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親権争いで母親が有利となる理由は?

この記事で分かること

  • 親権争いの9割で母親が勝つのは、裁判所が親権者を決める基準にかなうため。
  • 裁判所が親権者を決める一番の基準は「子どもの幸せ」
  • 「子どもの幸せ」の判断材料は、これまでの裁判例から確認できる。
  • 1割と低率ながら、父親が親権者と認められるケースも。
  • 母親有利とはいえ必ず親権を取れるとは限らない。親権確保にはそれなりの対策が必要。

親権争いが裁判所に持ち込まれたとき、母親が勝つ割合は約9割で、母親有利といわれています。一方で、1割と低率ながら父親が親権を勝ち取るケースもあり、母親もそれなりの対策が必要です。裁判所の手続で親権を勝ち取りたいと思うなら、親権制度に詳しく、実務経験豊かな弁護士に相談することから始めましょう。

親権争いで母親が有利とされる理由

未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合、子どもの親権者を父母どちらかに決めなければなりません。互いに親権を譲らず、親権争いとなれば、離婚調停など裁判所の手続によって親権者を決めることになります。

実際、離婚調停で親権者となったのは、2017年が母19,160件、父1,959件、2018年は母18,713件、父1,873件と、母親が親権者となるケースが圧倒的に多くなっています(2017年・2018年各司法統計年報)。これは、親権争いにおいて母親が有利であることを示す一例です。

2017年・2018年の父親・母親の親権獲得の状況(司法統計年報より)
2017年 2018年
19160 18713
1959 1873

親権争いに限らず、裁判所が争いの勝敗を決める際、基準となるものが必ずあります。親権争いで母親が有利なのは、母親の方が親権者を決める基準にかないやすいからなのです。

では、親権者を決める基準とは何なのか。なぜ母親の方が基準にかないやすいのか。次のセクションで見ていきましょう。

ワンポイントアドバイス
親権争いでは、父母双方が感情論をぶつけ合う形になりがちです。裁判所を説得するには、感情論でなく、筋道の通った法律論によらなければなりません。それには、法律論のプロである弁護士の力を借りるのが一番です。親権争いになったら、まず親権制度に詳しい弁護士に相談しましょう。

調停や裁判所が親権を判断するポイント

裁判所が親権者を決める基準をひとことでいえば「子どもの幸せ」です。
子どもが心身健やかに一人前の大人に成長していくには、父親に育てられた方がよいのか、それとも母親に育てられた方がよいのかを裁判所は考えます。

裁判所がそうした考えをめぐらす際の材料となるのは、父母と子どもを取り巻く諸事情です。具体的な事情は、これまでの裁判例の中でいくつか示されています。

それらの中でも、親権者決定に大きな影響を与えるものとして裁判所が特に重きを置いている事情が、次の7つです。

  1. 子どもは父母どちらと暮らしているか
  2. 父母どちらが中心となって養育してきたか
  3. 子どもは父母どちらと暮らしたいか
  4. 子どもを連れ去っての同居でなかったか
  5. 子どもが相手親と会うこと(面会交流)を認めるか
  6. 子どもが兄弟姉妹と離れ離れにならないか
  7. 親の経済力は十分か

それぞれについて解説します。

子どもは父母どちらと暮らしているか

今現在、子どもが父母どちらと暮らしているかは、親権者を決める重要ポイントです。

今現在生活をともにしている親とこれからも暮らし続けることで、子どもは安心し、豊かな心が育まれ、一人前の大人へと成長します。逆に、生活を共にする親が突然変わると、子どもの気持ちが不安定になり、豊かな心が育まれず、精神的にゆがんだ大人に成長してしまうおそれがあるのです。今現在一緒に暮らしている親が親権者にふさわしいとされる理由がここにあります。

両親が別居する場合、子どもは本能的に母親と同居するのがほとんどであることから、母親が親権者とされることが多くなるわけです。

父母どちらが中心となって養育してきたか

父母どちらが中心となって子どもを養育してきたかも、親権者を決める大事なポイントです。

たとえば、長いこと母親が中心となって養育すれば、子どもの心は母の影響のもとで形作られていきます。ところが、途中で父親が養育者となり、今度は父親の影響を受けるようになると、今までと違う影響力に対するとまどいや拒絶が生まれ、心がうまく形作られなくなり、ゆがみがちな心の大人になりかねないのです。養育の中心となってきた親が親権者として認められやすいのは、こうした理由によります。

