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遺言書には何を書くべき?〜法的効力のある遺言書作成を解説〜
この記事で分かること
- 自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があり、書き方のルールが違います。
- 効力のある遺言書にはルールがあり、正しい知識が必要です。
- 遺言に書く内容は具体的である必要があります。
法的に効力のある遺言書にするためには、遺言書のルールを守る必要があります。公正証書遺言が最も確実ですが、内容を秘密にできない、費用がかかるなどのデメリットがあります。一番簡単な自筆証書遺言の場合は、無効とならないように全文自筆にするなど細かい注意が必要です。
遺言の書き方の基本事項
遺言は一般的には「ゆいごん」と呼ばれますが、法的には「いごん」といいます。
遺言は、例えば口頭で「長男に遺産の3分の1を与えます」などと言えば成立するものではありません。法的効果を発生させるための遺言については、民法で厳格に規定されています。では、間違いなく遺言を残すためにはどうしたらいいのか、まずは遺言の基本事項から見ていきましょう。
遺言の方式は2つ
遺言の方式には「普通方式」と「特別方式」があります。原則は普通方式ですが、それが不可能か、極めて困難な場合には特別の方式によることになります。遺言は、民法に定める方式に従わないなければなりません。つまり、方式に従わない遺言は法的効力がないので注意しましょう。
普通方式の遺言は3種類
普通方式の遺言には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。自筆証書遺言が最も一般的ですが、法的知識のない人が死に瀕して書く場合には、往々にして(法的に)意味不明なものが出来上がることがあり、それが相続争いの原因になりかねません。公正証書遺言であれば、公証人という法律のプロが関与するので、そうした不安はありません。秘密証書遺言は遺言の内容を秘密にできる利点がありますが、そもそも秘密にしなければいけないような遺言があるのかという点から、それほど利用されていないのが実情です。
特別な方式の遺言
特別な方式の遺言は4死亡の危急に迫った者の遺言、伝染病隔離者の遺言、在船者の遺言、船舶遭難者の遺言の4種類があります。いずれも普通方式での遺言が不可能か極めて困難な状況で行われるものです。
遺言の基本的な書き方のルール
遺言は15歳に達した者がすることができます。未成年者の法律行為には法定代理人が必要ですが、遺言については適用外です。
15歳は中学3年、高校1年の年齢ですが、その年齢になれば遺言ができるわけです。同じように被保佐人や被補助人(理解力が著しく不十分な者)も単独で遺言が可能です。被成年後見人(精神上の障害によって理解力を欠く状況にある者)については、遺言能力がありません。
ただし、脳力を一時回復した場合や2名以上の医師が立ち会うなどの一定の条件の下であれば遺言ができます。
遺言書の書き方の例
遺言書の書き方の例を示します。このように、できるだけ、具体的に的確な内容を記載することが大切です。
遺言書
遺言者山田正男は、本遺言書の通り遺言する。
一. 妻 良子には次の財産を相続させる。
1. ○○銀行○○支店の定期預金全額
定期預金 口座番号○○○○○〇〇
2. 建物
所在 栃木県○○市○○
家屋番号 〇番
種類 居宅
構造 木造1階建て
床面積 100㎡
二. 長男 一夫には次の財産を相続する。
1. 土地
所在 東京都豊島区1丁目―〇―〇
地目 宅地
地積 200.11㎡
2. 株式会社 ○○○の株式 50000株
遺言者山田正男は、この遺言書の執行者として次のものを指定する。
住所
弁護士 ○○○〇
平成○○年○○月○○日
住所
遺言者 山田正男 印
附言
妻、良子へ‥‥‥‥…
それぞれに、なぜ、この遺産をこのように相続させたいのか、その理由も記載しておいてもよいでしょう。
遺言の変更にも方式がある
遺言をした後に変更を加えるには、自筆証書遺言と秘密証書遺言、特別の方式で行う場合、遺言者が、たとえば「第5行目5文字訂正」などと変更場所を指示し、そこに署名と押印しなければなりません。公正証書遺言の場合は、一部を削除し、訂正することになりますが、その時は別途料金が必要になります。
共同遺言の禁止
2人以上が同一の証書で遺言をすることはできません。「共同」については、形式的要素(同一の証書に複数の者の遺言を記載)と、実質的要素(共同記載された遺言の内容が相互に関連して独立して取り出せない記載)の2つの要素があり、双方を備えていれば共同遺言として無効になります。
普通方式の遺言書の書き方
遺言書の原則である普通方式の遺言書の書き方を見ていきましょう。特に自筆証書遺言を書く時には注意しなくてはならない点が多くあります。
自筆証書遺言の場合
自筆証書遺言の場合、遺言者が全文を日付及び氏名を自書し、印を押すことで成立します。証人、立会人、公証人も不要です。その点、簡易にできるというメリットがありますが、偽造等がされやすいという難点もあります。
自筆が条件
自筆証書遺言は遺言者が自筆することが条件です。筆跡によって本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意から出たものであることを証明できるという理由から、そう決められています(最判昭和62年10月8日)。用紙の大きさや縦書き、横書きなどの決まりはありません。他人に口述筆記させたものやパソコンによる作成は、筆跡がわからないので無効になります。
