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労働基準監督署は何のためにある? その役割と利用方法を解説
この記事で分かること
- 労働基準監督署は労働基準法やその関連法律に基づき企業の法律違反を監督し、違反があれば是正勧告を行います。
- 民事不介入の原則から、通常は法に明記された範囲にしか対応しません。
- 労働基準監督官は行政監督権限と特別司法警察職員としての権限を持ち、立ち入り捜査や逮捕の権限等を有します。
- 労働基準監督署への申告の際には証拠資料等の事前準備が重要。
労働基準監督署は企業の法律違反を監督し、違反があれば是正勧告を行いますが、法に明記された範囲にしか対応しません。相談の方法は複数ありますが事前準備が大切です。労働監督署の業務内容や利用方法について詳しく知りましょう。
目次[非表示]
労働基準監督署の役割について
まずはじめに、労働基準監督について業務内容等基本的な内容を解説します。
労働基準監督署とは、事業場に対する監督及び労災保険の給付等を行う厚生労働省の出先機関で、労基署、労基、また単に監督署とも呼ばれます。主な役割は、端的に言えば「企業が法律違反をしていないか監督し、違反していれば是正勧告を行う」ことです。
事業所の監督指導等を行う
労働基準監督署は各都道府県、300ヵ所以上に設置され、労働基準法、労働安全衛生法、労災保険法と言った労働関係の法律に基づいて、事業所の監督や指導をしたり、書類を提出させたりします。取り扱う事案は労働契約、賃金の支払、最低賃金、労働時間、休息、災害補償等労働条件に関することや労働衛生に関すること、労働者保護に関すること等です。労働基準監督署の目的は基本的には「労働者の就業環境の改善」と捉えてよいでしょう。
3つの課が置かれる
また労働基準監督署には「監督主務課」、「労災保険主務課」、「安全衛生主務課」が置かれており、それぞれ業務が分担されています。
監督主務課
複数の労働基準監督官から構成され、労働者から法違反の申告があればそれに基づいて事業所に立ち入り、調査を行います。賃金台帳その他の労務関係書類や安全衛生管理の状況を調べ、法違反等が認められた場合は是正勧告や改善命令等、行政指導を行います。
労災保険主務課
労働災害や通勤災害の認定、それらの保険金の給付、労働災害保険や雇用保険といった労働保険の適用、及び労働保険料の徴収等を主な業務とします。
安全衛生主務課
安全衛生法違反等の是正指導が主たる業務で、他にも労働災害等を発生させる危険がある事業場に対して個別指導も行っています。
労働基準監督署がしないこと
職場でトラブルが起こった場合、どんなケースでも労働基準監督署に駆け込めば解決するわけではありません。労働基準監督署には「民事不介入」の原則があり干渉しないケースもあるのです。
企業と個人間のトラブルには介入しないことが多い
例えば解雇やその他懲戒処分に関する不服や労働契約の内容、契約更新のトラブル等は労働紛争の中でも特に多いことですが、このようなトラブルには、労働基準監督署は介入しません。労働基準監督署はあくまでも労働基準法、及び関連する法律に明記された事柄を扱う機関であり、こうした企業と個人間の問題は、労働基準監督署の業務対象範囲外なのです。そうは言っても、この種のトラブルには全く応じてくれないわけではなく、相談には乗ってくれます。労働基準監督署の業務対象範囲内かどうか判断し兼ねる場合は、相談だけでもしてみるとよいでしょう。
労働基準監督署の具体的な業務内容と権限
前述の通り、労働基準監督署の主な役割は事業所に対して管理・指導を行うことです。ここでは、労働基準監督署の持つ権限や業務内容を具体的に見ていきましょう。
労働基準監督署が行う調査内容
労働者の就業環境の改善が主目的の労働基準監督署ですが、調査を行い法令違反があれば、「是正勧告書」を交付します。また、法令違反ではなくても、法の趣旨から改善が望まれる点があれば、「指導票」を交付し事業所に改善報告を求めます。実際に行う調査は大きく「定期監督」と「申告監督」に分かれます。
定期監督
定期監督は、最も一般的な調査で、労働基準監督署が任意に調査対象を選択し、法令全般の調査をするものです。事前に電話か書面で通知日程調整が行われることが多いですが、突然事業場に抜き打ちで訪問してくる場合もあります。どの位まで詳細に調査をするのかは、ケースバイケースと言えます。なぜなら申告があっての調査ではないので対象やその程度は監督官の裁量による部分が比較的大きいためです。法令違反があった場合には、是正勧告を行うことになります。
申告監督
申告監督は文字通り労働者からの申告があった場合に、その内容を確認するために行われる調査です。この調査は定期監督の場合よりも厳しく行われますが、申告に対応するかどうか別問題となります。と言うのも労働基準監督署はあくまでも「治安機関」であり、労働基準法に明記されていることにしか仲介しないため、担当官の判断で対処が決まるからです。
労働基準監督官には様々な権限がある
