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成年後見人とは~役割と費用、手続きの流れやルールをわかりやすく解説
この記事で分かること
- 判断力がほとんどなくなった人を守るには、成年後見人を付けることが一番である。
- 成年後見人を付けるには、家庭裁判所の手続が必要である。
- 成年後見人の仕事は、身上監護と財産管理に分けることができる。
- 弁護士を成年後見人とした場合、デメリットよりもメリットのほうが多い。
- 成年後見人を付けることを考えたら、まず弁護士に相談することが一番である。
判断力がほとんどなくなった人の生活と財産を守るためには、成年後見人を付けることが 一番です。成年後見人の仕事には、法律知識、裁判実務経験、調査交渉力が必要です。 成年後見人には、こうした能力を備えた弁護士が最適です。成年後見人を付けることを考えたら、まず弁護士に相談しましょう。
目次[非表示]
成年後見人とは
世の中には、物事をきちんと判断することがほとんどできなくなった人たちがいます。社会の高齢化と共に、そうした人たちは増えています。
一方で、こうした人たちを守ることを役目とする人たちがいます。それが成年後見人です。守るのは、判断力がほとんどなくなった人たちの健康や財産を中心とした生活全般です。この役目は、家庭裁判所から与えられます。
成年後見人は、判断力の衰えた人たちを法律によって守っていくシステムの一部です。このシステムは民法によって決められています。このシステムが最終的に目指すものは、判断力の衰えた人でも、成年後見人などの守り手によって守られながら、家庭や地域で普通に生活していくことのできる社会です。こうした考え方を、ノーマライゼーションといいます。
判断力の衰えた人たちを法律によって守っていくシステムは、成年被後見人よりも多少は判断力のある人たちも守ります。被保佐人、被補助人と呼ばれる人たちです。この記事では、成年被後見人に的を絞って解説します。
成年後見人を設置すべきケース
判断力がほとんどなくなった人たちを守っていくという成年後見人の役目は、具体的にどのような場面で発揮されるのでしょうか。よく見られる3つのケースについて、そのあらましを紹介します。
判断能力の不十分な方が遺産相続を受ける場合
判断力がほとんどなくなった人が、相続人として、遺産分割に参加する場合があります。判断力がほとんどなくなった人は、他の相続人にうまく言いくるめられやすいものです。最終的に、自分に損な分割を受け容れてしまうおそれがあります。こうしたことがないように、成年後見人によるサポートが必要となります。
判断能力の不十分な方が一人暮らしの場合
判断力がほとんどなくなった人の一人暮らしには、様々な不都合が生じます。悪質な訪問販売の被害にあう、介護施設に入る契約ができないなどです。訪問販売契約を取り消す、施設入所契約を結ぶといった、成年後見人によるサポートが必要となります。
判断能力の不十分な方が預貯金の管理や解約をする場合
判断力がほとんどなくなった人は、預貯金の通帳や届出印を失くしたり、しまい忘れたりすることがあります。預貯金を解約してしまい、利息を損することもあります。通帳や届出印を預かる、解約を取り消すといった、成年後見人によるサポートが必要となります。
成年被後見人とは
成年後見人のサポートを受ける人を成年被後見人といいます。精神の働きがとても悪くなったため、日常生活を送るのに必要な理解力や判断力がほとんどなくなってしまった人です。1日24時間の中でも、きちんと理解し判断できる時が全くといってよいほど無い人たちです。最も多いのは、とても重い認知症や知的障害を患った人たちです。