日付は重要なポイント
遺言書には、日付が氏名や押印がきちんとあることが重要です。日付は自筆で書き、スタンプなどは無効になります。複数の遺言書を書き、前の遺言が後の遺言と抵触する場合、その抵触する部分については、後の遺言が有効になるという規定があることから、いつ書いた遺言であるのかを示す日付が重要なポイントとなるわけです。印鑑については、認印でも有効です。
書き間違いに注意
遺言書を書き間違えたり、内容を追記したりした場合はできれば書き直した方がよいでしょう。訂正する方法も法律で定められており、守らない場合は無効になってしまいます。曖昧な表現や情報は避け、具体的に正確に記載する必要があります。遺言書を訂正する場合は、たとえば「第5行目5文字訂正」などと示し、さらに署名、捺印をするなどが必要なため、書き直した方が無難です。
ページが複数になるときは、割印
遺言書が複数枚にわたるときは、できれば割印をしておくとよいでしょう。すべてが遺言書であると明確にするためです。
公正証書遺言の場合
次に公正証書遺言を見てみましょう。公正証書遺言の場合は、証人2人以上の立会いが必要です。
公正証書遺言の方法は民法969条の1号から5号にかけて、厳格に規定されています。
- 証人2人以上の立会いが必要。
- 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口述し、公証人が筆記。
- 公証人が口述を筆記し、遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させる
- 遺言者及び証人は筆記が正確なことを承認し、各自が署名し押印する。遺言者は実印。
- 公証人がその証書は①〜④に掲げる方式に従って作った旨を付記して、署名し押印。
公正証書遺言書は原本と写し(正本)、謄本を作成します。原本は公証役場に保管され、写し(正本)と謄本は遺言者が保管します。
実務におけるアレンジ
上記のような厳格な規定がある公正証書遺言ですが、実務の現場では若干、アレンジされることもあります。遺言者の依頼を受けたものが遺言の趣旨を書き、それを公証人にあらかじめ渡しておきます。これに基づいて公証人が事前に証書を作成し、遺言者と証人に読み聞かせるというものです。判例は個々の要件が満たされていれば、順序が法定のものと違っても遺言の方式に違反するものではないとしています。
秘密証書遺言の場合
秘密証書遺言は利用されることが少ない遺言の方式です。公証人が関与するため、偽造や改ざんのおそれはありません。公正証書遺言が遺言の内容を知られてしまうのに対して、遺書の存在を周囲に知らせながらも内容を秘匿できるという点に特徴があります。
秘密証書遺言の方法
秘密証書遺言は公正証書遺言と同様に、方式が厳格に定められています。
- 遺言者が証書に署名し、押印する。
- 遺言者が証書を封じ、証書に用いた印章で押印する。
- 遺言者が公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出し、自己の遺言書である旨とその筆者の氏名及び住所を申述する。
- 公証人が証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともに署名し、押印する。
秘密証書遺言の要式が不十分でも自筆証書遺言に
秘密証書遺言が方式に欠けている場合でも、自筆証書遺言の方式を持っていれば自筆証書の遺言としての効力があります。
遺言に書く内容についても注意
遺言書には、何を書いても効力があるわけではありません。遺言書で指定できるのは、財産の指定と遺贈について、遺言執行書の指定や子の認知などです。
遺言の成立過程に問題があると無効になることも
遺言は厳格な方式が定められていますが、共同遺言など定められた方式に背いてしまうと無効になってしまいます。
遺言時に遺言能力がない場合
遺言時に遺言能力がない場合は全体が無効となってしまうので注意が必要です。たとえば、認知症になってしまうと遺言能力がないと判断されてしまいます。
もし、詐欺・脅迫によって作成された遺言書の場合は、遺言者、遺言者の死後は相続人によって取消が可能です。
公序良俗違反などによる無効
公序良俗や強行法規に反する内容は無効になります。また、遺言の内容が解釈によって確定できない場合も無効です。特に自筆証書遺言では法律関係者が関与しないことが多いため、そのような事態も起こり得ます。
遺言の書き方については、弁護士に相談しよう
遺言書を残したいと考えた場合、書いた遺言書が効力を発揮できるものであるか、確認しておく必要があります。法律の知識がなく、思い込みだけで遺言を書いてしまうと、結果的に無意味になってしまうことがあるからです。できれば、弁護士に相談して確実な遺言書を作成した方がよいでしょう。公正証書遺言でない場合、無効になってしまうケースは多く、また、遺言の内容が的確でなかったり、表現が不足していたりしたために、結果的に相続争いに発展しまうこともあります。そういった悲しい事態を防ぐためにも、遺言書は正確に作成することが求められます。
初回は相談料が無料の弁護士事務所もありますので、まずは遺産相続や遺言書作成の経験が豊富な弁護士に相談してみるとよいでしょう。
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