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自筆証書遺言のメリットとデメリット

この記事で分かること

  • 自筆証書遺言とは自分で全て書いた遺言書のことである
  • 自筆証書遺言は時間や場所にとらわれず作成できる遺言書である
  • 遺言書は厳格な要件が定められているため自筆証書遺言は法律に知らない人間が書くこと自体がデメリットとなる

遺言は相続人の権利義務を一方的に決められる強い効力を持ちます。そのため遺言はちょっとしたミスで内容が無効になってしまう危険があります。自筆証書遺言は証人もいらないし自宅で好きなように書けますが、法律に詳しくない遺言者だけで作ると思わぬトラブルの元になります。

自筆証書遺言とは自筆で作成した遺言書のことである

遺言書のうち、自筆で書いたものを自筆証書遺言と言います。よくドラマに出てくる手書きの遺言書は例外なく自筆証書遺言で、”自筆”である以上代筆やパソコンでの作成は認められていません。逆に自筆であれば何に書いても有効になり、”リーガル・ハイ”というドラマでは書籍の裏表紙裏に書かれた自筆証書遺言が出てきました。

自筆証書遺言は自分で書くから意味がある

遺言書には相続分の算定や相続人の廃除、相続人でない者への遺贈、隠し子の認知など周りの人々の利害関係に大きく関わることが書かれます。下世話な話ですが誰だって自分に有利な内容が書かれていれば良いと思っていることでしょう。

そうなると、懸念すべきは偽造です。

もし、代筆が認められるならその人が思うように権利義務を操作できます。パソコンならもはや誰が書いたかさえ隠すことができるでしょう。遺贈も認められているので全く知らない他人でさえ遺言を偽造・改ざんするメリットがあるのです。

だからこそ自筆証書遺言は全て自分の手で執筆しなくてはいけません。

遺言書を改ざんした人はどうなるのか

遺言書の改ざんはタブー中のタブーです。バレたら民法の規定により相続欠格になってしまいます。そして遺言書の偽造は私文書偽造の罪に当たるので場合によっては逮捕されてしまいます。

相続欠格とは相続人の地位を強制的に剥奪されることです。

行為能力が欠けている場合は無効

自筆証書遺言は遺言者本人の筆跡で書いていれば有効なのかといえばそうとは限りません。まず、絶対に無効となるのは行為能力が欠けている場合です。民法で決められる所の成年被後見人がそれに当たります。被保佐人、被補助人は問題なく遺言書を書くことができますが、家庭裁判所から審判を受けてから遺言書作成までに認知症が悪化した場合を考えるとその都度診断した方が安心です。

認知症の有無は意外と問題になる

認知症だからといって直ちに無効となるわけではありませんが、認知症が進んでいた場合は遺言そのものを無効にできるため不利益を被った相続人が認知症を主張することはよくあります。

自筆証書遺言で大切なのは様式の正しさと具体性

遺言は様式が正しく、内容について具体的であることが大切です。様式については日付が定められていること、署名押印があること、正しいやり方で修正されていることが主なポイントです。内容の具体性については、分割する財産と対象となる人を指定していることが主なポイントになります。

もし、内容が曖昧であったり様式に不備があったりすると自筆証書遺言の全部または一部が無効になってしまいます。

せっかく書いた遺言が無効になってしまわないよう法律に詳しい弁護士にチェックしてもらうことが肝心です。

民法改正と自筆証書遺言

自筆証書遺言は自筆で作成する負担が問題視されていました。そこで、近い将来に行われる民法改正とともに自筆証書遺言の負担が軽くなるかもしれません。例えば権利義務に関わる部分は自筆でなくてはいけませんが財産の説明や財産目録などはパソコンでの作成が認められそうです。

ワンポイントアドバイス
遺言書は強い効力を持ち偽造について最新の注意を払わなくてはいけません。そのため様式を厳しくチェックされます。自筆証書遺言は自分で書くからこそ最新の注意を払って作成してください。少なくとも1回は弁護士のチェックを受けたいです。

参考:自筆証書遺言とは?遺言書の一部はパソコンで作成が可能

自筆証書遺言のメリットは時と場所を選ばないこと

自筆証書遺言にはこのようなメリットがあります。

  • 時間と場所を選ばない
  • 証人が必要ない
  • 特別な費用がかからない
  • 修正も自由に行える

簡単にいえば最も気軽に作成できる遺言書と言えますが、あまり気軽に遺言をするのも考えものです。

時間と場所を選ばない

自筆証書遺言は紙とペンがあればすぐに作成できますから時間と場所を選びません。また、書きかけになってもまた内容が決まった時に続きを作成できます。これが公正証書遺言であれば遺言を作成するたびに公証役場に出張しなければいけないのです。公証役場に行くまで時間がかかるし、時刻にも制約があります。

証人が必要ない

自筆証書遺言は承認を必要としないメリットがあります。公正証書遺言や秘密証書遺言の場合は公証役場での手続きが必要なことから2人以上の承認を必要とします。証人をいちいち探すことが面倒で、家族に頼れる人がいないという場合は自筆証書遺言がおすすめです。