成年後見人によるサポートを受けるには、家庭裁判所から「後見開始の審判」を受けなければなりません。「後見開始の審判」とは、成年後見人によるサポートを受ける必要があると家庭裁判所が認めることをいいます。「後見開始の審判」を受けることで、成年被後見人となります。
成年後見人になれる人
成年後見人の役目は、健康や財産を中心とした本人の生活全般を守ることです。とても重要な役目である分、ミスをしたときの責任は重大です。成年後見人となるのは、どこの誰でもよいというわけではありません。成年後見人となるのにふさわしい人とは、どんな人なのでしょうか。
本人の保護者
成年後見人は、本人の健康や財産を中心とした生活全般を守る人です。いわば、本人の保護者です。健康や財産を含めた生活全般において本人の保護者となるのにふさわしい人でなくてはなりません。それには、本人からの信頼があること、本人の意思を大切にできること、本人の状態や生活状況に心配りができることが必要です。
本人の法定代理人
本人は、多かれ少なかれ財産を持っています。その財産が思わぬ形で減ったりなくなったりしたら困ります。財産をしっかりと管理することが必要です。
また、生活費が足りなくなったため、本人の動産や不動産をお金に変えて生活費の足しにしなければならない場合もあり得ます。動産や不動産をお金に変える一番の方法は、他の人に売ることです。動産や不動産を売るには、契約が必要です。
財産を管理したり、契約をしたりすることは、判断力がほとんどなくなった本人には難しいです。そこで、成年後見人がこうした役目を担うことになります。これらの役目は、民法で決められています。
民法という法律に基づいて、本人に代わって財産の管理や契約をする人という意味で、成年後見人は法定代理人と呼ばれます。
法定代理人に必要なのは、保護者に必要なことと同じく、本人からの信頼、本人意思の尊重、本人の状態や生活状況への心配りです。
成年後見人になるのに資格は必要?
成年後見人になるのに、特別の資格は必要ありません。家庭裁判所によって選ばれるから弁護士や司法書士といった法律資格のある人でなければならないという決まりもありません。本人からの信頼があり、本人意思の尊重と本人の状態や生活状況への心配りができる人でありさえすればよいのです。
民法は逆に、成年後見人になれない人を決めています。未成年者、破産した人、行方不明者などです。こうした人には、成年後見人として本人の生活を守る役目が期待できないからです。
成年後見人の役割
成年後見人の役割について、これまでそのあらましを見てきました。ここでは、もう少し詳しく見ていきましょう。
身上の監護
人はまず、生活に必要な物に困ることなく、病気や怪我もなく過ごすことが重要です。成年後見人は、本人がこうした生活を送れるようにサポートする役割があります。これらをまとめて、「身の上のことを指導し守る」という意味で、身上の監護といいます。具体的には、住まい、生活物資、教育、医療・介護・リハビリなどの面をサポートすることが挙げられます。
法律上の身上監護と事実上の身上監護
成年後見人が本人を守るシステムは、民法が認めたシステムです。民法は、人と人の間の法律的な関係を決めたものです。従って、成年後見人が行うサポートも法律的なサポートです。法律的なサポートの代表は、本人に代わって契約をすることです。
たとえば介護についていえば、成年後見人が本人に代わって介護サービス契約を行うことが法律的なサポートに当たります。成年後見人が本人の食事・入浴・排泄の介助を行うことは、いわば事実的なサポートであって、法律的なサポートではありません。
介護の心得のある成年後見人がこれらの介助を行うことは、もちろん問題ありません。むしろ、喜ばしいことです。しかし、成年後見人の役割である身上の監護とは別次元のサポートです。
