閉じる

5,038view

暴行・傷害事件で起訴されたら!?〜起訴後勾留と保釈制度の仕組みを知っておこう

この記事で分かること

  • 逮捕されて、起訴されると引き続き身柄を拘束されるのが一般的です。
  • 起訴勾留は基本的に裁判が終わるまで続きます。
  • 保証金の納付を条件に、勾留の執行を停止する保釈制度があります。

暴行・傷害事件で起訴されると、起訴後勾留が長く続くことになります。しかし、被告人は誰もが保釈を請求する権利を持っています。保釈金を支払うことで、一時的に身柄の解放が認められます。保釈の要件を満たしていなくても、裁判所の裁量で保釈が認められることもあります。

暴行・傷害事件で起訴された後もなぜ勾留が続くのか

暴行・傷害事件で起訴されると、被疑者は被告人と呼ばれるようになり、身柄は留置所から拘置所に移送されることになります。

その後の流れは、すべて公判廷に委ねられますが、被告人は身柄の拘束が続くのが一般的です。有罪と宣告されるまで無罪と推定される近代法の「推定無罪の原則」が貫かれるのであれば、判決が確定するまで自由の身であってもよいように思われます。しかし、現実はそのようにならないことも多々あります。被告人にとっては、自由の身になれるか否かの大きな分岐点となる起訴後勾留について説明します。

起訴後勾留の制度

起訴された後、引き続き勾留することを起訴後勾留といいます。
最大23日間の起訴前勾留(被疑者勾留)と起訴後勾留(被告人勾留)は被疑者(被告人)の身柄を拘束するもので、刑事訴訟法に規定されている強制処分の一種です。

同じ「こうりゅう」と読む言葉に「拘留」があります。拘留は1日以上30日未満の間、収監する日本の刑事罰の一つで、勾留とは意味が全く異なります。大手メディアでも混同して使っている例が散見される言葉なので、注意が必要です。
拘留が法定刑になっているのは、暴行罪、公然わいせつ罪、侮辱罪、軽犯罪法違反です。

起訴後勾留の目的は被告人の出頭確保

起訴した後もなぜ引き続き勾留するのでしょうか。起訴後勾留の主な目的は、被告人の公判廷出頭を確保です。被告人が公判期日に出頭しない時は、原則として開廷することができません。これは、憲法32条によって国民は裁判を受ける権利を保障されているからです。したがって、被告人が故意に出頭しないことで、開廷を阻止し、結果、裁判を遅延させて刑罰を受けることを免れようとすることも考えられなくはありません。そういった事態を防ぐためにも、勾留が必要になるのです。

一方、起訴前勾留は逮捕された被疑者の身柄をさらに継続して拘束する目的で行われます。

起訴前は検察官主導、起訴後は裁判所の職権

起訴前勾留は逮捕が前提になります。これを逮捕前置主義といいます。検察官が裁判官に勾留請求し、請求を受けた裁判官が勾留請求を認めるか否かを決定します。起訴前勾留は取り調べを行う検察官主導の制度と言えます。

一方、起訴後勾留には逮捕前置主義は適用されません。起訴後勾留は、公判をする裁判所が被告人を勾留するかどうかを判断します。勾留の必要かどうかの判断は「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合」が前提となり、①定まった住居がなく②罪証隠滅をする可能性があり、③逃亡し、又は逃亡する疑いがある場合のいずれかに該当することで、勾留されてしまいます。

なお、被疑者を勾留して起訴し、被告人になった後も引き続き勾留する場合には、検察官が起訴状を提出することで、自動的に勾留が継続されます。

ワンポイントアドバイス
日本の刑事裁判では、被告人のいない裁判(欠席裁判)を認めていません。起訴後勾留していれば、出廷させることができます。また、起訴後勾留は、被告人が証人に会いにいって、自分に不利な証言をしないように脅迫するなどを防ぐ目的もあります。

暴行・傷害における起訴後勾留の実際

実際に起訴後勾留される場合、期間や勾留される場所はどのように決められるのかは、被告人、および家族にとって気になるところです。

起訴後勾留期間は更新制

勾留期間は公訴提起があった日から2ヶ月です。継続される場合は1ヶ月ごとに更新可能で期限はありません。

勾留の場所は刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律で定められており、被告人は刑事施設で勾留されます(同法3条3号)。実運用では、警察が逮捕した被疑者は警察署の留置施設に勾留され、起訴後に裁判所に近い刑事施設に移送されているようです。

東京地裁で裁判を受ける被告人なら、逮捕後は警察署に留置され、起訴されると小菅の拘置所(東京拘置所)に移送されるのが一般的です。

弁護人の自由な接見が可能

起訴後勾留の大きな特徴の一つは、被告人は弁護人に立会人なく、弁護人と自由に接見することが認められていることです。(39条1項)。しかし公訴提起前に限り、捜査側は捜査の必要性に応じ接見の日時、場所、時間を指定できます(接見指定=同3項)。

