的な違い
暴行罪(刑法、以下法令名略す、208条)と傷害罪(204条)は身体に対する罪として刑法の第27章「傷害の罪」で規定されています。簡単に説明すれば、相手を殴ったら暴行罪、ケガをさせたら傷害罪になります。さらに詳しく法的観点から見ていきましょう。
傷害罪は暴行罪の延長線上にある
暴行罪の構成要件は「人の身体に対し不法に有形力を行使する」です。しかし、有形力の行使をしたものすべてが暴行罪になるわけではなりません。暴行罪が成立するためには、構成要件のほかに、違法性と責任の要素が問われます。
また、暴行罪は「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」と規定されています。この条文からわかることは、「暴行」と「傷害」をしっかり定義しないと罪に問えないということと、暴行と傷害には連続性があることです。
有形力の不法な行使とは
ここでいう「有形力の不法な行使」とは、人を殴る蹴るなど、直接的に暴力をふるうことを言います。「有形力の不法な行使」の説明ではあまりに漠然としているため、通常、暴行は4つの種類に分けられます。
- 有形力の行使すべてを含み、対象は人だけでなく物も含む
- 人に対する有形力の行使で、直接的な有形力の行使だけでなく、人に物理的、心理的に影響を与える物への有形力の行使(間接暴行)も含む
- 人の身体に対する有形力の行使
- 人の反抗を抑圧する、著しく困難にするに足りる有形力の行使
傷害の定義
傷害の定義について学説では2つに分かれています。
- 身体の生理機能の障害または健康状態の不良な変更
- 身体の完全性の侵害
両者はそれほど違いがあるわけではありません。たとえば、他人が伸ばしているヒゲをハサミで切った場合、①では傷害罪は成立せず、②なら成立すると考えられる程度の違いです。障害についての判例では①の生理機能障害説を採用していますから、①に沿って考えればよいでしょう。
上記の暴行と傷害の定義から、人の身体への有形力の行使によって、相手が身体の生理機能の障害または健康状態が不良になったら傷害罪が成立し、生じなかったら暴行罪にとどまると言えます。つまり、傷害罪は暴行罪の結果なのです。
このように暴行と傷害に因果関係があることで、暴行罪から傷害罪になるようなことを結果的過重犯といいます。
暴力と傷害の故意について違いはるか
過失犯を除き、刑法犯には犯罪の故意が必要です(38条1項)。暴行罪の場合も、暴行の故意、傷害罪には傷害の故意が必要となりそうですが、実際はどうなのでしょうか。また、暴行と傷害の過失犯は成立するのかを見ていきましょう。
傷害に「傷害の故意」は不要
既述のように傷害罪は暴行罪の結果的加重犯です。そのため暴行の故意があればよく、傷害に故意がなくても傷害罪は成立します。そうなると「相手をケガさせてやろう」と故意に暴行したもののケガがなかった場合には論理的には「傷害未遂」となりそうですが、実際には傷害罪に未遂はないため、暴行罪が成立することになります。
傷害罪の構成要件は、故意に暴行を働き、ケガを負わせて、相手の生理機能に傷害を与えたことなので、暴行の意思がなく、たまたま傷害を人に負わせてしまった場合は、傷害罪ではなく、過失傷害罪になります。
傷害致死はあっても暴行致死はなし
傷害致死罪(205条)は傷害罪の結果的加重犯です。そして傷害罪は暴行罪の結果的加重犯ですから、傷害致死罪の基本罪は暴行罪と傷害罪になります。そのため、暴行致死罪というのはありません。そもそも死に至るということは身体の生理機能の障害を生じるわけですから、それなしに死亡することはありえないということです。
過失傷害はあっても過失暴行なし
暴行や傷害の故意がなくても、過失があれば過失傷害罪(209条)が成立します。同罪は単純な過失で傷害の結果を発生させた者に対する処罰で、重大な過失の場合は重過失致(死)傷罪(211条1項後段)になります。
一方、過失暴行罪というのはありません。これは過失傷害罪が親告罪(告訴がなければ公訴提起ができない)とされたように違法性が軽微であるのは明らかであり、さらに傷害の結果が発生しない過失による暴行まで刑法犯とする必要はないという立法政策に基づくものと思われます。ただし軽犯罪法1条11号が「相当の注意をしないで、他人の身体又は物件に害を及ぼす虞のある場所に物を投げ、注ぎ、又は発射した者」に拘留又は科料に処すると規定しており、これは「過失暴行」と呼んでよいでしょう。