財産の管理
身上の看護と並ぶ成年後見人のもうひとつの役割が、財産の管理です。財産の管理には、たとえば本人の家の草むしりといった事実上の財産管理と、本人の財産についての契約を行うなどの法律上の財産管理とがあります。こうした事実上と法律上の区別をする点は、身上の監護と同じです。法律上の財産管理こそが成年後見人の役割であることも、身上の監護と同じです。
法律上の財産管理で重要なのは、財産についての契約です。特に、契約を結ぶ、取り消す、追認するという3つの場面での成年後見人の役割が大切です。それぞれ見てみましょう。
本人に代わっての契約
本人の財産について契約を行わなければならなくなった場合、成年後見人が、本人の法定代理人として、契約を行います。たとえば、本人が生活費を得るために土地を売らなければならなくなったとき、成年後見人が、本人の法定代理人として、買主との間で売買契約を行います。
本人がした契約の取消し
成年被後見人は、トイレットペーパーや洗剤を買うなど、日常生活に欠かせない事柄であって、ひとりでさせても本人が大きな損をすることはないであろうと思われる契約は、本人ひとりで行うことができます。成年後見人の同意は必要ありません。成年被後見人も家庭や地域で普通に生活していくというノーマライゼーションの理念を実現するには、ひとりでできることをできるだけ認めることが必要だからです。
こうした日常生活に関わる事柄以外の契約については、成年被後見人はひとりで行うことはできません。必ず成年後見人が代理して行わなければなりません。もしも、本人がひとりで契約をしてしまったら、本人または成年後見人が、契約を取り消すことができます。
たとえば、成年被後見人が自分の土地を成年後見人に無断でひとりで不動産屋に売ってしまったとしたら、本人または成年後見人は、この売買契約を取り消すことができます。売買契約を取り消せば、契約は初めからなかったことになり、本人は不動産屋に土地を引き渡す必要はなくなります。
成年後見人の同意のもとで行った契約はどうなる?
成年被後見人が、成年後見人から事前に同意をもらったうえで、自分の土地を不動産屋に売った場合、本人または成年後見人はこの売買契約を取り消すことができるのでしょうか。
成年後見人の事前の同意があっても、売買契約は取り消すことができるという考え方が有力です。成年後見人に同意権を認めた民法の規定がないこと、成年被後見人はきちんと理解し判断することが全くといってよいほどできない人たちなので、成年後見人の予想どおりに契約するとは限らないことが、その理由です。
本人がした契約の追認
成年被後見人がひとりで行ってしまった契約でも、成年後見人から見て、本人に対して特に損とはならないといえる場合があります。たとえば、本人がひとりで土地を売ってしまったけれど、契約書を見る限り、土地の価値と代金とがバランスが取れていて、本人にとって特に損とはいえない契約である場合などです。
こうした場合、成年後見人は、本人が行った契約を追認することができます。追認とは、本来なら取消しとなる契約について、あえて取り消すことなく、契約をそのまま残そうという意思を表すことをいいます。いったん追認すると、取消権を放棄したものとされ、もはや契約の取消しはできなくなります。
成年後見人の費用
判断力がほとんどなくなった人に成年後見人を付けようかと考えている人にとって気になることのひとつに、費用の問題があります。
判断力がほとんどなくなった人の生活や財産を成年後見人に守ってもらうわけですから、タダというわけにはいかないことは想像できます。そこで、成年後見人を付けて本人を守ってもらうには、どのくらいの費用がかかるのかについて見て行きましょう。
費用はどのくらいかかる?
