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交通事故の刑事処分~加害者に下る刑事処分の内容と取るべき対応
この記事で分かること
- 交通事故加害者に処される刑罰には禁錮、罰金、科料、懲役があります。
- 自動車事故加害者は通常「過失運転致死傷罪」に問われます。
- 減刑のための対策としては「示談を済ませておくこと」「被害者に嘆願書を出してもらうこと」などが挙げられます。
人身事故加害者は、刑罰として禁錮、罰金、科料、懲役のほか、「過失運転致死傷罪」や悪質なケースにおいては刑が加重され「危険運転致死傷罪」に、故意の場合は、殺人罪や傷害罪も適用されます。事故を起こしてしまったら誠心誠意の対応をすることが肝心です。
交通事故加害者に下る刑事処分について
自動車安全技術の向上や罰則の強化などにより、交通事故件数は減少傾向にあります。しかしながら、2017年の交通事故発生件数は472,165件で、まだまだゼロには遠く及ばないのが実際です。交通事故を起こした場合の加害者に下る刑事処分はどのようなものか、解説します。
刑事処分の種類
交通事故を起こした場合、加害者にはどんな刑事責任が科されることになるのでしょうか。
罰金
犯人から一定の金額を取り上げる刑罰です。納める額は1万円以上となります。検察庁から納付書が送付されてくるので、指定の金融機関に罰金を納めなくてはなりません。額はケースにより異なりますが、支払わないと身柄を拘束される可能性があります。
懲役
受刑者を監獄に拘束して強制労働を課する刑罰です。
禁錮
強制労働を課さないで受刑者を監獄に拘束する刑罰です。
科料
犯人から一定の金額を取り上げる刑罰です。罰金よりも軽い刑で、支払う額は1000円以上1万円未満です。
事故発生から刑事処分を受けるまでの流れ
このように刑事処分にもいろいろあり、どの刑に処されるかは事故の状況などによって異なります。次に事故発生から刑事処分を受けるまで流れを簡潔に解説します。
警察の取り調べ
事故後、まずは現場に駆け付けた警察により事故状況の調査などが行われます。人身事故の場合「実況見分調書」が物損事故では「物損事故報告書」が作成されます。飲酒運転や薬物使用、無免許など逃走や証拠隠滅の恐れがあるケースではそのまま逮捕、拘留される可能性もあります。その後警察や病院で事情聴取されます。
検察庁での取り調べ
次に検察庁で取り調べが執り行われ、検察官によって起訴・不起訴の判断が下されます。判断の要素となるのは
- 事案の悪質性の程度
- 本人が反省しているか
- 前科・前歴の有無
- 被害の大きさ
などです。不起訴となった場合、前科は付きません。
起訴処分になった場合、100万円以下の罰金または科料の刑が妥当である交通事故に関してはその後の手続きは「略式起訴」で処理されます。略式起訴では正式な裁判は行わず、書類審査により処理され刑が言い渡されます。
100万円以下の罰金または科料の刑が妥当ではない事故や、事件の内容が複雑で正式な審理が必要なケースでは「公判(正式な裁判)」で進められることとなります。
公判手続きの流れは
- 冒頭手続き(人定質問、起訴状朗読、黙秘権の告知、罪状認否)
↓ - 証拠調べ(検察官の冒頭陳述、検察官・弁護士の証拠調べ)
↓ - 被告人質問
↓ - 弁論手続き(検察官の論告・求刑、弁護人の最終弁論、被告人の最終陳述)
↓ - 判決
となります。
なお日々巻き起こる交通事故のすべてを公判手続きで処理すれば時間も手間もかかるので交通事故の刑事事件の内、大半は略式手続きで進められます。
交通事故での刑事処分の具体的な内容
このように加害者は禁錮、罰金、科料、懲役といった刑事処分が科されることとなります。交通事故加害者の処罰の根拠となる法律は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転処罰法)」、「道路交通法」、「刑法」です。では、どんな行為に対しどんな罪が成立するのでしょうか。
通常の事故は過失運転致死傷罪
通常の事故では過失運転致死傷罪(刑法211条2項)が適用されます。過失運転致死傷罪は、自動車を運転する際に必要な注意を怠り、人を死傷させた加害者に対し、適用されます。7年以下の懲役もしくは禁錮,または100万円以下の罰金を科する罪です(刑法211条2項)。
より悪質なケースでは刑が加重される
