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賃借人を強制的に立ち退きさせたい!建物明渡請求訴訟の流れを知っておこう

この記事で分かること

  • 建物明渡請求訴訟とは、貸主が借家人を強制退去させるため起こす訴訟のことです。
  • 建物明渡請求訴訟はすぐに起こせません。最初は根気よく賃料の督促をする必要があります。
  • 訴訟を提起すると5ヵ月で強制執行が可能になります。

3ヶ月以上の家賃の滞納が続き、大家と借家人の間の信頼関係を失っていれば、建物明渡請求訴訟を提起して、強制退去を断行することができます。勝手に大家が室内に立ち入り、中のものを外に出すなどすることは許されていません。建物明渡請求訴訟で判決が確定すれば、確実に強制退去させることができます。

建物明渡請求訴訟の流れ

建物明渡請求訴訟とは、裁判所に訴訟を提起し、勝訴することで借家人を強制退去させる手続きのことです。多くの場合、家賃を長期間滞納されたことで、強制執行されるケースが多いでしょう。この際、立ち退きだけでなく、滞納した家賃も請求することができます。重要なのは、貸主と借家人の間の信頼関係の有無です。そのため、1ヶ月や2ヶ月程度の滞納では、訴訟を起こすのは難しいでしょう。

建物明渡請求訴訟は、民法の賃貸借の規定に加えて借地借家法も絡み、実体法上の権利の帰趨の見極めは困難です。その点は後述するとして、まずは執行の流れについて説明します。

執行に必要なもの

建物明渡請求の強制執行の手続きのためには、いくつか予め用意しなくてはいけないものがあります。

債務名義

基礎となる文書、それが債務名義(民事執行法、以下条文のみの場合は同法、22条)です。種類は様々で22条1号から7号まで、11種類が規定されています(枝番あり)。強制執行をするには債務名義が必要になり、建物明渡請求の場合は1号の「確定判決」が債務名義になります。

債務名義「確定判決」の詳細

確定判決であればすべて債務名義になるわけではありません。判決には「給付判決」「確認判決」「形成判決」の3種類がありますが、債務名義になるのは「給付判決」だけです。例えば「被告は原告に対して100万円を支払え」ですとか、建物明渡請求であれば「被告は原告に対し、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ」という主文の判決のあるものが「給付判決」です。

執行文と送達証明書

債務名義だけで強制執行ができるわけではありません。その他にも必要なものがあります。

強制執行は債務名義に基づいて行われますが、正確には「執行文の付与された債務名義の正本に基づいて実施」(25条)されます。この執行文は債務名義の末尾に付記されます(26条2項)。具体的には「債権者は、債務者に対し、この債務名義により強制執行することができる」(基礎からわかる民事執行法 民事保全法 和田吉弘著 弘文堂)のように記載されます。付与するのは執行証書以外の債務名義は裁判所書記官です(同条1項)。

送達証明書がそろって執行へ

執行文を受けても、まだ執行の申立てはできません。送達証明書が必要です。これは強制執行が、「債務者に(債務名義が)送達されたときに限り、開始することができる」(29条)としているためです。送達証明書は債務名義が送達されたことを裁判所が証明するものです。債務名義、執行文の付与、送達証明書がそろって、執行の申立てが可能になります。

強制執行の実際

不動産の引渡し、明渡しの強制執行を見ていきましょう。

まず、最初の段階では内容証明郵便などで借家人に滞納家賃などを請求し、それに応じてくれなければ解除の通知を行います。

ここまでしても、借家人が応じなければ、訴訟を提起し、第一回の口頭弁論期日があります。

勝訴すれば、借家人に判決が通達され、判決が確定します。

強制執行の申し立てをした後、執行官と打ち合わせし、催告の後、強制執行が行われます。

訴訟の提起から強制執行までは、およそ5ヵ月程度の時間がかかります。

不動産の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が行います。その方法は、債務者の不動産等に対する占有を解いて、債権者にその占有を取得させる方法で行います(以上、168条1項)。ただし、間接強制も認められており、その場合は執行裁判所が行います(173条)。間接強制とは、債務が履行されない場合に一定の金額を債権者に対して支払う旨を命ずる方法で行うものです(172条1項)。具体的には「明渡しを命じられた日から明渡しまで、1日につき3万円を支払え」と命じる方法などです。

