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自転車事故の慰謝料相場と損害賠償請求の方法
この記事で分かること
- 自転車でも重大事故が起こり多額の賠償責任が発生するケースがあります。
- 自転車事故の慰謝料額はケースバイケースですが、日弁連交通事故相談センタ―発刊の書籍が一つの基準となります。
- 損害賠償額は過失割合や支払い基準で大きく変わります。
- 賠償額を引き上げるためには弁護士に依頼することや過失割合が高くならないよう交通ルールを守ることが大切です。
- 損害賠償請求権には3年の消滅時効が存在します。
自転車でも重大事故が起こり多額の賠償責任が発生するケースがあります。自転車事故の慰謝料額はケースバイケースですが、日弁連交通事故相談センタ―発刊の書籍が一つの基準となります。損害賠償額は過失割合や支払い基準で大きく変わります。賠償額を引き上げるためには弁護士に依頼することや過失割合が高くならないよう交通ルールを守ることが大切です。損害賠償請求権には3年の消滅時効が存在します。
近年の自転車事故の事情は
あおり運転など悪質な自動車の運転マナーが話題を呼んでいる昨今ですが、交通事故で問題となっているのは何も自動車事故ばかりではありません。
自転車事故にも注目が集まっています。危険な操縦によって死亡事故が起きたケースは記憶に新しいでしょう。
事故は誰にも予測できないので、前もって慰謝料相場などを把握しいざと言うときのために備えることが大切になります。まずは近年の自転車事故事情について見ていきましょう。
自転車事故の現状
日本は自転車大国で、特に都市部では自転車がひしめき合うように走行しています。そして損害の程度や状況の差こそあれど、毎年実に多くの自転車事故が起こっているのです。
自転車の需要の増加に伴い事故も増えている
2012年頃から自動車免許の自主返納が活発になりました。これは相次ぐ高齢者事故を受けて返納が促されたためですが、免許返納後自転車が高齢者の“足”として自動車に取って代わるようになったのです。
更に昨今の環境意識・健康志向の高まりから、通勤手段に自転車を使う人も増加しています。このように近年自転車は需要の高まりを見せていますが、それに伴い事故もまた増加しているのです。
警察により対策が講じられるもまだまだ事故は多い
平成29年における自転車関連の事故は90,407件です。前年よりも430件減少してはいるものの、全交通事故に占める割合は19.1%と決して少なくありません。
警察では自転車運転者の信号無視や一時不停止などに対して指導警告を行い、悪質・危険な交通違反に対しては検挙措置を講じると言った対策を講じていますが、まだまだ自転車による事故は無くならないのが現状です。
自転車事故で多額の賠償支払い責任が発生するケースも
自転車は、自動車と比較して事故が起きたときの損害が小さいイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし実際はそんなことはなく、自転車でも重大事故になり多額の賠償責任が発生することもあります。
自転車でも大事故は起こる
自転車は自動車と比較して車体重量も軽く、スピードも出ないため大した事故になることはないと思っている人もいるかもしれませんが、それは間違いです。
自転車は免許も不要で簡単に乗れますが、その手軽さゆえに危険な運転をしたり注意散漫になったりしやすく、大事故が発生することもあります。
多額の賠償責任が生じることも
また自転車は自賠責保険法の適用外であるため、自賠責保険が効きません。そのために重大事故が起これば加害者は莫大な賠償支払い責任を負うことになるわけです。
実際に2013年には小学5年生の男子児童が起こした事故により、被害女性が意識不明になり児童の母親が約9,500万円の賠償支払いを命じられています。
自転車事故の慰謝料相場は
他にも例えば大阪地裁平成14年6月11日判決の自転車同士の事故では、被害者が身体障害1級の認定を受け、訴訟後に死亡し2000万円の支払い命令が出ています。
また広島地尾道支平成19年10月9日判決の自転車vs歩行者の事故では被害者が死亡し3000万円の損害賠償支払いが命じられています。
