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交通事故・加害者にかかる法的責任~加害者が受ける罪状と罰則

この記事で分かること

  • 交通事故で加害者が負う責任はケースによって異なります。
  • 交通事故の加害者は刑事責任として「過失運転致死傷罪」や「危険運転致死傷罪」に問われることがあります。
  • 不正行為責任などを根拠に民事責任(賠償責任)も負うことになります。
  • 特定の事情がある場合は相手を死傷させてしまっても刑事責任を負いません。

交通事故で加害者が負う責任はケースによって異なり、刑事責任として「過失運転致死傷罪」や「危険運転致死傷罪」に問われることがあります。また減点処分や罰金支払いなど行政処分に問われることにもなります。更に不正行為責任などを根拠に民事責任(賠償責任)も負うことになります。加えて、違反行為に対しては道路交通法上の刑罰を科されることがあります。ただ、特定の事情がある場合は相手を死傷させてしまっても刑事責任を負いません。

交通事故加害者が負う責任とは

交通事故のニュースは毎日のようにメディアで報道されています。しかし被害者を不憫に思ったり同情したりすることはあっても、加害者に科せられる責任について深く考えることはしない人がほとんどではないでしょうか。

けれども交通事故は例えば「子供が急に飛び出してきた」あるいは「思いがけないところにタイヤが落ちていた」など、多くが突発的事態の発生が原因となっていると言えます。

とすれば私たちもいつ加害者になるかわからないわけで、いざというときのために、その辺りの知識を持っておく必要があるのです。

加害者にはどんな責任が生じるの?

交通事故に慣れている人はそうはいません。ですから当事者、それも加害者ともなれば、「免許はどうなるの?」「被害者に対する賠償は?」などなど自分が負うことになる責任についていろいろな不安がよぎることでしょう。

交通事故加害者が負うことになる法的責任は「刑事責任」「行政処分」「民事責任」の3つです。まずはこれらの意味を簡潔に解説します。

刑事責任

刑事責任とは犯人が、国から罰則を科される法律上の責任です。「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」に基づき所定の刑罰を受けることになります。具体的には罰金や懲役、禁錮刑などに処せられます。また過失、つまり不注意で事故を起こしてしまっても罰則が科されます。

行政処分

交通事故における行政処分とは、行政機関である都道府県公安委員会によって「道路交通法」に基づき下される処分です。具体的には免許に関するもので、免停や免取があります。また軽微な違反については反則金を収めることで刑事罰を免れる“行政刑罰”と呼ばれる処分もあります。

民事責任

交通事故における民事責任は端的に言えば損害賠償責任のことです。基本的に賠償の範囲、金額などについて当事者間で話をつける流れとなりますが、和解しない場合は最終的には訴訟での解決を試みることになります。

ケースによって異なる

けれども一口に交通事故と言っても人身事故と物損事故があり、人身事故の場合更に致傷事故と致死事故に分かれます。そしてケースによって加害者が負う責任が異なることがあるわけです。

物損事故で負うのは原則行政責任と民事責任のみ

交通事故にも損害が物だけに及ぶ「物損事故」と人にも及ぶ「人身事故」があります。人身事故の場合、刑事責任を問われることとなりますが、物損事故では原則、行政責任と民事責任にのみ問われます。

ただし物損事故でも、故意に起こした場合や飲酒運転など悪質な運転をしていた場合など刑事罰を受けるケースもあります。加害者が受ける法的責任について次章から詳しく見ていきましょう。

ワンポイントアドバイス
交通事故の加害者が負う責任は「刑事責任」「行政処分」「民事責任」の3つですが、問われる責任はケースによって変わります。

交通事故の加害者にかかる法的責任~刑事責任・行政処分~

交通事故の加害者にかかる法的責任の内、社会秩序の維持や道路交通の安全確保のためのものが懲役や禁錮、罰金刑と言った「刑事責任」、免停や免取などの「行政処分」です。

刑事責任

人身事故を起こした場合加害者には、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転処罰法)により「過失運転致死傷罪」や「危険運転致死傷罪」などに問われることがあります。それぞれの罰則を見ていきましょう。

