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M&Aによる事業承継~メリットとデメリット、手続き方法と流れ
この記事で分かること
- 「M&Aによる事業承継」とは後継者がいない企業を自社と合併したり、企業そのものを買収したりして、その事業を承継する方法をいう
- 「M&Aによる事業承継」は、後継者がいない場合にでも承継できる、現経営者も利益を得られるという大きなメリットがある
- 「M&Aによる事業承継」の手続きで重要なのは、実績があり親身になって進めてくれる信頼ある仲介機関を選定すること
「事業承継」の中でも、後継者がいなくても承継でき、現経営者も利益を得られる「M&Aによる事業承継」が近年増加しています。M&A(合併と買収)により事業を承継することで、会社の発展も期待できます。ただ、M&Aは専門性の高いスキルや知識が必要であるため、信頼性の高い仲介機関を選定することが、成功のカギといえます。
M&Aによる事業承継とは?
経営者であれば、そろそろ後継者に引き継ぎを…と思うタイミングがあります。しかし、思いの外、後継者の育成には手間暇がかかります。
具体的には、後継者の育成に必要な期間として、2~3年が25.6%、約5年が24.8%、5~10年が29.4%というデータが発表されており、驚くことに半数以上の経営者が5~10年の歳月が必要と感じているのです。
これではもう間に合わない…と思った場合でも、じつは、事業を承継できる方法があります。それが「M&Aによる事業承継」です。
参考リンク:経済産業省 中小企業庁 事業承継5ヶ年計画
M&Aによる事業承継は昔と違う!
M&Aとは、「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)の略で、企業の合併買収を意味します。
つまり、後継者がいない企業を自社と合併したり、企業そのものを買収したりして、その事業を承継するという方法なのです。実際は、会社の株式の譲渡、事業の譲渡という形式で承継を行います。
そもそも事業承継とは、「事業」そのものを「承継」する仕組みのことです。具体的には、「事業」の重大な要素である「人(経営)」「資産」「知的資産」の3つを後継者へ引き継ぎ、安定した経営、さらなる発展を目指すためのものです。
ここで、後継者を誰にするかによって、方法が3つに分かれます。
- 親族であれば「親族内承継」
- 親族以外の役員・従業員であれば「従業員承継」
- 社外の第三者であれば「M&Aによる事業承継」
この3つの方法のうち、ここ数年で比較的件数が多くなってきているのが「M&Aによる事業承継」です。以前であれば、「M&A」へのイメージは決して良いわけではなく、「敵対的買収」などの言葉も一時流行となるほどでした。
しかし、現在では「乗っ取り」や「従業員全員解雇」などの絶望感は払拭され、売り手企業も買い手企業も互いがWin-Winとなるような「M&A」が主流となっているのです。
M&Aによる事業承継のメリット・デメリット
それでは、「M&Aによる事業承継」にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。ここでは双方をまとめて解説します。
「M&Aによる事業承継」のメリットは?
