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懲役とは?懲役刑の目的、問題点と執行猶予との関係性
この記事で分かること
- 懲役は刑務所に入ること
- 懲役中は刑務作業の義務がある
- 懲役の期間は条文を元に裁判官が決める
- 執行猶予がつくと刑務所に入らずに済むこともある
- なるべく早く弁護士に相談することがおすすめ
懲役刑を受けて刑務所に長く入ることになってしまうと、その後の社会復帰は難しくなってしまいます。懲役を避けたり、懲役の期間をできるだけ短くしたりするためにも、早いタイミングで刑事事件に強い弁護士へ相談してみることをおすすめします。
ニュース等で取り上げられる比較的大きな刑事事件では、「懲役〇年の求刑」「懲役〇年の判決」等の情報はよく見かけます。そのためなんとなく懲役に対するイメージは持っているかもしれませんが、具体的にどのような刑罰であるのか、どのような目的で行われるのか、期間や執行猶予との関係などまでは詳しく知らない方がほとんどでしょう。
ここでは懲役について詳しく解説していき、自分が罪に問われてしまったときどのように対処すべきか、ということについても解説をします。
懲役とは
刑事施設に拘置される刑罰のこと
「懲役」とは、有罪となった者を刑事施設に拘置する刑罰のことです。つまりは、刑務所に入れてその自由を奪うという内容です。そのため「自由刑」と呼ばれています。
自由刑の仲間としては他に禁錮や拘留などがありますが、いずれも異なる特徴を持ち、別の刑罰として扱われています。
懲役刑が執行されるのは自宅近くとは限らない
施設に入れられる期間に関しては後述しますが、基本的にはいずれ社会に戻ることを想定しています。しかしながら、刑の執行場所はその自宅の近くとは限りません。
施設の外に出て生活するわけではないため、ゆかりのない土地であることが直接的に精神的な負担となるわけではありませんが、家族等との距離がある場合には面会をできる機会も減ってしまうことになるでしょう。
施設によって面会や文通などの細かな運用が異なることもありますので、施設内から身内にコンタクトを取ることも簡単にはいきません。そのため、規則正しく健康的な生活は送れるものの精神的には大きな負担を強いられることも考えられます。
懲役では刑務作業を行う
なお、懲役に関しては刑法という法律の第12条に規定が置かれています。
刑法 第12条
懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、1月以上20年以下とする。
2 懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。
懲役については刑法12条に記載がされていますが、ここには懲役について、刑事施設に拘置するだけでなく「所定の作業を行わせる」ともあります。
条文にあるように、懲役は施設に入って自由を奪われるだけでなく、その中で生活しつつ所定の作業(刑務作業)をすることが定められています。ただ決められた期間中その場所で過ごせばいいのではなく、仕事をしなければならないということです。
もちろん、その人に合っていない、身体的に負荷が大きすぎるような仕事や、その他非人道的な扱いは受けません。1日に作業できる時間は8時間以内とされていますし、その者の適正等を判断の上具体的な作業内容は決せられます。
たとえば、「生産作業」として物を製作したり、その物の提供作業であったりなど、全体として事業となるようなことが行われています。
生産作業以外の取り組み
また、生産作業としてものづくりをするだけでなく、「社会貢献作業」や「職業訓練」、「自営作業」なども行われます。
社会貢献作業
社会貢献作業は、「社会に貢献しているということを受刑者が実感しその更生や円滑な社会復帰に資するもの」であると施設の長が認めた作業が該当します。
職業訓令
職業訓練では、復帰後の就職に役立つ資格等を取得させることや、特定の技能を修得させるための訓練が行われています。刑の執行中にこのような訓練が受けられるのは受刑者にとってメリットとも言えますが、復帰後仕事に就けるようにするのは実質的な再犯防止に役立つため、重要な方策として実施されています。
自営作業
最後に自営作業ですが、こちらは炊事・洗濯・清掃など、生活のために必要な作業のことになります。
