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自営業・個人事業主でも休業損害は請求できる?

この記事で分かること

  • 自営業・個人事業主でも休業損害を請求できる
  • 自営業・個人事業主の休業損害は営業実態を立証しづらく、会社員と比べ減収の有無や金額で保険会社と争いになりやすい
  • 自営業・個人事業主でも自賠責基準による最低限の休業損害はもらえるが、被害者に有利な弁護士基準で請求するのがベスト
  • 「確定申告していない」「事業が赤字」など特別な事情のあるケースでは、個別の休業損害請求方法がある
  • 自営業・個人事業主の休業損害は、交通事故による損失の影響を保険会社にどう認めさせるかが重要
  • 自営業・個人事業主の休業損害は弁護士に相談を

自営業・個人事業主の休業損害は、会社員にとっての会社のように損害を立証してくれる第三者がいないため、保険会社との間で争いになりやすいです。したがって、適正な休業損害をもらうためには、交通事故による損失の影響をどう保険会社に認めさせるかが重要です。自営業・個人事業主の休業損害でお悩みの場合は、弁護士に相談しましょう。

自営業・個人事業主でも交通事故による休業損害は請求できる

傷病手当や有給休暇のない自営業・個人事業主の場合、交通事故被害により休業し、本来得られるはずの収入が減ってしまうと、すぐ生活に行き詰まってしまうことも少なくありません。

では、こうした事態を防ぐため、自営業・個人事業主が加害者・保険会社に休業損害を請求することはできるのでしょうか?

結論から言えば、自営業・個人事業主の休業損害は請求が可能です。

自営業・個人事業主の休業損害は、保険会社と争いになりやすい

もっとも、自営業・個人事業主の場合、事故によって休業し本来得られるはずの収入が減っても、会社員にとっての会社のように、休業損害を証明してくれる第三者がいません。そのため、自営業・個人事業主は、減収の有無や金額などで保険会社と争いになる事例が非常に多いです。また、店舗家賃などの休業中の固定経費を損害とするか否かなど、会社員
にはない自営業・個人事業主特有の問題もあります。

本記事では、自営業・個人事業主が休業損害を請求するにあたり、基本となる計算方法や、事例別にみる請求方法を詳しくご説明します。

ワンポイントアドバイス
自営業・個人事業主の休業損害では、会社員にはない様々な問題があるため示談交渉が難航しやすく、保険会社が休業損害の先払いを認めないケースが見受けられます。こうした場合には、差し当たっての生活費を確保するため、比較的認めてもらいやすい入通院慰謝料の先払い交渉をするのも一つの手です。交通事故に詳しい弁護士であれば、休業損害だけではなく他の損害費目も考慮しながら適切な交渉をしてくれますので、お悩みの場合には弁護士に相談しましょう。

自営業・個人事業主の休業損害計算方法

自営業・個人事業主の休業損害には、「自賠責基準」「任意基準」「弁護士基準」の3つの基準による計算方法があります。

自賠責基準

自賠責基準とは、交通事故の被害者への最低限の補償として、自賠責保険が法律に基づき保険金を支払う際の基準です。

自賠責基準での休業損害は、
日額6100円(※)×休業日数
で計算します。

なお、休業損害が日額6100円を超えることを立証できる資料等があれば、1万9000円を上限としてその実額を認めてもらえることもあります。

(※)事故日が2020年4月1日以降の場合です。事故日が2020年3月31日までの場合は、一律に日額5700円で計算します。

交通事故による減収が発生していれば自営業・個人事業主でも休業損害は払ってもらえる

自営業・個人事業主でも自賠責保険から休業損害を支払ってもらうことは可能です。
先に述べたように、自賠責保険は交通事故の被害者への最低限の補償であるため、実際に働けず減収が発生している以上は、自営業・個人事業主でも最低限の休業損害を補償すべきであると考えられているからです。

任意保険基準

任意保険基準は、任意保険会社各社が独自で用いている基準で、一般には公開されていません。もっとも、自賠責基準と同等かやや高い金額で休業損害を計算されることが多く、後述する弁護士基準と比較すると、ずっと低い金額で休業損害を提示される事例が多いです。