成年後見人を付ける場合にかかる費用の総額は、およそ12万円~27万円です。総額に幅があるのは、本人の精神状況などにより鑑定費用が、取扱財産の額などにより成年後見人報酬額が、それぞれ違ってくるためです。
成年後見人設置にかかる費用項目
成年後見人を付ける場合の費用の内訳は、次のとおりです。
収入印紙
収入印紙800円分。家庭裁判所での後見開始審判の費用です。申立人が申立書に貼ります。
切手代
郵便切手3000円分~4000円分くらい。家庭裁判所から審判の関係者や関係機関への通知用です。申立人が申立書と一緒に提出します。各家庭裁判所によって切手の内訳が違うので、事前に確認しましょう。
登記手数料
収入印紙2600円分。後見開始の審判が確定した時、家庭裁判所から登記所に成年後見登記を依頼するための費用です。申立人が申立書と一緒に提出します。
鑑定費用
通常10万円くらい。本人の精神状況により鑑定に手間がかかるときは最高20万円くらい。本人が成年被後見人とするに値する精神レベルかどうかを医師に鑑定してもらうための費用です。裁判官が鑑定を行うと決めた時に、申立人が家庭裁判所に現金で納めます。
成年後見人への報酬
通常1万円~2万円くらい。取扱財産が高額など、後見人の負担が大きいときは5万円~6万円くらい。成年後見人が本人のために働いたことへの報酬として支払う費用です。支払うかどうか、支払うとしていくら支払うかは裁判官が決めます。財源は本人の財産です。
成年後見人を付ける手続きの流れ
成年後見人を付ける手続の流れをつかみましょう。まず、フローチャートで全体のおおまかな流れを眺めます。次に、個々の手続について見ていきます。
後見開始までの審判・手続きの流れ
後見開始の審判の申立てから、成年後見人の着任までの大まかな流れは、次のとおりです。
後見開始の審判の申立て
成年後見人を付ける手続は、後見開始の審判の申立てから始まります。申立先は、成年被後見人となる予定の人の住所地を担当区域とする家庭裁判所です。
申し立てできる人
後見開始の審判の申立てができる人は、本人、本人の配偶者、4親等内の親族などです。本人は、自分の生活を守るために申立てをします。配偶者と4親等内の親族は、身近な親族として、本人の生活を守るために申立てをします。
市町村長も申立人になるケース
本人の福祉を図るため特に必要があるときは、本人の住所地の市町村長も後見開始の審判の申立てをすることができます。市町村長による申立てが行われるのは、配偶者や4親等内の親族など所定の申立人がいない場合、いたとしても本人との関わりが薄いために申立てが期待できない場合などが考えられます。
申立書・関係書類の提出
申立ては、申立書を提出する形で行います。申立書は、各家庭裁判所でもらえます。裁判所のウェブサイトからもダウンロードできます。
申立書には、関係書類を付けます。本人の戸籍謄本または戸籍全部事項証明書、成年後見人候補者の住民票または戸籍附表、本人の診断書が主なものです。その他の書類については、申立てをする家庭裁判所に確認しましょう。
家庭裁判所調査官による調査
家庭裁判所が、本人に成年後見人を付けるべきかどうかを決めるには、本人の日頃の精神状態など、調べなくてはならないことがいくつかあります。これを、事実の調査といいます。
事実の調査は、多くの場合、家庭裁判所調査官が担当します。家庭裁判所調査官の調査は、通常、次のような形で行われます。
申立人・本人・後見人候補者との面談
調査は、申立人・本人・後見人候補者との面談という形で行われます。相手から正確な情報を得るには、面談形式が一番よいからです。申立人との面談では、申立てに至った背景、本人の日頃の精神状態や生活状況などを聴き取ります。
本人との面談では、成年被後見人になることについての本人の思いを聴き取ります。成年被後見人になれば、日常生活に関すること以外、ひとりで行うことができなくなり、とても不自由な生活になります。そのことをどう思うかが、聴き取りの中心です。
後見人候補者との面談では、成年後見人の責任についての自覚を聴き取ります。成年後見人として本人を守っていくには、その責任を十分に自覚することが必要だからです。
本人家族への確認
本人と家族に対し、本人が成年被後見人になることについての納得の度合いを確認します。
成年被後見人になることについての本人家族の納得が不十分なままでは、成年後見人の活動がうまく進まず、本人を守るという目的が達成されないからです。
本人の精神鑑定(必要時のみ)
家庭裁判所の審判では、裁判所が自ら積極的に事実関係を明らかにします。そのために行われる、事実の調査と並ぶ重要な手続が、証拠調べです。後見開始の審判では、明らかに必要がないと認められる場合を除いて、本人の精神状況についての鑑定を必ず行わなければならないと決められています。この精神鑑定も、証拠調べのひとつです。
審判
事実の調査と精神鑑定を通じて、本人に成年後見人を付けるか否かについての裁判官の気持ちが固まっていきます。気持ちが最終的に固まった時、裁判官は成年後見人を付けるか否かについての審判をします。
審判には、成年後見人を付ける審判(申立てを認める審判)と成年後見人を付けない審判(申立てを却下する審判)とがあります。どちらの審判をするにせよ、裁判官は審判書を作らなくてはなりません。審判書を作ることが、すなわち審判です。
審判の告知・通知
裁判官が審判書を完成させただけでは、審判の効力は生じません。審判が通知または告知された時に、審判の効力が生じます。
成年後見人を付ける審判(申立てを認める審判)は、成年被後見人になる人に通知され、且つ成年後見人になる人に告知された時に、効力を生じます。成年後見人を付けない審判(申立てを却下する審判)は、申立人に告知された時に、効力を生じます。
告知と通知の違いとは?