このように多額の賠償支払いが命じられるケースはしばしばありますが、これらは逸失利益や介護費、などすべての賠償を含めた額です。では、慰謝料についてはどうなっているのでしょうか。
自転車事故で請求できる慰謝料は3つ
慰謝料は賠償金の内、“精神的苦痛”に対して支払われるものです。自転車事故で加害者に請求できる慰謝料は基本的に「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」の3つがあります。
入通院慰謝料
入通院慰謝料慰謝料は被害者が入院したり通院・リハビリした場合に請求できる慰謝料で、治療費とは別に請求できます。
後遺障害慰謝料
事故で後遺障害が残り後遺障害等級認定を獲得した場合に、等位に応じて後遺障害慰謝料を請求できます。
ところがこの後遺障害等級、自動車事故では自賠責損害調査事務所に申請し審査に通れば認定を得られますが自転車事故には認定機関が存在しないのです。そのため認定を受けるのは難しいと言えます。
死亡慰謝料
被害者が死亡した場合、死亡慰謝料が支払われることとなります。死亡慰謝料は当人に対する慰謝料と遺族に対する慰謝料に分かれます。
慰謝料の相場は
多くの人が気になるのが実際にもらえる額はいくらくらいなのか、でしょう。では、自転車事故の慰謝料相場はどうなっているのでしょうか。
慰謝料額はケースによる
結論から言うとこうした慰謝料の額はケースバイケースであり、一概にいくらが相場と断定することはできません。ただ、ある程度の目安は存在します。基準となるのは、主に日本弁護士連合会交通事故センタ―が出版する2冊の書籍です。
日弁連交通事故センタ―出版の“赤い本”や“青本”を基準に算出される
まずは日本弁護士連合会交通事故センター東京支部が発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」通称“赤い本”です。東京地裁の実務に基いた賠償額の基準を示し、参考になる判例が掲載されています。
そしてもう一つが同センター本部が発行する「交通事故損害額算定基準」通称“青い本”です。こちらは全国の参考となる裁判例を掲載し、賠償額の算定基準とその解説が掲載されています。
自転車事故の損害賠償請求方法は
次に、賠償請求の方法についてです。自転車事故で慰謝料など損害賠償請求するにはどうすればよいのでしょうか。ポイントと併せて算出方法を見ていきましょう。
損害賠償の算出方法は
まず、損害賠償の内訳は基本的に「積極損害」の入院慰謝料や治療費、「消極障害」の逸失利益や休業損害です。
入通院慰謝料の算出方法
まずは入通院慰謝料の算出方法です。入通院慰謝料は入院・通院リハビリした日数に応じて支払れます。
ただし気を付けなければならないのが、慰謝料を請求できるのは医師に必要とされた入通院に対してのみである点です。必要以上の通院やリハビリに対しては慰謝料請求はできないので注意が必要です。
慰謝料目的で不当に長く通院する輩が存在しますが、これは詐欺行為に当たり後に訴えられる可能性もあるので絶対にやめましょう。
休業損害の算出方法
次に休業損害です。交通事故で怪我を負った場合、入院もしくは通院することになり勤め人なら多かれ少なかれ会社を休まなくてはなりません。このことによる損害が休業損害です。
休業損害の算出式は「事故前の3か月間の収入合計÷90×休業日数」となります。
なお収入の計算方法は職業によって異なり、働いていない場合、賃金センサスにおける平均賃金の基づいて計算することになります。
賃金センサスとは年齢や性別、職種や学歴、勤続年数など労働者の属性別の賃金の統計調査をまとめたものです
逸失利益の算出方法
後遺障害を負えば業務遂行能力が落ち、給料や報酬が下がってしまう可能性があります。この“将来的な収入の損失”を逸失利益と呼びます。
逸失利益の計算式は「基礎収入×労働能力喪失率×ライプニッツ係数」です。
基礎収入は前年の収入をもとに計算します。被害者が働いていない場合、その収入はやはり賃金センサスに基づいて算出されます。
労働能力喪失率はとは後遺障害の等級ごとに定められた、どの程度労働能力が喪失したのかを数値で表したものです。
ライプニッツ係数は介護費用や逸失利益など、長期に渡り発生する賠償金を前倒しで受け取る際に使う指数です。
賠償額の算定におけるキーポイントは