そして悪質なケースにおいては刑が加重され、過失運転致死傷罪ではなく危険運転致死傷罪(刑法208条)が適用されることになります。刑が加重されるのはどんなケースなのでしょうか。
危険な状態で致死傷事故を起こした場合
自動車運転を制御できない以下の状態で運転し人を致死傷させた場合、「危険運転過失致死罪」に問われます。
- アルコールや薬物の摂取により自動車を正常に制御できない
- 制御困難に陥るほどのスピードで自動車運転をしていた
- 人や他人の車の通行を妨害する目的で、危険な速度で接近したり割り込みをしていた
- 危険な速度で赤信号を故意に無視するなどしていた
- 運転に支障を及ぼすおそれがある持病がありながら運転し、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥った
これらの場合、致傷事故では「危険運転過失致傷罪」で1月以上15年以下の懲役、致死事故では「危険運転過失致死罪」で1年以上20年以下の懲役に処せられます(刑法208条の2)。
飲酒運転や薬物使用の発覚を恐れて逃亡した場合
また飲酒や薬物の影響により走行に支障が出る可能性がある状態で運転していた者が致死傷事故を起こし、飲酒運転ないし薬物使用が発覚することを恐れてその場を離れることによって体内のアルコールや薬物の濃度を下げ、罪から逃れようとした場合、“過失運転致死傷アルコール等影響発覚免除罪”に問われます。
元アイドルグループのメンバーが飲酒ひき逃げした事件は記憶に新しいでしょう。この場合12年以下の懲役刑に処されます。
無免許の場合
そしてもちろん無免許の場合も刑は加重されます。無免許で致傷事故を起こした場合15年以下の懲役、致死事故を起こした場合6ヶ月以上の懲役刑に処されます。
飲酒運転が加わった場合、酒酔いの程度によって刑の重さはかわってきますが、最長で15年以下の懲役刑に処されることとなります。
故意の場合
ここまでは過失で事故を起こした場合に成立する罪です。当然故意の場合、全く別のより重い刑に処されます。
傷害罪や殺人罪
故意で人を致死傷させた場合、傷害罪(刑法204条)や殺人罪(刑法199条)に問われることがあります。またひき逃げ後被害者が死亡した場合、「未必の故意」となり殺人罪が成立する可能性もあります。
罰則は殺人罪が死刑または無期もしくは5年以上の懲役、傷害罪が15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
交通事故での刑事処分の減刑
交通事故加害者には重い刑事罰が下され、長期の懲役に服すことにもなりかねません。ここで気になるのが刑事処分を減刑する方法はあるのか、またあるのならばどうすればよいのかでしょう。
示談を済ませると刑事処分は軽くなる
結論から言えば、刑事責任を軽くすることは可能です。その内の一つが示談を成立させておくことです。
示談とは賠償額などについて当事者間で合意すること
交通事故を起こした場合、加害者には刑事責任の他「行政責任(行政処分)」「民事責任」も発生します。刑事責任は既に説明したように、刑法や自動車運転処罰法に基づいて加害者に発生する責任です。
行政処分とは、行政機関である都道府県公安委員会によって「道路交通法」に基づき下される処分です。具体的には免許に関するもので、免停や免取があります。
民事責任とは損害賠償責任を指します。賠償の範囲、金額などについて当事者間で交渉し話をつける運びとなります。まとまらなければ民事訴訟で争います。訴訟によらず、当事者間で解決することを示談と呼びます。
示談の成立は被害者に積極的な処罰感情がないことを指す
そして本来であればこれら3つは別個に負うものなのですが、民事責任を果たす、すなわち示談を済ませておくことで刑事処分が軽くなるのです。
と言うのも民事責任は他の2つと異なり加害者が被害者に対して負う責任であり、示談の成立はもはや被害者は積極的に加害者の処罰を求めていないことを意味するためです。
更に加害者側にも謝意、誠意があるとみなされるわけです。
被害者に嘆願書を出してもらって減刑
また、被害者が厳罰を求めない旨の嘆願書を出した場合も情状酌量され、減刑される可能性があります。
誠心誠意の謝意・対応が大切
加害者を厳罰に処さないよう求める嘆願書を被害者がだしてくれれば、減刑はあり得ます。けれども、藪から棒に加害者の側から嘆願書を出してもらうよう被害者に依頼しても断られる可能性が高いです。
