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相続人に行方不明の人が含まれる相続~連絡が取れない場合に取るべき対応

この記事で分かること

  • 行方不明の相続人抜きの遺産分割協議は、無効である。
  • 通信手段の発達した現在、行方不明とは音信不通のことである。
  • 戸籍の附票は、音信不通者の住所を調べるヒントになる。
  • 音信不通者が生きているらしいときは、不在者財産管理人の選任が役に立つ。
  • 音信不通者が生死不明のときは、失踪宣告が役に立つ。
  • 行方不明の相続人がいるときは、まず弁護士に相談することが一番である。

行方不明の相続人がいると、遺産分割協議を始めることができません。遺産分割協議を始めるための方法として、戸籍の附票を取る、不在者財産管理人を選任する、失踪宣告を受けるなどが考えられます。どの方法を取るにせよ、法律知識と裁判実務経験が必要です。一般の方が取り組むのは難しいです。法律知識と裁判実務経験を兼ね備えた専門家が弁護士です。行方不明の相続人がいるときは、まず弁護士に相談することが一番です。

相続人が行方不明だと遺産分割協議が進まない

ある人が財産を残して亡くなりました。残された財産(=遺産)の分け方を相続人たちが話し合います。遺産分割協議です。

相続人の中に行方不明者がいます。他の相続人だけで遺産分割協議を始めてよいのでしょうか。

音信不通でも相続人を無視して進めることはできない

相続人の中に行方不明者がいると、遺産分割協議を始めることはできません。

通信手段の発達した現在、「行方不明」とは「音信不通」を意味します。手紙・電話・Fax・メール・ラインなどの通信手段を使って本人とコンタクトをとれないことが「音信不通」です。

音信不通の相続人には、遺産分割協議の呼びかけができません。音信不通の相続人の参加なしで遺産分割協議を始めることもできません。遺産分割協議にはすべての相続人の参加が必要です。すべての相続人が遺産をもらう権利があるからです。

たとえ1人でも相続人が欠けて行われた遺産分割協議は無効です。全員そろっての遺産分割協議をやり直さなくてはなりません。

ワンポイントアドバイス
遺産分割を始める際に音信不通の相続人がいたら、まず弁護士に相談しましょう。弁護士は、弁護士活動に必要な情報を集める権限を持っています。弁護士会照会と職務上の請求の2つです。音信不通の相続人の居どころを突き止めるのに役立つかもしれません。

音信不通の定義

「音信不通」にも、いろいろなパターンがあります。その中から遺産分割協議の開始につながりそうな3つのパターンを紹介します。

連絡先や現住所がわからない

1つ目は、本人の住所、勤務先、電話番号、メールアドレスなど、本人とコンタクトをとる方法が分からない場合です。

本人の親兄弟や友人に聞けば分かるかもしれません。その人たちでも分からないときもあります。分かっていても教えてくれないこともあります。

戸籍の附票で相続人の住所を調べる

音信不通者の住所を突き止めるヒントとなるものがあります。戸籍の附票です。戸籍にくっ付いている書類です。

戸籍の附票は住民票とつながっています。住民票に書かれた住所が戸籍の附票に書かれます。戸籍に載っている人の住所の移り変わりが附票に書かれます。本人の本籍地の役所で戸籍の附票を取れば、本人の住所が分かります。

戸籍の附票の見本は、名古屋市名東区のホームページで見ることができます。

参考リンク:名古屋市名東区ホームページ「戸籍の附票にはどんなことが載っているの?」

戸籍の附票から本人の住所を突き止める場合、注意することが2つあります。

住民票を移さなければ附票にも書かれない

戸籍の附票は、マイナスの意味でも住民票とつながっています。住民票に書かれないことは、附票にも書かれません。

本人が実際の住所に住民票を移さない限り、実際の住所は附票に書かれません。附票に書かれた住所に行ってみても、本人が住んでいないこともあり得ます。

附票を取れる人は限られている

   
役所で戸籍の附票を取れる人は、原則として次の人たちだけです。

  • 本人
  • 本人の夫や妻
  • 本人の父母や祖父母など(上の世代の血縁者)
  • 本人の子や孫など(下の世代の血縁者)

本人の夫や妻、子供、父母などが法定相続人として本人の住所を突き止めたい場合、この方法がとられます。

次の人たちも、特別に戸籍の附票を取ることができます。ただし、具体的な理由とそれを証明する資料が必要です。

  • 自分の権利を行使し義務を果たすために戸籍の附票が必要な人
  • 国や県市区町村に提出するために戸籍の附票が必要な人

本人の兄弟姉妹が法定相続人として本人の住所を突き止めたい場合、「自分の権利を行使するため」として、この方法がとられます。

生きているはずだが調べても住所・居所がわからない

2つ目は、コンタクトを取る方法を尽くしたけれども居どころが分からない、でも生きてはいるであろうといえる場合です。時々電話をしてくるが、どこにいるか言わないような場合です。

