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相続放棄とは?手続き方法の流れと考慮すべきデメリット・注意点
この記事で分かること
- 相続放棄をすると、借金・債務の相続を避けられる
- 相続放棄をすると、プラスの資産も相続できない
- 遺産相続に関心がない場合や相続トラブルに巻き込まれたくない場合も相続放棄が有効
- 相続放棄には、3ヶ月の期限がある
- いったん相続放棄すると撤回はできない
相続放棄は、家庭裁判所で行います。細かな手続が決められています。相続放棄のメリットとデメリット、相続放棄ができる期間、相続放棄ができなくなってしまうケースには注意が必要です。相続放棄を有利に進めるには、相続についての法律知識と家庭裁判所での裁判実務経験が重要です。相続放棄を考えるなら、まず弁護士に相談することが一番です。
目次[非表示]
相続放棄とは
法定相続人が、法定相続人の地位を手放すことを、相続放棄といいます。法定相続人は、亡くなった人(=被相続人)の財産を受け継ぐ人です。重要な地位です。それを手放すには、それなりの理由があります。
相続放棄は、民法という法律が定めた制度です。法律で定めたのは、国民が相続放棄という制度を必要としたからです。なぜ相続放棄をするのか。相続放棄をするメリットは何なのか。デメリットはないのか。どんな手続が必要なのか。こうした点を中心に、相続放棄の全体像を解説します。
相続放棄する理由
平成29年には全国で20万5000件あまりの相続放棄がありました。
相続放棄の主な理由は、次の3つです。
- 債務超過
- 一人の法定相続人に相続させたい
- 生前贈与を受けている
それぞれの理由について解説します。
債務超過
相続財産の中身の問題です。借金などの債務が、土地・建物・預貯金などのプラス財産よりも多い状態を、債務超過といいます。相続財産は債務だけという場合が最たるものです。プラスの財産もあるけれども債務の方が多い場合も、債務超過に当たります。
こうした相続財産を受け継がなければならないことは、望まずして強いられる負担です。強いられたくないと思うのが当然です。相続放棄をしようと思うようになるわけです。
一人の法定相続人に相続させたい
法定相続人同士の問題です。法定相続人のうちの1人に相続財産すべてを相続させたいとき、相続放棄が行われることがあります。
会社経営者の死後、後継経営者である長男に、会社資産を含めた相続財産すべてを相続させたいとき、長男以外の法定相続人全員が相続放棄するのが代表的ケースです。
生前贈与を受けている
法定相続人の中に、被相続人から生前に財産をもらった(=生前贈与を受けた)人がいた場合です。生前贈与された財産は、本来ならば、相続財産として、法定相続人の間で分けるはずの財産です。これを生前にもらうことは、いわば相続財産の前渡しです。生前贈与を受けた人は、相続財産の前渡しを受けた代わりに相続を辞退します。それが相続放棄です。
相続放棄の効果
相続放棄をした場合、どのような効果が生ずるのでしょうか。主な3つの効果について解説します。
はじめから相続人ではなかったとみなされる
相続放棄をした人は、その相続について、はじめから相続人ではなかったとみなされます。「はじめから相続人ではなかった」というのは、被相続人が亡くなった時すでに相続人でなかったという意味です。
プラス・マイナスを問わず遺産を相続できなくなる
相続人でなくなったことにより、遺産全体についての相続権がなくなります。プラスの遺産かマイナスの遺産かを問わず、遺産をまったく相続できなくなります。
相続放棄の効果は、誰に対しても主張できる
相続放棄の効果は、絶対的なものです。「絶対的」とは、相続人でなくなったことを、共同相続人か第三者かを問わず、あらゆる人に対して主張できることを意味します。土地や建物の相続人でなくなったことを第三者に主張するにも登記は必要ありません。最高裁判所の判例です。
相続放棄の手続の流れ
相続放棄の具体的な手続は、どのようなものなのでしょうか。時間の流れに沿って解説します。
家庭裁判所への申述
相続放棄は、家庭裁判所への申述(しんじゅつ)という方法で行います。相続人全員の前で、「私は相続を放棄します。」と宣言してもダメです。新聞に、「私〇〇は、被相続人××の相続を放棄する。」と広告を出してもダメです。いずれも相続放棄にはなりません。
相続放棄の申述に必要なもの
