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産休や育休中の社員を解雇することは可能?法的な仕組みや注意点を解説

この記事で分かること

  • 産休中(産前6週間と産後8週間)と産休明け30日間は解雇できない期間
  • 解雇が制限されている期間でも、期間が明けた後の解雇を予告することは可能
  • 妊娠した女性を気遣って退職を勧めるとトラブルになる場合も

産休中と産休明け30日間は法律で解雇が認められていません。ただしこの期間中も解雇予告を行うことは認められています。また、妊娠を理由に退職を進めることは法律で認められていないので注意が必要です。

前提知識:解雇とは会社が一方的に労働契約を解除する行為

産休や育休中の社員の解雇に関する知識を紹介知る前に、まずは事前に知るべき解雇に関する法的な知識を紹介していきます。

労働者と使用者が雇用契約を終了する方法には「解雇」と「退職」があります。

解雇とは、使用者が一方的に労働契約を解除することで、それ以外の方法で労働契約を終了することを退職と呼びます。

解雇の形式は3種類ある

解雇は会社側の判断で行われるため、従業員が同意を求められることはありません。解雇の対象は正社員だけでなく契約社員やパート社員も含まれます。解雇の形式は原因ごとに3つの種類があります。

懲戒解雇

懲戒解雇とは、従業員への懲戒処分として行う解雇のことです。従業員が会社のお金を横領したり商品・備品を盗むといった不正行為があった場合や、犯罪を行い警察に逮捕された場合に従業員を辞めさせることです。

普通解雇

普通解雇とは、懲戒解雇には当てはまらないが会社の就業規則に定められた解雇事由に相当する際に行われる解雇です。職務怠慢の程度が著しい場合や、業務を行う能力が不足している場合などに適用できます。

整理解雇

整理解雇とはいわゆるリストラのことで、経営不振や事業規模の縮小など経営上の理由で人員整理を行うための解雇です。会社の倒産に伴って従業員が職を失う際も整理解雇に含まれます。

ワンポイントアドバイス
このほか、従業員側に懲戒解雇と同程度の自由があるものの、従業員の反省の度合いなどを考慮して処分を少し軽くする「諭旨解雇」もあります。諭旨解雇は従業員側から退職を願い出るという形式をとり、懲戒解雇よりも退職金の支払いなどで優遇されます。

産休・育休中に関わらず合理性のない解雇はできない

よくドラマなどで上司が部下に「お前はクビだ!明日から来なくていい!」と怒鳴るシーンを見かけます。しかし現実では上司一人の突発的な判断で従業員を解雇することはできません。労働契約を解除できるのは、労働者本人か会社のどちらかに限られています。

要件が揃わないと解雇は無効

労働契約法第16条は、客観的に見て合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない解雇は無効としています。

解雇には問題の証拠や改善の努力が必要

勤務態度や能力に問題があり解雇したい従業員がいても、事実として証明できる証拠・証言が必要です。また、その従業員に対し会社側が指導や改善の努力を行ったかどうかも重要なのです。

解雇のトラブルで労働組合が動くことも

従業員を解雇する際、会社側が丁寧な説明を怠ったり、従業員の感情に配慮しない対応を取ってしまうと、解雇に向けた交渉がこじれることもあります。このとき従業員が労働組合に加入していれば、組合が交渉の窓口となりトラブルが大きくなってしまいます。

ワンポイントアドバイス
従業員の解雇を検討していても、そもそも会社の就業規則や雇用契約書に解雇に関する規定がなければ解雇できません。解雇の規定がない場合は、これらの文書を作り直すことから始める必要があります。

産休・育休中に解雇はできないが解雇予告は可能

労働者は労働基準法など様々な法律によって権利を守られていて、法律が定めた一定の期間は、会社は従業員を解雇できません。法律の規定は会社の就業規則や雇用契約書の解雇に関する規定よりも優先されます。