通知とは、たとえば「このたび、あなたを成年被後見人とする審判がなされました。」といった文面で、審判がなされた事実のみを知らせることをいいます。告知とは、審判書謄本を送るなどして、審判書の内容についてまで詳しく知らせることをいいます。
即時抗告について
家庭裁判所の審判に対する不服申し立てのことを、即時抗告といいます。
即時抗告ができる人とは?
成年後見人を付ける審判(申立てを認める審判)に対しては、後見開始の審判を申し立てることができる人が、即時抗告をすることができます。たとえば、審判で成年被後見人とされた本人が、それを不服として、即時抗告をする場合です。
成年後見人を付けない審判(申立てを却下する審判)に対しては、申立人が、即時抗告をすることができます。自分の申立てが認められなかったのですから、不服を感ずるのは当然ともいえます。
即時抗告ができる審判は確定が必要
成年後見人を付ける審判(申立てを認める審判)も成年後見人を付けない審判(申立てを却下する審判)も、即時抗告の結論が出るまでは、審判は確定しません。
即時抗告の結論には、二通りあります。ひとつは、即時抗告には理由がないとして却下する場合です。この場合、元の審判の内容で確定します。もうひとつは、即時抗告には理由があるとして元の審判とは違う審判をする場合です。
たとえば、家庭裁判所の審判で成年被後見人とされた本人が起こした即時抗告には理由があるとして、後見開始の審判の申立てを却下する審判をするような場合です。この場合、新しい審判の内容で確定します。
成年後見登記
成年後見人を付ける審判(申立てを認める審判)が確定すると、裁判所が登記所に対して、成年後見登記の依頼を行います。依頼を受けた登記所は、登記所にあるコンピューターに、「Aが成年被後見人となった。BがAの成年後見人となった」ことを登録します。これが、成年後見登記です。
ある人が成年被後見人であるのかどうか、またはある人が誰かの成年後見人であるのかどうかが問題となる場合があります。たとえば、成年被後見人は弁護士になることができません。弁護士会への登録に際しては、自分が成年被後見人でないことを証明するものを提出しなければなりません。
こうしたときに、成年後見登記の情報を入手することで、問題をはっきりさせることができます。これが、成年後見登記システムの目的です。
法定後見開始
成年後見登記に成年後見人として登録されることで、自分は成年後見人であると、世の中に対して正々堂々と言うことができます。成年後見人の任に着き、成年被後見人を守る活動が始まります。
成年後見人にまつわるルール
ここで、成年後見人のことを知る場合に見落としがちな、以外であるけど大切なルールを3つ紹介します。
成年後見人は2人以上でもよい
家庭裁判所は、1人の成年被後見人に対して、2人以上の成年後見人を付けることができます。複数の後見人の方が、より効果的に本人をサポートできる場合があるからです。たとえば、弁護士と社会福祉士が成年後見人になる場合です。法律と福祉の両面で手厚く本人をサポートすることができます。
成年後見人の役割分担はどうなる?
