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強制わいせつ罪の成立要件、罪に問われる可能性があるケースの一例や刑罰
この記事で分かること
- 強制わいせつと強姦の違いについてわかります。
- 強制わいせつ罪と強姦罪が成立する要件は、被害者の年齢によって異なります。
- 強制わいせつ罪の判例を知ることで、さまざまなケースを理解できます。
強制わいせつ罪は、被害者の年齢によって要件が異なり、被害者の年齢の認識がポイントになってきます。相手を心神喪失、もしくは抗拒不能にして、わいせつ行為を行う準強制わいせつの場合も、法定刑は強制わいせつ罪と同じです。
強制わいせつ罪の基本的な理解
強制わいせつ罪と聞くと、女性に対して、無理やりわいせつな行為を働くことの罪というイメージがありますが、実際のところ、強制わいせつ罪が成立するのはどのような場合でしょうか。強制わいせつ罪の基本的なことから説明します。
強制わいせつ罪の成立
強制わいせつ罪は被害者の年齢によって構成要件が異なります。
強制わいせつ罪の構成要件は以下の通りです。
①13歳以上の男女に対し、
②暴行又は脅迫を用いて、
③わいせつな行為をした。
④わいせつ行為が性的意図の下に行われること。
もしくは、
❶13歳未満の男女に対し、
❷わいせつな行為をしたこと。
法定刑は6月以上10年以下の懲役になっています。
性的意図の有無とは
構成要件での問題は④の性的意図の下に行われること、です。これは、つまり、故意にだけではなく、「わいせつな主観的傾向」、すなわち行為者の性欲を刺激、興奮、満足させる意図があったかどうかというものです。この点については重要な論点となっているため、後述します。
強制わいせつ罪と強姦罪の違い
強制わいせつ罪の行為は「わいせつな行為」ですが、強姦罪の行為は「姦淫」(性交のこと)です。性交は男性の性器の一部が膣内に挿入されたことで既遂になります。
強制わいせつ罪の構成要件を検討する
強制わいせつ罪の構成要件を詳しく見てみましょう。
暴行・強迫
強制わいせつ罪における暴行・脅迫の程度には「被害者の意思に反してわいせつな行為を行うに足りる程度」とする考えと、「被害者の反抗を著しく困難にする程度」とする考えがあります。しかし、強制わいせつ罪は相手の隙をついて女性の胸を触るなどの行為もあるため、反抗を著しく困難にさせるほどまではいかなくても強制わいせつにあたると考えるのが一般的でしょう。
わいせつな行為とは
わいせつな行為とは、公然わいせつ罪やわいせつ物頒布等罪などと同じように、性欲を刺激、興奮または満足させ、かつ一般の人の性的羞恥心を害して善良な性的道義観念に反する行為と考えることができます。しかし、公然わいせつ罪やわいせつ物頒布等罪の場合の保護法益は「健全な性秩序」ないし「性的風俗」であるのに対して、強制わいせつ罪は個人の性的自由を保護法益とすることから、さらに広く考えて被害者の性的羞恥心を害する行為も含むとする考えもあります。どちらの考えをとるにせよ、現実的にはそれほど大きな差異はないようです。
被害者の年齢に対する認識
13歳未満の男女とわいせつな行為をした場合、相手との合意があっても強制わいせつ罪が成立します。相手を13歳以上と誤信していた時、すなわち、相手が13歳未満であることの認識を欠いたまま合意の上でわいせつな行為をした場合は、強制わいせつ罪は成立しません。
強制わいせつが適用される場合
強制わいせつ罪が具体的に適用される場合の問題点は、「性的意図の有無」です。
この問題の発端となったのは昭和45年判決です。被告人が相手の女性を呼び出し報復目的で、部屋で全裸にして写真撮影をしました。原審は強制わいせつ罪の成立を認めましたが、最高裁は破棄差戻しとしました。「強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行われることを要し」と、性的意図の必要性を強調しました。その上で「婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しない」(最判昭和45年1月29日)としています。つまり、自分がわいせつな行為をさせているというのが故意として必要ですが、それ以外に最高裁は超過的内心傾向(故意や過失を超えた意欲)が犯罪の成立には必要としたのです。そのため、冒頭の構成要件にはそのことが④として入っているわけです。
