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債務者が無資力なら債権者代位権も行使できる?
この記事で分かること
- 債権者代位権とは債務者が第三者に対して有する権利を、債務者に変わって行使することができる権利
- 債権者代位権を行使するためには、いくつかの要件があります。
- 債権者代位権は一身専属権ではありません。
債権者代位権の行使のためには、債務者が無資力で債権を行使していないことや、金銭債権であること、また、履行期間が過ぎていることなどのいくつかの要件があり、満たされている必要があります。また、差押えと違って、債権者は裁判所への申請や認可などの手続きは必要ありません。
債権者代位権の基礎知識
債務代理権という言葉は、一般には聞き慣れない言葉でしょう。
債権者代位権(民法、以下、条文番号のみの時は同法、423条)とは、債権を有する者が債務者に属する権利を行使できる権利です。
債権者代位権の定義
債務代理権の基本的な定義は423条1項に規定されています。「債権者は、自己の権利を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる」というものです。
もう少し、分かりやすく説明しましょう。
XがYに100万円貸した(α債権)ものの、Yは期限が来たのに返済しません。Yにはめぼしい財産はないのですが、知人のZに100万円を貸しています(β債権)。ZがYに100万円を返済すれば、そのお金でYはXに返済できます。しかし、YはZに返済を求めようとしません。そうなるとXはいつまでたってもα債権を回収できないことになります。そこでα債権、つまり自己の権利を保全するため、債務者に属する権利(β債権)を行使することができる、Zに対して「Yに返済しろ」あるいは「その返済分を直接自分(X)に支払え」と言えます。債権者(X)が債務者Yに代わって(代位)、その権利を行使する、即ち債権者代位権です。
債権者代位権の要件
他人の権利を行使するのですから、債権者代位権には厳格な要件があります。その要件は徐々に緩和されて例外もあるので、原則だけ示します。
- 被保全債権(図ではα債権)が金銭債権であること(423条1項本文)
- 被保全債権の履行期の到来(423条2項)
- 債務者(図ではY)の無資力(423条1項本文)
- 債務者が権利を行使していないこと(条文になし)
- 行使する権利が一身専属ではないこと(423条1項但し書き)
債権者代位権の実益
債権者代位権は債権者の権利を保全するのが目的に行使できるのですから、債権者にはありがたい権利です。しかし、債権の満足を得るために強制執行の手続きを定めた民事執行法がありますから、そちらを利用すべきではないかという考えもあります。それでも債権者代位権が利用されているのは、民事執行法を使った強制執行に比べて、以下の点で便利だからです。
- 債権者代位権の行使には強制執行に必要な債務名義(民事執行法22条各号)が不要。
- 強制執行の目的となりえない取消権や解除権も代位の対象となる。
以上のようなことから、債権者代位権は実質的には強制執行手続きに代替えする機能を果たしていると言っていいでしょう。
債権者への引き渡し
債権者代位権は債務者の権利の行使をするものですが、物の引き渡しを受ける場合、直接、債権者に引き渡すように請求できます(最判昭和29年9月24日)。これは債務者が受領を拒否した場合、代位権行使の目的が達することができないからです。
また、金銭債権の場合も債権者が自己への給付を求められるとしています(大判昭和10年3月12日)。このようなことから、債務名義が不要な債権回収手段として、債権者代位権は非常に便利な制度となっています。
債権者代位権の要件の詳細
債権者代位権の要件について1つ1つ見ていきましょう。一身専属性については後述します。
被保全債権
被保全債権が金銭債権であることは条文には書かれていません。しかし、債権者代位権が債務者の責任財産(強制執行の引当てになる債務者の財産のこと=返済に充てられる財産と考えていいでしょう)を充実させて、債権者の債権が保全することを目的にするのですから、被保全債権は本来、金銭債権しかありえません。仮に金銭債権でなくても、債務不履行時に金銭債権(損害賠償請求権等)に転じていれば問題はありません。
無資力要件