女性も働く時代になったとはいえ、子どものいる女性の労働時間は、子どものいる男性より短いのが実状です。その分、母親の方が父親より子どもと一緒にいる時間が長く、自然と養育の中心者となっていきます。

「イクメン」ということばが生まれたように、家事や育児に加わる男性が増えたとはいうものの、子どものご飯や弁当作り、衣類の購入や洗濯、授業参観への出席などを行うのは母親がほとんどであるのが現状です。これは、まだまだ母親が養育の中心者であることを示すものといえるでしょう。

こうして、母親が親権者と認められるケースが多くなるわけです。

子どもは父母どちらと暮らしたいか

子どもが両親のどちらと暮らしていきたいかという気持ちも、親権者を選ぶポイントとなります。

自分が一緒に暮らしたいと思う親と暮らすことは、子どもにとって一番の幸せにほかなりません。そして、子どもが一緒に暮らしたいと思う親は、本能的に母親であるのがほとんどです。こうしたことも母親が親権者に選ばれやすい理由のひとつといえます。

裁判所の実務では、10歳前後になれば自分の気持ちを正しく伝えられると考え、その年齢の子どもの気持ちを聴き取る手続が行われています。

子どもを連れ去っての同居でなかったか

相手親から子どもを連れ去って一緒に暮らし始めたとしたら、それは親権者として認め
られないマイナスポイントとなります。

子どもの連れ去りとは、相手親に無断で、相手親のもとにいる子どもを自分のもとに力づくで移すことです。やり方としては、相手親のいないスキに家から連れ去る、面会交流(相手親と暮らしている子どもと定期的に会うこと)の最中に連れ去る、登下校中に連れ去るなどがあります。

こうした、子どもを驚かせ怖がらせ、相手親を不安にさせ悲しませるという、社会的に許されないふるまいをするような親は、子どもを幸せに育て上げることを期待できず、親権者にふさわしくないことは、多くの裁判例が示すとおりです。

仮に、子どもが連れ去った親のもとで落ち着いて暮らしているとしても、連れ去りの事実が許されることはなく、その親を親権者として認めないのが裁判実務の流れとなっています。

実際、連れ去る側の親は、父親の場合もあれば母親の場合もあります。父親が連れ去れば、母親を親権者と認める方向で手続は進み、母親が連れ去れば、父親が親権者と認められやすくなるわけです。

子どもが相手親と会うこと(面会交流)を認めるか

自分のもとにいる子どもが相手親と会うこと(面会交流)を認めるかどうかも、親権者としてふさわしいかどうかのポイントとなります。

子どもが相手親をこわがっている、相手親の生活態度が悪く子どもに悪影響を与えるなどでない限り、相手親と会うことは、親から子どもへの愛情を感じ取り、子どもから親への気持ちを育み、健やかな心を作り上げていくものです。それは、一人前の大人へと成長する糧となり、子どもの幸せにつながるといえます。

面会交流を認める親は、子どもに幸せのチャンスを与える親として、親権者にふさわしいと評価されるのです。

面会交流を求められるのは母親が多いことから、母親が親権者と認められやすい結果となります。

子どもが兄弟姉妹と離れ離れにならないか

子どもが兄弟姉妹と離れ離れにならないようにすることも、親権者を決める際の大事なポイントになります。

兄弟姉妹が生活をともにして、楽しいことやつらいことを分かち合うことは、子どもの心の成長の糧となり、健やかな大人へと育っていくためにとても大切なことです。

子どもは本能的に母親のもとで生活することが多く、兄や姉が母親のもとにいれば、弟や妹も母親のもとで暮らすことが好ましく、母親が弟や妹の親権者にふさわしいと評価されることになります。

親の経済力は十分か

家計を支える経済力があることも、親権者に欠かせない条件といえます。子どもを育てていくには、まずお金が必要だからです。

経済力の面では、一見、母親は父親より不利に感じられます。今の世の中、労働収入は女性より男性の方が多いのが実状だからです。

しかし、母親の収入が少ない点は、父親からの養育料の送金、母子家庭への国や県または市町村からの支援(児童扶養手当、医療費の無償化や割引、保育料の割引など)によって補うことができます。

親権争いにおいて、経済力の点で母親が父親より不利になることはほとんどないといってよいでしょう。

不貞行為は親権を左右しない

父母どちらかが不貞行為(結婚相手以外の人と性的関係をもつこと)をしたとしても、子どもの親権者を決めることには影響しません。

不貞行為は、夫婦が互いにしてはならないと決められ、それをすれば離婚原因となる行為ですが、あくまで夫婦関係に影響するにとどまり、子どもの親権者としてのふさわしさにまで影響するものではないからです。