過失運転致死傷罪

過失運転致死傷罪は、自動車を運転する際に必要な注意を怠り人を死傷させた加害者に対し、7年以下の懲役もしくは禁錮,または100万円以下の罰金を科する罪です(刑法211条2項)。

なお一般的な過失の処罰規定として業務上過失致死傷罪がありますがこの場合の刑は、「5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」です。

つまり自動車の過失致傷事故は一般的な過失によるものよりも責任が重いと規定されているのです。

危険運転致死傷罪

危険運転致死傷罪は、過失運転致死傷罪よりも悪質なケースに適用されます。人に怪我をさせた場合「危険運転過失致傷罪」で1月以上15年以下の懲役、人を死亡させた場合は「危険運転過失致死罪」で1年以上20年以下の懲役に処せられます(刑法208条の2)。この罪が適用されるのは、以下のような状態で人を致死傷させる自動車事故を起こした場合です。

  • アルコールや薬物の摂取により自動車を正常に制御できない状態にあった場合
  • 制御困難に陥るほどの拘束で自動車運転をしていた場合
  • 人や他人の車の通行を妨害する目的で、危険な速度で接近したり割り込みをしていた場合
  • 危険な速度で赤信号をわざと無視するなどしていた場合

つまり“自動車を制御できない状態”であるか否かが危険運転致死傷罪の適用基準の一つとなっているのです。ですから例えば同じ飲酒運転をした場合でも、ある程度正常な運転ができていたのであれば危険運転致死傷罪ではなく過失運転致死傷罪が適用されることになります。

行政処分

また、加害者には行政上の責任も科されます。具体的には免許に関するもので、減点処分や罰金の支払いなどがあります。

免停や免取

ご存知の通り日本では「運転免許点数制度」が採られています。これは自動車やオートバイなどによる交通事故・交通違反を起こした人に対し、事故や違反の種類に応じて所定の点数が付点されるものです。

点数には交通違反の「基礎点数」と交通事故の「付加点数」があり、交通事故の場合事故原因となった交通違反の基礎点数に加えて、負傷者の怪我の程度と事故の責任の程度に応じて付加点数がつけられます。

そして違反点数が一定の基準に達すると、運転免許の効力停止(免停)や運転免許の取り消し(免取)の行政処分が執られるわけです。

交通反則金支払い

交通反則金の支払い義務も生じますが、これは刑事罰の「罰金」とは意味合いが異なります。罰金は刑事裁判で罰則が定められたときのものを指すのに対し、反則金は交通反則通告制度に基づく行政処分としての過料です。

ワンポイントアドバイス
交通事故の加害者は刑事責任として「過失運転致死傷罪」や「危険運転致死傷罪」に問われることがあります。また減点処分や罰金支払いなど行政処分に問われることもあります。

交通事故の加害者にかかる法的責任~民事責任~

このように交通事故の加害者は刑事責任や行政処分に問われ、悪質な場合、免停や免取、懲役刑になることもあります。しかし交通事故の場合絶対に忘れてはならないのが被害者に対する責任、すなわち民事上の責任です。

民事責任

交通事故の加害者は民事上の責任も負うことになります。行政処分や刑事責任は社会的責任として負うべきものであるのに対し、民事責任は交通事故の被害者に対して負うものである点で異なります。

交通事故における民事責任は損害賠償責任を指す

交通事故で加害者が被害者に対して負う責任として思い浮かぶのが、損害賠償責任でしょう。交通事故における民事責任は損害賠償責任を言います。

相手方の治療費や入院費などを賠償する責任がある

具体的には相手方の怪我の治療費や入通院費などを賠償する責任があります。損害賠償金の他にも精神的苦痛に対して慰謝料を支払わなければならないケースも少なくありません。例えば相手方に後遺障害が残った場合など、その程度に応じた慰謝料を請求されることがあります。