なぜなら被害者に同情してもらえないと嘆願書を出してもらうのは不可能だからです。従って事故後、誠心誠意の謝意・対応を示すことが必要です。
必ず減刑されるわけではない点に注意
またこの方法においては、確実に減刑されるわけではない点は頭に入れておきましょう。あくまでも過失で事故を起こしてしまった加害者が少しでも刑を軽くするために事故後にとれる対応であって、減刑される保証はないのです。
交通事故加害者に下る刑事処分のポイント
ここまでの解説で、交通事故加害者には重い刑事罰が科せられる可能性があること、「示談を成立させること」「被害者に嘆願書を出してもらうこと」などで刑事処分が軽くなる可能性があることなどがお分かり頂けたかと思います。
最後に交通事故の加害者に下る刑事処分について知っておきたいポイントについて確認しておきましょう。
相手を死傷させてしまっても刑事責任を負わないケースもある
交通事故で相手を死傷させた場合、基本的には刑事責任を負うことになります。しかし例外もあり、以下のようなケースでは刑事責任を負いません。
事故を起こした運転者が必要な注意義務を果たしていた場合
運転者が必要な注意義務を果たしていた場合に発生した事故は刑事責任を負わないことがあります。
例えば、加害者は必要な注意義務を果たしており交通規則も守って走行していたが被害者の違法行為によって事故が起きたケースでは、加害者に過失は認められず刑事責任を負わない可能性があるのです。
運転者に責任能力がなかった場合
また心臓発作やてんかん、脳梗塞などの病気によって運転中に意識がなくなり事故を起こした場合、心神喪失状態として刑事責任には問われません。
ただ、意識を失う可能性を事前に予期できたとみなされる場合、刑事責任に問われることとなります。
盲点になりがちなポイント
交通事故加害者に下る刑事処分については、広くは知られていないものの、押さえておくべきポイントが存在します。ここではそんな、盲点になりがちな注意点を紹介します。
罰金刑でも前科がつく
意外と知られていないのが、“罰金刑でも前科がついてしまう”点です。
その多くが過失犯である交通事故加害者は、往々にして罪を犯した自覚が薄いです。けれどもここまで解説してきたとおり、交通事故加害者はれっきとした犯罪者なのです。
そのためたとえ懲役刑にならず、罰金や科料で済んだ場合でも前科はつきます。
物損事故では原則刑事処分は負わないが例外も
交通事故加害者は刑事、行政、民事の責任を負うことになります。この内刑事責任に問われるのは基本的に人身事故、つまり負傷者がある場合のみです。
物件損害にとどまる物損事故では“原則として”刑事責任や行政責任は負いません。ただし、例外も存在するのです。
それは故意に他人の建造物を損壊させた場合です。この場合、「運転過失建造物損壊罪(道路交通法第116条)」に該当し、6月以下の禁固または10万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
道交法上の違反も刑罰に処され得る
交通事故の加害者は事故後負傷者の救護や警察への報告、安全の確保といった“緊急措置”をとる義務があります。
道路交通法で定められたこれらの行動を怠った場合緊急措置義務違反(道路交通法第72条)が適用されることがあります。罰則はケースによって異なります。
交通事故で刑事処分を受けたら弁護士に相談!
事故を起こした事実は変えることはできません。加害者になってしまったら、自分の犯した行動を深く反省し、誠心誠意の対応をすることが大切です。
そして、もし交通事故を起こし、刑事処分を受けることになったら、弁護士を依頼することが重要です。交通事故で逮捕されれば、情報が一生、警察のデータに残ることになり、様々な不利益があります。妥当な判決を受け、少しでも減刑するためにも、法律のプロである弁護士の存在は非常に大きなものです。
交通事故を起こしたら、交通事故に強い、弁護士にまずは相談するところから始めることをおすすめします。
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- 保険会社が提示した慰謝料・過失割合に納得が行かない
- 保険会社が治療打ち切りを通告してきた
- 適正な後遺障害認定を受けたい
- 交通事故の加害者が許せない