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老朽した物件を建て替えたい! 上手な立ち退き交渉のポイントとは?

この記事で分かること

  • 借家人は「借地借家法」によって保護されている為、正当な理由なしに立ち退かせることは困難
  • 上手な立ち退き交渉のポイントは立ち退き料を支払うことや代わりの物件を用意すること
  • 借家人の荷物を処分したり無断でカギを交換する等力づくで立ち退かせる「自力救済」は法律で禁止されている
  • 法外な立ち退き料を支払う必要はありません

借家人にスムーズに立ち退いてもらう為には立ち退き料や代わりの物件を用意することがポイントです。力づくで立ち退かせることはしてはいけません。また法外な立ち退き料を要求されても応じる必要はありません。

立ち退き交渉の心構え

土地の再開発や高層ビルの建設に物件の老朽化や耐震強度の問題などで、集合住宅の建て替えが必要なケースは存在します。しかしそこに必ずついてくるのが入居者の立ち退きの問題です。

円滑な立ち退き交渉の為に必須の知識

立ち退きは長く賃貸借物件を経営しているとぶつかる問題です。上手く交渉を進めるためには、前もって周辺の法律や手続きを理解しておくことが大切です。まずは借家人に立ち退いてもらうために最低限必要な知識や心構えを見ていきましょう。

一方的な立ち退き交渉は簡単ではない

日本には建物や土地、及びその権利に関する契約について定められた「借地借家法」と呼ばれる法律があり、借家人を保護しています。立ち退き請求もこれに則って進めなければなりません。契約が満期になっても借家人が更新を望めば、貸主が拒絶するのは難しく、一度借家契約を結ぶと簡単には立ち退いてもらえません。また入居者が立ち退きに同意しない場合、仮に訴訟を起こしても、立ち退きを請求するもっともな“正当事由”、または立ち退き料でその正当性を補強できない限り立ち退きを認められません。

場合によってはスムーズに進む

単に老朽化しただけでは無条件立ち退きは認められませんが、立ち退き請求自体は可能です。倒壊の恐れがある程に物件が老朽したために建て替える場合や、入居者が立ち退きに同意した場合等には立ち退きが認められることになります。尚、立ち退き請求を借家人に通知する際には内容の写しをとって保管する“内容証明郵便”を使用すると、それが証拠として残るので後々もめることも少ないでしょう。

立ち退き交渉全般の注意点

ただし、相手あっての交渉であることを忘れてはいけません。いきなり内容証明を送りつけたり裁判を起こしたりすることは避け、あくまでも話し合いが重要なことを念頭に置いて交渉に臨むことが大切です。

入居者の身になって話し合いを進めることが重要

入居者にも各々の事情があるので、まずは入居者に十分なヒアリングを行うことが大切です。早期に解決したい気持ちを抑えて、住人一人ひとりに「退去することになれば行先はあるのか」「身寄りはあるのか」「現在の収入状況はどうか」等、相手の立場になって話し合いを進めることが肝心です。

交渉は慎重に

最初から住人に立ち退き料の打診をしたりお金の話をしてしまうとかえって気分を害し交渉が難航しかねないので、相手から持ち掛けてこない限り初めの内は避けた方が無難です。また、話し合いが上手くいかなくてもいきなり訴訟にするのではなく、その前に紛争解決センターや民事調停を利用するようにしましょう。

ワンポイントアドバイス
「借地借家法」によって保護された借家人に退去してもらう為には正当事由が要求されます。正当事由があった場合でも借家人の立場を考えて話し合いを中心に交渉を進める姿勢が重要です。

上手な立ち退き交渉のポイントは

立ち退きに際しては、借家人側の被る不利益が多いことがほとんどなため、明け渡しを求めても簡単には立ち退いてくれないでしょう。家主はそれを補償するために借家人に対して何らかの便宜を図ることになりますが、状況に応じて適切な対処をすることが大切です。

立ち退き料や代わりの物件の確保が重要

家主にとって、立ち退きによる損害は一時的に家賃収入を得られなくなることくらいです。それに対して借家人にとっては居住地がなくなることや、転居にかかる費用や手間等損害は甚大です。そこでこの差を補完する為、家主が借家人に金銭等を提供するのです。

立ち退き料の提供や転居先を用意する

借家人が立ち退きを拒む大きな理由の一つが経済的理由です。特に老朽化した物件から他の物件に移るとなれば、高い確率で家賃等が上がることになります。そのため立ち退き合意に持ち込むためには、家主が借家人に引っ越し代や迷惑料等の立ち退き料を提供し借家人の経済的負担をカバーすることが効果的です。また、立ち退き後の為に転居先物件を確保する手段も有効と言えます。

高齢者との立ち退き交渉は特に転居先の確保が重要!