自営業・個人事業主は、減収の有無を保険会社に問題視されやすい

というのは、自営業・個人事業主の場合には、事故によって本当に収入が減ったのかという点や、本当に休業したのかという点を保険会社に問題視されやすいからです。

もし、保険会社に適正な金額での休業損害を認めてもらえない場合には、弁護士などの専門家に相談するとよいでしょう。

弁護士基準

弁護士基準は、3つの基準の中で被害者にもっとも有利な基準です。ただし弁護士基準は、法的知識を持つ弁護士のみが使える基準であり、素人の被害者が使うことは、通常認められません。

自営業・個人事業主の休業損害の計算方法

弁護士基準での自営業・個人事業主の休業損害は、
1日あたりの基礎収入×休業日数
で計算します。

この計算方法は、会社員の場合と同じです。ただし、「1日あたりの基礎収入」と「休業日数」を算出するのは、会社員の場合よりも難しいです。
会社員であれば、会社が発行してくれる休業損害証明書や源泉徴収票などがあれば、「1日あたりの基礎収入」も「休業日数」も比較的スムーズに算出でき、保険会社も認めてくれやすいのですが、自営業・個人事業主の場合には、様々な立証資料を用意せねばならず、その算出方法は複雑です。

以下で、「1日あたりの基礎収入」と「休業日数」の算出方法を見てみましょう。

1日あたりの基礎収入

1日あたりの基礎収入は、事故前年度の確定申告書や納税証明書、課税証明書などの立証資料をもとに、以下の計算方法で算出します。

(所得金額+固定経費)÷365日(うるう年の場合は366日)=1日あたりの基礎収入

店舗家賃や保険料、従業員の給料、税金などの固定経費は、休業していても支払う必要があります。したがって、所得金額だけではなく、休業中でも支払いが必要な固定経費も、確定申告書に添付する収支内訳書や、支払い明細書などの立証資料を提出して損害賠償請求ができます。

休業日数

休業日数は、入通院により実際に休業した日数を計上します。また、医師の指示によって自宅療養した場合には、その日数を休業日数に計上できる場合もあります。

休業日数を証明するためには、医師の診断書や営業日報、売上帳などを用います。

もっとも、明らかに通院の必要性がないのに通院している場合は休業日数の対象にはなりませんので、注意が必要です。

ワンポイントアドバイス
年度によって所得が大幅に変動している場合には、事故前年度の所得ではなく、直近数年間の所得の平均額を基礎収入とするケースもあります。交通事故に詳しい弁護士であれば、基礎収入の算出に際しどちらの方法が適切かアドバイスしてくれますので、お悩みの場合には相談してみましょう。

事例別にみる自営業・個人事業主の休業損害請求方法

確定申告していない事例

自営業・個人事業主の中には、確定申告していない事例が少なからずあります。そうすると、所得証明書や課税証明書といった収入を証明するものがないため、保険会社の中には休業損害を払い渋るパターンが見受けられます。

しかし、

  • 自賠責保険の休業損害支払基準である日額6100円を基礎とする
  • 通帳や売上帳といった資料をもとに実収入を基礎とする
  • 厚生労働省による賃金センサスの平均賃金などを基礎とする

といった方法で休業損害を請求することが可能です。

実収入を基礎としたいなら弁護士に相談を

もっとも、無申告の場合、納税義務を果たしていないとして保険会社から厳しく見られますし、仮に裁判になった場合でも、同様の理由から裁判官の心証を悪くする可能性も高いため、実収入を基礎として休業損害を請求するのは実際的には難しい方法と言えるでしょう。

こうした事情から、通常は他の2つ、自賠責ベース あるいは 平均賃金ベースの方法で請求することが多いですが、どうしても実収入を基礎として請求したいという場合には、交通事故の休業損害に詳しい弁護士に相談するのが得策です。

確定申告書の所得が実収入よりも少ない事例

原則は確定申告書の所得を基礎とする

自営業・個人事業主の中には、税金対策の目的や税務処理の難しさなどから、確定申告書の所得が実収入よりも少ない事例があります。こうした過少申告の事例では、自営業・個人事業主の休業損害はどうなるでしょうか?