本人が生きてはいるであろう場合なので、帰って来る望みはあります。このような人には、家庭裁判所で不在者財産管理人を決めてもらいます。不在者財産管理人は、不在者である本人の代理人として遺産分割に参加します。

不在者財産管理人については、次のセクションで詳しく解説します。

生死不明の状態が7年以上続いている

3つ目は、コンタクトを取る方法を尽くしたけれども居どころが分からない、生きているか死んでいるかも分からない、それが7年以上続いている場合です。

生きているか死んでいるかの確率は半々です。しかも7年間という長期間です。死んだものとして、本人の財産にけりをつけることができたら、残された親族にとっては大助かりです。本人所有の老朽化した家を何とかしたい場合がその最たる例です。

このような人は、家庭裁判所から失踪宣告をしてもらいます。失踪宣告を受けた人を失踪者といいます。失踪者は、生死不明になってから7年経った時に亡くなったとみなされます。

失踪者が持つ法定相続人としての地位は、多くはその子供が相続します。子供が新しい法定相続人として遺産分割に参加します。

失踪宣告については、次々セクションで詳しく解説します。

ワンポイントアドバイス
遺産分割協議の開始につなげるには、音信不通のパターンに合った手続をとらなくてはなりません。音信不通のパターンに合った手続を見極めるには、音信不通者についての法律知識・実務経験・調査能力が必要です。一般の方には手の及ばないことです。音信不通者の取扱い経験豊かな弁護士に相談するのが一番です。

不在者財産管理人選任の申立て

本人の居どころは分からない、でも生きてはいるであろうといえる場合、不在者財産管理人選任の申立てをします。

本人が生きてはいるであろう場合なので、帰って来る望みはあります。でも、本人が現れるまで遺産分割協議を始められないのでは、他の相続人が困ります。

遺産である預貯金は金融機関の金庫に眠ったままです。相続人の誰も手をつけることができません。早急にお金の要る相続人は特に困ります。

遺産である不動産は相続人たちで管理しなければなりません。相続人同士の息が合わないと、しっかりとした管理ができません。土地は荒れ放題、建物は汚れ放題・壊れ放題になってしまいます。

そこで法律は、音信不通の相続人が現れなくても遺産分割協議を始められる方法を設けました。それが不在者財産管理人の選任です。

不在者財産管理人とは

不在者財産管理人とは、音信不通の本人(=不在者)に代わってその財産を管理する人です。

不在者財産管理人には2通りあります。ひとつは、本人が自ら置いた財産管理人です。もうひとつは、本人が財産管理人を置かない場合に家庭裁判所によって選ばれた財産管理人です。

本人が置いた財産管理人がいれば、その人に任せればよいです。家庭裁判所が財産管理人を選ぶことはありません。

不在者財産管理人が行えること

不在者財産管理人は、本人の代理人として、財産の管理をします。不在者財産管理人の判断で行えることは、次の3つです。

  • 家の雨漏りの修理など、財産の現状を保つ行為(保存行為)
  • お金を利息付きで貸し付けるなど、財産をもとに儲けを得る行為(利用行為)
  • 家にエアコンを取り付けるなど、財産の価値を高める行為(改良行為)

家庭裁判所の許可が必要なこと

家庭裁判所の許可が必要なことがあります。保存・利用・改良を超えることです。老朽化した家を取り壊すこと、土地を売ることなどです。無くなってしまう、他の人の物になってしまうなど、保存・利用・改良よりも財産への影響が大きいです。本当に必要なことかどうかを家庭裁判所がチェックします。

遺産分割協議への参加も家庭裁判所の許可が必要です。遺産分割協議は、本人の相続権を具体的な財産(お金1000万円、土地Aなど)に変えることです。財産である相続権の保存・利用・改良を超えることです。

不在者財産管理人を選出する方法

不在者が財産管理人を置かない場合、家庭裁判所が不在者財産管理人を選出します。

不在者以外の相続人が、家庭裁判所に、不在者財産管理人選任の審判を申し立てます。

申立先は、不在者が音信不通になる直前の住所(生活の中心地)または居所(一時的な生活地)を担当区域とする家庭裁判所です。

申立書の見本は、裁判所WEBサイトで見ることができます。

参考リンク:裁判所WEBサイト「不在者財産管理人選任の申立書」

家庭裁判所は、審理をして、不在者財産管理人選任の審判をします。審判で選任された人は、不在者財産管理人として、不在者の財産を管理します。

財産管理に費用が発生することも

不在者財産管理人が財産管理を行う中で費用がかかることがあります。家の雨漏りの修理代、エアコンの取り付け費用、遺産分割協議の場所までの交通費などです。

こうした費用は、ひとまず管理人が支払います。最終的には、不在者に対し、支払った費用および支払日以降の利息を請求できます。不在者の財産を管理するためのお金は、不在者が負担すべきだからです。

