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上司のセクハラを訴える部下社員に、会社はどう対応するべき?

この記事で分かること

  • セクハラには対価型と環境型の2つの種類がある。
  • すべての事業主は、9項目のセクハラ対策を行うことが義務づけられている。
  • 相談があったら、まずは適切な方法で事実を確認しましょう。

雇用氷河期と言われる現在、企業イメージはより重要なものになっています。職場の環境をインターネットやSNSですぐ知れる現代において、セクハラに対する適切な処置をすることは、企業存続の鍵でもあります。ここでは、セクハラとは何か、セクハラ問題が社内で起こった時に、どのように対処すべきかを見ていきましょう。

会社で起こりうるセクハラとは何か

一般にセクハラと聞くと、女性が被害者として想定されることが多いですが、セクハラは男性に対しても、同性に対しても成立する人権侵害の一つです。簡単に説明は、性的な言動によって不利益が生じることを意味しています。男女雇用機会均等法では「①職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したり抵抗したりすることによって解雇、降格、減給などの不利益を受けることや、②性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じること」と定義されています。セクハラには「対価型セクシュアル・ハラスメント」と「環境型セクシュアル・ハラスメント」の2種類があります。まず、対価型・環境型それぞれの特徴についてみていきましょう。

対価型セクシュアル・ハラスメントとは

職場でセクハラが行われやすい原因の一つとして、上下関係や権力関係がはっきりしていることがあげられます。対価型のセクシュアル・ハラスメントとは、こういった関係を利用して、将来の対価を約束することで性的な関係を求める行為を言います。また、それを拒否した人に不利益をもたらす行為や、断った場合に、職場に迷惑をかける等の不利益が生じることを理解して行われた行為もこれに該当します。

具体的な例

  • 昇進や昇給を約束する代わりに性的な関係を要求する。また、拒否されたので降格、減給、解雇する。
  • 拒否すると不利益があることをほのめかし、性的な関係を要求する
  • 性的な言動に対し不快感を示した者に、不等な配置転換を命じる
  • 性的な冗談を理解しないとして、評価を下げる
  • 容姿や体形など、性的な嗜好で待遇に差をつける

【注意】妊娠や出産を理由に解雇や減給、契約の解除等を行った場合は、「ハラスメント」ではなく「不利益取扱い」となりますが、いずれにせよ男女雇用機会均等法、育児・介護休業法違反になります。

環境型セクシュアル・ハラスメント

環境型セクシュアル・ハラスメントとは、性的な関係を要求しなくても、性的な言動で職場の環境を悪くすることを言います。冗談で悪意がない場合、意図的でない場合も、性的な言動で職場環境が損なわれた場合はこれに該当します。

具体的な例

  • 性的なポスター、写真、玩具などを飾り、他の職員に苦痛を与える
  • 恋愛経験や、私生活に関する性的な問題を尋ねる
  • ○○は性的に乱れている等の噂を流す
  • お酌を強要したり、カラオケでデュエットすることを強制する
  • 仕事に関係のない私用のメールを送る
  • 取引がなくなったのは、担当者の男女関係のもつれが原因だと吹聴する
ワンポイントアドバイス
状況によって、セクハラに該当するか判断するのが難しい場合や、強姦等の犯罪に問われる場合もあります。適切に対処しなかったことで、会社自体の責任が問われるかもしれません。判断することが困難だと思う場合は、セクハラ問題を扱う弁護士や、法務局が開設している人権相談窓口、都道府県労働局等に相談したほうがよいでしょう。

上司社員のセクハラ問題に対する会社の対応

男女雇用機会均等法では、職場においてセクハラに対する適切な対策をとることを、事業主に義務付けています。適切に対処しなかった場合、会社自体が責任を追及される可能性が出てきます。この対処には、セクハラが起きないように事前に行っておくべきものと、セクハラが起きた後に行うべきものとがあります。誰も訴える者がいないからといって、会社にセクハラが存在しないとは言い切れません。自社に限ってセクハラなどないとは考えず、適切な対策を事前に取っておくことが必要となります。