勾留に対する救済制度

勾留は被告人の公判廷への出頭の確保という目的があるとはいえ、身柄を長期間拘束されてしまえば、健全な社会復帰が難しくなることも考えられます。そこで刑事訴訟法は被告人に対する救済措置を規定しています。

勾留の決定、命令に対する不服申立

起訴後勾留は裁判所(官)による強制処分のため、それに対する不服の申立てが可能です。具体的には第一回公判前は準抗告(429条1項2号)、それ以後は抗告(420条2項)が可能です。同じ勾留に対する不服申立てが時期により準抗告と抗告に別れるのは、公訴提起後第一回公判前の勾留を裁判官がする(命令)のに対して、それ以後は裁判所が行うこと(決定)の違いによります。被告人にとっては、それほど大きな意味はないかもしれません。

「オレはやってない」という不服申し立てはアウト

勾留の決定に対する抗告については「犯罪の嫌疑がないことを理由として抗告することができない」(420条3項)と規定されています。「自分はシロだから、そもそも勾留される理由がない」という不服申し立ては認められないということです。これは犯罪の証拠の存否については本案審理の中心となる課題なので、本案で争うべきであるという考えによるものです。

ワンポイントアドバイス
勾留されている被告人の救済措置として、勾留の取消し(87条1項)、勾留執行停止(95条)、保釈(88条以下)があります。勾留の取消しは保釈と違って、完全に身柄の拘束を取り消すものであり、再び拘束させることができる制度はありません。一方、保釈の場合は保釈の取消しの制度があります。

暴行・傷害で起訴された後の保釈制度について

起訴後勾留の救済措置は数多くありますが、その中で最も一般的な方法は保釈です。有名人が逮捕・起訴された後、保釈され警察署や拘置所から出てくる映像が流れることがあるので、イメージはつかみやすいでしょう。

保釈の目的と種類、除外事由

保釈(88条以下)は保証金の納付を条件に、刑事裁判までの間、被告人の勾留を停止して身柄を解放する制度です。被告人は判決が確定するまでは推定無罪の原則が適用されますから、可能な限り身体の拘束を避けるべきという憲法上の要請とも言えるでしょう。

保釈は被告人の権利

勾留中の被告人ならだれもが保釈の申請が可能です。被告人が保釈要件を満たしていれば、裁判所により保釈金が定められ、これを納付することで保釈されます。

保釈制度は被告人に対して行われる制度なので、起訴前勾留中の被疑者はこの制度を利用できません。

保釈にはいくつかの種類があります。被告人が身柄の拘束を解かれるという点で効果に違いはありませんが、その詳細を説明します。

保釈の種類

保釈には被告人本人や弁護人や配偶者、一定の親族等の請求による請求保釈(88条)と、裁判所が職権で行う職権保釈(90条)があります。

また請求があった場合に保釈を許さなければならない「必要的保釈」(権利保釈)(89条)と、裁判所の裁量に任される「裁量的保釈」(90条)があります。必要的保釈に該当しない場合でも、裁判所が裁量で保釈する場合があります。

なお、勾留が不当に長くなった時には裁判所は保釈を許さなければならない義務的な保釈(91条)の規定もあります。

有罪判決後はハードルが高くなる

禁錮以上の判決の宣告を受けた場合は、必要的保釈の規定(89条)は適用されなくなります(344条)。これは有罪判決があったことで、推定無罪の原則が破られるからと説明されています。ただし実刑判決に限られ、執行猶予がついていれば89条は適用されます(345条)。

保釈に必要な保証金とその相場

保釈を許す場合には、保釈保証金を定めなければなりません(93条1項)。その金額は犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額(同2項)でなければなりません。相場を出すのは難しいですが、通常の事件では150万円~300万円程度と言われています。

保釈を許す場合も請求を却下する場合も、裁判所は検察官の意見を聴かなければなりません(92条1項)。あくまでも「意見を聴く」ですから、裁判所は検察官の意見と反対の決定をすることはできます。

保証金の額

有名人が保釈される時に話題になるのが保釈保証金の額です。保証金には公判廷への出頭の確保という目的がありますから、その目的を達成するために、その金額は事案によって大きく変わります。

有名人の保釈保証金は高い

一般的に有名人は資産が多いせいか、保釈保証金が高くなる傾向があるようです。安い保釈保証金では公判廷に出てこない可能性があると、裁判所が考えるのかもしれません。覚せい剤の所持・使用で起訴された元有名プロ野球選手は500万円でした。テレビなどで人気だった青年実業家は3億円(二審の有罪判決後は6億円)を支払って保釈されています。