ワンポイントアドバイス
不動産の明渡しの場合、強制執行の申立てがあり強制執行できる時は、執行官は明渡し期限を定めて明渡しの催告ができます(168条の2)。この制度は2003年の改正で導入されました。従来、任意の明渡しを期待して債務者に猶予を与えることが実務上行われていましたが、それを制度化したものです。

建物明渡訴訟での強制執行に対する異議申立て

強制執行が行われる場合、債務者も手をこまねいているばかりではありません。様々な異議の申立てが認められています。

請求異議の訴え

最も一般的な請求異議の訴えから説明します。

請求異議の訴えとは

請求異議の訴え(35条1項前段)は、債務名義に記載されている請求権の存在又は内容について異議のある債務者が、強制執行の不許を求めて提起する訴えのことです。債権者が債務名義に基づいて強制執行の申立てをしているのに対して、請求異議の訴えは債務者が原告となり、債権者を被告とします。

請求異議の事由

35条1項は前段で実体法上の権利について、後段で手続き上の問題について規定しています。つまり、たとえば貸金返還訴訟であれば、債務名義はあるが、すでに債務に対して弁済をしたとか、相殺をしたなど、実体法上の権利が消滅等していることを示すものと、債務名義の成立について手続き上の瑕疵があり無効である等、主張するものが認められるということです。

請求異議事由の時的な限界

請求異議の事由で特に実体法上の権利の消滅を問題にするのであれば、債務名義となっている判決文の裁判で主張すべきと誰しもが思うことでしょう。実際の裁判で主張できたのにしないでおいて、執行段階で持ち出して認められたら、裁判所や債権者の負担は大きくなりますし何より裁判の意味がなくなってしまいます。そこで「確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る」(35条2項)と限定が付されています。

権利濫用に対する請求異議

強制執行が権利の濫用とされる場合には、強制執行の排除が可能です。実際に認められた例を紹介しましょう。

交通事故の加害者であるYに対して、被害者Xは将来の営業活動ができなくなったとして賠償請求をして認められました。その後、Xは出来ないはずの営業を行い、Yは賠償債務を苦にして自殺しました。Xは賠償債務をYの両親が引き継いだとして、Yの両親の不動産に対して強制執行を申立て、Yの両親が請求異議の訴えを提起したというものです。「Yは右損害賠償債務の負担を苦にして列車に飛び込み自殺をするなどの事故があったにかかわらず判決確定後5年ののちに至ってYの父母である上告人らに対し・・強制執行に及んだものとすれば、それが如何に確定判決に基づく権利の行使であっても、誠実信義の原則に背反し、権利濫用の嫌なしとしない」(最判昭和37年5月24日)という判断を下しました。

執行に対する異議の申立て

執行に対する異議申立ても可能です。具体的に見ていきましょう。

執行文の付与等に関する異議の申立て

債務名義には執行文が付与されなければ強制執行はできません。そこで強制執行について重要な意味を持つ執行文の付与についての異議の申立てもできます。執行文が付与された場合には債務者が、付与されない場合には債権者がそれぞれ異議の申立てができます(32条1項)。そして、裁判所は異議についての裁判をするまで、担保を立てさせ、もしくは立てさせないで強制執行の停止を命じ、又は担保を立てさせて強制執行を命ずることができます(同条2項)。

執行抗告

民事執行の手続きに関する裁判に対して、特別の定めがある場合に限って執行抗告ができます(10条1項)。手続き規定の違背を主張するものです。上訴としての不服申し立てなので、地裁が執行裁判所であれば、高裁が審理を行います。

執行異議

執行裁判所の執行処分で執行抗告をすることができないものに対して、執行裁判所に不服の申立てを行う制度です(11条)。執行官の執行処分や、その過怠についても同様です。これは執行抗告と違い、執行裁判所に申立てます。

ワンポイントアドバイス
建物明渡請求の申し立てには予納金が必要です。これは執行官に預けるお金で、基本額は65,000円となっており、物件が増えると25,000円ずつ加算されます。

建物明渡請求訴訟に関る法律

強制執行の流れを見てきましたが、賃貸借契約においては債務名義をとることが、大きなハードルになる場合があります。実体法的な問題について見ていきましょう。

期間満了・解約申し入れによる終了

まずは賃貸人からの期間満了・解約申し入れの場合を見てみましょう。

借家に関する民法と借地借家法

民法で賃貸借については601条以下に規定されていますが、不動産の賃貸借については特別法である借地借家法でかなりの修正がなされています。建物の賃貸人による更新拒絶や解約の申入れには「正当事由」が必要とされます(借地借家法28条)。「期間満了したから、もう更新しません」と賃借人が言うためには「正当事由」が必要になる、ということです。

