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高次脳機能障害 交通事故で脳の後遺障害を負ったら 症状や生活上の注意点は?
この記事で分かること
- 高次脳機能障害とは脳に重大な損傷を受けることにより、感情の抑制や言語や記憶・認知能力など高度な脳機能が阻害される障害です。
- 高次脳機能障害は後遺障害等級認定の対象となる疾患ですが、認定を得るのは困難です。
- 高次脳機能障害の症状はリハビリによる回復が見込めます。
高次脳機能障害の症状は非常に多岐に渡ります。代表的なものに「記憶障害」「注意障害」「社会的行動障害」「遂行機能障害」「失語症・失行症」「病識欠如」「失認症」があります。リハビリによる回復が見込めますが、長期間に及ぶ可能性が高く、周囲のサポートが大切です。
交通事故での高次脳機能障害とは
交通事故被害に遭い、後遺症が残ってしまうことがあります。今回紹介する高次脳機能障害も交通事故の後遺症として残ることがある症状です。脳の障害であるため、骨折など目に見える症状とは異なります。
まずは主な症状など、高次脳機能障害について基本的なことがらを解説していきます。
高次脳機能障害の定義
高次脳機能障害とは脳に重大な損傷を受けることで感情の抑制や目標の設定、遂行能力および言語や記憶・認知能力など高度な脳機能が阻害されることを言います。
症状が外的所見に現れないことから、“隠れた障害”とも呼ばれる障害です。
特徴は
高次脳機能障害の症状は目に見えるものではありません。そのため傍目からは分かり辛いのはもちろん、自覚症状がないこともあり、家族など周囲が気付くケースが多いです。
また症状には個人差があり、医学的に障害を立証するのが非常に困難なのもこの高次脳機能障害の厄介なところと言えます。
原因は様々
高次脳機能障害の原因には頭部外傷の他、脳梗塞や脳出血・くも膜下出血などの脳血管障害や脳腫瘍・低酸素脳症・ウイルス性脳炎といった脳疾患が引き金となり発症することもあります。
またそれ以外にも脳炎やアルコールの過剰摂取により発症するケースも報告されています。
認知症との違いは
感情の抑制や遂行能力、言語や記憶・認知能力など高度な脳機能が阻害されるのが、高次脳機能障害です。
しかしこれと似た症状の脳疾患は別に存在します。そうご存知、認知症です。
では、高次脳機能障害と認知症はどう違うのでしょうか。
高次脳機能障害はリハビリで症状の改善が見込める
高次脳機能障害と認知症では脳の損傷部位など発生メカニズムも異なりますが、最も大きな違いは症状の改善の可否でしょう。
認知症はいったん発症すると進行を遅らせることはできても治癒することはまず不可能であるのに対し、高次脳機能障害はリハビリをきちんと行うことで症状の改善が見込めるのです。
例えば運動障害はないのにコピー機の操作や料理などの簡単な一連動作もできないので「怠けている」などと勘違いされることも少なくありません。
他にも癇癪を起こすことは高次脳機能障害の症状のひとつですが、障害の存在が周知されないため、「怖い、近寄りがたい」と言った印象を周りに与えてしまいがちです。
高次脳機能障害の主な症状
高次脳機能障害の原因にはいろいろなものがありますが、その症状もまた多岐に渡ります。ここでは主な症状について大まかに解説します。
症状は多岐に亘る
高次脳機能障害の症状は非常に多岐に亘り、ここでは紹介しきれません。代表的なものに「記憶障害」「注意障害」「社会的行動障害」「遂行機能障害」「失語症・失行症」「病識欠如」「失認症」があります。
記憶障害
記憶に関する機能が阻害される症状です。
具体的には季節や曜日の感覚がない、日付が分からない、物をしまった場所を忘れる、人の名前や作業手順、一日の予定など簡単なことを覚えられない、作業中に話しかけられると直前までしていた作業の内容を忘れるなどで、脳の側頭葉が損傷した場合によく見られます。
注意障害
注意能力が著しく低下する症状です。注意散漫になり、集中力が低下します。