刑務所生活におけるもうひとつ特徴的なこととして、「作業報奨金」の受け取りがあります。作業報奨金は、出所した後の生活資金として利用するためのものです。社会復帰するにも所持金がまったくのゼロだと出所直後の生活ができません。そのため釈放時にこのお金が支給されます。
懲役刑の目的
ここでは懲役という刑罰を有罪となった者に科す「目的」を考えていきます。
少なくとも日本の法律では犯罪者だからといってどんな罰を与えても良いとは考えられていません。人権は守られますし、与える罰の内容にも意味が求められます。
そこで、懲役刑ではどのような目的でその刑が科せられるのか見ていきましょう。
- 犯罪の予防
- 隔離して社会の安全を保つ
- 矯正や教育を施す
犯罪の予防
一つは「犯罪を予防する」という目的です。
法律にて、ある行為をすると何年間も自由を奪われる可能性がある、と予告して犯罪を抑止する効果を狙っています。犯罪に対するペナルティを掲げて、悪い行為を踏みとどまらせているのです。
隔離して社会の安全を保つ
罪を犯した者を隔離することで社会の安全を保つ、という目的もあります。
仮に凶悪事件が近隣で発生し、その犯人が近くのいるという情報が出回れば、その周辺住民は毎日不安なまま過ごすことになるでしょう。犯人に対して多額の罰金を命じられたところで、その不安は払拭されません。再度同じことを行うかもしれないと思うでしょうし、本人が反省をしていたところで周りの人たちはそう感じるのが普通です。そのため一定期間隔離をし、施設に収容する必要性があります。
これには応報刑としての意味も含まれています。悪いことをした報復措置として刑務所に入れるということです。
ただし、罪を犯した者に単に報復措置をとっても根本的解決は図れないことがほとんどです。被害者の気持ちを多少なりとも晴らすことはできるかもしれませんが、犯罪者の更正には繋がらない可能性がありますし、かえって更正の邪魔をしてしまうことも考えられます。
長い期間収容され、社会から隔離されてしまうことで逆に社会性を欠いてしまい、出所後問題を起こしてしまうことも予想されます。
そこで、ただ長く服役させれば良いと考えて科すのではなく、再び罪を犯さないように矯正教育を施すことも求められます。
矯正や教育を施す
施設内では仕事をするだけでなく、職業訓練などの教育的措置、さらに矯正なども施されます。このように懲役には矯正や教育を施すという目的もあります。
具体的に行われていることには、改善指導として規律正しい生活習慣を体得することや健康な心身の育成、さらに犯した罪の性質に合わせた「薬物依存離脱指導」や「被害者の視点を取り入れた教育」、「交通安全指導」等も受けることになります。
重大な事件では少年に懲役刑等が科されることも
また、少年であっても重大な事件では刑事処分がふさわしいとして、懲役刑等が科されることがあります。
この場合、通常の刑事裁判を受けることになり判決が下されますが、特に少年事件では教育的目的が重要視されますので、成人とは異なる取扱いがされます。
少年の場合には成育歴や生活環境などの影響を大きく受けて犯行に至るとし、処罰というよりも、更生させる方向を重視して矯正・教育が施されます。
懲役の期間はどう決まる?
懲役の期間に関するルールを理解し、その期間がどのように決定されるのか理解していきましょう。
有期懲役と無期懲役の期間
懲役には「有期」と「無期」があります。有期懲役は身体の拘束を行う期間が定まっているもの、無期懲役は期間を定めずに科すものです。
有期懲役
前者は例えば「懲役10年」などと宣告されたりしますが、法定刑として「3年以上」と定められている場合は無期ではなく、「最低3年、最大30年の有期懲役」であることを意味しています。
懲役刑が法定されている罪のほとんどはこの有期懲役です。
無期懲役
これに対し無期懲役はかなり重い罪にしか法定されていません。殺人や強盗致死など、無期の懲役を科すことができる罪は数少ないです。期間を定めずに自由を奪う刑のため、死刑に次ぐ重い刑罰とされています。
ただし、あくまで期間が定められていないだけであり、一生刑務所から出られないことを意味するわけはありません。事例によっては釈放されることもありますし、仮釈放として外に出られることもあります。
ただ、有期懲役で最大30年収容されることとのバランスを考慮して、無期における仮釈放は30年を超えてから行われることになります。
非常に重い罪を犯した者に対し科されることになりますが、出所できたとしても高齢になっていることがほとんどで、その間刑務所内でしか過ごさないことから社会復帰が困難になってしまうなどの問題もあります。