法定相続分を下回る遺産相続は許可されない

不在者財産管理人が遺産分割協議に参加するには、家庭裁判所の許可が必要です。実務では、遺産分割協議書案を家庭裁判所に示して、その許可を求めます。

不在者がもらう財産が法定相続分を下回る場合、家庭裁判所は協議書案を許可しないのが実務の流れです。不在者財産管理人は不在者の財産を守るのが仕事です。少なくとも法定相続分に見合った財産をもらうことが、不在者の財産を守ることだからです。

ワンポイントアドバイス
不在者財産管理人の選任は、家庭裁判所で行います。スムーズに手続を進め、早く遺産分割協議の開始につなげることが大切です。それには申立てから選任までの手続についての法律知識と裁判実務経験が欠かせません。一般の人が手探りで行うと、時間がかかり、遺産分割協議の開始が遅くなります。法律知識と裁判実務経験を備えた専門家である弁護士の力を借りることをお勧めします。早い遺産分割協議の開始につながることは間違いありません。

失踪宣告の申立て

ある程度の期間、生きているか死んでいるか分からないのなら、いっそうのこと死んだことにして、本人の財産の始末にけりがつけたほうが、周りの者は助かります。これが失踪宣告です。

音信不通の相続人が失踪宣告を受けると、本人が現れなくても遺産分割協議を始められます。他の相続人は助かります。

失踪宣告を申立てる要件、失踪宣告の効果について解説します。

7年以上生死不明な場合に申し立てる

失踪宣告の申立てをするには、本人が7年以上の間、生きているか死んでいるか分からないことが必要です。法律は、7年間という期間を、いっそうのこと死んだことにするボーダーラインとしたわけです。

本人以外の相続人が、家庭裁判所に、失踪宣告の審判を申し立てます。

申立先は、本人が音信不通になる直前の住所(生活の中心地)または居所(一時的な生活地)を担当区域とする家庭裁判所です。

失踪宣告の審判申立書の見本は、裁判所のWEBサイトで見ることができます。

参考リンク:裁判所WEBサイト「失踪宣告の申立書」

事故・災害・遭難などで生死不明の場合は1年間

失踪宣告の申立ては、本人が事故・災害・遭難などに遭い、生きているか死んでいるか分からない場合にも行うことができます。

本人が、事故・災害・遭難が治まってから1年以上の間、音信不通であることが必要です。こうした場合、本人は死んでいる確立が高いと法律は考えたわけです。

法律上は死亡したものとみなされる

申立てがあると、音信不通になってから7年以上または事故などが治まってから1年以上の間、生きているか死んでいるか分からないのが本当かどうかを審理します。本当であると裁判官が固く思ったとき、本人に対する失踪宣告の審判をします。

失踪宣告の審判があると、音信不通になってから7年間が過ぎた時、または事故などが治まった時に本人は死亡したものとみなされます。

失踪宣告の審判が確定すると、申立人は市区町村役場に失踪届をします。届出が受理されると、本人の戸籍に「失踪宣告により死亡とみなされること」が書かれます。死んだ人として戸籍から消されます。

失踪届の見本は、春日部市ホームページで見ることができます。

参考リンク:春日部市ホームページ「戸籍の届け出」

失踪宣告により相続が開始

失踪宣告は、本人を医学的に死亡したとするものではありません。相続手続などを始められるように、法律の上で死亡したとするにとどまります。

法律の上で死亡したことにより、本人の財産について相続が始まります。本人の財産は、法定相続人としての相続権です。

本人の相続権は、多くは本人の子供が相続します。子供が新しい法定相続人となります。遺産分割協議に参加します。音信不通の相続人がいなくても、遺産分割協議を始めることができます。

失踪宣告までは申立てから1年~1年半かかる

申立てから失踪宣告の審判までの期間は、1年から1年半といわれています。長い期間がかかります。その理由は、次の3つです。

家庭裁判所での審理

家庭裁判所の審理では、申立人や本人の親族などに対し、次のことが行われます。

  • 書面による問い合わせ
  • 家庭裁判所調査官による聞き取り
  • 参与員による聞き取り
  • 裁判官による聞き取り

審理でいろんなことが行われる分、時間もかかります。

家庭裁判所による公告

審理の結果、失踪宣告の要件がそろっていると考えたら、家庭裁判所は次の4つのことを家庭裁判所の掲示板と官報(新しい法律などを国民に知らせるための国の機関紙)に載せます。公告といいます。