暴力団の幹部は10億円単位も

暴力団幹部だと保釈そのものが認められにくくなるようです。罪証隠滅や、被害者や証人を畏怖させる行為をするのではないかと、裁判所は考えるのかもしれません。日本最大の暴力団組織の会長は10億円で保釈されていますし、他にも暴力団幹部が12億円、15億円で保釈された例があります。

過去の保釈保証金での最高額は、牛肉偽装事件の被告人の20億円です。当該被告人は最終的に有罪が確定し、収監されています。

ワンポイントアドバイス
保釈保証金は、保釈を請求した者だけでなく、他の者が納付してもよいことになっています。また、現金ではなく有価証券等での納付も許すことができます(94条3項)。

暴行・傷害事件で起訴後、自由になるために

一定の条件に該当しなければ保釈の請求があった場合に裁判所は認めなければならないのは既述しました。では、どのような場合に必要的保釈が認められるのでしょうか。また、認められない場合でも裁量的保釈が認められるのはどのような場合でしょうか。

必要的保釈の除外事由

89条の必要的保釈の除外事由に該当しなければ、保釈は認められます。まずは、同条の除外事由を詳しく見てみましょう。

重罪、前歴、常習犯ではないこと

  1. 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものである時
  2. 以前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪で有罪の宣告を受けたことがある時
  3. 常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものである時

以上のように重罪で起訴されたり、過去に重罪で有罪判決を受けた場合であったり、あるいは起訴された事件が常習としての犯罪である場合は必要的保釈とはなりません。

証拠隠滅、公正な裁判の妨害のおそれがないこと

  1. 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある
  2. 被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体、もしくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑う相当な理由がある

公正な裁判の実現を害するおそれがある場合には、これらが除外事由となるのは当然でしょう。

氏名又は住居が不明でないこと

  1. 氏名又は住居がわからないとき

被告人が誰で、どこに住んでいるのか分からない場合は公判廷に出頭しないおそれがありますから、除外事由となります。

逃亡のおそれは除外事由ではない

89条の除外事由の中に逃亡のおそれがあることが入っていません。これは逃亡しないように保釈保証金を納付させているためです。

89条の除外事由に該当する場合は、必要的保釈はされません。しかし、その場合でも裁判所が適当と認める時は裁量的保釈をされることがあります(90条)。裁量的保釈が必要的保釈を補完する制度であって、よりよい保釈制度の実現が目的と言われています。

保釈の取消しと保釈保証金の没取

保釈が認められても、それが取り消されることがあります。公判廷への出頭を保証金で担保して勾留の執行を停止するのが保釈ですから、出頭が担保されない状況になれば取り消されてしまうのです。

96条1項はその事由を定めています。

  1. 召喚を受け正当な理由なしに出頭しない
  2. 逃亡し、又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある
  3. 罪証を隠滅し、又は隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある
  4. 被害者や証人等、その親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をした
  5. 住居の制限その他裁判所が定めた条件に違反した

保釈取消しと保釈保証金の没取

保釈を取り消す場合には、保釈保証金の全部又は一部を没取されます。(96条2項)。なお、没取されなかった保釈保証金は還付されます(刑事訴訟規則91条)。

自分から保釈取消申請した嘘のような本当の話

被告人が裁判所に「保釈を取り消してください」と申請したという、信じられないような話があります。

暴力団に所属していた被告人が300万円の保釈保証金を納付して保釈されましたが、被告人は暴力団関係者に数百万円の借金があり、厳しい催促などで生命身体に危険を感じる事態になりました。また、保釈保証金を納付するために知人から借りた70万円につき返済を迫られたこともあり、ついに被告人は裁判所に保釈の取り消しを申請しました。裁判所は96条1項が被告人の意思に反して保釈の取り消しができる規定であり本件は該当しないと考えましたが、最終的に職権で取り消せるという判断で保釈許可決定を取り消しました(鳥取地裁米子支部平成5年10月26日決定)。

暴行・傷害で起訴されたら弁護士に相談!

暴行・傷害で起訴された場合、いつまでも勾留されているのは、社会生活に戻る上で非常にマイナスです。保釈が許される状況であれば、できるだけ早く保釈申請を試みるべきです。
こういった、刑事事件での流れや少しでも有利な状況になるための情報は弁護士がよく知っています。
暴行・傷害で逮捕され、起訴されたら、保釈の申請を含め、刑事事件に強い弁護士に相談することをおすすめします。

刑事事件はスピードが重要!
刑事事件に巻き込まれたら弁護士へすぐに相談を
  • 逮捕後72時間、自由に面会できるのは弁護士だけ。
  • 23日間以内の迅速な対応が必要
  • 不起訴の可能性を上げることが大事
  • 刑事事件で起訴された場合、日本の有罪率は99.9%
  • 起訴された場合、弁護士なしだと有罪はほぼ確実
上記に当てはまるなら弁護士に相談