「M&Aによる事業承継」のメリットは5つあります。
後継者がいなくても承継できる
「M&Aによる事業承継」は、社外承継ともいわれます。「親族」や「役員・従業員」のどちらにも後継者候補がいなかった場合に、これまでは「廃業」という選択肢しかありませんでした。
しかし、現在は、「M&A」という手法で社外の第三者への事業承継ができるのです。後継者がいなくても事業承継ができること、これが最大のメリットといえます。
会社の存続により従業員の雇用が確保できる
廃業すれば、従業員を解雇することになり、その家族も含めて路頭に迷うことになります。しかし、「M&Aによる事業承継」であれば、契約の内容に含めれば、全従業員もそのまま継承することができ、雇用の確保が可能となります。
売り手企業の経営者も利益を得る
承継の方法としては、ほとんどが非上場株式を売却する場合が多く、現経営者は株式売却の利益を得ることになります。
特に、承継前に経営改善にて事業の磨き上げを行えば、高値で売却することも可能です。売り手・買い手ともにWin-Winの関係になることもメリットといえるでしょう。
経営者の個人保証が不要
「親族」や「役員・従業員」への承継の場合に問題となるのが、現経営者の個人保証です。通常は、企業の借り入れの際に、経営者が連帯保証人となるケースが多く、事業承継の際にはこの個人保証が問題となって、承継を断念する結果となることもあります。
しかし、「M&Aによる事業承継」であれば、連帯保証や担保提供などの個人保証は不要となります。現経営者からすれば個人保証から外れるため、安心した老後の生活を過ごすことができます。
事業の拡大、成長が見込める(会社が発展する)
もともと有していた独自の技術やノウハウに、「M&Aによる事業承継」で買い手企業の持つ資本や人材、マーケットなどが合わさり、現状よりも会社の発展がなされることが多いです。
また、新たな資金により、これまで先延ばしにしていた設備投資や新規事業も可能となり、事業の拡大や成長が見込めます。
M&Aによる事業承継にはデメリットもある!
一方、「M&A」ならではのデメリットもあります。
事業の承継に時間を要する
「従業員承継」などに比べて、事業の承継そのものに時間がかかります。というのも、「従業員承継」の場合は、もともと後継者が従業員ということもあり、既に現場で指揮を執っている場合がほとんどです。
現場としても、これまでと変わらずそのまま業務を続けることができますが、「M&Aによる事業承継」の場合はそうはいきません。互いの企業の方針やルールなどのすり合わせを行い、従業員が慣れるには相当時間がかかることがデメリットといえます。
一定のコストもかかる
引き継ぎ先を探し選定するなど、仲介業者に依頼するため、一定のコストもかかります。また、手続きに要するコストもあり、事前に全てのコストをリストアップしておいた方がいいでしょう。
なお、仲介業者は金融機関やコンサルタント会社もありますが、「事業引継ぎ支援センター」など地域の公的機関も整っており、幅広い選択肢が揃っています。
従業員の待遇や会社の方針の変化で不満が出る
買い手企業の経営方法によっては、これまでの企業文化をそのまま残す場合もあれば、一新することもあります。つまり、売り手企業からすれば、自分たちのあずかり知らぬところで、突然、従業員の待遇や会社の方針が大きく変わる可能性があるのです。
もともと従業員が望んだわけではないため、これにより、従業員からの不満や退職が出る可能性があります。
マッチングできるか確実でない
「M&A」は買い手企業が現れて初めて成り立ちうるものです。売り手企業がいかに社外承継を望んだとしても、そもそも合併や買収の条件が合わなければマッチングができません。
場合によっては、候補者すら現れないこともあります。事業承継ができなくなる可能性も否定できず、事業承継が確実にできる保証はありません。
M&Aによる事業承継の手続きの流れ
ここでは、どのように「M&Aによる事業承継」が行われるのか、その手続きを説明します。
事業承継の準備段階
事業承継を行う上で、3つの方法に共通して、準備段階があります。
経営状況・経営課題の可視化
まずは、自社の現状の把握です。客観的に自社の強みや弱みを観察し、把握することが重要です。
経営状況、経営課題の洗い出し、現在の事業の持続性、成長予測、新しい事業の開発の可能性の有無、利益確保のプロセスの確認など、様々な視点から把握します。
経営改善(磨き上げ)
