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タイムカードなど残業の証拠がない場合、残業代請求できない?
この記事で分かること
- 残業代請求をするには「労働契約の内容」と「請求残業代分の労働を実際に提供したこと」を証明する資料が必要です。
- 会社がタイムカードなどの証拠を隠ぺいしている場合、保全手続きで開示させることができます。
- 残業代請求権には2年の消滅時効があります。
残業代請求をするには「労働契約を締結したこと」と「請求残業代分の労働を実際に提供したこと」を証明する資料が必要ですが、直接的な証拠がないケースもあります。会社がタイムカードなどの証拠を隠ぺいしている場合、保全手続きで開示させることができます。さらにそもそもタイムカードなどの勤怠記録がない場合はそれに代わる証拠を集めれば残業代請求できます。
目次[非表示]
残業代請求で重要なのはタイムカードなどの証拠
セクハラやパワハラ、違法な長時間労働に不当解雇。様々な労使トラブルがありますが、残業代の不払いもそのひとつです。残業代を請求するには請求の根拠となるもの、つまり証拠が必要です。しかし、証拠を簡単に確保できるとは限りません。日頃から、自身の残業代についてはしっかりと管理する必要があります。
労働者は残業代を請求する権利がある
残業代の不払いは違法ですから、労働者には会社にその賃金を請求する権利があります。とはいえ、会社がすんなりと支払いに応じてくれるケースばかりではありません。そしてこじれた場合、最終的には訴訟で決着をつけることになります。
訴訟では請求の根拠が必要です。したがって残業代請求で最も重要になるのは証拠なのです。用意すべきは「労働契約の内容」と「請求残業代分の労働を実際に提供したこと」を裏付ける資料です。
労時契約の内容や労働の事実がわかる資料
残業代を請求するにはまず労働時間や割増賃金の発生条件といった労働条件、すなわち「労働契約の内容」を客観的に証明する必要があります。そのための資料としては雇用契約書や労働契約書が最も有効です。
また、「請求分の労働を提供した」ことも証明しなければなりません。つまり“労働時間のうちどこからが残業なのか”を明白にする必要があるわけです。したがって、決められた“所定労働時間”が記載された就業規則などの書類は必須になります。さらに残業代の支払いを受けていないことも立証する必要があるので給与明細も必要です。
直接的な証拠がない場合
しかし、常にこうした残業の事実やその時間を裏付ける資料を用意できるとは限りません。中には証拠がないケースも存在します。
会社が隠しているケース
残業代の証拠がない場合としてまず挙げられるのが、「実際には存在するものの、会社が開示せず意図的に隠しているケース」です。残業代支払いから免れるために、会社がタイムカードなどの証拠を分かりにくい場所に保管したり、労働者に開示しなかったりすることがあります。
そもそも存在しないケース
また「端からタイムカードなどで出退勤管理をしていないケース」もあります。オフィス勤めの人には信じられないかもしれませんが、労働時間が不規則になりがちな運送業などではこうしたケースはしばしばあります。
そこで、次章からそれぞれのケースにおいて、証拠を集める方法および残業代を請求するにはどう対処すべきなのかなどを詳しく解説していきます。
その場合は、タイムカードに代わる証拠が必要になります。会社に日報なども証拠のひとつとなる場合があります。
残業代の証拠となるタイムカードを会社が隠しているケース~
まずは、証拠は存在するものの会社が隠しているケースです。国会での内部文書の隠ぺいが次々と明るみになり物議を醸していますが、特に悪質な企業などでは労働者からの残業代請求に備えて、残業の事実を裏付ける資料を使用者が隠す事例は少なくないのです。
証拠保全で証拠を開示させる
不当解雇や労災申請、パワハラにセクハラなど、残業代不払いに限らずあらゆる労働問題では証拠が重要となります。しかし、企業側がすんなりと証拠を開示してくれるとは限りません。そんなときのために用意されているのが「証拠保全」です。
証拠保全とは端的に言えば「裁判所に申し立て会社に証拠を開示させる手続き」です。開示請求には強制力はありませんが、拒否すれば裁判で会社側が不利になるので応じる可能性が極めて高いと言えます。具体的なやり方を見ていきましょう。
証拠保全申立書の作成
まずは証拠保全申立書を作成します。申立書には以下の事項の記載をします。
- 申立人と相手方の名前、住所
- 申し立ての趣旨
- 証拠保全の必要性
- 保全したい証拠
証拠保全申し立て
作成した証拠保全申立書を裁判所へ提示します。申し立ての際には印紙代や会社に書類を送るための切手代などの手数料が必要です。
執行官送達
証拠保全手続きの実行に先立って、執行官から相手方に証拠保全手続を行う旨が送達されます。送達は通常、保全手続き実施の30分前など直前に行われます。
証拠保全手続きの実行
次に証拠保全手続きの実行に移ります。具体的には裁判官、裁判所書記官と共に証拠があると見込まれる場所へ赴き、証拠開示の請求をします。多くの場合証拠の保管場所である会社の事務所に出向くことになりますが、この際必要に応じてカメラマンも同行します。
証拠開示命令
そして、その場で裁判官によって証拠の開示命令(文書開示命令)がなされます。会社が求めに応じて証拠資料を開示すれば、それらをコピーしたりカメラで撮影したりします。会社には開示を拒否する権利もありますが、拒否した場合20万円以下の過料に処されるうえ、裁判に発展した場合不利になります。
残業代の証拠になるタイムカードがない場合
また、端から勤怠記録が存在しない場合もあります。例えば運送業など特殊な業界では初めからタイムカードや出勤簿などで出退勤管理をしていないケースも見受けられます。
