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和解による解決~交通事故裁判の1つのゴール
この記事で分かること
- 交通事故裁判の一つの決着方法として「裁判上の和解」があります。
- 裁判上の和解は「確定効」を有し、いったん合意が成立するとその内容は原則変更できません。
- 和解による解決では結果の見通しがつく、費用負担のリスクも避けられるといったメリットがあります。
交通事故裁判では「裁判上の和解」という解決方法があります。和解による解決では費用負担の軽減などのメリットがありますが、金銭面・精神面共に100%の満足は得られないデメリットもあります。和解による解決をすべきなのは敗訴の可能性が高い場合です。
交通事故トラブルの解決方法“裁判上の和解”とは
交通事故発生件数は近年減少傾向にはあるものの、ゼロには遠く及びません。交通事故紛争の解決方法としては「示談による合意」「判決」がよく知られていますが、実はその他にも「裁判上の和解」でケリがつくケースもあるのです。
交通事故紛争の解決の方法とは
法的紛争の解決策として認知度が高いのは訴訟ですが、交通事故においては加害者と被害者の間で争いが生じたときも、裁判まで発展するのは稀です。
交通事故トラブルの多くは示談で解決
2017年の交通事故発生件数は472,165件で、近年減少傾向にはあるものの、まだまだ日々至る所で発生しているのが現状です。そして交通事故において加害者と被害者の間で争いが生じたとき、ほとんどが示談による合意で決着がつきます。
訴訟でも判決までもつれ込むとは限らない
とは言え交通事故事件は過失割合や相当因果関係、後遺障害等級など複雑な要素を含み、中には当事者だけでは収拾がつかないケースもあります。
その際は訴訟に発展することになります。
“訴訟”と聞くと「白黒はっきりつける紛争解決方法」とのイメージを持つ人も多いでしょうが、実は裁判になった場合でも必ずしも判決までもつれ込むとは限りません。途中で和解が成立することもあるのです。
裁判上の和解とは
これを「裁判上の和解」と呼びます。ここでは裁判上の和解の特徴を簡潔に説明していきます。
敗訴リスクを避けられる、スピーディな解決が可能
言うまでもなく裁判で争う場合、勝訴するとは限りません。しかし和解での合意を図る場合、双方の歩み寄りによって解決することになるため裁判で白黒つける場合と異なり、敗訴リスクを避けられます。
また裁判は非常に長引くケースがありますが和解での決着を図る場合は、早ければ数か月で決着がつきます。つまり迅速な解決が見込めるのです。
裁判上の和解~流れ~
裁判上の和解は、交通事故トラブルにおいて、非常によく用いられる解決法です。ここからは裁判上の和解の流れや定義について詳しく見ていきましょう。
裁判上の和解について
“裁判上の和解”の言葉は多くの人にとって耳慣れないでしょう。私たちが日常生活を営む中でも「和解」をすることは度々ありますが、この「裁判上の和解」はこれとはどう違うのでしょうか?
法的な和解には「互譲性」と「紛争終結の合意」が必要
和解について民法695条に「和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。」との規定があります。つまり“当事者が互いに譲歩すること(互譲性)”と“その合意の目的が争いの終結にあること(紛争終結の合意)”が法的な和解の成立要件なのです。
裁判中に当事者間の話し合いのもと和解が成立することを裁判上の“和解”と呼びます。
主目的はあくまで互譲
裁判上の和解の目的はあくまでも“双方の歩み寄り”でありどちらが間違っているかを明らかにすることではありません。この点もわたしたちが日常生活で行う和解とは異なります。
裁判上の和解の流れ
では、裁判上の和解はどのようにして進められるのでしょうか。その流れを見ていきましょう。
裁判所による和解の勧試に応じれば話し合いが始まる
訴訟提起後、裁判所から和解での解決は不可能なのか、と問われることがあります。これを「和解の勧試」(民事訴訟法89条)と呼びます。
当事者双方が応じれば話し合いが始まります。
数回の期日で決着
裁判官が立ち会い当事者双方の話を交互に聞きつつ話し合いが進められます。一回の期日で終わることはほぼなく、通常何度かの期日を経て決着します。
なおこのとき必ずしも本人が話し合いに出頭する必要はありません。弁護士などに代理を頼むことも可能です。
和解成立後強制力をもつ「和解調書」が作成される
和解の成立後 「和解調書」が作成され、両当事者の自宅に送付されます。この和解調書は強制執行力を有し、相手方がその内容に従わなかった場合、差し押さえることができます。
また前述の通り、法的な和解成立には互譲性が必須となります。従って請求した賠償金が満額得られることはありません。加えて判決による決着の場合と異なり損害遅延金も請求できません。