事前に行っておくべき対策

 厚生労働大臣の指針により、セクハラ防止のために事業主が雇用管理上行うべき措置として、

  1. セクハラの禁止と厳罰に処する旨の周知・啓発
  2. 相談や対処に必要な体制の整備
  3. 事後の迅速かつ適切な対応
  4. 1から3と共に、プライバシーの侵害や相談等をすることで不利益が生じないようにする対処

の4つが定められています。
※正確には、[1]事業主の方針の明確化及びその周知・啓発、[2]相談(苦情含む)に応じ、適切に対処するために必要な体制の整備、[3] 事後の迅速かつ適切な対応、[4] 1から3までの措置と併せて講ずべき措置、という項目が設けられています。

さらに、この4つの措置は、次の9項目に分けられています。具体的な対策例と共に見てみましょう。

事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

(1)職場におけるセクシュアルハラスメントの内容、セクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

  • 社内報、社内ホームページ、パンフレット等にセクハラに対する社内の方針を記載して配布する
  • ハラスメントに関する講習会、勉強会を実施する

(2)セクシュアルハラスメントの行為者については厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。

  • 対処の過程や罰則の方法などを図にしてパンフレット等にして配布する
  • セクハラによって解雇される旨等を就業規則に明記する
  • 罰則の例や、罰則を受けた後のシミュレーション等をホームページに掲載する
  • 相談窓口や対処の仕方に関する情報を新人研修時に知らせる

相談(苦情含む)に応じ、適切に対処するために必要な体制の整備

(3)相談窓口をあらかじめ定めること。

  • 相談の担当者を定める
  • 担当の部署を定める
  • 外部の機関に委託している旨を周知させる
  • 面談、メール、電話等、様々な方法で相談しやすい環境を整える

(4)相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対処できるようにすること。また、広く相談に対処すること。

  • 相談の担当者と人事部門との連携をはかる
  • 対処方法をマニュアル化しておく
  • 担当者にセクハラの対応に関する研修を受けさせる

事後の迅速かつ適切な対応

(5)事実関係を迅速かつ正確に確認すること。

  • 担当者や人事部門等が、相談者と行為者とされる者の双方に事実関係を確認する体制を整えておく
  • 双方にくいちがいがある場合、第三者に聴取する等の対策を決定しておく
  • 社内で解決が困難だと判断された場合にどうするか、第三機関に依頼するか等を定めておく

(6)事実確認ができた場合は、行為者及び被害者に対する措置を適正に行うこと。

  • 被害者と行為者を引き離すよう配置転換等を行う
  • 行為者に謝罪を求め、労働条件、職場環境の回復に努める
  • 被害者のメンタルヘルスを考慮して、心療内科等の通院を許可する
  • 規定にもとづき、行為者に懲戒やその他の処置を施す

(7)再発防止に向けた措置を講ずること。(事実が確認できなかった場合も同様)

  • 広報や研修等を再度行う

1から3までの措置と併せて講ずべき措置

(8)相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。

  • プライバシーの保護に関するマニュアルを作成する
  • 相談の際にはプライバシーの保護に努め、適切な対応を実施できることを、社内報、社内ホームページ、パンフレット等で強調する

(9)相談したこと、行為関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。

  • 就業規則等において、セクハラに関する相談をしたこと、第三者として事実関係の確認に関わったことを理由に、不等な扱いを受けないことを明記する
  • 上記の事柄を、社内報、社内ホームページ、パンフレット等で周知させる
ワンポイントアドバイス
外部に漏れることを恐れて秘密裏に行おうとしたり、個人間の問題として対処すると、問題がこじれ、会社自体の対応の問題になりかねません。起り得ることを想定し、適切なマニュアルを準備し、それに沿って対処するのが理想です。もし対処が困難だと判断された場合は、専門の弁護士や第三機関に対応を求めるのもよいでしょう。