そして自転車事故の賠償額は、すべての損害に相手方の過失割合をかけた額となります。
過失割合が重要になる
つまり、交通事故における賠償額は過失割合で大きく変わってきます。ですから過失割合が極めて重要なポイントとなるわけです。
支払い基準が複数ある
また、一般に損害賠償の支払い基準は複数存在します。「自賠責保険基準」と「弁護士基準(裁判基準)」、「任意保険基準」です。
その額は通常、自賠責基準>任意保険基準>弁護士基準となりますが、上記解説の通り自転車事故の場合自賠責保険は適用されないので、問題となるのは後者2つとなります。
自転車事故の慰謝料・損害賠償請求について知っておきたいこと
ここまで自転車事故における慰謝料相場や損害賠償請求方法について解説してきました。
しかし交通事故の賠償請求事件では、覚えておかないと大損する羽目になる点がいくつかあるのです。そこで最後に自転車事故の損害賠償請求について知っておくべきポイントを解説します。
賠償額を引き上げるポイント
交通事故における賠償請求は、やり方次第で額が大きく変わってきます。では、賠償金を少しでも多く受け取るためにはどうすればよいのでしょうか。
過失割合を下げる
賠償額には過失割合が大きく関わることは前述しました。これに関して自動車の場合過去の基準に沿って決定される、つまりケースごとの過失割合がある程度は決まっています。
けれどもまだまだ自転車事故においては、過失割合についての基準は固まっていません。そのためケースごとの状況(修正要素)によって過失割合が大きく変わってきます。
ここで重要となってくるのが、自転車側が事故の際交通ルールを順守していたかです。
例えば、本来であれば自転車は一部の例外を除き、車道の左側の“路側帯”を通行しなければならないと定められています。歩道を我が物顔で走る自転車もしばしば見受けられますがあれは本当であれば違法なのです。
また、携帯電話を使用しながらの走行も同様で条例により禁止されている地区もあります。他にも自転車運転者にはさまざまな安全配慮義務が課せられていますが、ルールを守っていた上での事故なら過失割合が少なくなる可能性があるわけです。
逆に交通ルール違反は加算要素になります。なお危険運転で3年以内に2回以上摘発されると、悪質自転車運転者として都道府県公安委員会により講習を命じられます。
弁護士に依頼する
慰謝料などの損害賠償に充てられる保険金を支払うのは相手方保険会社です。そのため、できるだけ保険会社は賠償額を抑えようとします。
実際に多くの場合保険会社が提示する賠償額は本来被害者が受け取れるはずの賠償金よりも少ないです。しかし、賠償額に不満があっても素人で交渉に挑んだのではうまくまるめこまれたり、増額に応じてもらえないことがほとんどです。
その点弁護士に依頼すれば被害者側に有利に話を進めることができ適正な賠償金を獲得できると言えます。
賠償請求権には時効が存在する
また、多くの人が見落としがちなのが、損害賠償請求権には消滅時効が存在することです。
損害賠償請求権には3年の消滅時効がある
交通事故における損害賠償請求の根拠は、不法行為によるものです。不法行為による損害賠償請求権について民法724条では以下の通り規定されています。
「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。」
つまり、交通事故の損害賠償請求権には3年の消滅時効があり時効を迎えると原則請求できなくなるわけです。
しかし示談交渉は焦るべからず
ただし、だからといって示談交渉を早く終わらせようなどとする必要はありません。そもそも示談交渉で3年もかかることはほぼないですし、時効を中断させる方法もあります。
示談を急ぐあまり保険会社の言いなりに進めていけば、賠償金が本来支払いを受けられるはずの額には遠く及ばず大損することになりかねないのです。
日頃から事故に備える意識が大切
交通事故における損害賠償金の額は過失割合によって大きく変わってきます。自転車保険に加入することはもちろん、日頃から自転車通行のルールを順守するなど、いざと言うときのために備えることが必要です。
無料相談を活用し、十分な慰謝料獲得を
- 保険会社が提示した慰謝料・過失割合に納得が行かない
- 保険会社が治療打ち切りを通告してきた
- 適正な後遺障害認定を受けたい
- 交通事故の加害者が許せない