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田舎の家を相続したらどうすべき?税金のムダ払いを回避する方法

この記事で分かること
- 子供が田舎の実家を相続すると、固定資産税や家の管理などの負担が生じる。
- 負担に対処するには、売却、自治体への寄付、賃貸住宅などへの転用が考えられる。
- 田舎の実家の相続でマイナスの方が多ければ、相続放棄もひとつの方法である。
- 田舎の実家の相続は、不動産の相続に詳しい弁護士に相談するのが一番である。
子供が田舎の実家を相続すると、固定資産税などの負担が生じます。売却などで対処しようとしても、思うようにいかないこともあります。田舎の実家の相続については、相続放棄すべきかどうかも含め、不動産の相続に詳しい弁護士に相談するのが一番です。
田舎の家を相続した場合の問題点
わが国では、核家族化が進み、子供が老親と同居しない世帯が増えました。そんな中、次のような話をよく耳にします。
田舎の実家でひとり暮らしをしていた親が亡くなった。実家を誰が相続するかを子供たちで話し合った。子供のうちのひとりが、実家を相続して守っていくことになった。
生まれ育った実家を相続して守っていこうという心持ちは、尊いものです。ただ現実は、心持ちだけではすまされません。実家を相続すると、次のような負担が生じるからです。
- 固定資産税がかかる
- 管理責任が発生する
- 近隣からの苦情が発生する
それぞれのあらましを紹介します。
固定資産税がかかる
子供が相続した実家には固定資産税がかかります。固定資産税とは、土地や家などにかけられる地方税です。土地や家などの持ち主が支払います。
これまでは、亡くなった親が家の持ち主として固定資産税を支払ってきました。今度は、相続した子供が家の持ち主として固定資産税を支払うことになります。
子供は自分の家が別にあるので、実家に住まないことがほとんどです。でも、持ち主である以上、固定資産税を支払わなければなりません。
固定資産税アップを嫌がり空き家のまま放置されるケースも
土地に家が建っている場合、持ち主は「固定資産税の軽減特例」を利用できます。この特例は、読んで字のごとく、固定資産税を安くすることのできる特例です。
家付きの土地を保有している場合、家と土地の両方に固定資産税がかかります。持ち主に対する税負担が大きくなりすぎることを避けるため、家の建っている土地に対しては、更地の持ち主に比べ、税額を抑える仕組みとなっているのです。
家を取り壊して更地にすると軽減特例が使えなくなることから、固定資産税の増額を避けるため、空き家をあえて取り壊さないケースも増えており、全国に広がる「空き家問題」の原因のひとつといわれています。
「特定空家」は軽減特例の対象外
家の建っている土地であっても、その家が市区町村により「特定空家」として指定されると、固定資産税の軽減特例は使えなくなります。
特定空家は、固定資産税の軽減特例を使えなくすることで、空家の持ち主に自主的な迷惑空き家の取り壊しを促すことを狙った制度です。
「特定空家」とは、次のいずれかの状態にある空き家です。
特定空家の条件 | 具体例 |
---|---|
家が壊れるなどによる周辺への危険がある | 家が傾いている、瓦や看板が落ちそうになっているなど |
周辺の衛生状態を悪くする危険がある | 浄化槽が壊れて汚物の臭いが周辺に充満している、放置されたゴミが悪臭を発しハエやネズミがたかっているなど |
周辺から見て不快な景観を作り出している | たくさんの落書きがされている、ゴミが山積みになっているなど |
そのほかのことで周辺の生活環境を悪くする危険がある | 不審者が出入りしている、木の枝が通路にはみ出し歩行者の通行をじゃましているなど |
実家を残したい想いで相続したものの、管理が行き届かず実家の周辺環境を悪化させ、税金の支払いまで増えてしまうようでは、なんのために相続したのかわからなくなってしまうでしょう。
管理責任が発生する
実家を相続した子供は、家の持ち主として、家を管理する責任を負います。
家の管理は、大きく2つに分けられます。
- 家の価値を下げないこと
- 家が原因で周辺に迷惑をかけないこと
家の価値を下げない
家の管理のひとつは、その価値を下げないことです。具体的には次のようなことです。