上司社員のセクハラで事後に行うべき会社の対応

上では、事前に立てておく対策や体制に対して見てきましたが、次に実際に相談があった場合にどうするべきか見てみましょう。

相談後の対処の流れ

被害者が会社の相談窓口を利用するとは限りません。しかし、第三機関から相談が来た場合でも、対応は似たようなものになると考えられます。一般的な対処としては、「相談」→「被害者、行為者からの事実確認(必要な場合は第三者にも協力を依頼する)」→「事実関係の有無の決定」がまず行われます。その後の流れは、事実関係〈有り〉の場合、弁明の機会を設け、「セクハラ対策委員会等による協議」→「処罰・懲戒内容の決定」→「解決」→「再発防止の措置」となります。〈無し〉の場合は、そのまま「再発防止の措置」を講じることになるでしょう。次に、具体的な対処の例を見てみましょう。

適切な対処の例:セクハラで解雇は不当だという訴えが棄却される

事件の概要

課長職にある行為者が、セクハラを理由に解雇されたことが不当であるとして会社を訴えたが、会社側は事前に相談の体制を整え、「企業方針について」「社員行動指針」等の文書においてセクハラに対する方針を明記しており、それに沿った解雇会社の対処・判断が適切だとして訴えが棄却された。(東京地裁 平成12年8月29)

対処の過程

セクハラの行為者は複数の女性社員に対し、執拗にデートに誘ったり、出張の際に同じ部屋に泊まることを求めたり、管理職にする代わりに女性を紹介することを依頼する対価型、環境型のセクハラを繰り返し行っていました。事態を重く見た労働組合員が担当者に相談したので、担当者が調査をしました。次に人事担当役員らと共に、調査結果の事実確認のために「行為者と思われる人物」あるいは「行為者」を呼び面談を行いました。その際、被害者の名前は伏せられたままでした。調査結果に対する「行為者と思われる人物」あるいは「行為者」の釈明を聞いた後、自主退社を促したが、消極的な態度をとったために、懲戒委員会を開いて規定により解雇するという結論を会社が決定しました。このことが適切な過程だったと評価され、不当解雇だという行為者の訴えは認められませんでした。

不適切な対処の例:会社の責任が問われ、責任が追及される

事件の概要

セクハラの加害者は会社の創業者の縁故であり、出張の際に被害者の部屋に押し入って抱擁したり、給与を余計に支払ったり、ラブレターを一年にわたって送るなどした。労働組合の委員長にセクハラを相談したところ、行為は一時止んだが、その後降格を伴う異動を命じられた。さらに会社や労働組合に相談したが、我慢するように促された。会社は、通常ならば講じるべき手続きをしておらず、責任を問われる事態となった。(青森地裁 平成16年12月24日)

対処の過程

この事例は、セクハラに対する体制が整っておらず、対処の仕方も誤った事例です。被害者は労働組合に相談しましたが、加害者も被害者も既婚者であることから我慢するように指導されました。また、事実確認のために行われた面談では、加害者のみから事情を伺い、「被害者の作り話」という発言を鵜呑みにしました。適切な対応を取らなかったため、加害者と共に会社も訴えられる事態となりました。

ワンポイントアドバイス
事前にセクハラに対する方針を周知させ、あらかじめ公開されている手順に従って対処するのが重要です。特にセクハラを理由に懲戒解雇するためには、「就業規則」等にその旨を記載する必要があります。前もって体制を整え、定められた9項目を満たした対処をしているかが、裁判でも重要なカギとなってきます。

セクハラを訴える社員がいたら、会社は事実確認から対応

セクハラに対処するには、事前に相談窓口や対処の過程を明確にするなど、相応の体制を整えておくことが重要です。体制が整わないまま問題が起きてしまった場合は、上記の過程を踏まえて、まずは被害者と行為者だと思われる人物の双方から話を聞き、事実の確認を行いましょう。発言にくいちがいがある場合は、第三者に協力を求め、何が事実で、何が誤りなのか判断することが重要です。その結果にもとづいて、適切な対処方法は何か、解雇に値するか、謝罪や配置転換等で済む問題なのかを考えましょう。対処を誤ると、職場の環境が損なわれ、企業イメージが悪化し、やる気がそがれてしまうと言った事態も起こり得ます。金銭的な損害も被ることが多いでしょう。一度ついてしまったイメージを回復するのは困難を伴いますので、もし必要ならば、第三機関や、専門の弁護士に意見を仰ぐのがよいでしょう。

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