相続放棄の申述のポイントを解説します。
申述人
申述ができるのは、法定相続人です。
申述先
申述先は、被相続人の最後の住所地を担当区域とする家庭裁判所です。
申述書
申述は、「相続放棄申述書」を提出する形で行います(申述書サンプルはこちら)。
添付書類
申述人と被相続人の戸籍謄本または戸籍記載事項証明書は必須です。その他の添付書類については、申述先の家庭裁判所に事前に確認しましょう。おおよその添付書類については裁判所ウェブサイトを参照してください(裁判所ウェブサイトはこちら 6(2)をご覧下さい)。
費用
申立て手数料(申述人一人につき800円の収入印紙)と家庭裁判所から関係者への通知用の郵便切手を納めます。郵便切手の内訳は各家庭裁判所によって違うので、事前に確認しましょう。
申述受理についての審判
家庭裁判所に相続放棄の申述がなされると、「相続放棄の申述の受理」という審判事件として審理されます。審理の流れのポイントを解説します。
申述書の審査
裁判官は、申述書に必要なことがきちんと書かれているかどうかを審査します。申述する人、相続放棄の申述であること、相続放棄をする理由が、それぞれきちんと書かれていることが特に大事です。
これらの記載に不備があると、裁判官は、「いついつまでに」と期間を定めて、申述人に対して、不備の手直し(=補正)を命じます。申立て手数料など、申述に必要な費用が納められていないときも同じです。
期間内に不備が補正されないとき、裁判官は、相続放棄申述受理の審判の申立てを却下します。却下に対して、申述人は、即時抗告という不服申し立てをすることができます。
申述人への照会と回答
家庭裁判所から申述人に照会書が送られます。まちがいなく本人による申述であること、本人の放棄が本心からのものであることの2点を確認します。家庭裁判所による事実の調査のひとつです。
申述人は、自分が申述したことにまちがいないこと、自分が本心から放棄することを回答書に書いて、家庭裁判所に返送します。
参考事項の聴取
裁判官が、申述書と回答書だけでは、申述を受理するべきかどうか決められないときがあります。裁判官は、審判の席に申述人を呼んで、参考事項を聴き取ります。
裁判官による審判
裁判官は、申述を受理すべきと判断した場合、申述書の下の空欄に、「上記申述を受理する。 裁判官〇〇」のゴム印と裁判官の印が押されます。これが、申述受理の審判です。
申述受理の審判の時、相続放棄申述が受理されたことになり、相続放棄の効力が生じます。改めて審判書は作成されません。裁判所書記官は、申述人に対して、相続放棄の申述が受理されたことを通知します。
裁判官は、申述を受理すべきでないと判断した場合、申述を却下する審判書を作成します。申述却下の審判に対して、申述人は、即時抗告という不服申し立てをすることができます。
放棄するまでの間の相続財産の管理
相続放棄の申述が受理されれば、申述人は法定相続人ではなくなります。法定相続人でなくなれば、相続財産を管理する義務がなくなります。そこで、申述から受理までの間、申述人は、相続財産の管理にどのように関わればよいかが問題となります。
申述人にも相続財産管理の義務あり
相続放棄の申述をした法定相続人であっても、申述が正式に受理されるまでの間、相続財産をしっかりと管理する義務があります。自分は相続放棄をするんだから相続財産のことなど知ったことではない、という態度は許されません。
管理人による相続財産の管理
相続放棄の申述をした法定相続人が相続財産をしっかりと管理できないことがあります。管理能力がない、管理する気がないなど、理由は様々です。この場合、家庭裁判所は、管理の仕方に影響を受ける人(いずれはそれが自分の財産になるであろう法定相続人など)の申立てにより、相続財産の管理人を選任する審判をすることができます。
選任された管理人は、管理する財産の目録を作成しなければなりません。管理人の責任の範囲をはっきりさせるためです。万が一にも財産を損なった場合に備えて担保を立てることを家庭裁判所から命ぜられることもあります。
その一方で、相続財産を保存(家の雨漏りを直す契約をすることなど)・利用(利息付でお金を貸す契約をすることなど)・改良(家にエアコンを取り付ける契約をすることなど)する権限が与えられます。家庭裁判所に対して、管理人の仕事に見合った報酬を与えるよう求める権利も与えられます。
相続放棄のメリット
相続放棄の申述が受理されると、どのようなメリットがあるのでしょうか。3つの重要なメリットを解説します。