正当事由とは

正当事由は、借家契約なら「建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出」が考慮されます(借地借家法28条)。

こうした正当事由は戦後の住宅難の時代には、賃貸人と賃借人の住宅を必要とする程度が比較考量されていたようです。その時代は住まいを追われると、住む場所がないということも往々にしてあったという事情が考慮されたのでしょう。その後は代替えの家屋の提供や、立退料が正当事由を補完する重要な要素となっていきました。

正当事由と立退料

立退料が正当事由を補完することは、判例でも広く認められています。賃貸人が300万円の立退料を申し出た裁判で、それを超える500万円の支払いと引き換えに請求を認容した例があります(最判昭和46年11月25日)。最高裁はその理由について「立退料として300万円もしくはこれと格段の相違のない一定の範囲内で裁判所の決定する金員を支払う旨の意思」と解釈しています。

このように賃貸人の申し出より高い金額で判決をすることは、借地借家に関する争いが調停に近い性質があるから、と説明する考えが有力に主張されています。つまり、実務ではそのようなことが起こりうるということを賃貸人は覚悟した方がいいということです。

造作買取請求権とは

借家については、賃貸借契約終了時に賃借人から造作買取請求がされる可能性があります。造作とは「分離が物理的、経済的にも容易であるが、建物の使用に客観的な便益を与える物」です。これを契約終了時に賃貸人に買取を求める権利です。これは請求された時点で売買契約が成立する形成権です。

債務不履行解除

期間満了や解約申し入れによる終了ではなく、賃借人の債務不履行で契約を解除する場合について説明します。

無断譲渡による解除

賃借人は賃貸人の承諾がなければ賃借権の譲渡、転貸はできません(民法612条1項)。また、無断譲渡があった場合は、賃貸人は契約の解除ができます(同条2項)。しかし、この条文を厳格に適用すると、賃貸人が何の不利益もない場合でも解除権を用いるなど濫用のおそれがあります。

そこで最高裁は「賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては、同条(612条)の解除権は発生しない」(最判昭和28年9月5日)と、賃借人保護の立場を明らかにしました。

賃料不払いによる解除

賃料の不払いは賃借人の債務不履行(民法415条)なのは明らかですから、賃貸人は賃貸借契約の解除(541条)ができるはずです。しかし、わずかな債務不履行があり、催告期間内に履行がなければ解除できてしまうのは賃借人の保護に欠けます。

そこで、そうした賃借人の保護に欠ける解除権は制限する必要があります。541条の解除の要件を満たしている事案で、最高裁は原審の判断について「(賃借人)はいまだ本件賃貸借の基調である相互の信頼関係を破壊するに至る程度の不誠意があると断定することはできないとして、賃貸人の本件解除権の行使を信義則に反し許されないと判断しているのであって、右判断は正当として是認するに足りる」(最判昭和39年7月28日)として、上告を棄却しています。

信頼関係破壊の法理

上記の趣旨は「信頼関係破壊の法理」として、確立された判例準則となっています。その信頼関係を破壊するに至らない特段の事情の立証責任は賃借人側にあるとされました(最判昭和41年1月27日)。賃貸人としてはこうした債務不履行解除を行う場合には、賃借人の側からこのような抗弁が出される可能性は認識しておくべきでしょう。もっとも、この法理は厳密には債務不履行といえなくとも、信頼関係が破壊されるに至れば解除が可能になるという側面も有していることに注意が必要です。

無催告解除が認められる場合

債務不履行の態様があまりに悪質な場合には、催告することなしに解除が許されます。これが認められた事案は、賃借人の子供が室内で野球をするなどして建具類を破壊したり、燃料がなくなった時に建具類を焼却したり、今でいう「ゴミ屋敷」の状態にするなどの使用法が問題となった事例です。

賃貸人は催告した上で契約解除しましたが、賃借人は催告の期間が短く、催告は無効であると主張しました。最高裁は「信頼関係を裏切って、賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあった場合には、相手方は、賃貸借を将来に向かって解除することができる…この場合には民法541条所定の催告は、これを必要としない」(最判昭和27年4月25日)としました。

ワンポイントアドバイス
家賃を滞納しているからといって、すぐに契約を解除できるわけではありません。不当に退去させようとすると、貸主が逆に訴えられることもあるので注意しましょう。借家人が失業中などのやむをえない事情があった場合、強制退去が認められないこともあります。

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