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成年後見制度とは~遺産相続で後見人が必須となるケース

この記事で分かること

  • 成年後見制度は判断能力をなくした人の代わりに法律行為をする制度
  • 遺産相続においては相続人の代わりに遺産分割協議に参加する
  • 成年後見制度はリスクもいっぱい。自分が被後見人になりそうなら信頼できる後見人候補を探しておこう

世の中にある取り決めは、基本的にお互いの意思によって決まります。遺産相続も例外でなく、遺産分割協議書に全ての相続人が合意しなければいけません。しかし相続人の1人が認知症などで判断能力を失っていれば意思表示が無効になるため代わりに法律行為をおこなってくれる後見人が必要になります。後見人の選任は申し立てから1〜2ヶ月で行われるので早めに行動してください。

遺産相続では本人の状態に合わせて後見人、保佐人、補助人が必要

認知症や知的障害の方が身内にいる場合、気になるのは成年後見制度の活用だと思います。成年後見制度は行為能力、つまり契約や遺言などを本人の意思で行えるだけの判断力が不足している人に対して後見人が一定の行為を代理する制度ですが、遺産分割についても成年後見制度を利用しなければいけません。

いうまでもなく遺産相続が他の相続人との合意によって分割されるからです。

遺産相続で後見人が必要となるのは判断能力が欠如している場合

遺産相続で後見人が必要となるのは被相続人の判断能力が欠如している場合です。多少の物事が判断できるというレベルでなく完全にもの判別がつかないような状況です。この状態で行われた契約はまず無効になるはずです。

未成年も代理人が必要

基本的に、法律行為ができるのは成年に限られます。よって未成年が相続人になる場合も代理人が必要になります。未成年後見人がいる場合にはその人が、例えば父の死で母と子が遺産を分け合うような場合にはこの利益を守るために特別代理人を申し立てなければいけません。

判断能力が欠如していないときでも保佐人や補助人は必要になる場合あり

判断能力が欠如していない場合でも、あからさまな不足が見られる場合は後見人よりも権限の狭い保佐人や補助人を選びます。いずれも遺産相続をするために必須の手続きですからここでは「病気や障害を理由に判断能力が不足している場合、後見人、補助人、保佐人のいずれかを選任しなければいけない」と理解すれば大丈夫です。

大きな違いは保佐人と補助人に代理権を与えるには本人の同意が必要なことです。

保佐人が必要になる場合

保佐人が必要になるのは判断能力が著しく不十分であるときです。中程度認知症の場合は保佐人をつけることになるでしょう。

補助人が必要になる場合

補助人が必要になるのは判断能力が不十分であるときです。軽度の認知症であっても補助人の申し立てを忘れないでください。

全員で合意できない遺産分割は原則無効です

契約や単独行為(遺言など)をできるのは原則として本人だけ。誰かが代わりに行う場合は、実は代理権という権利を得た上でおこなっているのです。

そのため、成年後見制度を利用しなければいけない制限行為能力者が相続人にいる場合に相続人の同意なしで遺産を分割することも、誰かが勝手に代理をすることもできません。もし、認知症や知的障害、精神障害などが明らかになると遺産分割が無効になることが考えられます。

だから、重度の認知症であるときは後見人が必須ですしたとえ普通に会話できるレベルでも保佐人や補助人を申し立てた方が良いのです。

全員で合意できない遺産分割は原則無効。その例外は成年後見制度を用いた場合と相続人の誰かが音信不通になっているときくらいです。

ワンポイントアドバイス
遺産相続で後見人が必須となるのは相続人の判断能力が全くと言って良いほどかけている場合でしたが、成年後見制度自体は会話ができるレベルでも使わなければいけません。
時間がかかりときには争いの元となる遺産分割協議が無効にならないよう、軽度の認知症でもしっかり家庭裁判所へ申し立ててください。

成年後見制度の概要と申し立て方法について

遺産相続においては後見人、保佐人、補助人(まとめて成年後見人等といいます)が必要であることを前章で解説しましたが、こちらでは成年後見制度そのものへの理解を深めるために制度の概要と申し立て方法について紹介します。

成年後見制度とは判断能力者を守るためのもの

成年後見制度とは判断能力が不十分な人を成年後見人等が支援するものです。人が正しい意思表示をするためには判断能力が必要で、それが欠けていると有効な契約ができません。判断能力のある相手には騙すという方法が取られますが認知症や知的障害がある場合は正常な判断ができないので詐欺をせずに財産を奪えてしまいます。

財産を守るだけでなく1人でできない身の回りの看護を行うあるいは誰かにお願いするということを代わりにやってもらえるのも成年後見制度の意義です。

成年後見制度には法定成年後見制度と任意後見制度があります。相続で問題となる場合の多くは法定成年後見制度を用いることになるでしょう。

法定成年後見制度

判断能力が欠如あるいは不足している状態で成年後見制度を利用する場合はこちらになります。本人の状態に応じて支援する人を後見人、保佐人、補助人という分け方をします。逆に成年後見制度を利用する場合は、対象となる人を被後見人、被保佐人、被補助人と呼びます。

被後見人は日常行為以外のほとんどの法律行為を代理してもらうのに対し、被保佐人や被補助人は自分でする意思決定に対し成年後見人等に同意を求める場合が増えます。

任意後見制度

任意後見制度とは判断能力を失う前に将来に備えて任意後見人を選んでおくことです。任意後見人を選べる状態であれば本人が遺産分割に参加できます。

ちなみに任意後見契約は公正証書という形で書面を残します。

成年後見制度の利用方法

成年後見制度を利用するときは家庭裁判所に申し立てます。申し立てにはいくつかの書類が必要なので円滑な手続きに自信がない場合は市区町村にあらかじめ相談しておくことが良いでしょう。