債務から逃れることができる
相続財産の中に債務がある場合、相続放棄をすることで、その債務を引き継がなくてすむことになります。自分が作ったのではなく、親が勝手に作った借金を背負わなくてすむことは、相続放棄の大きなメリットということができます。
遺産がバラバラにならずにすむ
遺産を受け継ぐ人を1人にしたいとき、相続放棄が効果を発揮します。受け継ぐ人以外の相続人が相続放棄をすることで、受け継ぐ人がすべての遺産を相続します。会社経営を引き継ぐ場合、先祖伝来の品を相続する場合が、最たる例です。
相続争いから逃れることができる
相続放棄により相続人でなくなれば、遺産をめぐる相続争いの場から逃れることができます。相続争いのストレスから逃れられることは、相続放棄の大きなメリットです。
相続放棄のデメリット
相続放棄はメリットばかりではありません。デメリットもあります。3つの重要なデメリットを解説します。
相続放棄は撤回できない
いったん申述が受理された相続放棄は、撤回することはできません。熟慮期間内であっても撤回はできません。これを認めると、相続放棄によって影響を受ける相続債権者や共同相続人が振り回されることになります。それは好ましくないことだからです。
相続債権者を例に解説します。相続債権者は、相続人に対して、相続債務の実行を求めることができます。相続放棄をした人はもはや相続人でなくなるので、放棄者には相続債務の実行を求めることはできません。放棄者が相続放棄を撤回すると、再び相続人になります。相続債権者は、この相続人に対して改めて相続債務の実行を求めることになります。相続債権者が振り回される結果になります。
相続権が他の相続人に回る
法定相続人には、第1順位、第2順位というように相続順序があります。相続放棄は、放棄した人が相続人にならないだけです。次順位の相続人にまで効果が及ぶものではありません。
たとえば債務超過を理由に相続放棄をすれば、放棄した人は相続人でなくなるので、借金を支払わずにすみます。その代わり、債務は次順位の相続人に回ります。次順位の相続人が相続放棄をすれば、その次の順位の相続人に回ります。
次順位、次々順位の相続人は、突然の相続債権者からの支払い請求にびっくりします。相続人らは、みな親族です。親族間のトラブルに発展するかもしれません。
こうしたトラブルを防ぐには、第1順位の相続人は、相続放棄に至ったいきさつなどを、事前に、次順位以降の相続人に説明しておかなければなりません。それなりの時間と労力を要します。親族間が円満であればまだしも、そうでなければ苦労もひとしおです。
相続放棄後の遺産管理
相続人として相続財産を管理していた人が相続放棄をした場合の問題です。相続放棄によって相続人でなくなれば、それ以降、相続財産を管理しなくてもよいはずです。相続財産の管理は、相続放棄をしないで相続人のままでいる人が行うべきことです。
しかし、相続財産が突然に管理されなくなると、困ることが生じます。最近マスコミをにぎわしている空き家問題がその例です。空き家は次第にボロボロになり、財産価値が下がります。空き家があることで、防災・防犯・衛生・景観の面で、近隣地域の迷惑にもなります。
そこで、相続放棄をした人は、相続財産を本来管理すべき人にバトンタッチするまで、管理を続けなければならない決まりになっています。
相続放棄にかかる費用
相続放棄には、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。家庭裁判所への申述にかかる費用と弁護士費用に分けて解説します。
家庭裁判所への申述にかかる費用
相続放棄の申述に必要な費用は、次のとおりです。
申立て手数料
家庭裁判所に相続放棄の手続をしてもらうための手数料です。申述人一人につき800円です。収入印紙で納めます。
郵便切手
家庭裁判所から関係者への通知用の郵便切手です。切手の内訳は各家庭裁判所によって違うので、事前に確認しましょう。
相続放棄のための弁護士費用
相続放棄のための弁護士費用は、10万円から15万円くらいといわれています。家庭裁判所への申立手数料で10万円、相続財産や相続人の調査費に5万円程度がかかるのが一般的です。
相続放棄を申述できる期間
相続放棄の申述は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に行わなければなりません。熟慮期間または考慮期間と呼ばれます。
