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悪意の受益者とは?過払い金返還のルール理解のための基礎知識
この記事で分かること
- 悪意の受益者とは利息制限法で禁止されていると知りながらそれを超える利息を受け取っていた貸金業者のこと
- 悪意の受益者は受けた利益を年5%の利息をつけて返還しなければならない
- 過払い金請求の時効は最終の返済日から10年
過払い金は、弁護士に相談することによりほとんどのケースで争いなく受け取れます。また、貸金業者が悪意の受益者であった場合の利息についても、受け取れる場合もあります。今回は、悪意の受益者の過払い金請求における意味、貸金業者の反論と裁判の判例、およびリボルビング払いについての判例についてご紹介します。
「悪意の受益者」の過払い金返還請求における意味とは?
それでは最初に、「悪意の受益者」の過払い請求における意味を見ていきましょう。「悪意」とは、一般に使用される場合とは意味が異なり、民法で使用される法律用語です。
悪意の受益者とは利息制限法で禁止されていると知っていながらそれを超える利息をとっていた貸金業者のこと
「過払い金」とは、利息制限法で定められている利率を超えて支払った利息のことです。利息制限法第1条において貸金業者の利息について、
「金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。」
- 元本の額が10万円未満の場合 年20%
- 元本の額が10万円以上100万円未満の場合 年18%
- 元本の額が100万円以上の場合 年15%
と定められています。したがって、利息制限法を超える利率でお金を貸していた貸金業者は「不当利益」を得ていたことになります。
法的な根拠がない不当な利益を得ている人のことを民法では「受益者」と呼びます。「悪意の」とは、「法的な根拠がなく不当であることを知りつつも」の意味で、「悪意の受益者」は、「法的な根拠がなく不当であることを知りつつも不当な利益を得ていた人」の意味となります。
ここでは、「法的な根拠」は利息制限法のことですので、過払い金返還請求において悪意の受益者とは、
「利息制限法で禁止されていると知っていながらそれを超える利息でお金を貸していた貸金業者」
の意味となります。
民法704条で悪意の受益者は受けた利益に利息をつけて返還しなければならないと定められている
民法703条において、「不当利益を得た受益者はその利益を返還する義務を負う」と定められています。この条文を根拠として、貸金業者は過払い金を返還する義務を負っていることになります。
さらに、民法704条において、「悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない」との定めがあります。悪意の受益者は、不当利益をただ返還すればいいわけではなく、利息をつけて返還しなければならないというわけです。
利息の起算点・基準時は過払い金が発生したときから
悪意の受益者がつけなければならない利息は「5%」です。利息の起算点・基準時は、平成21年9月4日の最高裁の判決により、「過払い金が発生した段階から」との判例ができました。
参考:過払い金とは?返還請求する3つのデメリットと注意点を解説
悪意の受益者についての貸金業者からの反論と裁判の判例
上で見た通り、不当利益の受益者は受けた利益を返還しなければなりません。さらに、それが悪意である場合には、ただ返還するのみならず利息をつけなければならなくなります。
貸金業者にとってみれば、過払い金はいずれにせよ返還しなければならないとして、それが善意で得たものなのか悪意で得たものなのかによって返還額が大きく違ってくることになります。
そこで貸金業者は、「自分たちは善意の受益者だ」と反論していくことになります。貸金業者の反論と、それに対する裁判の判例を見ていきましょう。
貸金業者は「みなし弁済」の要件を満たしていると思っていたと反論
貸金業者の反論の論点は、「貸付は『みなし弁済』の規定を満たしていると思っていた」というものです。
みなし弁済とは、旧貸金業法43条により、利息制限法による規定を超える利息での貸出しを例外的に認めるもので、現在は削除されています。
- 貸金業者が貸金業登録されていること
- 貸付の際に、貸金業規制法17条書面(契約年月日が記載されている)を借主へ交付していること
- 弁済を受け取った際に、貸金業規制法18条書面(契約年月日が記載されている)を借主に交付していること
- 借主は、利息を任意で支払ったこと
がその要件とされました。
「利息制限法の規定は知っていたけれど、自分たちは、きちんと要件を満たしたみなし弁済であると思っていた。だから、悪意の受益者ではない」
というのが、貸金業者の言い分です。
平成18年の最高裁判決 …みなし弁済は適用されない