申し立てできる人

成年後見制度について申し立てができるのはこちらに当てはまる人です。

  • 本人
  • 配偶者
  • 4親等以内の親族
  • 市区町村長

申し立てに必要な書類

申し立てにはこのような書類が必要になります。詳しくは家庭裁判所の一覧表で確認できます。
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/1101.pdf

  • 申し立て書
  • 診断書(成年貢献用)
  • 郵便切手
  • 本人の戸籍謄本
  • 親族関係図
  • 後見人等候補者事情説明書
  • 本人の収支状況報告書

申し立ての費用はおおよそこのようになります。

  • 申し立て書貼付の収入印紙800円
  • 登記手数料の収入印紙2600円
  • 郵便切手4000円程度(裁判所毎に若干の違いあり)
  • 鑑定費用10万円(必要ない場合もあり)

申し立てから審判まで

家庭裁判所に申し立てた後はこのように進みます。

  1. 書類審査
  2. 面接(1〜2時間程度、家庭裁判所で)
  3. 親族への意向照会
  4. 鑑定(事前にした診断と別に家庭裁判所が医師に鑑定依頼をします)
  5. 本人と候補者の調査
  6. 審理
  7. 審判(審判が出るまで1~2ヶ月かかります。)

一度申し立てたら審判が出るまで取り下げられないので注意してください。

成年後見人等になった後は

成年後見人等に選任されたら職務説明会に参加します。続いて財産目録や年間収支予定表などを初回報告として提出してください。あとは定期的かつ自主的に資料を家庭裁判所に提出する義務があります。

成年後見人等は被後見人の死亡あるいは回復、やむを得ない事情での辞任のいずれかを持ってその職務が終了します。

ワンポイントアドバイス
成年後見制度は申し立てから審判まで1〜2ヶ月かかるので余裕を持って行動しましょう。相続税の申告は被相続人が亡くなってから10ヶ月以内なので相続開始後の申し立てでも間に合う可能性はあります。

利益相反がある場合は親族であっても成年貢献になれないことがあるのでその点は注意してください。

成年後見制度の問題と信託制度について

成年後見制度は本人の意思決定権及び財産を守るための制度ですがこのような問題も起きています。もし、あなたが誰かの後見人になるのなら責任を持って取り組みましょう。

あなた自身が被後見人となることが予想されるなら信頼できる人を後見人に選びましょう。

後見人による財産の着服

後見人は被後見人の財産を管理できるため、お金の誘惑に負けてしまいがちです。相続財産が数1000万円規模の場合も少なくないので、着服や横領が時々大きな問題になります。後見人が財産を着服した場合は業務上横領罪に問われますが財産を返せるかどうかはその人の財政状況によります。

弁護士でさえ平気で財産を奪う

基本的には親族が後見人となりますがときには弁護士や司法書士、社会福祉士などの第三者が後見人となることがあります。このような人たちは職業後見人と言われるのですが。親族の場合と同様、横領が問題となります。弁護士などが後見人となった場合は仕事量に問わず報酬が発生するため、家族が納得する仕事をしてくれないという問題もよく起きます。それだけお金の魔力は強いということです。

申し立てを急ぎたいのは相続放棄したいとき

遺産を受け取るだけであれば申し立てが遅れてもなんとかなりますが、相続放棄をするときについてはしっかり期限を逆算して成年後見制度の申し立てを行ってください。

後見人が信用ならないなら信託という方法もあり

後見人をあなた以外の親族が行う場合や、自分の財産を守りたい場合などは信託契約をして銀行に財産を管理してもらうことができます。通常の信託契約でも可能ですが、法定後見人が必要になった時でも後見信託支援制度を用いれば信託が可能になります。

ただし、後見信託支援制度を用いた場合は弁護士等に報酬がかかること、今までとは違う銀行に預ける場合もあること、遺言と違う銀行口座で信託した結果望ましくない相続になること、いざという時に財産を引き出しづらいことといったリスクがあります。

ワンポイントアドバイス
後見人は被後見人に対して大きな権限を持つため、その権利を悪用して数1000万円規模の財産を着服する事例がよくあります。その使い道は浪費や借金返済など様々で、いかに信頼できる後見人を選ばなければいけないかわかります。

財産を後見人に管理させたくないなら信託という手段もありますが、急な出費に対応できない点を考えると一長一短です。

成年後見制度について気になるときは弁護士に相談しよう

成年後見制度を利用する上で大切なのは早めの行動と信頼できる後見人選びです。成年後見人に選任されたら、しっかりとその責任を果たしましょう。本人に代わって遺産分割協議に参加する以上はその人の意思を尊重したいし、成年後見人として関わることで相続の問題がややこしくなることもあります。

成年後見人の手続きや、成年後見人としての職務で迷ったときは弁護士へご相談ください。難しい手続きを優しくサポートしてくれます。

遺産相続は弁護士に相談を
法律のプロがスムーズで正しい相続手続きをサポート
  • 相続人のひとりが弁護士を連れてきた
  • 遺産分割協議で話がまとまらない
  • 遺産相続の話で親族と顔を合わせたくない
  • 遺言書に自分の名前がない、相続分に不満がある
  • 相続について、どうしていいのか分からない
上記に当てはまるなら弁護士に相談