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家賃の値上げや値下げは請求・要求できる? 上手な交渉のポイントとは?
この記事で分かること
- 家賃の値上げや値下げが認められるには一定の条件が必要です。
- 当事者同士で話が付かない場合は調停、それでもまとまらなければ訴訟になる。
- 値上げ請求の際は後に揉めない様、内容証明郵便で借主に通知することが大切です。
一般的に貸主は家賃をあげ、借主は下げたくなるものです。基本的に家賃の交渉は当事者同士での話し合いで決めることになりますが、まとまらない場合は訴訟になることもあり得ます。家賃の増減をするのにも条件があり、たとえ正当な理由があったとしても、双方の合意が必要です。
目次[非表示]
家賃の値上げ請求・値下げ要求をするときに知っておきたいこと
家賃収入で生計を立てている貸主にとって、家賃は高い方が好ましいでしょう。しかし、借主の立場からすれば、家賃は少しでも抑えたいものです。上手に家賃交渉を進めるには、前提となる知識や交渉の流れ及びそのポイントを把握しておく必要があります。
一定の条件下でなければ家賃の増減はできない
現在日本では「借地借家法」と呼ばれる賃貸借契約について定めた法律があり、その中で貸主・借主双方が家賃の増減を請求できる「借賃増減請求権」が規定されています。しかし請求したらいつでも認められるわけではなく一定の要件が必要なのです。
値上げや値下げをする正当な理由が必要
家賃の値上げや値下げが認められるには一定の条件が必要です。「経済事情の変動により現在の賃料が不相当となったケース」「周辺地域の類似物件と比較して賃料が不相当なケース」「固定資産税など土地建物にまつわる税金の額が変化したケース」です。つまり、現在の賃料では周辺地域の物件と比較して公平性に欠ける場合や、土地建物の維持管理にかかる費用が変動した場合に家賃の増減が認められるのです。加えて値上げをしない旨の特約がないことも条件です。
正当な理由があっても合意が必要
また、それらの事情があっても双方の合意がなければ家賃の値上げや値下げが実現することはありません。相手の承諾があって初めて家賃の増減が認められるのです。逆に言えば、相手の同意さえあればいつでも値上げや値下げは有効ということです。けれどもお金が絡むことなのでそう簡単には合意は得られません。時には値上げ請求や値下げ要求が発端となりトラブルになることもあります。
家賃の値上げ請求・値下げ要求の流れ
トラブルにならないようにするためには、家賃の流れやポイントをきちんと把握してく必要があります。次に家賃交渉の流れやポイントを見ていきましょう。
値上げ請求の流れ
貸主は値上げを決めたらまず借主に通知を出します。初めは口頭で通知しすんなりと受け入れそうにない場合は内容の写しを保管しておいてくれる“内容証明郵便”で通知すると良いでしょう。そうすることで、後々揉めることも防げます。ここで気を付ける必要があるのは賃借人が値上げを拒否してもすぐには訴訟に持ち込めない点です。民事調停法24条の“調停前置主義”により値上げを承諾してもらえない場合は話し合いによる合意、即ち調停を経なければならないと定められているのです。それも不調に終わった場合、裁判に移行することができます。
値下げ要求の流れ
値下げ要求をする場合は、賃貸物件を管理しているのが貸主なのか、それとも管理会社なのかで多少異なります。まず前者のケースでは貸主に直接値下げを要求する旨を伝えます。貸主が合意すれば値下げが成立します。貸主が物件を直接管理せず会社に委任している後者のケースでは会社に交渉を持ち掛けなければなりません。管理会社にとっての直接的な“顧客”は貸主であるため、貸主に不利な交渉だと拒否される可能性が高いと言えます。いずれの場合も値上げ請求の場合と同じく、双方が同意しなければ調停を経なくてはならず、まとまらない場合は裁判の流れになります。
家賃の値上げ請求で知っておくべきポイント
不動産価格や固定資産税が上昇傾向にあり近隣の賃貸住宅と比較して家賃が著しく低くなっていれば、当然貸主は家賃の値上げを考えるでしょう。
一般的に契約期間中の家賃は変動せず、契約更新ごとに値上げ請求をするのが通例ですが、値上げ請求にもポイントがありそれを知っておくことで交渉を有利に進めることができます。ここでは値上げ請求の際覚えておくべきポイントを紹介します。
新家賃が決まるまでは借主の任意
交渉の最中でも借主は住まわっているのですから家賃をもらう必要があります。しかしその際の額は“賃借人が相当と思う金額を払えばよい”ことになっています(借家借地法32条2項)。但し借主が値下げ請求をしていなければ通常は従来の家賃は払ってもらえるはずです。新家賃が決まったら、その額と値上げを申し入れた時から借主が払った額との差額に、年一割の利息を付けた金額を請求できます。なお借主がその支払いを拒否すると、家賃滞納になります。