暴行と傷害の法定刑の違い
暴行罪と傷害罪は法定刑において大きな違いがあります。法定刑から両罪を見てみましょう。
暴行罪2年、傷害罪15年と格段の差
暴行罪は2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料です。拘留とは自由刑の一種で1日以上30日未満刑事施設に拘置されます(16条)。科料は1000円以上1万円未満の財産刑です(17条)。
一方、傷害罪は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金と、暴行罪より格段に重い刑罰とされています。平成16年の改正で、懲役10年以下、罰金が30万円以下から引き上げられたものです。
昔は軽かった暴行罪、しかも親告罪だった
暴行罪は最高でも2年の懲役と非常に軽くなっていますが、昭和22年までは1年以下の懲役で、しかも親告罪とされていました。つまり昔は被害者が告訴しなければ暴行罪に該当する案件は事件にならず、事件にできても最高で1年の懲役にすることしかできなかったわけです。昭和22年の刑法の改正で2年以下の懲役、非親告罪とされましたが、戦前は暴行に対して社会が寛容すぎたと言えるかもしれません。
加重暴行、加重傷害は特別法で規定
法定刑が比較的軽い暴行罪ですが、集団で暴行に及んだ場合は「暴力行為等処罰に関する法律」1条の2で加重暴行罪となり、3年以下の懲役または30万円以下の罰金となります。同法1条の2は加重傷害罪を規定しており、銃砲又は剣類を使用して傷害した場合に1年以上15年以下の懲役に処するとされています。
常習的暴行・傷害は懲役刑のみ
暴力行為等処罰に関する法律1条の3で「常習的暴行」「常習的傷害」が規定されています。それによると常習的暴行で3月以上5年以下、常習的傷害で1年以上15年以下の懲役となっています。常習者には罰金刑はなく、懲役刑のみです。
接触がなくても暴力や傷害にあたる
他人の身体に有形力の行使をする暴行罪、その結果的加重犯である傷害罪ですが、身体的接触がなくても成立します。殴る、蹴るだけが暴行罪、傷害罪ではありません。
身体が接触しない有形力の行使による暴行罪は様々なパターンがあります。実際の例なども交えて見てみましょう。
暴行に接触が必要ない理由
暴行とは他人の身体に対する有形力の行使であることは既に示しましたが、そもそも「有形力の行使」が直接身体へ作用することを条件としていません。たとえば、歩いている人の数歩先に石を投げつけるのも「他人の身体に対する有形力の行使」と言えます。
同様に光や電気等のエネルギーの作用や、耳元で大音響を発するなども有形力を行使していると言えます。そのような接触のない有形力の行使も人に対して不快感や苦痛を与えますから、当然でしょう。「光や熱は有形ではない」という考えもありますが、有形力を物理的な力とでも言い換えれば分かりやすいでしょう。
室内で日本刀を振り回す行為は暴行
四畳半の狭い室内で、内妻を脅すために日本刀を振り回した事件の最高裁判決で暴行罪として認める判決がありました。(最決昭和39年1月28日)。実際にはこの事件では、日本刀が内妻の腹部に突き刺さり死亡するという悲惨な事件でした。被告人は暴行の故意で傷害致死の結果を招いたと判断され傷害致死罪で懲役3年の刑に処されています(さらに日本刀を没収)。
自動車と徒歩で追跡し、掴みかかろうとした行為は暴行
こちらは極左暴力集団がからむ事件です。被告人は女性を対立する集団の偵察者と思い込み、静岡大学にて他の者とともに捕まえようとし、さらに自動車で逃げた女性を合計4人が自動車で追跡しました。自動車を降りて守衛所に逃げ込もうとした女性に掴みかかろうとしましたが、身体の接触は認められませんでした。
東京高裁は暴行罪における暴行は、人の身体に対する有形力の行使をいうが、必ずしも相手方の身体に触れることを要せず、社会通念上身体に対する実害発生の危険性があって、相手に強い不安や精神的動揺を与えると認められるものであれば、暴行と認める判決を出しています。
接触なき傷害罪、暴行なき傷害罪
傷害の定義について判例は生理機能障害説を採用していることは既述しました。生理機能の障害、健康状態の不良な変更は身体の接触がなくても起こり得ますから、当然、接触なき傷害罪が成立します。そして、暴行なき傷害罪も成立します。