被害者としては、より有利な実収入を基礎として休業損害を計算したいところですが、原則は確定申告書の所得を基礎として計算します。

ただし、実収入が確定申告書の所得を上回ることを立証できれば、実収入を基礎とするのを保険会社や裁判所に認めてもらうことが可能です。

開業準備中の事例

賃金センサスによる平均賃金などを基礎とする

自営業・個人事業主として開業準備中の事例でも、休業損害の請求が可能です。ただし、開業準備中の事例では、実際にはまだ収入が得られていない状態ですから、本来得られずはずだった収入が減少したことを立証するには相応のハードルがあります。

そこで、休業損害を認めてもらうために、

  • 開業の蓋然性(交通事故に遭わなければ開業したであろうことの確実性)
  • 被害者の年齢
  • 被害者の経歴、前職の職種
  • 事故前の収入

などの主張・立証が必要となります。

そのうえで、賃金センサスによる平均賃金などを基礎として請求していきます。

開業準備中で休業損害が認められた判例

開業準備中で休業損害が認められた実際の判例をご紹介すると、被害者(男性)が蕎麦屋の開業準備中であった事例において、年収342万2930円を基礎収入として休業損害を計算することが認められています。

なおこの基礎収入の認定では、被害者(男性)は事故当時34歳で、前職では蕎麦屋の従業員として10年以上の勤務経験があったこと、事故日から後遺障害症状固定までの労働能力が健常時の70%程度にまで低下していたとされたことなどにより、賃金センサス男性労働者学歴計の該当年齢層(30歳ないし34歳)平均年収の7割を基礎収入とすることが相当であるとされました(東京地裁 平成21年11月21日判決)。

事業拡大中の事例

今年の収入を基礎とすることも可能

事業の開始が事故前年であったり、事故前に新規事業が好調になってきたりなど事業拡大中の事例では、事故前の収入を基礎収入として休業損害を計算すると実態にそぐわなくなります。

この場合には、事故に遭わなければ事業が拡大し、事故前よりどのくらい収入が増えていたかを立証できれば、事故前ではなく今年の収入を基礎として休業損害を認めてもらうことが可能です。

具体的な立証方法としては、事故前の事業内容、事業計画などからどのくらい収入が増えていたかを主張することとなります。

事業が赤字だった事例

事業が赤字だった場合、休業損害がもらえるのか心配になる方もいらっしゃるでしょう。ですが、事業が赤字だった場合でも、休業損害の請求は可能です。

実際に請求する際には、以下のいずれかの方法で計算します。

固定経費から休業損害の基礎収入を計算する

自営業・個人事業主が事業をする際には、人件費や店舗家賃など、売上の増減に関わらず発生する固定経費があります。交通事故被
害により営業ができなかった場合でも、固定経費は支払わねばなりませんので、この無駄に支払わねばならなかった固定経費を休業損害の基礎収入として計算することができます。

固定経費は、確定申告書に添付する収支内訳書や、実際に固定経費の支払いを行った資料(支払い明細書など)を用いて請求します。具体的には、事故前年の収支内訳書と固定経費の支払い資料を用意し、その金額を365日(うるう年の場合には366日)で割って1日あたりの基礎収入を出します。

拡大した損失額を基礎収入とする

事業がもともと赤字で損失が出ていても、交通事故で休業したことにより売上が減少するなどし、損失額が事故前よりも拡大する場合があります。

このような事例では、事故前と事故後の損失額の差額、つまり拡大した損失額を休業損害と考えて基礎収入を計算するという方法もとれます。

賃金センサスの平均賃金を基礎収入とする

厚生労働省による賃金センサスの平均賃金を基礎収入として請求する方法もあります。

賃金センサスでは、性別・年齢・学歴・職種などごとに平均賃金を算出していますので、被害者の属性に当てはまるケースの平均賃金を、休業損害の基礎収入とします。

ただしこの場合には、交通事故に遭わなければ賃金センサスの平均賃金と同程度の収入を得ていたであろうことの蓋然性(確実性)を、きちんと立証する必要があります。

交通事故被害により廃業した事例

減収分のほかに廃業に要した費用などが認められる場合も

交通事故被害により事業を続けられず、やむなく廃業する事例があります。こうした場合には、減収分のほかに、廃業に要した費用や、設備投資など開業費用の一部も休業損害として認められる場合があります。