画期的だった東京地判昭和62年9月16日
上記の最高裁判決に対する批判は少なくありませんでした。その根底には保護法益である性的自由が侵害されているのに、相手に性的な目的がなければ処罰されないのは不当であるという考えからです。懲役6月以上10年以下の強制わいせつに相当する被害を受けているのに、犯人を懲役3年以下の強要罪(223条)程度でしか罰せないのではおかしいと考えるのはごく普通の感覚でしょう。
そうした中、下級審では昭和45年判決と異なる結論の判決が出されました。女性下着の販売業の男が女性従業員確保のため、求人に応募して訪れた女性を裸にして写真を撮影しようとした事件でのものは、女性に性的羞恥心を与えるという明らかに性的意味のあるわいせつ行為であり、被告人は、そのようなわいせつ行為であることを認識しながら行為をしようと企てたとして、(東京地判昭和62年9月16日)強制わいせつ致傷罪の成立を認めました。
東京高裁が重要な判決
上記の東京地裁判決の後、2014年にも似たような判決が出されました。被告人は数年にわたりバンドを組み、好意を寄せていた女性から脱退を告げられ、個人的関係も断つことを告げられました。そこで女性に復讐する目的を有してスタジオ内で手錠をかけ、テープで口を塞いだ上でわいせつな行為をして傷害を負わせた事件です。被告人は性的意図を有していないので強制わいせつ罪は成立しないと主張。それに対して東京高裁は原審が被告人の性的意図を有していることを認めた判決を正当とした上で「客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ、行為者がそれを認識していた」として(東京高判平成26年2月13日)と判示しました。下級審判決ではありますが、重要な意義を有する判決です。
痴漢と強制わいせつ
強制わいせつ罪は様々な場面で犯される犯罪ですが、特に多いのが電車等での痴漢です。
痴漢は、今は専ら「電車内等が混雑しているのを利用し、主に女性に対してわいせつな行為をする男」という意味で使用されます。痴漢が強制わいせつ罪で逮捕、起訴されることもありますが、東京や大阪などでは迷惑防止条例などでの処理されることがあります。東京都であれば「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」です。同条例5条1項1号は「公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること」を禁止されている粗暴行為の一つとして挙げています。違反者は6月以下の懲役又は50万円以下の罰金です(同条例8条1項2号)。
強制わいせつとされた例
強制わいせつと迷惑防止条例のどちらを適用するかは明確な基準はありません。一般には「服の上からなら条例違反、服(下着)の中に手を入れたら強制わいせつ」といった運用がなされているようです。実際に強制わいせつ罪で起訴された事例を見てみます。記録に残っているものは無罪判決が多いのですが、被害者の言う被害状況がどのようなものである場合に強制わいせつ罪として起訴されているかの参考にはなるでしょう。
(1)最決平成23年9月14日 電車内で22歳の女性のスカート内に手を入れ、下着をめくり上げて臀部を直接撫で回した。(懲役2年、執行猶予4年)
(2)最判平成21年4月14日 電車内で17歳の女性のスカート内に手を入れ、さらに下着の中に左手を入れて陰部を手指で弄んだ。(無罪・・一審は懲役1年10月)
(3)東京高判平成14年12月5日 電車内で19歳の女性の右手首をつかみ、その右手を自己の勃起した陰茎に擦り付けた。(無罪・・一審は有罪)
(4)東京地判平成7年5月10日 電車内で18歳の女性の背後からスカートを捲り上げ、左手指を下着の中に入れて陰部を触り、左脇から乳房を揉んだ。(無罪)
迷惑防止条例とされた例
続いて迷惑防止条例違反とされた例です。
(1)大阪高判平成26年10月3日 電車内で25歳の女性の臀部に自己の股間を押し付けた。(罰金50万円・・一審は無罪)
