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労働審判とは?訴訟(裁判)との違いと労働審判を選ぶべきケース
この記事で分かること
- 労働審判は、労働者と事業主間の労使紛争を解決する手段の一つ
- 労働審判は、個別的労働紛争のみを扱える
- IT弁護士を選ぶ際は「専門性」「費用」「実績」に注目!
労使紛争を解決する方法は、主に二つあると考えられています。一つは、行政サービスを使用した個別労働関係あっせんで、もう一つは、労働審判や訴訟など、裁判所による解決方法です。ここでは、労働審判と訴訟の違いや、それに関連する事柄をみていきます。
労働審判とは?
労働審判とは、労使紛争を解決する手段の一つになります。労使紛争とは、労働者と事業主との間に起こっている紛争のことをいい、これには個別的労働紛争と集団的労働紛争があります。集団労働紛争とは、労働組合と事業主との間の紛争を主として意味するのに対し、個別的労働紛争は個人と事業主との間の紛争を指します。
あとで詳しくみていきますが、労働審判が適応されるのは、この個別的労働紛争の場合のみとなります。労働審判は、比較的新しい制度であり、労働問題の専門的な知識を持つ労働審判員とともに、紛争を従来よりも簡潔な方法で解決していくという目的を持った制度になります。
労働審判の特徴
労働審判は、主に労働契約などに関する紛争をスピーディに解決する手段であり、裁判官1名と、専門知識を有する労働審判員2名からなる労働審判委員会が調停するという制度になります。調停できなかった場合には、審判によって、現実に即した解決を試みるという流れになります。特徴は、次の通りになります。
- 労働審判員が労働審判委員会に加わる
- 原則3回で審理が終結
- 直接口頭主義
- 審判が出るため、調停で解決しやすい
- 通常の訴訟に移行することができる
労働審判員が労働審判委員会に加わる
労働審判とは、労働審判委員会が加わって問題を解決する制度で、この労働審判委員会は裁判官1名と労働審判員2名で構成されるということは上で述べました。しかし、労働審判員とは具体的には誰のことでしょうか。実は、労働審判員は、労働組合の役員や企業経営者、人事担当者といった一般人のなかから選ばれます。
これは、裁判官だけだと具体的な労働環境の理解に時間がかかってしまうためであり、具体的な企業活動を把握した専門家が裁判官をサポートすることで、納得のいく結論を早急に導き出すためです。経営者としてしっかりとルールを守っている方が選ばれるので、親身に話を聞いてくれるでしょう。
原則3回で審理が終結
労働審判が紛争をスピーディに解決することができるのは、原則3回以内の審理で修了することが決められているためです。ときに2回で終わることもあり、大体3ヵ月以内で紛争を解決することができます。
訴訟だと、証拠を集めたり、審議したりと、なんだかんだ1年以上かかる場合もありますが、それに比べるとかなり短い期間で紛争を終わらせることができる制度です。
口頭主義
訴訟における審理には、口頭主義と書面主義という考え方があります。これは弁論や証拠調べが主として口頭で行われるか、書面によるかという2つの違いを表しています。
通常の訴訟は書面主義をとっており、その都度証拠が書面で提出されますが、労働審判は口頭主義をとっており、最初に証拠となる資料をおおかた提出したら、あとは口頭で審理するという手法をとっています。労働審判の審理が早く終わる理由の一つは、この口頭主義がとられているためです。
審判が出るため、調停で解決しやすい
労働審判でもし調停がうまくいかない場合、最終的には法的な審判が下されます。これは、いわゆる判決と同様の効果を持っており、調停で問題が解決されない場合に判決が下されるということと同じ意味を持っています。ここで下される審判には、そのため法的な拘束力があり、差押えなどの強制力も持っています。
これによって勝つか負けるかの争いをするよりも、お互いが納得できる形で解決することが双方の望みとなり、調停で解決しようという歩み寄りの機会が得られると考えられています。労働審判が成功をおさめることが多いのは、この権利判定機能があることが、大きな理由になります。
通常の訴訟に移行することができる
しかし、調停もうまくいかず、労働審判委員会の判断によって審判が下されたとしても、その結論に不服がある場合はどうすればいいでしょうか。その場合、通常の訴訟に移行することになります。ただし、この場合ある程度証拠は出尽くしていますので、最初から訴訟した場合よりも短くなる場合が多く、費用もそれほど変わることはありません。
労働審判と訴訟の違い
上では労働審判の特徴をみてきましたが、以上に加えて、労働審判と訴訟には次のような違いもあります。ここでは、その違いについてみていきましょう。
- 扱われるのは個別的労働紛争のみ
- 非公開で行われる