  • 本人について失踪宣告の申立てがあったこと。
  • 本人が生きている場合、本人は令和〇年〇月〇日までに、生きていることの届出をしなければならないこと。
  • 生きていることの届出がないときは失踪宣告がされること。
  • 本人が生きているか死んでいるかを知っている人は、令和〇年〇月〇日までに、その届出をしなければならないこと。

「令和〇年〇月〇日までに」とある届出期間は、7年以上の生死不明の失踪宣告では公告から3か月以上、事故などの失踪宣告では公告から1か月以上の期間にしなければなりません。

この届出期間が過ぎなければ、家庭裁判所は失踪宣告の審判をすることができません。審判までに時間がかかる大きな理由です。

死んだことにするという重大性

失踪宣告があると、法律上とはいえ、本人は死んだことにされます。相続、配偶者の再婚など重要な手続が始まります。本人はもちろん、周りの人たちにも大きな影響をもたらします。それだけに、慎重のうえにも慎重に手続を進めます。審判までに時間がかかります。

失踪者が現れた場合

失踪宣告を受けた人を失踪者といいます。失踪者が生きて現れることがあります。このとき、次の2点が問題となります。

  • 失踪宣告をなかったことにする方法。
  • 失踪者の子供が遺産分割協議でもらった財産はどうなるか。

それぞれについて解説します。

失踪宣告取消の審判が必要

失踪者は、自分に失踪宣告がされていることを知った時、失踪宣告をなかったことにしたいと思うのが普通です。生きているのに死んだものとされているのですから、当然です。

失踪者が生きて現れたことで、自然と失踪宣告がなかったことにはなりません。失踪宣告がなかったことにするには、家庭裁判所で失踪宣告取消の審判をしてもらわなければなりません。

本人が家庭裁判所に失踪宣告取消の審判を申し立てます。申立先は、本人の住所地(生活の中心地)を担当区域に持つ家庭裁判所です。

家庭裁判所での審理の結果、本人が生きていると裁判官が固く思ったとき、失踪宣告取消の審判をします。

失踪宣告取消の審判が確定すると、申立人は市区町村役場に失踪宣告取消の届出をします。届出が受理されると、本人の戸籍に「失踪宣告が取り消されたこと」が書かれます。本人は生きている人として戸籍に復活します。

子供は残っている財産を返せばよい

相続人が亡くなることで相続権が次の相続人に相続されることを、再転相続といいます。失踪者の子供は、失踪宣告によって失踪者の相続権を再転相続しました。

失踪宣告の取消しにより、元失踪者の相続権は子供に再転相続されなかったことになります。子供が再転相続権をもとに遺産分割でもらった財産は、元失踪者に返さなくてはなりません。

返すのは、そのままの形で、または形を変えて残っている財産だけでよいです。土地がそのまま残っているのなら、その土地を返します。土地を売ったのなら、代金を返します。

代金の一部を旅行に使ってしまったのなら、残っている代金だけ返します。失踪宣告が取り消されたのだからもらった財産を全部返せというのは、失踪宣告を信じた子供に気の毒だからです。

ワンポイントアドバイス
失踪宣告は、法律上とはいえ、本人を亡き者にしてしまう制度です。表現は悪いかも知れませんが、「法律の力で殺してしまう」制度です。制度の意味合いを正しく理解することが大切です。一般の方には理解が難しいことかと思われます。失踪宣告を申立てようかと思ったら、まず失踪宣告に詳しい弁護士に相談しましょう。弁護士から制度の意味合いを教えてもらった上で、申立てをするかどうかを決めましょう。申立てをするとき、弁護士に手続代理人になってもらえば、家庭裁判所での手続がスムーズに進みます。

行方不明の相続人がいる場合、弁護士に相談を

相続人の中に行方不明者がいると、その人抜きで遺産分割協議はできません。

戸籍附票でその居どころを突き止め、協議の場に呼ばなければなりません。居どころが分からなければ、不在者財産管理人の選任や失踪宣告をして、管理人や新しい相続人に協議へ参加してもらいます。

附票の取り方を知らなければなりません。不在者管理人選任や失踪宣告の申立てから審判までの手続を知らなければなりません。

一般の方が取り組むのは大変です。無理してやろうとすると、手続を間違え、戸籍附票が取れない、管理人を選任できない、失踪宣告をしてもらえないことにもなりかねません。

行方不明者の財産管理についての専門知識と実務経験が必要です。これらを兼ね備えた専門家が弁護士です。

相続人の中に行方不明者がいて、どうしたらよいか分からないとき、相続と行方不明者の財産管理に詳しい弁護士に相談しましょう。

遺産相続は弁護士に相談を
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  • 相続について、どうしていいのか分からない
上記に当てはまるなら弁護士に相談