高齢者が立ち退きを拒絶する理由の多くは、身体的・経済的理由から住み替えが困難なことにあります。もちろん中には裕福だったり体力のある人もいますが、年金だけで生活する高齢者にとって負担増となる立ち退きを受け入れられないのも無理はありません。また身寄りがなく保証人を立てられない人もいます。その様な人のための保証会社もありますが、一人暮らしの高齢者を敬遠する大家さんも存在するのが現状です。

市町村の移住支援制度を利用

市区町村には、高齢者等の入居を支援する居住支援制度を実施するところもあります。この様な住居では入居者が保証会社に支払う保証料を一部負担してくれるだけでなく設備もバリアフリー化されている等、高齢者にとって住み替えのハードルが大幅に下がります。従って、立ち退きを求める管理人自らが率先してそういった物件を探し斡旋することで、高齢者との交渉もスムーズに進む可能性が高まるのです。

立ち退き交渉は早めの合意を

立ち退き交渉が長引くと取り壊しや建て替え等のスケジュールがずれ込み家主に負担がかかってしまいます。そのため交渉が難航する相手には毅然とした態度で対応し、早めに交渉を成立させることが大切です。

“ごね得”は許さない姿勢が大事

立ち退き料を提示しても立ち退きに応じず、どんどん額を釣り上げてくる入居人に対しては断固とした態度をとり、明け渡し訴訟を起こす意思があることを示すのが有効です。実際に裁判に至れば解決までに更に時間を要しますが、もともとごね得狙いの入居人は手間や費用が掛かる裁判に持ち込まれることは望まない可能性が高く、多くの場合訴状が届くと話し合いでの解決を持ちかけてきます。この際、退去済の借家人に支払った額より多い額の立ち退き料を支払うことになる場合がありますが上乗せ分は入居人が立ち退いた後に払うようにすることが重要です。

交渉が長引くほど家主が損をするので早めの決着を

借家人は「借家借地法」や「消費者契約法」で保護されています。そのため仮に契約違反があっても家主との信頼関係を著しく損なう場合を除き、簡単には追い出せません。しかし交渉が長引く程家主には負担がかかります。経済的な圧迫はもちろん、立ち退き料は徐々に上がっていき建て替え後の目途も立たないままです。後の為にも、早めに合意に持ち込むことが大切です。

ワンポイントアドバイス
立ち退きによって不利益を被る借家人に退去してもらうには立ち退き料や代わりの物件の確保がポイントとなります。早めの解決が望ましいですが、法外な立ち退き料を支払う必要はありません。

建て替えによる立ち退き交渉の相場とは

立ち退き料はどれくらい払えばよいのかは、多くの家主が気になるポイントでしょう。力づくで退去させることは違法ですが、だからといって法外な立ち退き料を払う必要もありません。

どれくらい払えば立ち退いてもらえるのか

立ち退き料を支払って交渉をしようと考えた場合、どれくらい支払えばいいのでしょうか?相場はあるのでしょうか?実は立ち退き料に決まりはありません。

立ち退き料の額に決まりはない

立ち退き料は賃貸物件だけでなく土地建物全般の明け渡しトラブルの解決方法として使われます。ケースによっては何百万もの額が支払われることもありますが賃貸住宅の立ち退きでは、家主が引っ越し費用程度の額を提供するのが一般的です。立ち退き料の額に決まりはなく、借家人との話し合いで取り決めて合意に至らなければ最終的には裁判所の判断を仰ぐことになるでしょう。

定められた計算式はないが相場はある

一定の計算式はないものの、大まかな計算方法はあります。立ち退き料の額は、家主と借家人双方の経済状況や健康状態、年齢等に加えて、借家人が対象物件の自費修繕を行った経緯があるか否か、物件への思い入れの程度、また立ち退き後通勤や通学に及ぶ影響はどの程度か等さまざまな事情を考慮して算出することになっています。

ワンポイントアドバイス
立ち退き料に決まりはありません。引っ越し費用程度の額を出すことが一般的ですが、経済状況や健康状態などを含めたさまざまな事情を考慮する必要があります。

立て替えたいのに立ち退かない。立ち退き交渉で気になるポイント

ここまで、立ち退き交渉をうまく進めるポイントやそのための知識を解説しました。ここでは立ち退き交渉において家主が陥りがちな注意するポイントを解説します。

力づくで退去させる様なことはしてはいけない

賃貸借契約では貸し手である家主側に強い権限がある様に思われがちです。しかし、借家人の意向を無視し、強制的に退去させる行為は法律で禁止されており違反すると罰則を受けることがあるので注意が必要です。

“自力救済”はしないこと!

無断で鍵を交換したり、荷物を処分したりと司法手続きによらず強制的に借家人を立ち退かせる行為は「自力救済」と呼ばれます。この様な借家人の権利を無視した行動は法律で禁止されていて違反すると罰せられることがある上、借家人に損害賠償を求められる事態にもなり兼ねません。立ち退き交渉が一向に進まなくても自力救済は絶対にしないことです。

どうしても交渉が進まない場合は専門家に頼むのも手

そうは言っても、立ち退きが完了しない内は家主にしても家賃収入がないので、交渉の難航は死活問題でしょう。交渉が暗礁に乗り上げてしまった場合は弁護士等第三者の専門機関に依頼して仲介してもらうのも手段です。もちろん別途費用がかかることになりますが、立ち退かない借家人を相手にとり延々と交渉を続けることは家主にとって経済的・精神的負担を増加させるだけです。必要コストと割り切って専門家に頼むことも時には必要なのです。

ワンポイントアドバイス
無断で鍵を交換したり、荷物を処分したりする強引な「自力救済」は法律で認められていません。交渉が難航するときは、弁護士に依頼することも必要です。

立ち退き交渉に際して力づくで退去させることは禁止されています。基本的には話し合いによって妥当な立ち退き料で合意に持ち込むことが望ましいでしょう。しかし、法外な立ち退き料を要求する借家人もいますから、そういったトラブルが生じたときは、弁護士などの法律の専門家に相談しましょう。

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