条文(423条)を眺めても、直接的に債務者が無資力であることという要件は見当たりません。この点は通常、「債権者は、自己の債権を保全するため」という部分が「債務者が無資力であること」を要すると解釈されます。つまり「資力がある=責任財産がある」場合にはその財産が引き当てになりますから自己の債権は保全された状態です。ところが無資力であれば債権は保全されません(債権を担保するだけの財産がない)。
そのため、債務者が無資力の時は、債権者は債権を保全するために債務者に属する権利の行使をして自己の財産を保全できる、ということになります。
なお、民法423条は、改正によって、「自己の債権を保全するため必要があるときは」と、必要性について文言が付加されています。
債務者の権利不行使
条文にはありませんが、債権者代位権は債務者が権利を行使する前でなければ行使できません(最判昭和28年12月14日)。債務者がすでに権利の行使をしている所に、さらに代位権を行使するのは不当な財産権の干渉にあたると考えられるからです。
保存行為とは
債権者は被保全債権の期限が到来してからでなければ、債権者代位権を行使できないのが原則です(423条2項本文)。これは当然のことで、自分の債権が行使できない状態なのに、債務者の権利を行使するのは不当だからです。もっとも「保存行為」であれば行使できます(同項但し書き)。保存行為とは「財産の現状を維持する行為」です。たとえば割れた窓ガラスを修理するなどは典型的な保存行為でしょう。
債権者代位権行使の成否「一身専属性」
債権者代位権を行使できない「債務者の一身に専属する権利」とはどのようなことでしょうか。
一身専属の権利とは
「一身に専属する」という文言は423条1項但し書きと、相続に関する896条に出てきます。
債権者代位権における「行使上の一身専属性」
債権者代位権での一身専属性は、債務者だけが行使できることを意味するために「行使上の一身専属性」と呼ばれます。それを行使するかどうか、個人的な意思に委ねられるという意味です。具体的には、名誉毀損に基づく慰謝料請求権は、それを行使するかどうかは名誉毀損された本人が専ら決定すべきことなので、一身専属性があると言えるでしょう(最判昭和58年10月6日)。そのような権利について、債権者代位はできません。
似て非なる「帰属上の一身専属」
行使上の一身専属性と似た概念で、「帰属上の一身専属」という概念があります。「被相続人の一身に専属したものは、この限りではない」(896条)と条文にもあります。この場合の一身専属性は、被相続人にのみ「帰属」することを意味しています。帰属上の一身専属の例としては、子が親から扶養を受ける権利のように譲渡性、相続性のないものを言います。行使上と帰属上の一身専属性は重なる場合もありますが、そうでない場合もあります。
一身専属の権利と判例
一身専属性が債権者代位訴訟の上で問題になった例は少なくありません。
遺留分減殺請求と一身専属性
遺留分減殺請求(1031条)は、債権者代位権の対象となりません(最判平成13年11月22日)。遺留分制度とは、一定範囲の相続人が被相続人の財産の一定の割合について取得する権利を保障するものです。
最高裁では、遺留分減殺請求権は423条1項但し書きの「債務者の一身に専属する権利にあたる」と明言しました。その理由として同請求権が「侵害された遺留分を回復するかどうかを、専ら遺留分権利者の自律的決定にゆだねたもの」であることを挙げました。
時効援用権と一身専属性
債務者が負っている債務のうち消滅時効がかかっているものについては、債権者は債務者に代位して消滅時効を援用できます。最高裁は「債務者の資力が自己の債権の弁済を受けるについて十分でない事情にあるかぎり、その債権を保全するに必要な限度で…債務者に代位して他の債権者に対する債務の消滅時効を援用することが許される」(最判昭和43年9月26日)としました。
債権者代位権の転用
債権者代位については、いわゆる転用事例が重要です。
債権者代位権の転用とは
債権者代位権の転用とは、被保全債権が金銭債権でない場合に拡大した事例です。この場合、責任財産の保全が目的と言えませんから債権者代位権の本来の目的とは違うのは明らかです。しかし、被保全債権が行使債権と密接に関連し、問題解決のために他の法的手段がなく、転用による弊害が少ないのであれば、そのような転用を認めようというものです。
判例が認めた転用事例