熟慮期間内に、どんな相続財産があるのかを調べます。そのうえで、そのまま相続をするのか(単純承認)、放棄をするのか、それともプラスの財産でまかなえる範囲で借金などを支払うことを条件に相続するのか(限定承認)を熟慮するわけです。
「自分のために相続の開始があったことを知った時」とは
「自分のために相続の開始があったことを知った時」は、熟慮期間を計算する際の出発点です。起算点と呼ばれます。
具体的には、①被相続人が亡くなったこと、②そのことにより自分が法定相続人になったことの2つを知った時を意味します。最高裁判所の判例です。
相続人が複数いる場合の起算点
相続人が複数いる場合、熟慮期間の起算点は、相続人ごとに決まります。熟慮期間も相続人ごとに進行します。
熟慮期間中に相続財産を調べて、単純承認するか、限定承認するか、放棄するかを決めるのは、相続人ごとの問題だからです。
生前の相続放棄はできない
相続の開始する前、つまり被相続人が健在のうちに相続放棄をすることはできません。熟慮期間の起算点は、「相続の開始があったことを知った時」です。これは、被相続人が亡くなってから相続放棄の申述ができることを意味します。
熟慮(考慮)期間を過ぎた場合
熟慮期間を過ぎて行った相続放棄の申述に対して、裁判官は、申述却下の審判をします。相続放棄の申述は熟慮期間内に行うのが、民法の決まりだからです。
申述却下の審判に対して、申述人は、即時抗告という不服申し立てをすることができます。熟慮期間の起算点を争うことが多いです。
熟慮(考慮)期間を伸ばすことができる
熟慮期間を伸ばすことができます。相続財産を調べるのに3ヶ月間では足りない場合に行います。相続財産がとてもたくさんある、相続財産が全国あちこちに散らばっている、お金を貸した人や借りた人を探さなければならないなどの場合です。
熟慮(考慮)期間伸長の審判
熟慮期間を伸ばすには、家庭裁判所に、熟慮期間伸長の審判を申し立てます。申立てが認められれば、裁判所が伸長を認めた期間の中で、相続財産を調べることになります。
熟慮期間伸長の申立てを却下する審判に対して、申立人は、即時抗告という不服申し立てをすることができます。
相続放棄できないケース
いざ相続放棄をしようと思っても、できないケースがあります。それは、どのようなケースなのでしょうか。
すべての相続財産を相続したものとみなされるケース
法定相続人が、次の2つのうちのいずれかの行為をすると、プラス・マイナスを問わず、すべての相続財産を相続したものとみなされます。もはや相続放棄はできません。
相続財産の全部または一部の処分
相続財産である土地を売る、家を壊す、預貯金を使ってしまうことなどです。こうした行為は、すべての相続財産を相続する意思の表れと考えられるからです。
相続財産の全部または一部を隠す、こっそり使ってしまう
相続財産に預貯金があることを他の相続人に隠す、預貯金を他の相続人に内緒で使ってしまうことなどです。他の相続人の信頼を裏切る行為であり、制裁に値します。すべての相続財産を相続する形での制裁を受けることになります。
すでに相続放棄をした後であっても、こうした行為があれば、制裁が科されます。相続放棄したことは消えてなくなり、すべての相続財産を相続したものとみなされます。
相続放棄の取り消し
相続放棄の取消しができる場合があります。あらましを解説します。
相続放棄は条件付きで取消しが認められる
相続放棄の取消し条件は、法律で決められています。条件別に解説します。
未成年者が行う相続放棄
未成年者が、親権者などの法定代理人の同意なく相続放棄を行った場合、相続放棄を取り消すことができます。
成年被後見人が行う相続放棄
成年被後見人自身が相続放棄を行った場合、相続放棄を取り消すことができます。
被保佐人が行う相続放棄
被保佐人が、保佐人の同意なく相続放棄を行った場合、相続放棄を取り消すことができます。
被補助人が行う相続放棄
相続放棄についての同意権を与えられた補助人が付いた被補助人が、補助人の同意なく相続放棄を行った場合、相続放棄を取り消すことができます。
詐欺または強迫による相続放棄
他人にだまされたり脅されたりして相続放棄を行なった場合、相続放棄を取り消すことができます。
相続放棄のよくある質問 Q&A
相続放棄について、一般の方が判断に迷うであろう7つの質問について解説します。
相続放棄申述受理通知書、相続放棄申述受理証明書、相続放棄申述有無の照会書の違いは?