この場合、証拠そのものがないわけですから保全手続きもとれません。では、どうすればよいのでしょうか。
タイムカードなどに代わる証拠を集める
タイムカードで勤怠管理をしていない会社の場合、未払い残業代が存在するのに泣き寝入りすることが少なくありません。しかし、諦めてはいけません。実は直接的な証拠がなくても残業代請求はできるのです。
前述の通り、残業代請求に必要なものは「労働契約を締結したこと」と「請求残業代分の労働を実際に提供したこと」を証明するものです。
したがって直接的な証拠はなくてもこれらを間接的に裏付ける資料が用意できれば良いわけです。
労働契約の内容を証明するもの
まずは賃金や割増率に関する条件など労働契約の内容、つまり労働条件を証明するものについてです。就業規則や雇用契約書がなければ、それらに取って代わるものを集める必要があります。
労働条件の証拠となり得るものは例えば以下のようなものです。
メール・書面の履歴
例えば昇給通知書など、労働条件に関する書面やメールは有力な証拠になり得ます。
給与明細
また給与明細にも多くの場合所定賃金の金額や内訳等が記載されているため、労働条件の証拠になります。
銀行振込の記録や領収書など
さらに銀行振込の記録や領収書などで、賃金の金額や支払日を証明することも可能です。
同僚の証言
有力な資料が集められない場合、同僚の証言を得るのも一手です。
請求残業代分の労働を提供したことを証明するもの
こちらは一見集めるのが難しそうですが、実際に探してみるといろいろとあります。
例えば以下のようなもので残業時間を立証することができます。
パソコンのログ記録
パソコンにはログが記録されていて、起動時刻やシャットダウン時刻が残っています。これは残業した証拠になります。
メールの送受信記録
勤務時間中のメール送受信の記録も有効です。例えば退勤時に、上司へメールを送るように工夫するとよいでしょう。
タコグラフ
運送業などの場合運行記録計(デジタルタコグラフ)も有力な証拠になります。運行記録計とは車両の稼動状況を把握するために運行時間中の走行速度などの変化をグラフ化したもので、非常に客観性の高い証拠になるのです。
入退室記録
またIDカードによる入退室記録も有効です。IT化が進んでいる現在では、セキュリティ対策もこめてIDカードで入退室管理をしている会社も多いです。
防犯カメラの映像
さらに防犯カメラが設置されている場合、そのビデオ映像も客観的な証拠となります。
残業代請求で覚えておきたいポイント
ここまでの解説で、タイムカードなどの証拠がそもそもない場合や実際には存在するものの会社が開示してくれない場合の対処法について解説してきました。最後に覚えておくべきことや残業代請求のポイントを紹介します。
証拠はタイムカードだけでは不十分
残業代請求における証拠としてタイムカードや出勤簿がよく挙げられます。しかしこれらは厳密な労働時間を記録したものではありません。
どういうことかと言うと、例えば出社と同時にタイムカードに打刻し、その後同僚と無駄話をしている場合も労働時間としてカウントされてしまいます。また退勤時も同様で勤務後ネットサーフィンなど業務と無関係なことに時間を費やしても打刻の時点までが労働時間にカウントされてしまうわけです。
訴訟に発展した際、相手方にこの点を指摘される恐れがあります。ですからタイムカード以外に業務日報なども併せて準備しておきましょう。
残業代請求権には時効がある
労働者はすべての労働に対して賃金を請求する権利を有しますが、残業代請求権には2年の消滅時効が存在します。時効が完成した場合、原則請求はできなくなるので注意しましょう
もっとも、時効を中断する方法もあります。中断方法には「請求」や「差押え、仮差押えまたは仮処分」「承認」「催告」がありますが、このうち催告には時効を一時停止させる効果しかない点は覚えておきましょう。中断すればまたカウントはゼロからになります。
弁護士に依頼するのが得策
残業代請求は労働トラブルの中でも多いもののひとつで、関連書籍なども山ほどあります。そのため個人が自力で行うことも可能ですが、やはり法の番人である弁護士に依頼するのが得策と言えます。
柔軟な対応が可能
残業代請求には複雑な部分、イレギュラーな部分が多くあります。また当然、会社側の出方など、状況に合わせた柔軟な対応が必要になってきます。しかし法的知識に乏しい素人が臨機応変な対処をするのは困難です。その点、弁護士なら労働関連法を熟知していますし経験も豊富なのでうまく対処できます。
精神的・肉体的負担が軽減される
加えて、精神的・肉体的な負担も軽減できます。残業代請求が長期にわたると労働者は精神的・肉体的にも疲弊してきます。在籍中に行う場合はなおのことです。さらに大企業の場合顧問弁護士を雇っているケースが多く、素人では太刀打ちできない可能性も十分にあります。けれども弁護士に依頼すればすべて一任でき、訴訟に発展した場合も安心です。
残業代請求についてのトラブルは弁護士に相談
残業代の請求には証拠が必要ですが、いざという時、すぐには集められないこともあります。ですから、日頃から残業代請求に備えて証拠を残すことを念頭に置いて勤務に当たることが大切と言えます。
残業代の未払いが発生し、会社とトラブルになったら、労働問題に強い弁護士に相談するのが得策です。弁護士ならトラブルの状況を理解して、法律の観点からよりよいアドバイスをしてくれるでしょう。
- サービス残業、休日出勤がよくある
- タイムカードの記録と実際の残業時間が異なる
- 管理職だから残業代は支給されないと言われた
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
- 自主退職しなければ解雇と言われた
- 突然の雇い止めを宣告された