複数の後見人は、それぞれが別々に、後見人の全ての仕事を行うことができます。その都度、もう一方の後見人と連絡を取るなどすることは要りません。家庭裁判所は、複数の後見人候補者が息を合わせて、まさに阿吽の呼吸で後見人の仕事ができるだろうと見込んで、後見人を任せるわけです。
家庭裁判所の見込みが外れて、後見人同士の呼吸が合わず、後見人の仕事がうまく回らなくなることがあります。その場合、家庭裁判所は、後見人同士の意見が一致したときにのみ後見人の仕事ができると決めることができます。
たとえば、本人が自分の自動車をひとりで売ってしまった場合、後見人同士の意見が売買契約の取消しで一致すれば、契約を取り消すことができます。意見が売買契約の追認で一致すれば、契約を追認することができます。しかし、取消しと追認とで意見が分かれたときは、取消しも追認もすることができません。
後見人同士の意見が一致することがほとんどないような場合、家庭裁判所は、後見人の仕事をきっちりと分担させることができます。たとえば、本人の財産の管理に関することは弁護士である後見人の仕事、本人の介護や日常生活に関することは社会福祉士である後見人の仕事というように分担させる場合です。
法人も成年後見人になれる
家庭裁判所は、個人だけでなく、法人を成年後見人にすることもできます。法人が成年後見になるのは、次のようなケースが考えられます。
法人の組織力を生かすケース
個人よりも法人という組織が後見人になった方が、より効果的に本人をサポートできるケースです。たとえば、親族の虐待から本人を守らなくてはならない場合などが考えられます。
法人の活動力を生かすケース
後見人の仕事がとても多く、個人の後見人ではとても手に負えないケースです。たとえば、本人の財産がとても多く、しかもあちこちに点在しているため、財産の状況を調べたり管理したりするのに非常に多くの労力を必要とする場合などが考えられます。
法人の継続性を生かすケース
後見人の活動が長期間になり、個人の後見人が途中で亡くなることが予想されるケースです。たとえば、本人が若くして知的障害を患い、今後の長きにわたって成年後見人のサポートが必要となる場合などが考えられます。法人は、法律が決めた理由により解散しない限り、亡くなることはありません。
成年後見人であることの証明書が必要なケース
自分がある人の成年後見人であることを証明しなければならない場合、どうしたらよいでしょうか。たとえば、とても思い認知症のため成年被後見人となった高齢男性が、自分の土地をひとりで不動産屋に売ってしまったとします。
成年後見人となっている長男は、不動産屋に行って、「父は成年被後見人だ。私は父の成年後見人として、父があなたの会社と結んだ土地の売買契約を取り消す。」と言いました。不動産屋はおそらく、「あなたがお父さんの成年後見人である証拠はありますか。」と尋ねるでしょう。
ここで物を言うのが、後見登記がされていることの証明書です。正式には「後見登記事項証明書」といいます。「後見登記事項証明書」をもらうには、後見登記されている登記所に、「後見登記事項証明申請書」を提出します(サンプルはこちら)。
申請できるのは、成年被後見人本人、成年後見人、一部の親族などに限られています。申請の要件が整っていれば、「後見登記事項証明書」が発行されます(サンプルはこちら)。
本人(成年被後見人)が死亡した場合の成年後見人の対応
成年被後見人である本人が亡くなったとき、成年後見人はどのような対応が必要になるのでしょうか。「本人が亡くなって、自分はもう成年後見人ではないから、後のことは知らない。」と言えるのでしょうか。
本人の財産は成年後見人が管理
成年後見人は、成年被後見人が亡くなった後も、成年被後見人に関係する事務を行わなければなりません。これを、死後事務といいます。遺体の引取りと火葬、生前の医療費・入院費・公共料金等の支払い、預貯金の解約と払い戻し、遺産である建物の修繕などです。
成年被後見人が亡くなった時点で、成年後見人は成年後見人ではなくなります。成年被後見人に関係する事務を行う義務はなくなります。しかし、成年後見人が付くほどの人は、亡くなった後に死後事務を行う人がいないことが多いのが実状です。成年後見人が死後事務を行うことへの周囲の期待は高く、これを断りきれないのが人情です。
そこで民法は、成年被後見人が亡くなった後も、成年被後見人に関係する事務の処理を成年後見人の義務としました。これが、死後事務です。
成年後見人は本人の遺言を代理できる?