転用事例として認められた例としては、登記請求権があります。「本寿寺登記請求代位事件」という今から100年以上前の1910年に判決が出された民法では有名な事例です。土地を所有していたYがAに売却し、AはさらにX(本寿寺)に売却しましたが登記はYに残ったままでした。XはAのYに対する登記請求権を代位行使する旨を主張して出訴しました。
被保全債権はXのAに対する登記請求権です。大審院はこの訴えを認めました(大判明治43年7月6日)。もう1つは土地を借りた賃借人が、その土地上にバラック建物を建てて占拠する者に対して、自己の土地の賃借権を被保全債権にして、土地所有者が不法占拠者に対して有する妨害排除請求権の代位行使を認めたものです(大判昭和4年12月16日)。
債権者代位訴訟の実際
債権者代位権は裁判外でも行使できます。また、裁判で行使する場合はどのような攻撃防御をすればいいのか、見ていきましょう。
債権者代位訴訟の主張方法
まずは原告、被告がどのような主張をするのかを見ていきます。
(代位)債権者(原告)の主張すべきこと
典型的な債権者代位訴訟を例にとります。XはYに対して売買代金請求権を有していましたが、Yが倒産しました。YはZに対して貸金債権を有しています。XはZに対してXに支払いを求めた事例です。このような時は以下の点を主張立証することになります。
- 被保全債権の発生原因事実(XとYの売買契約の成立)
- Yの無資力
- 行使債権の発生原因事実(YZの金銭の返還の合意、それに基づく金銭の交付、弁済期の合意、弁済期の到来)
第三債務者(被告)の抗弁
これに対して第三債務者Zは行使債権について争いがない場合であれば、被保全債権について、売買契約の売買代金請求権は期限付きであることを反論(抗弁)できます。つまり、被保全債権が履行期前であることの主張(423条2項本文)です。
(代位)債権者の再抗弁
第三債務者Zの抗弁に対して、Xはそれに対する反論(再抗弁)が可能です。まず、確かに被保全債権は期限付きですが、すでに期限は到来しているとの主張です。あるいは裁判所が代位を許可したとの再抗弁です(423条2項本文)。
つまり期限前でも、裁判所が代位を許した場合は行使できるという反論です。また、あまり現実味はありませんが、貸金債権の債権の行使が保存行為であるという主張も論理的には可能でしょう(423条2項但し書き)。
債権者代位訴訟の攻撃防御
債権者代位訴訟の実際の攻撃防御方法について見ましたが、民事訴訟法上の観点から眺めてみましょう。冒頭で使用した図を用いましょう。債権者Xが債務者Yの有するZへの権利を行使する裁判です。
債権者は第三者の訴訟担当
代位債権者Xは、債務者Yの権利である第三債務者Zへの権利の行使をします。このように権利義務の主体であるYではなく、第三者であるXが訴訟の当事者として判断を受ける場合を「第三者の訴訟担当」と呼びます。債権者代位訴訟の場合は法律の定めによるものですから、法定訴訟担当と呼ばれます。この場合、原告はXで、被告はZです。
被保全債権の不存在
それでは、仮に存在すると思っていたXのYに対するα債権が、実は存在していなかった(YがXに弁済していた場合など)時は、裁判所はどのような判決をすべきでしょうか。このような場合は、Xはそもそも法定訴訟担当の資格がなかったということですから、本案である行使債権の成否に立ち入るまでもなく、Xに当事者適格がないと判断され、訴え却下となります。いわゆる門前払い判決です。
判決の効力は債務者に及ぶか
もし、訴訟が順調に進みXが勝訴した場合に問題となるのは、その判決の効力が債務者でありながら裁判には参加しなかったYに及ぶかという点です。これについては、代位債権者の勝敗にかかわらず民事訴訟法115条1項2号により、判決の効力が債務者にも及ぶとされています(大判昭和15年3月15日)。
債権者代位権について分からないことは弁護士に相談!
債権者代位権は、債権者が債権回収を失敗させないための権利を使った、方法の一つと言えます。実際に債務者代位権を行使することは少ないかもしれませんが、こういった権利があることを知っておきましょう。債権者代位権について、もっと詳しく知りたい方は、債権回収に詳しい弁護士に相談してみるとよいでしょう。
- 状況にあわせた適切な回収方法を実行できる
- 債務者に<回収する意思>がハッキリ伝わる
- スピーディーな債権回収が期待できる
- 当事者交渉に比べ、精神的負担を低減できる
- 法的見地から冷静な交渉が可能
- あきらめていた債権が回収できる可能性も