民事責任を負う法的根拠は

もちろん“事故を起こして相手に迷惑をかけたのだから”民事責任を負うことになるわけですが、きちんとした根拠は押さえておくべきでしょう。では、交通事故加害者がこうした民事責任を負う法的根拠は何なのでしょうか。

不正行為責任

まず、第一の根拠は「不正行為責任」です。民法では不法行為責任について以下のように規定しています。

「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う(709条)」

不法行為責任は、ある行為が他人に損害を与えた場合、加害者がその損害に対して賠償をすることで当事者間における損害を“イーブン”にしようという考え方による決まりです。

交通事故の場合、事故を起こし他人の身体や生命、財産を脅かしているので不正行為にあたり賠償責任が発生するのです。なお不正行為責任は自動車事故に限らず、バイク事故や自転車事故の場合にも発生する責任です。

運行共用者責任

また、自動車事故の場合科されることがあるのが運行供用者責任です。運行供用者責任については次のように規定があります。「自己のために自動車を運行の用に供する者は,その運行によって他人の生命又は身体を害したときは,これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。 (自動車損害賠償法第3条)」

一般に不法行為の賠償責任は直接の加害者のみに発生します。しかしこの条文では、自動車事故において「自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)」が損害賠償責任を負うことになるとしています。

ワンポイントアドバイス
ここで言う運行供用者は、自動車運行を制御し運行によって利益を得る者を指します。従って、事故時の運転手のみならず自動車の所有者にも賠償責任が発生するわけです。

交通事故における加害者の法的責任のポイント

ここまで「民事責任」「刑事責任」「行政処分」を交通事故加害者にかかる法的責任として挙げて説明してきました。しかし実はこの外にも、道路交通法上の罰則があるのです。

道路交通法上の刑罰

前述の通り道路交通法に違反した場合原則「反則」で処分を受けることになります。

しかし道路交通法第8条で定められた違反行為を行った者に対しては刑罰が下されるのです。そのうち交通事故に関する主な違法行為とその罰則については次のようなものが挙げられます。

交通事故を起こし死傷者が出した場合に救護する義務を果たさなかった場合(117条)

事故で死傷者が出た場合、加害者には救護義務が生じ、怠った場合5年以下の懲役または50万円以下の罰金刑に処されます。その事故が運転者によって引き起こされたものであれば10年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。

業務上の過失によって他人の建造物を損壊した場合(116条)

これはすなわち業務上の物損事故の場合です。6か月以下の禁固または10万円以下の罰金刑に処されます。

相手を死傷させてしまっても刑事責任を負わないケース

交通事故で相手を死傷させた場合、基本的には刑事責任を負うことになります。しかし例外もあり、以下のようなケースでは刑事責任を負いません。

必要な注意義務を果たしていた場合

運転者が必要な注意義務を果たしていた場合に発生した事故は刑事責任を負わないことがあります。

例えば、加害者は必要な注意義務を果たしており交通規則も守って走行していたが被害者の違法行為によって事故が起きたケースでは、加害者に過失は認められず刑事責任を負わない可能性があるのです。

運転者に責任能力がなかった場合

また心臓発作やてんかん、脳梗塞などの病気によって運転中に意識がなくなり事故を起こした場合、心神喪失状態として刑事責任には問われません。ただ、意識を失う可能性を事前に予期できたとみなされる場合、刑事責任に問われることとなります。

ワンポイントアドバイス
違反行為は道路交通法上の刑罰を科されることがあります。また、特定の事情がある場合は相手を死傷させてしまっても刑事責任を負いません。

交通事故で加害者になったら弁護士に相談

車の安全性能の進化により、交通事故を未然に防げる可能性は高くなったと言えます。しかし、それがかえって油断を招くことも考えられます。交通事故は加害者・被害者双方の人生を狂わせかねないので、運転時は常に細心の注意を払うようにしましょう。

交通事故で加害者になってしまったら、事故の大小にかかわらず、できるだけ速やかに弁護士を依頼することが大切です。これから自分がどのように行動するべきか弁護士に相談し、適切な対応をこころがけましょう。

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