同じ犯罪と同じ結果でも期間が異なる
罪の内容によって有期・無期の定めがなされていますが、同じ有期懲役の定めのある罪であっても実際に言い渡される期間には違いがあります。
なぜなら「懲役〇年で処する」などと指定されてはおらず、「〇年以下」もしくは「〇年以上」などとされており、具体的にどれくらいの期間とするのかは裁判官の裁量によります。
実際に起こった事件でも、同じ傷害致死罪であるものの宣告された期間に大きな違いが生じています。
例えば
- 父親が乳児を揺さぶって死なせた事件:懲役7年(2016年7月14日 宇都宮地方裁判所)
- 暴走族のメンバーらが無関係の男性を金属バット等で殴って死亡させた事件:メンバーの一部に懲役13年(2013年10月17日 東京地方裁判所)
- 少年らがホームレスの男性を襲って死亡させた事件:懲役5年以上8年以下(2014年3月20日 大阪地方裁判所)
などと言い渡されています。
ただし、法定されている期間の範囲より重くなったり軽くなったりすることもあります。次項で見ていきましょう。
刑期を決定づける事由
刑の重さは、いくつかの事由によって重くも軽くもなります。以下の4つがあり、法定刑を基礎に、順序もこのまま加重減軽が検討されます。
- 再犯加重
- 法律上の減軽
- 併合罪による加重
- 酌量減軽
再犯加重
「再犯加重」とは、前に犯した罪に関して刑の執行を終えたか、またはその免除を受けた日から5年以内に再犯があったときに、有期懲役の長期を2倍以下にまで拡大するという制度です。
たとえば、窃盗罪では「10年以下の懲役」に処することができるとされていますが、再犯の場合には最大20年にまで伸ばすことが可能となるのです。
法律上の軽減
次に「法律上の減軽」ですが、これは心神耗弱者が事件を起こしたケースや、相手からの侵害に対し過剰に防衛してしまったケースなどに適用されます。一定の場合に適用されることが法律で定められている減軽の制度です。すべてのケースで刑を軽くしなければならないというわけではありませんが、「10年以下の懲役」とされている場合には「5年以下の懲役」として扱うことができるようになります。
併合罪加重
「併合罪加重」とは例えば、A罪とB罪の両方を犯している場合において、それぞれの刑を併科することを言います。A罪で10年以下、B罪で3年以下とされているのであれば13年以下の懲役を言い渡すことも可能となります。
酌量減軽
最後に「酌量減軽」ですが、こちらは法律上の減軽とは異なり、減軽事由が法定されていないものの情状に酌量すべき事情がある場合に刑を軽くすることができる仕組みです。犯行の動機や方法、犯人の年齢・環境、結果の大小、社会的影響など様々な要因が考慮されます。
最終的には裁判所の裁量
法定刑の内容や加重減軽等によって処断の幅がある程度決せられますが、具体的な期間は裁判所の裁量で決められます。しかしながら、事件内容やその他状況等もほぼ変わりないにもかかわらず宣告される年数に大きな違いが生じるのは不公平であるという批判も成り立ちますし、司法作用の信頼問題にもなります。
そこで実務では、「量刑相場」も重要な判断材料となっています。簡単に言うと、過去の裁判例を参考にして量刑を行うということです。
さらに検察官の求刑内容もその判断において重要と言えます。結果として、検察官が求刑した内容より少し軽くなって言い渡されることが多いですし、求刑された内容が比較的軽いものであれば軽めの刑が宣告されやすくなります。
ただし、最終的な判断は裁判官に委ねられ、機械的に期間が設定されるわけではないと覚えておきましょう。
懲役と執行猶予の関係性
懲役との関係性も強い「執行猶予」について見ていきます。
こちらも一般によく聞く用語ですが、執行猶予が付くとどうなるのか、どのような場合に付することができるのか解説します。
執行猶予が付くとどうなるか
執行猶予は、ある期間刑の執行を猶予してもらい罰を受けなくてもいいものとする制度で、刑の全部について猶予されるケースと刑の一部が猶予されるケースとに分かれます。
たとえば、全部について猶予されたときには、「懲役〇年」と宣告されても実際には刑務所に入りません。
一部の猶予であれば、宣告された〇年のうち、一部期間は実刑となり刑務所に入ることになります。
宣告時には「懲役3年、執行猶予4年」など言い渡され、猶予期間が懲役の期間と一致するとも限りません。
そのため懲役は3年であるものの、4年間はルール違反等のないように過ごさなければ実刑を受けることもあります。