家賃の受け取りの拒否は違法ではないが…
貸主の元に家賃を直接持参する取り決めになっている場合、家賃の値上げに応じない借主は従来の家賃(旧家賃)を持ってくることがあります。このとき貸主は新家賃でないと受け取らない、嫌なら退去しもらっても構わないと主張し、その受け取りを拒否することができます。このような押し問答が嫌で旧家賃も支払わなくなるケースでは家賃不払いで借主を契約解除することができますが、事はそう簡単ではなく借主が旧家賃を法務局等に預ければ法的に家賃を払ったことになるのです。これを“供託”と言い、預け先を供託所と言います。
借主が供託手続きをしてきたら
借主が供託手続きをとった場合、貸主はどのような対応をとるべきなのでしょうか。実はここは非常に重要なポイントで、対応次第ではそれまでの値上げ交渉の苦労が水の泡になってしまうこともあるので注意が必要です。
無断で供託金を引き出さないこと
借主が家賃を供託すると貸主のところに供託通知書が届きます。“還付”または“払い戻し”と言って貸主はいつでも供託金を引き出すことができますが、無断で引き出しをすると調停や裁判での借主の値上げをしないとする主張を貸主が認めたと見なされる可能性が高くなります。そのため供託金を引き出す際は、必ず借主に供託金を賃料の一部として受領する旨を内容証明郵便で通知し、供託所に出す払渡請求書にもその旨を明記しておきましょう。
家賃の受け取りを拒否していないのに供託された場合は無効
値上げの話をしたら、家賃の受け取りを拒んでいないのに借主が供託所に嘘をついて供託するケースが稀にあります。しかし供託金が有効なのは貸主が旧家賃の受け取りを拒否することを明示している場合だけです。従ってこの場合借主は家賃を支払ったことにはなりません。
家賃値下げ要求のポイント
同じ物件に住むなら、借主は少しでも賃料は安い方が良いと思うでしょう。周辺地域の同様の物件と比較して高ければなおさらです。しかし値下げ要求にもうまく進めるポイントがあり、それを踏まえて値下げ要求することが大切なのです。
値下げ請求するために必要な情報を集める
家賃の値下げを要求すること自体は法的にはいつでも可能です。しかし何の用意もなしに家賃の値下げ要求をしてもうまくいく可能性は限りなくゼロに近いと言えるでしょう。値
下げ要求には“交渉材料”が欠かせないのです。
周辺地域の物件の賃料情報を集める
借主に突然賃料の値下げを要求されて応じる貸主はまずいません。承諾してもらうためには準備が必要になります。例えば借主が払っている家賃が周辺の物件のそれと比較して著しく高いことを理由に値下げ交渉をする場合は、インターネットや賃貸物件の情報誌等で周辺にある物件の家賃を調べます。このとき最寄駅からの距離や面積、築年数と言った条件が同等の物件を比較対象にする必要があります。
同じ物件の別の部屋の家賃を調べる
また古くからある賃借物件では同じ物件に住んでいるのに部屋によって支払い額が異なるケースがあります。これは土地開発や周辺環境の影響等で家賃が変動すること等により起こる現象ですが、この場合他の部屋の住人に家賃を聞く等して情報を集めましょう。
家賃の値下げ要求のベストタイミング
家賃の値下げ交渉は入居後でも行うことができます。しかし、そのタイミングが非常に重要で、値下げを拒めば貸主が困る時期はいつなのか”を考えることがポイントになります。
繁忙期の交渉は不利
日本では現在4月入学、4月入社が一般的ですので2月から3月に賃貸需要が最も高くなります。値下げ要求に応じずとも新しい契約が決まる可能性が高いこの時期の交渉は、不利になります。重ねて貸主は新規入居者との契約対応に追われ借主の値下げ要求に対応する暇もないことも理由のひとつです。また6月も物件を探す新婚の夫婦が多いため、同様の理由で避けた方がよいと言えます。
物件の動きが少ない“閑散期”がねらい目
従って、値下げ交渉をするなら物件の動きが少ない7月~8月の“閑散期”が良いでしょう。この時期に借主に退去されると当分家賃が入ってこないことになるため、貸主が値下げ交渉に応じる可能性は大いにあります。
家賃の値上げ請求や値下げ要求でトラブルになったら、弁護士に相談
家賃の値上げ請求や値下げ要求にはコツがあり、それを踏まえて交渉に臨むことでうまくいく可能性は高まると言えます。しかし相手あっての家賃交渉であることを忘れてはなりません。波風を立てるのではなく貸主と借主双方が互いに歩み寄ることも大切なのです。
家賃をめぐって、トラブルになってしまった場合は、不動産に強い弁護士に相談することで、スムーズに解決する可能性が高まります。初回の相談は無料の弁護士事務所もあるので、こじれる前に相談してみるとよいでしょう。
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