- 家に雨風が入らないように、割れた窓ガラス、雨漏りのする屋根などを修理する
- 家が湿気などで傷まないように、家全体の換気を行う
- 虫や獣によって家が傷付けられたり汚されたりしないように、駆除を行う
- 外壁を傷つけるツタ、虫がわく雑草を刈り取る
家が原因で周辺に迷惑をかけない
家の管理のもうひとつは、家が原因で周辺に迷惑をかけないことです。2つに分けられます。
- 「特定空家」状態にしないこと。
- 「特定空家」状態とまではいかない周辺への迷惑を防ぐこと(枯葉が隣家の敷地に落ちないようにすることなど)
前述の通り、こうした管理が行き届かないと特定空家となり、最終的には持ち主の税負担が増えてしまいます。
家の管理には時間・お金・労力がかかる
以上でもご説明した通り、家の管理には時間・お金・労力がかかるものです。
管理を行うには、時間をかけて自宅と実家とを行き来することが必要です。実家と子が住んでいる場所が離れているのであれば、車のガソリン代や電車賃、航空代など交通費もバカになりません。お金をかけて実家にたどり着いてやることは、広い敷地の雑草の刈り取りや、雨漏りのする屋根の修理といった大仕事です。
こうした作業も、実家近くの業者に頼めば時間と労力はかかりませんが、当然それ相応のお金がかかります。家を管理することは、それ自体がとても骨の折れる仕事であり、それが自分のふだん住んでいない、使っていない家となれば尚更です。
近隣からの苦情が発生する
家の管理を怠ると、近隣からの苦情が発生します。苦情対応は、精神的・時間的に大きな負担となります。
「特定空家」状態だと損害賠償請求も
放置されたゴミが悪臭を放つなど「特定空家」状態の場合、近隣からの手厳しい苦情は避けられません。
苦情にとどまらず、損害賠償を請求されることも考えられます。落ちてきた瓦でケガをした治療費、放置されたゴミの悪臭により気分が悪くなったことへの慰謝料などです。
「特定空家」指定を受けると行政代執行も
市区町村により「特定空家」の指定を受けると、立入り調査や指導などを受けます。それでも改善されないと、最悪の場合、市区町村自身の手で強制的に改善を行うという措置を受けます。倒壊寸前の家を取り壊すなどです。行政代執行といいます。
行政代執行で行った家の取り壊しなどの費用はすべて「特定空家」の持ち主が負担することになります。
相続した田舎の家に検討すべき対処法
実家を相続した子供が、固定資産税・家の管理・苦情対応といった負担に耐えられなくなったとき、子供はどんな対処をしたらよいのでしょうか。
子供が取るべき対処法として、3つ考えられます。
- 不動産屋に売却する
- 自治体に寄付する
- 土地や建物を活用する
最初の2つは、実家を手放す方法です。最後の1つは、実家を手放さずに活用する方法です。
それぞれのあらましを紹介します。
不動産屋に売却する
1つ目の対処法は、実家を不動産屋に売ることです。
不動産屋に売った場合、個人に売るよりも売値は安いです。でも、個人に売るよりも早く買い取ってもらえます。固定資産税などの負担から早く抜け出したい子供からすれば、この方法がベターです。
ただ、家の状態によっては、買い取ってもらえないこともあります。買い取りにリフォームが必要となれば、リフォーム代負担がのしかかります。
自治体に寄付する
2つ目の対処法は、実家を地元の市区町村といった自治体に寄付する方法です。
国土交通省の発表では、東京都奥多摩町と長崎市が空き家の寄付を受け付けています。ほかにも空き家の寄付を受け付けている自治体はあるようです。
ただ、自治体は空き家の寄付を受けることに消極的なのが一般的といわれています。理由は2つです。
- 寄付を受けた空き家の分だけ固定資産税の税収が減る
- 寄付された空き家の管理に費用がかかる
とはいえ、自治体が空き家の寄付を受けてはならないという決まりはありません。寄付を受け付けてくれる可能性のある自治体もあるはずです。
地元自治体に空き家寄付の受付をお願いしてみることは、ムダではないと思われます。
土地や建物を活用する
3つ目の対処法は、実家や敷地を活用する方法です。
実家の売却も自治体への寄付も両方できないときの方法です。固定資産税・家の管理・苦情対応の負担は残ります。
実家や敷地の活用には、2つの方法があります。
- 実家そのものを活用する
- 実家を取り壊して更地を活用する