「確定効」を有し和解成立後の異議申し立ては原則受け付けられない
和解は法的には諾成・有償・双務契約とされます。一種の契約であるためいったん和解調書が作成されると、その内容を覆すことはできません。これを「確定効」と言います。
裁判上の和解と他の解決法との比較
このように、裁判上の和解は当事者双方の歩み寄りを必要としながらもその合意内容は原則覆すことはできません。
つまり裁判上の和解は、判決と示談による合意の間を取ったようなトラブル解決方法であると言えるのです。
では、裁判上の和解を他の解決法と比較した場合の重要な違いはどのようなところにあるのでしょうか。
結果の見通しがつく
通常訴訟であれば、争いがどのように決着するのかは判決までわかりません。しかし裁判上の和解では結果を事前にある程度予測できます。結果の見通しがつく点は裁判上の和解の大きなメリットに数えられるでしょう。
裁判では敗訴リスクが付きまとう
裁判の場合、被告・原告の証拠調べや双方の言い分の聴取を経て、それらすべてを勘案して裁判官によって判決が出されます。証拠不十分として原告の言い分が認められず敗訴することも十分にあり得ます。しかしそもそも判決まで至らない和解では敗訴することもないのです。
結果がある程度わかる
また裁判の場合審理中に当事者が、結果すなわち判決を予測することはできません。一方、和解は言うなれば双方の落としどころを話し合いで探り合い、妥協点での解決を図るものです。
さらに交通事故における慰謝料などの賠償金額には基準が用意されており、そこから大きく乖離することはありません。そのため事前に結果の予測がつきます。行く末が分かるのと分からないのとでは気持ち的にも随分と違うでしょう。
迅速な解決が可能
前述のように和解を選択した場合、紛争が早く解決する点も和解による解決のメリットと言えます。
裁判の場合、異議申し立てがあれば上訴されることがありますが和解では上訴は生じません。ですからその分、スピーディな解決が可能になります。
費用も安く済む
加えて和解と通常訴訟では費用の面でも大きな違いがあります。
費用負担のリスクも避けられる
民事裁判では敗訴した場合原告側が費用を負担する必要がありますが、判決まで進まない和解ではその心配は無用です。
さらに、上訴された場合や強制執行手続きをすることになった場合には余計に費用がかかります。しかし、裁判上の和解ではそうした費用を抑えることができ、費用負担のリスクも避けられます。
和解による解決で知っておきたい点
ここまで裁判上の和解のメリットやデメリット、および流れなどを解説してきました。では実際に、裁判上の和解が行われるのはどの時点なのでしょうか。和解のタイミングを解説します。
タイミングに決まりはない
実は裁判上の和解が始められる時期とは厳格に決まっているわけではありません。区切りがよい時点ならいつでも始められます。具体的には第一回期日や審尋の前後が多いです。
実務上、裁判上の和解をすべきなのはどんなケースなのでしょうか。また、裁判上の和解ができないケースはあるのでしょうか。
和解すべきなのは敗訴の見込みが濃厚な場合
和解の選択をとるべきなのは、判決まで持ち込むと敗訴する可能性が高いとの判断に至った場合です。
実際には、勝訴を見込んで訴訟提起したものの、裁判進行の過程で自らの不利を悟り和解での解決へと“方向転換”するケースも多いです。
感情の対立が激しい場合などは和解は成立しない
和解できないケースとしては「一方の当事者の主張が公序良俗に反する場合」が挙げられます。公序良俗に反する主張では認められないので和解できません。
加えて当事者間の感情の対立が激しい場合もまず和解には至らないので、初めから訴訟にした方が時間も手間も省けるでしょう。
弁護士に依頼するのが得策
裁判上の和解をする場合、弁護士に依頼するのが得策です。
当事者間で和解が成立したら強制力のある和解調書が作成され、その内容を履行しなければ強制執行できることはすでに説明した通りです。
しかし和解条項に不備があった場合相手方が支払いに応じなくても強制執行できないことがあるのです。
過去に相手方が和解の内容を履行しなかったために強制執行をかけ退職金を差し押さえようとしたところ、和解条項に不備があり差し押さえ損ねた事例も存在します。
仮に相手方が和解の内容を履行しなくても、差し押さえ損ねる事態に陥ることはありません。従って費用はかかりますが、弁護士に依頼するのが得策と言えるわけです。
交通事故での解決は和解に応じるのが吉
和解の勧試に応じたからと言って、和解による決着を強制されるわけではありません。もちろん和解による解決を拒否したからと言って判決に影響が出るようなことはありませんが、和解による解決に応じても損はないでしょう。交通事故で和解をすすめられたら、一度は受け入れてみることが得策と言えます。
無料相談を活用し、十分な慰謝料獲得を
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