(2)大阪地判平成22年11月12日 電車内で17歳の女性のスカート内に左手を差し入れて、下着の上から臀部を撫で回し、陰部を弄んだ。(無罪)
(3)さいたま地判平成22年6月24日 電車内で17歳の女性のスカート内に手を入れて、下着の上から肛門と陰部の周辺を触った。(無罪)
(4)神戸地判平成13年9月10日 駅のベンチに座っていた15歳の女性に対して、左太ももを制服の上から繰り返し撫でた。(懲役3月・・強制わいせつ罪の執行猶予中の犯行)
(5)東京高判平成12年9月18日 電車内で53歳の女性に対して、着衣の上から臀部を触った。(無罪・・一審は有罪)
また痴漢行為では、一般的にい「服の上から触ったら」迷惑防止条例違反、「服(下着)の中に手を入れたら」強制わいせつ罪が適用されます。
準強制わいせつ罪の基本的知識と実際の例
準強制わいせつ罪について基本的な知識と、具体例を見てみましょう。
準強制わいせつ罪の構成要件は、①人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、②わいせつな行為をしたこと、です。法定刑は強制わいせつ罪と同じです。
この犯罪は、暴行・脅迫の手段を用いずにわいせつな行為をするものです。「心神喪失」とは責任能力について規定してある心神喪失(39条1項)とは異なります。精神的な障害で正常な判断ができない状態を言います。たとえば失神、睡眠、泥酔などです。
抗拒不能の意味
抗拒不能とは心理的、物理的に抵抗できない状態を言います。酩酊状態や、極度に畏怖している状態などです。
準強制わいせつの故意
被害者が心神喪失状態、あるいは抗拒不能状態にあることを認識していることが必要です。被害者の同意があると誤信した場合は、故意を欠くと判断されることになるでしょう。どのような場合に心神喪失、抗拒不能と判断されるのか、実際の例を見てみましょう。
催眠術を使った例(抗拒不能)
催眠術を使ってわいせつな行為をしたという事案で、催眠術によって抗拒不能とされたと判断しています。女性に対し「後倒法、鈴振りなどの施術をして催眠状態にし、更に、真実治療に必要な施術を行うものと誤信している同女を、いすにかけた自分のひざの上にあおむけに寝かせ、片手で同女の目を押さえ、ひざで同女の体をゆするなどして、身動きのできない状態にして抗拒不能に陥らせたうえ、他方の手で同女のセーターをまくりあげ、じかに両乳房及び乳首をもむなどのわいせつの行為」をしたというものです。そして「右のような事情が刑法178条の抗拒不能に当ることはいうまでもない」(東京高昭和51年8月16日)と判示しています。
知的発達障害の女性に対する犯行の事例(心神喪失)
内縁の妻の子(17歳女性)に対して、自己の陰茎を握らせて手淫行為をさせた事件です。被害女性は重度の知的発達障害で「同障害のために,手淫行為や姦淫等の性的行為の社会的,倫理的意味や生物学的意味をいずれも理解しておらず,従って心神喪失の状態にあったことは明らか」(神戸地判平成23年11月29日)として懲役2年に処しました(本件以外にも別の機会に準強姦致傷罪で懲役9年)。
プロダクション経営者がモデル志望者にわいせつ行為
芸能プロダクションの実質的経営者が、モデル志望の19歳の女子学生に対して、モデルになるために写真を撮影するとの理由で全裸にして写真撮影したり、両乳首を吸ったり、シャワー室で陰部を弄ぶなどした事例です。女子学生を「これを拒否すればモデル等として売り出してもらえなくなる」と誤信させ抗拒不能に陥らせたというものです(東京高判昭和56年1月27日)。
強制わいせつ罪で逮捕されたら、速やかに弁護士に相談
強制わいせつ罪は、非常に思い罪です。もし、逮捕されて起訴されれば、ほぼ有罪確定です。逮捕されても、できるだけ早い段階で弁護士に弁護を依頼することで、何らかの対処はできます。刑事事件に強い弁護士に依頼することを忘れないようにしましょう。
刑事事件に巻き込まれたら弁護士へすぐに相談を
- 逮捕後72時間、自由に面会できるのは弁護士だけ。
- 23日間以内の迅速な対応が必要
- 不起訴の可能性を上げることが大事
- 刑事事件で起訴された場合、日本の有罪率は99.9%
- 起訴された場合、弁護士なしだと有罪はほぼ確実