例えば気が散りやすい、ひとつのことに長時間集中できない、一度に2つ以上のことをしようとすると混乱する、ぼーっとしていて“上の空”である時間が多い、呼びかけに対してすぐに反応できないなどがあります。
前頭葉や頭頂葉に損傷を受けた場合に起こりやすい障害です。
社会的行動障害
感情や言動、行動を状況に合わせてコントロールすることができなくなる症状です。
急に癇癪を起こす、泣き出すなど感情の抑制不能、異常な固執性、抑うつ、欲求のコントロールができないなどがあります。
前頭葉と側頭葉を損傷した場合に起こりやすい障害です。
遂行機能障害
実行能力が著しく低下する症状で、実行機能障害とも呼ばれます。
物事の優先順位をつけられない、常に場当たり的な行動になってしまう、効率よく仕事ができない、指示されないと行動が開始できない、約束を守れない、料理など2つ以上のタスクを同時進行できないなどがあります。
前頭葉に障害がある場合に起こりやすい症状です。
失語症・失行症
失語症にはいろいろなパターンがあります。
言葉の意味自体は通るものの、言い間違いが多かったり文の構造を上手く組み立てられずぎこちない話し方・言葉遣いになったりする運動性失語(ブローカ失語)やスムーズには話せるものの言い間違いが多く意味の通らないことを話す感覚性失語(ウェルニッケ失語)、
他にも物の名前が出てこない「健忘失語」や、話す・聞いて理解する・読む・書くといったあらゆる言語機能に重大な障害が起きる「全失語」などもあります。
失行症はその行為と関係する麻痺や運動障害がないにもかかわらず、着衣着脱や食事などの日常動作ができない、あるいはできてもぎこちなくなってしまう症状です。
病識欠如
病識欠如は読んで字のごとく自身の病状の認識がない状態を指します。
具体的には必要なリハビリや治療を拒む、身体的異常があってもそれを認めない―例えば障害があるにもかかわらず“自分には正常だ、手足に障害はない、歩ける”と言い張り、実際にそう思い込んでいる―といった状態です。認知症ではほとんどのケースで見られる症状です。
また病識欠如には心的要因が影響していることが多いです。
どういうことかと言うと、“病気である自分を認めたくない”心理から、実際には症状があってもそれがないものと思い込むことになるのです。
そして本人はすべてきちんとできていると思い込んでいるので周囲から注意されても素直に聞き入れられず対人トラブルを起こすことも少なくありません。
失認症
失認症とは感覚器官の異常や意識障害がないにも関わらず、特定の対象物の認識ができなくなる症状です。
「視覚失認」には物を見ただけではそれが何であるかを認識できない物体失認や、知人の顔を見ても誰であるか識別できない相貌失認、視空間失認などがあります。
視空間失認は食卓に並んだ献立の半側を残す、あるいは絵を描かせると半側は描かないといったように視空間の半側にある対象を無視する半側空間無視の症状などが見られます。
「聴覚失認」では音は聞こえるものの音の違いを識別できない、「触覚失認」では対象物を目で見れば認知できるものの、触ってもそれが何であるか識別できない症状がそれぞれ見られます。
高次脳機能障害は交通事故の後遺障害等級の対象
そんな高次脳機能障害は、交通事故により残存することもあり、後遺障害等級の対象となる症状です。
高次脳機能障害の後遺障害等級は
高次脳機能障害が該当する後遺障害等級は、1級・2級・3級・5級・7級・9級となり、症状やその程度によって異なります。
1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
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2級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
後遺障害等級認定を獲得するのは難しい
後遺障害等級認定されれば、後遺障害慰謝料などの補償金を受け取ることができます。
しかし、高次脳機能障害では後遺障害等級認定を獲得するのは非常に困難です。
ここではその理由や、獲得するためのポイントなどを解説していきます。