労働基準監督署の中でも労働基準法及び関連法律の実施を監督する国家公務員を「労働基準監督官」と言います。労働基準監督官は大きく分けて「行政監督としての権限」と「特別司法警察職員としての権限」の権限を持っています。労働基準監督官を「労働Gメン」と呼ぶことがあるのは、こうした理由があります。
行政監督としての権限(立ち入り調査、帳簿等の提出を求める、尋問)
労働基準法は第101条で「労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる」としています。つまり労働基準監督官は企業が法令違反をしていないか臨検(立ち入り)し調査する権限を持っているのです。事業所に入る際は、事前の通知は必要ないとされています。
特別司法警察官としての権限(捜査、逮捕、送検する)
また労働基準法は第102条の労働基準監督官の権限において「労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。」としています。これは、労働基準監督官は労働基準法においては、警察と同等の権利を有することを意味します。つまり法律違反をしていることが判明すれば、司法警察員として、犯罪捜査、逮捕、送検することができるわけです。労働基準監督官が司法警察の権利を持つのは以下の法律です。
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- じん肺法
- 家内労働法
- 炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法
- 作業環境測定法
- 最低賃金法賃金の支払の確保等に関する法律
労働基準監督署の利用方法や注意点
では、労働働基準監督署を利用したい場合、どのようにすればよいのでしょうか。労働基準監督署の利用方法や、相談に際して覚えておくべきポイント等を解説していきます。
労働基準監督署を利用するための手順
労働トラブルの中には時効が設けられているものも多く、解決するにはスピードが重要になります。トラブルが起きたときにいち早く行動に移せる様、労働基準監督署を利用するための手順を知っておくことが大切です。
労働基準監督署に相談すべき事案か再確認する
前述の通り、基本的に労働基準監督署は労働基準法や労働関連法に明記された事案にしか介入しません。それゆえまずは、労働基準監督署に相談すべき事案なのか内容を今一度確認することが必要です。
社内窓口やメールや電話、直接赴く申告する
労働基準監督署に相談することは「申告監督」を依頼することですが、その方法はいくつかあります。一つは社内の相談窓口から依頼する方法です。近年では相談窓口が社内に設けられている企業も増加しています。それがはばかられる場合、監督署に直接赴き申告することも可能です。労働基準監督署は各都道府県に設置されているので日頃から所在地等を確認しておくとよいでしょう。その他、電話やメールで連絡を取る手段もあります。
相談に行く際に注意すること
労働基準監督署に相談する際、注意すべきことがいくつかあります。できるだけスムーズに話を進めるために覚えておくべきポイントを紹介します。
トラブルの経緯を整理しておく
労働基準監督署に会社への指導や是正勧告等の措置をとってもらうには、トラブルの経緯を詳細にかつ筋道立てて、正確に伝える必要があります。そのためには前もって事実関係をメモにまとめる等整理しておき、相談の際時系列に沿って理路整然と話せるよう準備しておくことが大切です。
証拠資料を用意してお
く
さらに、それらを証明する証拠資料もあったほうがよいでしょう。もちろん用意できなくても相談には乗ってもらえますが、例えば賃金未払いのトラブルならタイムカードや勤怠記録、労働災害に関する事案なら医療機関の診断書、業務内容や就労場所を証明する書類等を用意しておくといった具合です。大切なのは、労働基準監督署に任せっぱなしにするのではなく、違法性の判断ができるように、労働者側が前もって準備しておくことです。
労働基準監督署の役割は違法状態の是正。労働者個人の救済は弁護士に相談
労働基準監督署は、労働者の就業環境改善を目的とする“労働者の味方”と言えます。しかしながら、労働基準監督署の役割は、会社の労働に関する違法状態を是正するところまでです。例えば未払いの残業代請求など、個人についてどうにかしてくれるわけではありません。そのため、会社での労働状況とは別に、何らかの請求を会社に立てたいときなどは、労働問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。就業状況や契約書、残業代が未払いだと分かる証拠などを持参して相談しましょう。
- サービス残業、休日出勤がよくある
- タイムカードの記録と実際の残業時間が異なる
- 管理職だから残業代は支給されないと言われた
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
- 自主退職しなければ解雇と言われた
- 突然の雇い止めを宣告された