ワンポイントアドバイス
裁判所での親権をめぐる手続では、親権者決定の重要ポイントのうち、自分に有利なポイントを主張することが大切です。有利なポイントを選び、それを説得力ある形で裁判所に主張するには、法律的な視点と実務経験が決め手となります。裁判所での親権争いについては、親権制度に詳しく、実務経験も豊かな弁護士に相談するのが一番です。

父親に親権を取られるパターン

数の上では母親の10分の1とはいえ、裁判所で父親が親権者と認められるケースもあります。わずかな割合ながら、父親が親権者とされるのは、どのようなパターンなのでしょうか。

父親が親権者とされるのは、前のセクションの逆パターンと考えればよいでしょう。つまり、次の7パターンです。

  1. 子どもが現在父親と暮らしている
  2. 父親が中心となって養育してきた
  3. 子どもが父親と暮らしたがっている
  4. 母親が子どもを連れ去った
  5. 子どもと母親との面会交流を認める
  6. 子どもの兄弟姉妹が父親と暮らしている
  7. 父親の方が経済力がある

子どもが現在父親と暮らしている

今現在、子どもが父親と暮らしていれば、父親が親権者と認められやすいといえます。

今現在生活をともにしている父親とこれからも暮らし続けることは、子どもに安心感を与え、健やかな成長が期待できるからです。

父親が中心となって養育してきた

父親が中心となって子どもを養育してきた場合、親権者は父親がふさわしいと判断されやすくなります。

父親の影響のもとでの子どもの心作りがこれからも続くことで、しっかりとした心作りができることになり、それは一人前の大人への成長につながるからです。

子どもが父親と暮らしたがっている

子どもが父親と暮らしたがっているのなら、父親が親権者となる方向で手続が進みます。

子どもが父親と暮らしたがっているのなら、そうしてあげることが子どもにとっての一番の幸せだからです。

子どもが父親と暮らしたい理由が、母親が育児・教育・家事といった養育をしないためであれば、父親が親権者となる可能性はさらに高まるといえるでしょう。

母親が子どもを連れ去った

父親のもとにいる子どもを母親が連れ去ったとしたら、母親は親権者にふさわしくないと評価され、父親が親権者になる可能性が高まります。

連れ去りは、子どもの心にショックを与え、父親に大きな不安を抱かせる反社会的な行いであり、こうしたことをする母親には、子どもを健やかに育てていくことが望めないからです。

母親との面会交流を認める

父親のもとにいる子どもに、母親との面会交流を認める姿勢を示すことは、父親の親権者としてのふさわしさを表すものといえます。

面会交流は、普段生活をともにしていない親と会うことですが、子どもはそこでもうひとりの親の愛情を感じ取り、それは子どもの心を豊かに健やかに成長させる糧となるものです。面会交流を認めることは、子どもに健やかな成長の機会を与える親であるとの評価につながります。

子どもの兄弟姉妹が父親と暮らしている

子どもの兄弟姉妹がすでに父親と暮らしていると、その子どもの親権者も父親とするのが好ましいといえます。

子どもは、兄弟姉妹との生活の中でいろんなことを感じ学び、自らの成長の糧としていくものだからです。

父親の方が経済力がある

父親に母親以上の経済力があれば、親権者として認められやすくなります。

親権者として子どもを養育していくのにお金がかかることは当然です。親に経済力がないと、十分な養育ができず、子どもの健やかな成長は見込めません。お金はたくさんあるに越したことなく、経済力のある親の方が親権者と認められやすくなるのです。

男女共同参画社会がうたわれ、雇用機会均等法や女性活躍推進法が誕生した昨今ですが、まだまだ女性より男性の方が高収入なケースが多いのが実状です。父親からの養育料送金や国・地方自治体による公的支援を計算に入れなければ、経済力の面で、母親より父親の方が親権者となるのに有利といえるでしょう。

ワンポイントアドバイス
自分は母親だけれども、本文に挙げたパターンに当てはまり、父親に親権を取られるかもしれないと思ったら、親権制度に詳しい弁護士に相談して、対応策を考えましょう。

親権を取りたい母親が注意すべきこと

母親が親権者とされるケースが圧倒的に多いとはいえ、父親が親権者とされるケースも現にあります。母親として、父親に親権を取られないためにはどんな注意が必要なのでしょうか。