それに対して、平成18年1月13日の判決で、貸金業者の言い分を最高裁が否定しました。
最高裁が問題としたのは「借主が利息を任意で支払うこと」とのみなし弁済の要件についてです。貸金業者が借主と交わす契約に「利益喪失特約」がある場合には、返済が遅れると借主は残金を一括して支払わなければならなくなります。そのような契約のもとでの支払いは「任意」であるということはできず、借主は事実上、一括返済の恐れによって「支払いを強制されていた」と判断しました。
貸金業者の契約には、必ずといっていいほど利益喪失特約がつけられています。したがって、この最高裁の判決は、ほとんどの貸金業者の貸付について「みなし弁済は適用されない」と判断されたことに等しくなります。
平成19年の最高裁判決 …悪意の受益者であると推定できる
ただし、上の判決だけでは貸金業者にしてみれば、「今になってみなし弁済が適用されないと言われても、貸付をしていたときはみなし弁済が適用されると思っていたから、自分たちは善意の収益者だ」と主張することができます。したがって、過払い金を請求する側にとっては、貸金業者の「悪意」を立証しなければ、過払い金の利息をつけての返還を求めることができないこととなっていました。
それに対し、平成19年7月13日の判決により最高裁は、「みなし弁済の要件を満たすことを認識するに至るやむを得ない理由がある場合を除き、貸金業者を悪意の受益者と推定する」と判断しました。
利息制限法による規定を超える利息の契約は、利息制限法の定めによって原則として無効となるのですから、みなし弁済によってそれが有効になるのはあくまでも例外です。したがって、みなし弁済が適用されない以上は、制限を超過して受け取った利息は言うまでもなく借主に返還されなければならないわけで、それは貸金業者も認識していたはずであるとの判断です。
この判決により、貸金業者が「やむを得ない理由」を立証しない限り、制限を超える利息の受け取りは「悪意の受益者である」と判断されることとなりました。
平成21年の最高裁判決 …平成18年以前の貸付はかならずしも悪意といえない
しかし、平成21年7月10日の判決において、最高裁は、上の平成19年の判決とは矛盾する、過払い金を請求する側にとっては一歩後退した判断を下しました。
平成18年1月13日に最高裁において「利益喪失特約が支払いの任意性を否定する」と判断される以前には、同様の判例はありませんでした。したがって、平成18年の最高裁判決以前に関しては「みなし弁済が適用される」と貸金業者が考えたのは無理もないことであり、平成18年の判決前に契約を交わした貸付については「貸金業者を悪意の受益者と推定することはできない」との判断です。
ただし、この判決によって影響を受けるのは、平成18年1月13日以前の貸付だけです。それ以後の貸付については、制限利息を超えた貸付をした貸金業者を悪意の受益者と推定することができます。また、平成18年以前の貸付に対しても、利益損失特約以外の契約書類の不備などを指摘することにより、貸金業者の悪意を推定することができます。
リボルビング払いについての判例
アコムやプロミス、CFJなどリボルビング払いでの貸付業務を行っていた貸金業者は、上とは異なった形で「善意の受益者」であることを主張しました。その主張と、裁判の判決を見てみましょう。
貸金業者はみなし弁済の要件が難しいことを理由に善意と反論
リボルビング払いは、あらかじめ決められた限度額の枠内で借入れが自由にできます。そのために、毎月の返済金額や返済期間は、利用者が追加で行った借入れによって変わります。
みなし弁済が適用されるためには、契約の際に返済期間と返済金額、返済回数を記載した「貸金業規制法17条書面」を借主に交付しなければなりません。しかし、リボルビング払いにおいては返済の期間や金額を確定することが難しいため、貸金業者は契約書類にこれらを記載していませんでした。
平成23年の最高裁判決 …リボルビング払いの貸金業者も悪意と認定
最高裁は、まず平成17年12月15日の判決で、「返済期間や金額が明記されていない以上みなし弁済は適用されない」と判断しました。さらに平成23年12月1日の判決により、リボルビング払いでの貸付を行っていたアコムなどの貸金業者を「悪意の受益者である」と認定しました。
悪意の受益者については弁護士に相談しよう
平成22年以前に借入れをしていた人は、過払い金が発生している可能性が高くなります。過払い金自体の返還は、争いなく受けられることがほとんどです。
また、貸金業者が悪意の受益者である場合につけられる利息についても、リボルビング払いの場合などのように裁判をしなくても受け取れることもあります。過払い金の請求は、時効になってしまう前に弁護士に相談しましょう。
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