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名ばかり管理職の定義と判例~違法残業代を取戻す対策は?
この記事で分かること
- 名ばかり管理職とは管理監督者としての要件を満たさない会社基準の管理職のこと
- 名ばかり管理職に残業代を支払わないのは労働基準法違反
- 名ばかり管理職に対する未払い残業代は訴訟で取戻すことができる
店長や課長などの管理職にされ、残業代が支払われなくなったという人は多いでしょう。しかし、管理監督者としての要件を満たさない「名ばかり管理職」は、残業代の支払いがされなければなりません。この記事では、名ばかり管理職の定義、名ばかり管理職に関する裁判の判例、未払い残業代を取戻す対策について解説します。
「名ばかり管理職」の定義とは?
「名ばかり管理職」とはどのようなものなのでしょうか? 最初に、名ばかり管理職の定義、「管理監督者」であるために満たさなければならない要件について見ていきましょう。
名ばかり管理職とは「管理監督者」の要件を満たさない会社基準の管理職
名ばかり管理職とは、労働基準法が定める「管理監督者」に当てはまらない、会社基準の管理職のことです。
労働基準法第41条において、
「監督もしくは管理の地位にあるもの(=管理監督者)は労働時間、休憩および休日に関する労働基準法の規定が適用されない」
とされています。労働時間、休憩および休日に関する規定とは、
- 法定労働時間 …1日8時間、1週間で40時間を超えて労働させてはならない
- 休憩 …1日の労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなくてはならない
- 休日 …1週間に1日以上の休日を与えなくてはならない
- 割増賃金 …法定労働時間を超えて労働させた場合、および法定休日に労働させた場合には所定の割増賃金を支払わなければならない
のこととなり、管理監督者はこれらの規定の適用対象外となります。
しかし、「管理監督者」であるかどうかは、その職務内容、責任と権限、勤務態様、および待遇についての厳格な要件に基づいて判断されるものです。にもかかわらず、「店長」「課長」などの肩書を付け、管理監督者としての要件を満たさないにもかかわらず、「管理職だから」と残業手当や休日出勤手当を支払わないことが「名ばかり管理職」です。
「管理監督者」であるための要件
労働基準法が定める「管理監督者」としての要件は、厚生労働省の通達によれば、
- 経営者と一体的な立場で仕事をしていること
- 出社、退社や勤務の時間について厳格な制限を受けていないこと
- その地位にふさわしい待遇がなされていること
の3つです。
1. 経営者と一体的な立場で仕事をしていること
管理監督者の第一の要件は「経営者と一体的な立場で仕事をしていること」となります。
管理監督者であるといっても、労働者であることに変わりはありません。しかし、管理監督者は経営者に代わり、経営者と一体的な立場で仕事をしなくてはなりませんので、労働時間などの制約を受けないとされます。ただし、そのためには経営者から、管理監督および指揮命令に関する一定の権限を委ねられていることが必要です。
「店長」「課長」などと肩書が付けられていても、上司に決済を仰がなければいけなかったり、上司の指示を単に部下に伝達するだけであったりすることも多いでしょう。そのような場合には、管理監督者ではなく名ばかり管理職であることになります。
2. 出社、退社や勤務の時間について厳格な制限を受けていないこと
管理監督者は、出社や退社、勤務の時間について厳格な制限を受けていないことが必要です。時を選ばず経営上の重要な判断を下さなくてはならない場合があり、また労務管理の上からも一般の従業員とは異なる立場に立つ必要があるからです。
タイムカードにより勤怠管理がされている、遅刻や早退をしたら給与や賞与が減らされる、などのことがあれば、それは管理監督者とはいえません。
3. その地位にふさわしい待遇がなされていること
管理監督者は、その職務の重要性から、地位や給与などの待遇が一般社員と比較して相応に高いものでなくてはなりません。
名ばかり管理職に残業代を支払わないのは違法