今までお話ししてきたことをもとに、母親が親権を取るために注意すべき点をまとめると、次の7つになります。

  1. 婚姻中から養育の中心者となる
  2. 親権争い中も子どもと同居する
  3. 別居後も子どもへの養育をきちんとする
  4. 子どもを連れ去らない
  5. 父親との面会交流を認める
  6. 子どもの兄弟姉妹についても養育をする
  7. 養育に足るだけの経済力を持つ

婚姻中から養育の中心者になる

婚姻中から、子どもへの養育の中心者となりましょう。

裁判所は、子どもの心に影響を与える親を途中で変えないことが子どもの心の安定につながると考えます。婚姻中から養育の中心者として子どもの心に影響を与える親でいることが、親権を取るための有利な条件となるのです。

親権争い中も子どもと同居する

裁判所で親権争いの手続をしている間も子どもと同居しましょう。

裁判所は、今現在の生活環境を変えないことが子どもの心の安定と健やかな成長に役立つと考えるからです。

別居後も子どもへの養育をきちんとする

夫との別居後も、子どもへの養育をきちんとしましょう。

子どもと同居していても、養育がいいかげんでは、親権者にふさわしくないと裁判所に評価されてしまうからです。

育児・教育・家事をしない、酒ぐせが悪い、ギャンブルや男性関係にのめりこんでいるなどだと、養育を放棄していると評価されるのはもちろん、母親の生活態度が子どもの心に悪影響を与えるともみなされ、親権を取ることは難しくなると考えてよいでしょう。

子どもを連れ去らない

夫のもとにいる子どもを連れ去ることは、絶対にやめましょう。

子どもの連れ去りは、社会的に許されないふるまいであり、それを行う母親は親権者にふさわしくないと裁判所は評価するからです。

父親との面会交流を認める

父親からの面会交流の要求には、なるべく応じるようにしましょう。

子どもが父親を怖がっているなどでない限り、面会交流は父親との交流を通じて子どもの心の成長を育むものであり、それに協力的な母親は子どもの成長を支える人として評価されるからです。

子どもの兄弟姉妹も養育する

親権争いをしている子どもの兄弟姉妹も養育しましょう。

兄弟姉妹は、お互いに成長しあえる一番身近な存在であり、離れ離れになることなく一緒に暮らすことが互いの成長につながります。母親が兄弟姉妹をすでに養育していれば、親権争いの子どもも母親が養育するのが好ましいとの裁判所の判断を期待できるのです。

養育に足るだけの経済力を持つ

養育に足るだけの経済力を持ちましょう。

子どもの養育のため、まず先立つものはお金です。親権者に経済力がないと、十分な養育ができず、子どもの幸せは望めません。女性より男性の方が収入が多い社会の実状からすれば、経済力の点で母親は父親より一見、不利といえるのです。

その不利を乗り越える方法を4つ紹介します。

高収入の仕事に就く

なるべく高収入の見込める仕事に就くことです。できれば正規雇用が望ましいですが、そうなれば勤務時間も長くなるので、安心して子どもを預けられる保育施設を見つけることも必要になります。

養育料をもらう

父親と養育料の取り決めをすれば、養育料の送金により家計を補うことができます。養育料を確実にもらうには、家庭裁判所の調停や審判で決める、または公正証書にしておくことがおすすめです。

公的な支援を利用する

母子家庭への国や県または市区町村からの支援の制度(児童扶養手当、医療費の無償化や割引、保育料の割引など)もあり、こうした制度を使えば家計はかなり楽になります。詳しいことは、最寄りの市区町村役場で確認しましょう

多額の借金をしない

多額の借金をしないことも大切になってきます。仕事・養育料・公的支援により収入を得られても、そのほとんどを借金の返済に当てたのでは、家計は火の車となり、十分な養育ができなくなるからです。

ワンポイントアドバイス
母親がここに挙げた項目をすべてクリアしても、父親の方も自分に有利な事情を主張してくるでしょう。裁判所に対する説得力が勝負の分かれ目です。親権制度に詳しく、実務経験豊かな弁護士に味方に付いてもらい、裁判所への説得力ある主張をしてもらいましょう。

どうしても親権を勝ち取りたいなら、まず弁護士に相談を

親権争いが裁判所に持ち込まれると、父母双方が自分の方が親権者にふさわしいと主張し、それを裏付ける証拠を出し合う形になります。

要は、どちらが裁判官や調停委員の気持ちをつかむかです。それには、親権についての法律知識と裁判手続の実務経験がものをいいます。こうした知識と経験を持ち合わせた専門家が弁護士にほかなりません。

裁判所の手続で親権を勝ち取りたいと思ったら、親権制度に詳しく、実務経験豊かな弁護士に相談しましょう。

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