作成にあたって特別な費用がかからない

自筆証書遺言は自分で書くことが条件であるため特別な費用がかかりません。ただし後述しますが家庭裁判所の検認にあたっては950円の費用がかかります。

修正が自由に行える

自筆証書遺言は時間と場所に制約がないため修正も簡単です。修正の様式を満たせば好きなように修正ができます。

ワンポイントアドバイス
自筆証書遺言のメリットは自分で好きな時に作成できることです。遺言書の確実性という面では公正証書遺言の方がオススメですが自分の手で文章を考えたいという人や公証役場に行く手間を省きたいという人は自筆証書遺言を選びましょう。自筆証書遺言の作成については手数料がかかりません。

自筆証書遺言のデメリットは素人が作成し、素人が保管すること

一方で自筆証書遺言にはこのようなデメリットがあります。

  • 少し間違えただけで遺言の内容が無効になりやすい
  • 正確に書かないと相続人が苦労する
  • 偽造されやすい
  • 遺言を破棄されてしまうかもしれない
  • 家庭裁判所の検認を要する

繰り返しますが遺言は強い効力を持つため、自らの思いを書き残すだけの遺書とは全く異なります。法的な文書であることをご理解ください。

少し間違えただけで遺言の内容が無効になりやすい

大前提として署名押印がない遺言書は無効です。自筆証書遺言であれば代筆やパソコン作成すると該当する部分が無効になります。そして、日付を書いていない遺言も無効になります。日付や署名押印など些細なことのように思いますが法的文書としては非常に重要です。面倒臭がらずに様式を守りましょう。

特に気をつけたいのが訂正の方法です。自筆証書遺言を訂正した場合は訂正印を押して修正内容を表記、さらに署名が必要です。訂正の方法を間違えると訂正が無効になってしまいます。

財産の内容が間違っている場合はそれに関する内容が無効となってしまいますから最新の注意を払ってください。

正確に書かないと相続人が苦労する

自筆証書遺言は正確性が問われます。財産についての記載が曖昧であれば何を相続すれば良いのかわからない上内容不明確で無効になってしまいます。相続させる相手を間違えてしまったとしても遺言者が亡くなってしまえば待ったをかけられません。

実は、財産目録から漏れている財産が存在する例も珍しくないのです。そもそも遺言とは相続をスムーズに済ませ相続争いを防ぐことができるメリットがあるのですが、遺言で説明されていない財産の権利は確定させることができません。ということは自筆証書遺言に記載されていない財産については遺言による遺産分割が終わった後、改めて遺産分割協議を行わなければいけなくなります。

相続税のことを考えても財産目録はミスなく作成することが前提となります。

自筆証書遺言の作成は相当の集中力と体力が求められます。手がうまく動かない、病身で体力がないという場合は公証人が代わりに作成してくれる公正証書遺言を利用してください。

偽造されやすい

自筆証書遺言は自由に作成できるため、偽造されやすいです。遺言者と筆跡が似ている人でかつ印鑑を手に入れられる場合は巧妙に偽の遺言を作れるでしょう。それ以外にも脅迫によって遺言を書かせられる場合や相続について有利、不利な情報が錯綜して本意でない遺言をしてしまうこともあり得ます。

このようなことをすると相続欠格になりますがバレるリスク以上に遺言を操作するメリットが大きいのでしょう。

遺言を書くということが相続人に知られれば遺言者が存命の段階から相続争いが始まるかもしれません。いざという時は弁護士に相談して正しい行動をとってください。

遺言を破棄されてしまうかもしれない

自筆証書遺言を作成した後は自分で管理することになります。よって遺言者が亡くなったあとは見つけた人の手に委ねられます。もし、見つけた人にとって不利益な内容が書かれていたなら遺言を破棄されてしまうかもしれません。

遺言の破棄は相続欠格の事由になるのですが証拠を残さなければ完全犯罪が成立してしまいます。特に誰にも話さずに遺言を作成した場合は遺言について調べようがないため気をつけてください。時には遺言を紛失する場合もあるし、あまりに巧妙な隠し方をすると誰にも見つけてもらえません。

自筆証書遺言が数年後に見つかって問題となることもありますから遺言を残していることは身内にしっかり話しておきましょう。保管場所については弁護士に話しておくことも有効です。

家庭裁判所の検認を要する

自筆証書遺言の効力は家庭裁判所の検認を受けて発動します。家庭裁判所に支払う料金は手数料の800円と検認を証明する書類を発行してもらう150円です。自筆証書遺言は封印をする義務がないため万一誰かが開封してしまっても問題なく家庭裁判所の兼任を受けられます。

検認が終わるまで遺産分割ができませんからいざという時のために生前から幾らかの預金を下ろしておきたいです。

ワンポイントアドバイス
自筆証書遺言は様式不備や内容不明確による無効、相続人や受贈者候補による破棄・偽造が恐ろしいです。自筆証書遺言という選択をするからには弁護士のチェックを受けながらミスなく作成してください。

自筆証書遺言の作成で迷った時は、絶対に弁護士へ相談を

自筆証書遺言の作成で迷った時は絶対に弁護士へ相談してください。日付が書かれていないだけで無効になるほど自筆証書遺言はデリケートで、しかも書いた内容を相続人が覆すことがほぼ不可能です。そのため、ミスなく書けたとしても本当に望ましい内容とは限りません。

相続問題に強い弁護士なら財産の分け方によって想定される相続争いや、自筆証書遺言のチェック、保管場所についてのアドバイスや相続税対策など様々な面でサポートしてくれます。

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