管理監督者としての要件を満たさないにもかかわらず、「店長」「課長」などの肩書を付けて残業代、休日出勤手当を支払わないのは労働基準法違反です。名ばかり管理職として支払いを受けなかった残業代、休日出勤手当は請求が可能であり、実際に訴訟により、残業代の請求が認められた判例も多数あります。
名ばかり管理職についての裁判の判例
名ばかり管理職についての訴訟は多数行われ、判例が蓄積されています。そのうちのいくつかをここでは見ていきましょう。
日本マクドナルド事件の判例
日本マクドナルド事件の判決は、2008年1月28日に東京地裁において下されました。裁判官は原告の主張を認め、過去2年分の未払い残業代など約750万円の支払いを日本マクドナルド社に命じました。
原告の男性は店長として無報酬の長時間労働を強いられ、年収は店長になる以前より低くなったのみならず、長時間労働による過労死寸前の状況にまで追い込まれました。判決は、
- 店長の権限は、店舗運営において重要な職責を担ってはいるものの、店舗内の事項に限られるのであり、経営者と一体的な立場といえるほどの職務や権限を与えられているとはいえない。
- 店長は、シフトマネージャーが確保できない時間帯には自らがシフトマネージャーとして勤務しなければならないため、労働時間に関する自由裁量性があったとは認められない。
- 店長の待遇についても、店長の賃金と、店長から1つ下位の職位であるファーストアシスタントマネージャーとはほとんど変わらず、管理監督者に対する待遇として十分であるといえない。
として、日本マクドナルド社の店長が「管理監督者ではない」と結論づけました。
SHOP99名ばかり管理職事件
SHOP99名ばかり管理職事件の判決は、2011年5月31日に東京地裁で下されました。裁判官は、4ヶ月間の未払い残業代約45万円と、残業代が未払いだったことに対するペナルティ20万円、慰謝料として100万円の、計約165万円の支払いをSHOP99に対して命じました。
判決は、日本マクドナルド事件の場合と同様、SHOP99の店長が十分な権限や裁量を与えられていないにもかかわらず管理監督者として取扱いを受ける名ばかり管理職であると認定しました。原告は長時間労働が原因と見られるうつ病を発症し、慰謝料は病気休職に対するものとして認められています。
育英舎事件
育英舎事件の判決は、2002年4月18日に札幌地裁において下されました。裁判官は原告の主張を認め、2年間の未払い残業代として約360万円の支払いを育英舎に対して命じました。
原告は、学習塾を経営する育英舎の本部営業課長として、管理監督者の取扱いを受けました。しかし、判決は、
- 営業課長は経営企画会議に参加していたが、経営企画会議は社長への諮問機関に過ぎず経営への参画を示すものではない。
- 出退勤についてはタイムカードへの記録が求められ、自由裁量の余地はなかった。
- 給与などの待遇も、一般社員と比較してそれほど高いとはいえない。
とし、「営業課長は管理監督者ではない」と結論づけました。
名ばかり管理職の違法残業代を取戻すための対策
名ばかり管理職として違法に支払いがされなかった残業代を取戻すためには、訴訟を提起することが大きな選択肢となります。訴訟で残業代を勝ち取るためには、「証拠集め」が必要です。次のようなものについては、できる限りのものを集めておきましょう。
- 雇用通知書・雇用契約書・労働契約書など雇用されたときの書類
- 残業代の規定が書かれた就業規則のコピー
- タイムカードや勤怠記録、日報などの出退勤時間を証明できるもの
- 上司からの指示書や指示メールなど、残業時間中の業務内容を証明できるもの
名ばかり管理職の未払い残業代請求は弁護士に相談しよう!
名ばかり管理職にさせられることにより長時間労働を強いられ、心身の調子を崩す人も決して少なくありません。未払いの残業代は、泣き寝入りせず請求しましょう。
残業代を請求する際、法律の専門知識を持ち、親身に相談に乗ってくれる弁護士の存在は、大変心強いものです。残業代請求のことで悩んだら、できるだけ早めの段階で、労働問題に強い弁護士に相談してみることをおすすめします。
- サービス残業、休日出勤がよくある
- タイムカードの記録と実際の残業時間が異なる
- 管理職だから残業代は支給されないと言われた
- 前職で残業していたが、残業代が出なかった
- 自主退職しなければ解雇と言われた
- 突然の雇い止めを宣告された