似たような漢字が並んでいて、混同しやすい書面です。それぞれの違いを表にまとめてみました。
相続放棄申述受理通知書 | 相続放棄申述受理証明書 | 相続放棄申述有無の照会書 | |
---|---|---|---|
作る人 | 裁判所書記官 | 裁判所書記官 | 相続放棄の有無に利害関係がある人 |
作るきっかけ | 申述受理の審判があれば家庭裁判所が自ら作る | 申述人の申請 | 相続放棄の有無に利害関係があること |
書いてある内容 | 相続放棄の申述が受理されたこと | 相続放棄の申述が受理されたこと | 相続放棄の申述が受理されたかどうかの答えを家庭裁判所に求めること |
効果 | 相続放棄の申述が受理されたことを申述人が知る | 相続放棄の申述が受理されたことが社会全体に証明される | 相続放棄の申述が受理されたかどうかを回答する義務が家庭裁判所に生ずる |
使い道 | 相続登記申請書に添付 | 相続登記申請書に添付 | 回答書を相続登記申請書に添付 |
兄弟まとめて相続放棄の申述はできる?
たとえば、相続人が長男と次男の2人である場合、2人の連名で相続放棄の申述をすることができます。同じ被相続人について、同じ手続をするのですから、連名で申述できたら申述人にとって便利です。家庭裁判所にとっても、手続を効率化できるので好都合です。
申述人は2名なので、1人800円×2名=1600円の申立て手数料がかかります。
相続放棄をしても遺族年金はもらえる?
たとえば、妻が亡夫についての相続を放棄した場合、亡夫の遺族年金をもらうことができるでしょうか。答えは、YESです。
遺族年金は、年金の保険料を支払っていた人(被保険者)が亡くなった場合、本来は被保険者に支給されるはずだった年金を、被保険者の遺族に対して支払う形の年金です。
被保険者に支払われた年金で生計を立てていた遺族ついて、被保険者亡き後、国から遺族へ直接に年金を支払うことで、引き続き遺族が生計を立てていけるようにするための制度です。
遺族年金は、故人の遺産を受け継ぐかどうかという相続放棄の問題とは別次元の制度です。相続放棄をしても、遺族年金をもらうことができます。
相続放棄をしても生命保険金をもらえる?
たとえば、妻が亡夫についての相続を放棄した場合、亡夫にかけられていた生命保険金をもらうことができるでしょうか。
生命保険金の受取人が誰であるかによって、答えは異なります。
亡夫自身が受取人である場合
生命保険金の受取人が亡夫自身の場合、亡夫の死亡により亡夫が生命保険金請求権を手にします。亡夫の死亡により、生命保険金請求権が亡夫の遺産となります。
亡夫の相続人である妻が相続放棄をすると、妻は亡夫の相続人ではなくなります。妻は亡夫の生命保険金請求権を相続できなくなります。妻は、生命保険金をもらえないことになります。
亡夫以外の人が受取人である場合
亡夫以外の人、たとえば妻が生命保険金の受取人である場合、夫と保険会社との間の生命保険契約に基づいて、妻は保険会社に対する生命保険金請求権を手にします。
生命保険契約に基づいて生ずる権利は、亡夫の遺産相続とは別次元の問題です。妻が相続放棄をしていても、妻は保険会社に対して生命保険金の支払いを求めることができます。
相続放棄をすれば、残された税金(固定資産税など)も免れる?
被相続人が、自分の不動産にかかる固定資産税などの税金を納めずに亡くなった場合、相続人は、相続放棄をすれば、そうした税金を納めずにすみます。税金は被相続人の国や地方公共団体に対する債務です。相続放棄によって相続人でなくなった以上、そうした債務を受け継がなくてもよいからです。以上は、民法上の結論です。
固定資産税については課税される場合あり
固定資産税については、民法とは別に、地方税法という法律があります。地方税法では、毎年1月1日時点で、固定資産課税台帳に名前のある人(名義人)が固定資産税を納める決まりになっています。
名義人が亡くなると、税務当局は、その相続人を名義人にします。相続放棄をしたことを税務当局に申し出ると、名義人でなくなります。問題は、年末の12月に相続放棄の申述をした場合です。12月中に申述が受理され、12月中に税務当局に申し出れば、12月中に名義人でなくなるので、課税されません。しかし、申述受理が1月にずれ込むと、1月1日時点では名義人として残るので、課税されます。
名義人が相続放棄をした場合、民法上は、はじめから相続人でなかったことになるので、納税義務はないはずです。しかし、相続放棄の申述をしていたとしても、1月1日時点で台帳に名前がある限り、納税義務があるとするのが、最高裁判所の判例です。本当の所有者を探す手間を省き、税の徴収を効率的に行うためです。民法と地方税法が衝突する場面です。最高裁判所は、民法上の相続放棄の効果よりも、税の効率的徴収の必要性に軍配を上げたわけです。
最高裁判所は、相続放棄をしたのに固定資産税を納めざるを得なかった人は、本来なら納税すべきである本当の所有者に対して払い戻しを請求できるとも言っています。しかし、時間と手間がかかります。本当の所有者が払い戻しを渋ることも考えられます。そうしたときは、税に詳しい弁護士に相談しましょう。
相続人全員が放棄すると、相続財産はどうなる?