- 公務員は基本的に労働審判制度を利用することができない
扱われるのは個別的労働紛争のみ
通常の訴訟では、特に扱われる案件に制限がなく、訴えがあれば裁判が行われることになりますが、労働審判は違います。先にも触れましたが、労働審判で扱われるのは個別的労働紛争のみになります。
そのため、労働組合と事業主との争いで労働審判制度を利用することはできません。さらに、労働者間のトラブルも、解決することはできません。労働審判は、あくまで個人と事業主との間の争いを解決する手段です。それ以外のことに関しては、少額訴訟や訴訟などの方法を用いて解決する必要があります。
非公開で行われる
労働審判では、事業主によるセクシャルハラスメントやパワーハラスメントなど、あまり他の人には知られたくないような案件を扱ったりもします。
もし訴訟となれば、裁判があったことは公になり、匿名にはなりますが多くの人に裁判があったことを知られてしまいます。しかし、労働審判は非公開で行われるものであり、この点において、より個人のプライバシーに配慮した制度だということができます。
公務員は基本的に労働審判制度を利用することができない
労働審判は、基本的に民事に関する紛争を扱うものです。そのため、公務員の場合は、基本的に労働審判の対象になりません。
しかし、セクシャルハラスメントや退職強要を受けて、国や地方公共団体を相手取って損害賠償請求を行う場合は、公法とは関係のないところで起きた紛争だと捉えられ、労働審判制度を利用することができるとされています。労働審判とは、あくまで労働者と事業主との間の紛争を解決するものですので、公務員の場合には注意が必要になります。
少額訴訟との違い
また、スピーディな問題解決の手段として、少額訴訟がよく知られていますが、労働審判と少額訴訟との違いはなんでしょうか。それは、支払いを求めることができる金額によるということができます。
少額訴訟とは、原則1日の期日で終えることができ、自分一人でも簡単に行える制度として知られていますが、少額訴訟が扱えるのは、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に限られます。一方で、労働審判には金額の上限が設定されていません。慰謝料が高額となる場合のトラブルには、労働審判が適しているといえるでしょう。
労働審判で扱われる案件と手続の方法
労働審判で扱われるものは、主に労働者の権利や利益に関する紛争になります。具体例としては、次のようなものをあげることができます。
労働審判で扱われる案件
- 事業主によるセクシャルハラスメントやパワーハラスメント(証拠があると◎)
- 残業代未払い
- 給料未払い
- 賞与未払い
- 退職金未払い
- 不当解雇
- 雇い止め
- 退職強要
- 退職勧奨
手続の方法
次に、具体的な手続の方法についてみていきましょう。先にみてきましたように、労働審判は原則3回以内の審理で終えるというところがポイントになります。
証拠の収集と申立書の提出
まず労働審判は、問題が起きるというところから第一歩が始まります。もしそのときに大々的な問題になるということがわからなくても、なるべく音声として残したり、記録をしておいたりといった心構えが重要です。その後、「労働審判手続申立書」を書いて裁判所へ提出します。提出する裁判所は、勤務地を管轄とする裁判所がいいでしょう。
審判期日の決定と、審判の流れ
申立書を提出したら、その後約1ヵ月以内に、裁判所から第一回期日の指定があります。会社側にも裁判所から通知が届き、第1回期日が知らされます。
会社はこれで、出頭しなければならないことを公式に知ることになります。第1回目の審理では、提出した申立書と証拠にもとづいて、話し合いを行います。労働審判ではこの第1回目で解決することも少なくないですが、もしここで決着がつかなければ第2回目、第3回目と進んでいきます。
労働審判は基本的に3回の審理で終わりますので、この3回目までに話し合いが終わらなければ、最終的に判決と同様の法的効力を持つ審判が下されることになります。これで最終的に解決することができればそれで終わりですが、できなければ訴訟へという流れになります。
労働審判で解決するなら弁護士に相談
労働審判は、通常の訴訟よりも早く問題を解決することができ、また少額訴訟よりも多額の支払いを請求することができます。
議論を有利に進めるためには、証拠集めの段階から弁護士に相談していた方がいいと考えられます。もし、なにか労働上の問題があれば、労働審判にするか訴訟にするかの問題を含めて、弁護士に相談することをおすすめします。
- サービス残業、休日出勤がよくある
- タイムカードの記録と実際の残業時間が異なる
- 管理職だから残業代は支給されないと言われた
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
- 自主退職しなければ解雇と言われた
- 突然の雇い止めを宣告された