執行猶予が付けられない懲役もある
有罪判決が避けられない場合でも、執行猶予の有無によって被告人のその後の人生は大きく左右されます。そのため執行猶予を付してもらえるよう目指すことが大事です。
ただし、ここで注意したいのは、執行猶予を付することができる条件は法律で定められているということです。どんな懲役刑にも執行猶予を付けることができるわけではないのです。
前提として、前にも懲役等の刑に処されてないこと等が求められますし、さらに今回猶予してもらおうとする宣告刑が懲役3年以下でなければなりません。
執行猶予の期間自体は「1~5年以下」とされていますが、宣告刑が3年以下でなければなりませんので、最長で「懲役3年、執行猶予5年」という宣告があり得ることになります。
前述の、刑の減軽等の話を合わせると、懲役6年までは執行猶予が付される可能性はあるということが言えます。なぜなら酌量減軽によって刑が軽くされればぎりぎり懲役3年に収まる可能性があるからです。
同時に法律上の減軽も起こり得ますが、こちらは制度上適用できるパターンが決まっていますので、実際に利用される場面はかなり限定されます。
最終的にはやはり裁判官の判断によるため、事件の態様やその後の対応などが重要になってきます。法律上の減軽が適用され得る場合には執行猶予付与のためにも弁護士に相談して対処を考えるべきでしょう。
懲役刑の問題点
懲役刑を科すことですべてが解決するわけではありません。現状、さまざまな問題を抱えており、今後も改善を繰り返していくことが求められます。どのようなことが問題視されているのか、代表的なものをいくつか見ていきます。
社会復帰が難しい
すでに説明した通り、長期間刑務所に収容されることで社会性が失われ、釈放後に自分で生活を維持することが難しくなることがあります。長期間刑務所で過ごしてしまうことで、外界との大きなギャップも感じることになるでしょう。さらに、ブランクの期間が長く存在していることで就職などもかなり厳しくなってしまいます。
このような観点から言えば、執行猶予で社会との繋がりを断ち切らないまま更生をさせたほうが、再犯防止の効果は高いのではないかという意見もあります。
懲役中に十分な教育が行われていない
収容中には職業訓練などの教育も行われていると説明しましたが、前項のように社会復帰が難しいとされている背景には、この教育の不十分さが関係しているとも言われています。一応、職業訓練等も受けられると言われているものの、実際に訓練を受けられるのはごくわずかです。受刑者の数割程度しか受けておらず、実際には作業が中心の生活になっています。
報奨金が低額で出所後の生活が困難
作業を行っているのであれば「報奨金」としてお金を受け取ることができます。出所後の生活に充てるお金として渡されますが、この金額も低額です。出所した者の1割程度は所持金が1万円以下となってしまっている実情もあり、到底生活を維持できない状態で社会に出てしまうことが問題となっています。
懲役刑での実刑を回避するには弁護士に相談を
懲役刑は苦痛を与えるために科せられるものではなく、更正をするための教育、出所後の生活ができるように訓練等を行うという役割も持ちます。しかし実情としてはあまり十分な教育等が受けられているとは言い難く、毎日作業を繰り返して数年間生活をしなければなりません。そうなると、日常生活への大きな影響は避けられません。
そのため、もし自身が罪に問われてしまったときには懲役などの実刑を受けることのないよう、対策を取ることが大事になってきます。不起訴処分の獲得や、比較的軽い量刑にしてもらい執行猶予などを付けてもらうことなどでこれを回避します。
しかし、具体的にどのように対応すれば良いのか難しいかと思いますので、弁護士に相談してサポートを受けるといいでしょう。事件後できるだけ早期に相談し、刑事裁判における弁護等の依頼をしましょう。
また、弁護士は裁判における弁護を行うだけでなく、有罪判決や起訴、身体拘束されるのを避けるためにさまざまなアドバイス、活動をしてくれます。依頼するときには、「刑事事件に強い弁護士」を探し、実際に相談して信頼できると感じられた弁護士に依頼をすることをおすすめします。
刑事事件に巻き込まれたら弁護士へすぐに相談を
- 逮捕後72時間、自由に面会できるのは弁護士だけ。
- 23日間以内の迅速な対応が必要
- 不起訴の可能性を上げることが大事
- 刑事事件で起訴された場合、日本の有罪率は99.9%
- 起訴された場合、弁護士なしだと有罪はほぼ確実