相続人全員が放棄すると、相続人がいない状態になります。相続人がいなくなった相続財産には、相続財産管理人が選任されます。相続財産管理人は、相続財産の価値が下がらないように管理しながら、未知の相続人(被相続人の隠し子など)や受遺者(被相続人が遺言によって遺産を与えた人)を探します。
最終的に未知の相続人も受遺者もいないことになれば、特別縁故者(生前に被相続人と特別のつながりのあった人)からの財産分与の申立てを待ちます。特別縁故者が現れないとき、または特別縁故者が現れて財産分与の終わったとき、残りの相続財産は国のものになります(国庫帰属)。
相続放棄した場合、代襲相続は生じる?
相続放棄した人について代襲相続が生じることはありません。代襲相続とは、本来なら相続人となるはずだった人が、相続が始まる前に亡くなった場合、その子供が代わりに相続人になることをいいます。
これに対して、相続放棄をすると、はじめから相続人とならなかったことになります。代襲相続でいうところの「本来なら相続人となるはずだった人」は存在しません。相続放棄した人については、代襲相続が生じる余地がないのです。
相続放棄する場合の注意点
相続放棄を行う際に注意すべきことが2つあります。順番に解説します。
借金だけでなくプラス財産も失う点に注意
被相続人が借金を残して亡くなった場合、相続人は、まず借金に目を取られます。借金を背負わないために、すぐに相続放棄を考えがちです。しかし、相続放棄は、土地・建物・預貯金などのプラスの財産の放棄でもあることを忘れてはなりません。
被相続人が借金を残して亡くなった場合、相続財産全体をしっかりと見回して、相続放棄するかどうかを慎重に判断しましょう。そのための熟慮期間でもあります。
次順位の相続人に配慮を
相続放棄のデメリットの解説でも触れました。被相続人が借金を残して亡くなった場合、相続放棄をすれば、相続人は借金を背負わなくて済むことになります。しかし、相続放棄をすると、借金は次の順位の相続人に回ります。被相続人の子が相続放棄すれば、借金は被相続人の親に回ります。親が故人だったり、親が相続放棄をすれば、借金は被相続人の兄弟姉妹に回ります。
債務超過などのため仕方なく相続放棄をした場合、次の順位の相続人に対して、債務が回って来ることをきちんと伝えることが大切です。突然、相続債権者から支払いの請求があったら、びっくりしてしまいます。できれば、次の順位の相続人に対して、相続放棄の仕方も教えてあげましょう。今後の親戚付き合いを大切にしたいのであれば、忘れてはならないことです。
相続放棄を検討するなら、まず弁護士に相談を
相続放棄を考える場合、相続放棄をする目的、その効果、メリットとデメリット、具体的な手続についての理解が必要となります。それには、相続放棄について定めた民法、手続を定めた家事事件手続法を初めとする法律の知識が欠かせません。家庭裁判所での手続が中心となるので、裁判実務の経験も重要です。これらの条件を兼ね備えたプロフェッショナルこそが弁護士です。相続放棄を検討するなら、まず弁護士に相談することが一番です。
この記事を読まれているのは、相続放棄を検討中の方かと思われます。この記事で、相続放棄の全体像をつかんでください。弁護士に相談する前の予備知識となります。予備知識があれば、弁護士の話も理解しやすくなります。あなたの置かれている具体的な状況を弁護士にお話しください。きっと、あなたのケースにふさわしいアドバイスを弁護士からもらえるはずです。
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