実家そのものを活用する
実家そのものが活用できる状態であれば、実家そのものを活用できます。
相続した子供自身が住む方法もあります。ただ、すでに別の土地での生活が根付いている、家族が同意しないなどの理由から、現実には稀な選択肢かと思われます。
最も有効な方法として、賃貸住宅や民泊施設への転用が考えられます。手順は、次のとおりです。
これらの手順は自分で行わなければなりません。その場合、次の問題が生じるおそれがあります。
- 入居希望者が現れない
- 建物の修理などの管理がうまくいかない
- 住人同士や近隣住民とのトラブルにうまく対応できない
これらの問題に対処するには、住宅・施設管理の専門知識と経験が必要です。自分ひとりでこなすのが難しいと感じたら、専門の管理業者に頼むのも方法のひとつです。
実家を取り壊して更地を活用する
家の老朽化やリフォーム費用が高い等の理由から、実家そのものを活用できない場合は、家を取り壊して更地として活用を考えることになります。
更地にすることで土地の固定資産税は上がります。更地での活用を考える場合は避けられないことなので、覚悟しましょう。
更地の活用方法として近年メジャーなのは、次の3つです。
- 駐車場にして貸し出す
- トランクルームを作って貸し出す
- ソーラーパネルを設置し、太陽光発電で生まれた電力を電力会社に売る
これらを行うには、借り手がいるか、十分な太陽光が当たるかなどを事前にしっかりと評価することが大切です。
田舎の家を相続放棄する場合の注意点
田舎の家を相続しない方がいい4つのケース
実家の相続を考える際、次の4つが明らかなら、相続しないのが賢明です。
- 実家の固定資産税・管理・苦情対応の負担に耐えられない
- 実家を売却できない
- 地元自治体は実家の寄付を受け付けてくれない
- 実家や敷地そのものの活用ができない
固定資産税などの負担を背負う一方、実家から得られるものがないからです。
実家を相続しないようにするには、家庭裁判所での相続放棄の手続が必要です。相続放棄が認められれば、相続人でなくなります。相続人でなくなれば、実家を相続しないですみます。
相続放棄では、次の2点に注意しましょう。
実家だけの相続放棄はできない
実家を含めたすべての相続財産を放棄することになる
相続放棄では、実家だけを放棄することはできません。
たとえば、親の遺産が実家と預貯金1,000万円の場合、実家だけ放棄して預貯金だけもらうということはできません。
相続放棄により相続人でなくなれば、親の遺産すべてについて相続できなくなるからです。
相続放棄によって次の相続人が生まれる
相続放棄することで、自分以外の親族の負担になる可能性も
相続放棄によって、次の相続人が生まれることがあります。
たとえば、相続人である子供が1人っ子の場合です。
- 子供が相続放棄をすると、親の親(=子供の祖父母)が相続人になります。
- 親の親が故人であれば、親の兄弟姉妹(=子供のおじ・おば)が相続人になります。
自分が相続放棄をしたせいで、祖父母やおじ・おばが負担を伴う実家を相続することになるのを見過ごすのは、モラルに反します。
祖父母やおじ・おばが負担を伴う実家を相続することにならないよう、相続放棄の手続を手助けしてあげましょう。
田舎の家を相続する場合は早めに弁護士へ相談を
田舎の実家を相続すると、固定資産税などの負担が生じます。負担に耐えられず売却や寄付をしようと思っても、買い手やもらい手が見つかるとは限りません。実家そのものを活用しようとしても、うまくいくとは限りません。
田舎の実家を相続することは、尊い心持ちです。でも、相続後の厳しい負担は、そうした心持ちだけで乗り越えられるものではありません。
それでも、実家を相続したいと思うなら、負担をできるだけ減らし、売却や活用がうまくいくようにしなければなりません。それには、税、家の管理、苦情対応、売却・寄付、不動産活用についての専門知識と経験が必要です。
こうした分野は、いろんな法律が絡んできます。一般の方がこなすことは容易ではありません。ヘタをすると失敗して大損を招くことにもなりかねません。
田舎の家の相続を考えるなら、まず、不動産の相続に詳しい弁護士に相談するのが一番です。
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