成年後見人であっても、本人の遺言を代理することはできません。
遺言は、遺言者の人生最後の思いを記した、ある意味、神々しいものです。理解力や判断力がほとんどなくなってしまった成年被後見人であっても、人生最後の思いは自分の手で記さなくてはなりません。それが、遺言のエッセンスに他なりません。
民法には、次の2つのことを定めた規定があります。ひとつは、人は15歳になれば遺言をすることができるという規定です。15歳になれば、遺言という形で自分の思いをきちんと記すことができるようになると民法は考えたのです。もうひとつは、成年被後見人がひとりで作った遺言は、成年後見人でも取り消すことができないという規定です。これらの規定を見ても、民法が遺言者の人生最後の思いをとても大切に扱っていることが分かります。
遺言のエッセンスは、遺言者の人生最後の思いにあります。成年後見人であっても、本人の遺言を代理できない理由は、ここにあります。
成年後見人を弁護士に相談するメリット
ある人に成年後見人を付けることを考えるとき、弁護士に成年後見人になってもらうこともできます。弁護士に成年後見人になってもらうメリットは何でしょうか。
審判申立ての時から任せることができる
弁護士を成年後見人候補者とする後見開始の審判なら、申立てから審判までの一連の手続を、弁護士にお願いすることができます。家族は、認知症や知的障害のある本人の介護に専念することができます。
不利な遺産分割となることを防ぐことができる
成年被後見人の親が亡くなるなどして、成年被後見人が相続人として遺産分割に参加しなければならなくなる場合があります。弁護士である成年後見人に遺産分割に参加してもらえば、法律に則った主張をきちんとしてもらえるので、成年被後見人に不利な遺産分割となることを防ぐことができます。
親族が高齢や遠方在住でも本人をサポートしてもらえる
本来なら成年後見人となるべき親などの親族が、高齢だったり、本人とは遠い所に住んでいたりすることで、成年後見人になったとしても、その役割を果たせない場合があります。こうした場合、本人の近くに事務所を構える弁護士に成年後見人になってもらえば、本人のサポートに欠けるところはありません。
成年後見人を弁護士に相談するデメリット
弁護士に成年後見人になってもらうデメリットは何でしょうか。
お金がかかる
弁護士に成年後見人になってもらうと、弁護士に成年後見人報酬を支払わなくてはなりません。2万円から6万円くらいといわれています。本人の財産の中から支払われます。
審判の手続も行ってもらうので、弁護士報酬も支払わなければなりません。10万円から20万円くらいといわれています。
悪質な弁護士の場合、財産を着服される
事例としては多くはありませんが、弁護士が、成年後見人として管理していた成年被後見人の財産を着服した事件が過去にありました。
成年後見人の設置が必要な場合、弁護士に相談を
成年後見人の仕事はケースによって難易度が異なりますが、一般的にいって苦労を伴います。他人の財産を扱うことは、精神的・肉体的・時間的に相当のエネルギーを費やします。成年被後見人である本人は、重度の認知症や知的障害を患う人たちです。こうした人たちを介護しながらの成年後見人業務は、特に大変です。
成年後見人になるのは、法律知識、財産の調査と管理の能力、交渉力を備えた人が最適です。こうした条件を備えた職種が、弁護士です。成年後見人の設置が必要な場合、まず弁護士に相談することから始めましょう。
法律のプロがスムーズで正しい相続手続きをサポート
- 相続人のひとりが弁護士を連れてきた
- 遺産分割協議で話がまとまらない
- 遺産相続の話で親族と顔を合わせたくない
- 遺言書に自分の名前がない、相続分に不満がある
- 相続について、どうしていいのか分からない