経営状況・経営課題が把握できれば、あとは少しでも高く事業承継できるよう、企業価値を上げることです。
コスト削減や優良な顧客の維持などはもちろん、承継に向けて知的財産権や営業上のノウハウの整理や法令順守体制の強化も必要となってきます。
M&Aによる事業承継の流れ
承継の準備段階を経て行う次のプロセスは、外部の専門家との協力体制で行います。というのも、M&Aを実行する上で、専門性の高い知識やスキルは必須です。経営者が一人で進めるのは困難といえ、外部からの協力が必要なのです。
仲介機関を選ぶ
非常に重要になってくるのが、仲介機関をどこにするかという問題です。
以下が候補として挙げられます。
- 地域の公的機関(事業引継ぎ支援センターなど)
- 士業等専門家
- M&A専門業者(コンサルティング会社など)
- 取引金融機関
日頃の付き合いはもちろん、ウェブサイトの内容や利用者の声をチェックする、実際に足を運んでセミナー等へ参加するなど、積極的なアクションが必要です。そして、実績が豊富で信頼できる仲介機関を探し出しましょう。
なお、民間のコンサルティング会社を検討の際は、「仲介」(譲渡企業と譲受企業の橋渡し)と「アドバイザリー業務」(自社の利益を最大化するための有利な条件や方法のアドバイス)のどちらが中心業務なのかを確認することをお勧めします。
また選定の際には、コストの確認も忘れずに。一般的に着手金と成功報酬という報酬体系が多く、併せて確認しておけば安心です。
譲渡先企業の決定
提案書の作成(事業調査、売却条件の検討など)
選定した仲介機関に依頼後は、その仲介機関があらゆる情報収集を行います。事業の要素である「人(経営)」「資産」「知的資産」に関連する情報をまとめ、買い手企業向けの提案書を作成するのです。
事業に関する調査はもちろん、売却条件の聞き取りも重要となります。どのような承継を希望するのか、会社全体なのか、一部の事業だけなのか、社名だけなのかなど、明確にする必要があります。
加えて、従業員の雇用・処遇についても、希望条件を提示します。この条件をベースに買い手企業を探すので、妥協できる範囲まで伝えておくと、よりスピーディーにM&Aの承継先を見つけることができます。
なお、この時点で漏れがないように細心の注意を払う必要があります。あとで発見されれば、譲渡価格の減額要素となったり、場合によっては取引休止や賠償問題となったりする可能性もあります。また、M&Aによる事業承継を進めていることについては、社員には伏せる必要があります。
買い手企業との交渉開始
買い手企業への打診は、2つのステップを踏むのが一般的です。最初は名前を伏せて、おおよその業種と企業規模がわかる程度の1次情報を提示します。
その後、さらに検討したい旨の手応えがあれば、秘密保持契約書を交わしてから、詳細情報を明らかにします。具体的な条件を探りながら、買い手企業にM&Aの意思がある場合は、意向表明書を作成してもらいます。
基本合意書の締結とデューデリジェンス(DD)
意向表明書には、基本的事項が明記されます。M&Aの条件(予定価格等)や従業員の処遇、経営方針などが含まれています。
経営者同士の面談により、合意に至れば基本合意書を締結し、買い手企業は、提案書通りの情報で間違いがないかの確認として、様々な調査(デューデリジェンス(DD))を行います。
売買契約書の締結
デューデリジェンスの結果を受けて、再度の話し合いで合意に達すれば、正式な売買契約書を締結します。
方法は、様々です。
- 株式譲渡
- 事業の全部譲渡
- 事業の一部譲渡
- 株式交換
- 合併
- 会社分割
なお、上記のうち、株式交換、合併、会社分割などの場合には、会社法に定められた事項の契約を行います。
M&Aの実行
最終契約書に基づいて、M&Aが実行されます。株式譲渡や事業の引き渡し、決済手続きを経て、経営権が移転し、クロージングとなります。
二人三脚で、「M&Aによる事業承継」を進めていくので、納得できる機関を選定することが必要です。そのためにも、早期に計画を立て準備を進める必要があります。
M&Aによる事業承継は弁護士に相談を
「M&Aによる事業承継」のメリットは大きく、従業員の雇用も確保できる条件であれば、売り手企業、従業員、買い手企業と3者が利益を享受する方法ともいえます。ただ、M&Aの手続きは経営者一人では困難といえ、専門性の高いスキルや知識が必要となりますので、まずは弁護士に相談してみましょう。
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