実際、美容院の経営者に対し、事故に遭わなければ美容院の経営を継続していたことが推認されるとして、事故から約2年前に支払った開業費用のうち、約50%を休業損害として認めた判例があります(高松高裁 平成13年3月23日判決)。

家族と一緒に自営業をしていた事例

事故前の所得から家族の寄与分(貢献)を差し引いて計算する

家族と一緒に自営業をしていた事例では、被害者が事故前に得ていた所得は、被害者の力だけではなく、家族の寄与分(貢献)も含んだうえで得られたものだと考えます。したがって、事故前の所得全額を被害者の基礎収入として計算してしまうと、事故に遭っていない家族の分まで休業損害を請求することになり、フェアではありません。

そのため、家族と一緒に自営業をしている事例では、所得額から家族の寄与分(貢献)を差し引き、被害者1人の休業損害を計算します。具体的にどう差し引くかについては、事業規模や家族の関与の程度などを考慮して判断します。

代替労働力として人を雇い入れた事例

代替労働力に支払う費用を休業損害とする

交通事故に遭った自営業・個人事業主の中には、休業を避けるため、自分の代わりになる労働力として人を雇い入れる事例があります。

こうした場合、事業は継続していますが、代替労働力に支払う費用が発生しますので、この損失を休業損害として請求することができます。

また、代替労働力を利用してもなお所得が減少した場合には、代替労働力に支払う費用の他に、減少した所得分についても休業損害として請求できます。

実際の判例では、開業歯科医が事故で診療できず他の歯科医師に代診を依頼した際の給与を休業損害として認めた事例(横浜地裁 平成15年3月7日判決)や、新聞販売店の経営者が、事故で新聞配達を行えず、代行の配達要員に支払った派遣料を休業損害として認めた事例(大阪地裁 平成11年8月31日)などがあります。

ワンポイントアドバイス
自営業・個人事業主の休業損害には、事業内容などによりさまざまなケースが考えられます。したがって自営業・個人事業主の場合には、個別具体的な事情を考慮して休業損害を計算・請求する必要があります。交通事故に詳しい弁護士であれば、豊富な知識と経験から自分のケースに即した休業損害計算・請求のサポートをしてくれますので、一度相談してみましょう。

自営業・個人事業主の休業損害でお悩みの場合には、弁護士に相談を!

まとめ:自営業・個人事業主の休業損害は自分のケースに合った計算・請求をしよう

自営業・個人事業主の休業損害計算方法には、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つの基準があります。その中で被害者に最も有利なのは、弁護士のみが使える「弁護士基準」です。

「弁護士基準」では、「所得金額+固定経費」を365日(うるう年は366日)で割った金額を1日あたりの基礎収入と考え、この基礎収入に休業日数をかけて休業損害を計算します。

自営業・個人事業主の休業損害請求方法は、「無申告」「過少申告」「事業が赤字」など事例ごとに大きくことなるため、休業損害請求をする際には交通事故に詳しい弁護士に相談するなどして、自分のケースでの個別具体的な事情を考慮した適正な請求をしましょう。

自営業・個人事業主の休業損害に詳しい弁護士なら、スムーズに休業損害を請求してくれる

繰り返しますが、自営業・個人事業主の休業損害は、確定申告書をはじめ様々な資料を用意せねばならならず、基礎収入の計算にも複数の方法があるため、適正な損害賠償を受けるためにはさまざまなハードルがあります。

しかし、自営業・個人事業主の休業損害に詳しい弁護士なら、こうした問題をクリアしてスムーズに休業損害を請求してくれます。

というのは、自営業・個人事業主の休業損害に詳しい弁護士は、数多くの休業損害の判例の中から、自分の相談者のケースに近く、かつ有利な判例を参考に、保険会社や裁判所を納得させる法的主張・立証をしてくれるからです。

今は初回法律相談料を無料にしている弁護士や、着手金ゼロで完全成果報酬型にしている弁護士も多いため、自営業・個人事業主の休業損害でお悩みの場合には、一度弁護士に相談することをお勧めします。

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