身体の接触なき傷害罪の例
まず、傷害とは外傷のみではないことから確認しましょう。
めまいや嘔吐、湿疹、中毒、病気になることなど、あるいは疲労やPTSD(外傷後ストレス障害)も生理機能の障害、若しくは健康状態の不良であり、「傷害」と言えます。そうであれば、相手の身近な場所で鉦や太鼓を打ち鳴らし続けて意識をもうろうとさせたり、耳の近くでメガホンを使って大声で話し、相手に疲労感や耳の感覚をおかしくさせたりすることも、有形力の行使で傷害したことになります。まさに接触なき暴行による傷害罪です。
暴行なき傷害罪の例
相手方に有形力の行使とはいえない行為で傷害を生じさせるのが、暴行なき傷害罪です。騙して毒物を服用させて下痢にさせること、無言電話などでPTSDを生じさせるなどの例です。故意に病原菌に感染させた場合も傷害罪が成立しますし、医師が必要な薬を与えないで病状を悪化させるという作為も傷害罪にあたるでしょう。このような暴行なき傷害罪の場合、傷害罪の成立のためには「傷害の故意」が必要です。
暴行なき傷害の代表例、騒音おばさん事件
暴行なき傷害罪の代表例として法科大学院の講義などで必ず扱われる題材が「騒音おばさん事件」です。奈良県の住宅街で、被告人の女性が、確執のあった隣家に向けてラジオや目覚まし時計のアラーム音を約1年半鳴らし続け、隣人に精神的ストレスを負わせて慢性頭痛症等にしたというものです。この事件で最高裁は被告人の「行為が傷害罪の実行行為にあたる」と判示し、上告を棄却し有罪が確定しています(最決平成17年3月29日)。
暴力と傷害の特異な例
暴行罪、傷害罪は極めて一般的な犯罪であり、様々な状況で発生する可能性があります。そのため、他の犯罪にはないような特別な規定が置かれています。
刑法207条は「同時傷害の特例」という珍しい規定で、相手に傷害を負わせていない(暴行にとどまる)者でも、それを自分で証明できなければ傷害罪に問われるというものです。
「疑わしきは被告人の利益に」の例外
たとえばXとYが共謀してVに暴行を加え、Xの暴行でVが傷害を負った場合でも、XとYは共犯ですからYは自身の暴行で傷害を負わせていなくても傷害罪が成立します。しかし両者が共謀せずに同時に暴行を加えた場合、どちらの暴行によって傷害を負ったかわからない場合はあります。
そのような時は、「疑わしきは被告人の利益に」という刑法の大原則によって、両者とも暴行罪で処断するしかありません。そうした場合、誰も傷害の結果に責任を負わなくなってしまいます。そこで「共同して実行した者でなくても、共犯の例による」(207条)として犯人の側に立証責任を転換し、自らの行為が傷害を与えていないことを立証しない限り傷害罪の罪責を負うこととしています。
傷害致死にまで及ぶ特例
同時傷害の特例は、傷害致死罪(205条)にも適用されます。実際に適用された例として最判昭和26年9月20日があります。ただし、強盗致死傷(240条)、強姦致死傷(181条1項2号)まで拡大させることには学説から反対の声もあります。強姦致傷罪での同時傷害の特例の適用を認めなかった下級審判例もあります(仙台高判昭和33年3月13日)。
同時の範囲には幅がある場合も
同時傷害の特例の「同時」については、まさに同じ時刻に限られるというわけではありません。下級審での判決ですが、最初の暴行場所から20km移動し1時間20分後に暴行があった場合にも適用を認めています(東京高判平成20年9月8日)。その理由として「これらの暴行は、被害者が被告人三名のいずれかの支配下に置かれていた一連の経過の下でのものである。」「被告人三名の各暴行は、社会通念上同一の機会に行われた一連の行為と認めることができ、被告人三名は、刑法207条により、被害者の傷害結果についての責任を負うことになる」としています。
正当防衛が成立すれば罪に問われない
暴力事件で問題になるのが正当防衛(36条1項)です。違法性阻却事由と呼ばれ、暴行や傷害の構成要件に該当しても違法性が阻却するため犯罪が成立しません。もっとも成立には厳格な要件が定められています。「相手に対する反撃なら、すべて正当防衛が成立して無罪」といったオールマイティーカードではないことは知っておくべきです。
正当防衛の成立要件
正当防衛が成立するには以下の要件を満たす必要があります。
- 急迫
- 不正の侵害に対して
- 自己又は他人の権利を
- 防衛する目的で
- やむを得ずにした行為