症状を立証するのは難しい
お伝えのように高次脳機能障害は外からは分かりません。そのため、障害を医学的に立証することが難しいです。
後遺障害等級認定を獲得するためには、その症状などを認定機関に詳細に証明する必要がありますから、高次脳機能障害は後遺障害等級認定を獲得するのが容易ではありません。
診断や知能検査などで障害を立証できる場合
とは言え、後遺障害等級認定の獲得が不可能なわけではありません。障害を確認・立証できれば獲得できる可能性もあります。
確認の方法は意識障害や画像所見、医師による所見、家族や介護者等から得られる情報などがありますが、特に重視されるのが意識障害と画像所見です。
意識障害については事故後意識を失っていた時間がポイントとなります。頭部外傷によって6時間以上の意識の消失があった場合高次脳機能障害を発症する可能性が高いと言われています。
画像所見についてはCTやRI、MRIなどの検査で脳室拡大や脳萎縮などの異常が認められればそれも高次脳機能障害の存否の判断材料となります。
加えて知能検査や記憶検査、遂行機能検査などの神経心理学的検査も行われます。代表的なものに、聴覚性言語の記憶検査「三宅検査」や言語性検査と動作性検査からIQを出す「ウェクスラー成人知能検査」などがあります。名前を聞いたことがある人も多いでしょう。
医師による診断書に脳挫傷、硬膜外出血、硬膜下出血、くも膜下出血、びまん性軸索損傷など脳の損傷を示す診断が下されていることも高次脳機能障害の存否判断の重要なポイントとなります。
交通事故で高次脳機能障害 生活上の注意点は
高次脳機能障害はその症状の特性上、発症すると社会復帰率や職場復帰率が低く、その後の離職率は高くなります。
では高次脳機能障害を負ってしまった場合、どうすればよいのでしょうか。
リハビリが大切
まず患者当人のリハビリが大切です。繰り返しになりますが、高次脳機能障害はリハビリをすることで症状の改善が見込めます。
リハビリで症状が回復するケースが多い
もちろん高次脳機能障害の症状は複雑で個人差もあります。また高次脳機能障害では複数の症状を併発するケースも散見されます。
ですから、リハビリをすれば必ず回復するとは言い切れません。しかし、リハビリで症状が回復するケースは非常に多く、適切な訓練をすれば十分に社会復帰も見込めるのです。
特に発症後早い段階でのリハビリが大切
高次脳機能障害では脳卒中などと同様発症後早い段階、いわゆる“急性期”でのリハビリが特に大切になってきます。
交通事故後、高次脳機能障害と見られる症状が出た場合は可能な限り早い段階からリハビリをするようにしましょう。
周囲のサポートも極めて大切
交通事故で高次脳機能障害を患い、事故前と性格が一変してしまうケースも少なくありません。そうなれば周囲は戸惑ってしまうでしょう。けれども周りの人々が気を強くもって、懸命に支えることが何より大切です。
忍耐強いサポートを
高次脳機能障害は意思疎通能力や思考能力が阻害されるので、コミュニケーションも発症前と同じようにはいきません。
家族や周囲にしてみれば歯がゆい思い、もどかしい思いをすることになるでしょう。しかし本当につらいのは患者本人です。
患者にきつく当たったりせず、忍耐強く介護・生活のサポートを続けてあげることが大切です。
介護の仕方はもちろん、医療、福祉サービスの情報、就学就労のための支援も受けられます。
交通事故での高次脳機能障害は周囲の理解が大切
高次脳機能障害は骨折や麻痺といった目に見える障害と異なり、歩行や食事などは通常通りできるケースがほとんどです。周囲にとっても受け入れるのは容易ではありません。けれどもだからこそ優しく、また忍耐強くサポートしていくことが大切になってくるのです。
無料相談を活用し、十分な慰謝料獲得を
- 保険会社が提示した慰謝料・過失割合に納得が行かない
- 保険会社が治療打ち切りを通告してきた
- 適正な後遺障害認定を受けたい
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