もう少し、詳しく説明しましょう。
- 急迫とは法益の侵害が現実に存在しているか、間近に迫っていることです。
- 不正とは全体として法秩序に反することです。
- 権利は法定された権利に限られず、法律上保護に値する利益です。生命や身体、財産等はもちろん、含まれます。
- 防衛の意思が必要です。それは「急迫、不正の侵害が加えられることを認識しつつ、それを回避しようとする心理状態」などと説明されます。
- 「やむを得ずにした」とは、侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることです。
正当防衛の要件のうち①から④は満たしているものの、⑤の要件である防衛手段としての相当性を超えた反撃をした場合は過剰防衛(36条2項)となります。その場合は情状により、刑を減軽し、又は免除することになります。
喧嘩でも正当防衛はありうる
双方が殴り合いの喧嘩になった場合にも正当防衛が成立する余地はあります。通常は急迫性に欠けるとされて正当防衛が成立しないことが多いのですが、たとえば素手で殴り合っているうちに相手が日本刀で切りつけてきた場合、一方が攻撃の意思を放棄したのに、他方がそれでも攻撃を続けた場合であれば急迫性が認められる可能性があります。
承諾ある傷害の場合
傷害を受ける者が、最初から承諾していた場合について説明します。同意殺人(202条)の規定はありますが、同意傷害の規定はありません。暴行罪がかつては親告罪でありましたし、本人の承諾があれば罪とすべきではないという考えも可能かもしれません。実際のところはどうなのでしょうか。
傷害は承諾があっても即無罪とは言えない
被害者の承諾があれば、構成要件該当性が否定され犯罪が成立しない類型があります。住居侵入罪(130条前段)、窃盗罪(235条)、強姦罪(177条)などです。傷害罪はそうした類型には属しません。被害者が自己の身体という守るべき法益を放棄しているので、違法性は軽減若しくは阻却されることもあるかもしれません。しかし、実務ではその承諾の動機や目的など、多くの事情に照らし合わせて、傷害罪の成否を決定しています。
交通事故偽装の同意傷害は無罪にならない
同意傷害の成否については、「偽装自動車事故事件」(最決昭和55年11月13日)の判例があります。
保険金詐欺目的で交通事故を偽装、故意に自動車を衝突させた運転手が、業務上過失傷害罪(211条)に処せられました。
その後、事故の偽装が発覚し衝突は過失ではなく故意で、かつ、負傷した者は傷害を負うことに同意していたため傷害罪が成立しないとして再審請求したものです。
これに対して「被害者が身体傷害を承諾した場合に傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて決すべきものである」としました。
そして本件では「右承諾は、保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られた違法なものであって、これによって当該傷害行為の違法性を阻却するものではない」として再審請求は認められませんでした。
承諾ある暴行の場合
同意傷害と同様に同意暴行という規定も刑法にはありません。暴行を承諾していた場合、違法性が阻却されるのでしょうか。そもそも暴行罪は以前親告罪でしたし、傷害に至らない程度のものです。そうであれば違法性が阻却されるためのハードルは低くなりそうです。ただし、たとえば保険金の騙取等の目的で同意がなされていたのであれば、違法性は阻却されないと考えた方がよいのではないでしょうか。
暴力や傷害でトラブルが生じたら弁護士に相談
普段は温厚な人も酔った勢いでつい、相手に暴力をふるってしまうことはあるものです。また、ケガをさせるつもりはなかったけれど、思いがけずケガをさせてしまったということもあるでしょう。いろいろな言い分はあるかもしれませんが、法律の前では通用しないことも多いのです。
暴力や傷害でトラブルになったら、できるだけ早く刑事事件に強い弁護士に相談し、早急な対策を打ちましょう。
刑事事件に巻き込まれたら弁護士へすぐに相談を
- 逮捕後72時間、自由に面会できるのは弁護士だけ。
- 23日間以内の迅速な対応が必要
- 不起訴の可能性を上げることが大事
- 刑事事件で起訴された場合、日本の有罪率は99.9%
- 起訴された場合、弁護士なしだと有罪はほぼ確実