産休(産前休業・産後休業)とは

産休とは妊娠した女性従業員なら希望すれば誰でも取得できる休業です。

期間は、産前休業は出産予定日の6週間前(双子など多胎妊娠の場合は14週間前)からで、産後休業は出産の翌日から8週間です。

産休中の社員は解雇できない

労働基準法は産休中と産休明けの30日間の従業員は解雇できないと定めています。この期間に解雇してしまうと、いわゆる「産休切り」として問題になります。解雇された従業員が労働基準監督署に相談し、会社が是正指導を受けるリスクがあります。ただし天変地異などで事業が継続できない場合は例外です。

産休中でも解雇予告は可能

一方、解雇が禁止されている期間でも、解雇予告を行うことまでは禁止されていません。つまり、産休明け30日の後に効力が生じるように、前もって解雇予告をしておくことはできるのです。

産休を理由に不利益な扱いをすることはできない

産休と解雇に関して女性従業員の権利を守る法律は他にもあります。男女雇用機会均等法は、妊娠・出産や産休を申請したことを理由に解雇などの不利益な扱いをしてはならないと定めています。

産休中は解雇できないが「妊娠中・産後1年以内」なら解雇できる場合もある

産休中と産休明けの30日間は解雇が不可能ですが、その前後の期間なら解雇できる場合もあります。これには、妊娠中や産後1年以内の女性従業員に対し妊娠・出産・産休取得を理由に解雇することを禁止している、男女雇用機会均等法第9条が関係しています。

解雇理由が産休取得ではないと証明できるとき

解雇の理由が妊娠・出産・産休取得以外であると証明できる場合は、妊娠中や産後1年以内の女性従業員を解雇することが可能です。具体的には、会社の経営不振などで他の社員と同様に整理解雇(リストラ)の対象とした場合などです。

整理解雇の合理的な理由とは

会社の都合で安易に整理解雇が行われてしまうことは、従業員にとって重大な不利益です。このため整理解雇には合理的な理由が求められます。過去の裁判例では、合理的な理由には

  1. 人員削減の十分な必要性があること
  2. 労働時間短縮や新規採用の停止など解雇回避努力義務を尽くしたこと
  3. 勤務成績や勤続年数などを考慮し解雇対象者を公正・妥当な方法で選んだこと
  4. 誠意をもって説明や協議に尽力したこと

の4項目すべてを満たす必要があります。

ワンポイントアドバイス
産休中の従業員を解雇することは法律で禁止されています。女性の子育てと仕事の両立が社会全体の問題となっている今、法律に反する行為が世間に知られれば会社の評判を大きく下げるリスクを伴います。解雇できない期間はしっかり守りましょう。

産休・育休中の解雇以外における注意点

近年、政府主導で女性活躍の機運が高まり、女性が妊娠・出産・育児を理由に職場で嫌がらせや不利益を被る「マタニティハラスメント(マタハラ)」にも厳しい目が向けられています。このため、今まで問題視されなかった行為が思わぬトラブルを招くこともあります。

妊娠した女性に退職を勧めた場合

妊娠した女性にはつわりなど様々な体調の変化が現れ、症状は個人差も大きいものです。妊娠した部下の女性が「体調が悪ければ遅刻や早退になるかもしれない」と申し出たとき、上司が「中途半端に仕事をせず、出産に専念するべきだ」と勧めることは妥当なのでしょうか。

退職を勧めた場合

男女雇用機会均等法は女性の出産を理由に退職を推奨してはならないとしています。上司から「中途半端に仕事をせず、出産に専念するべきだ」という言葉が出れば、部下の女性にとっては退職への圧力と受け止められ、法に反する行為となるのです。部下の女性が上司の言葉を受け入れて自分の意思で退職する形式をとったとしても、後になって不服を訴えてくる可能性もゼロではありません。

妊娠を気遣ったつもりがトラブルになることも

気をつけたいのは、上司が妊娠した女性の体調を気遣うつもりで「出産に専念すべき」と言った場合です。普段の人間関係やコミュニケーションがうまくいっていないと、気遣いのつもりが退職への圧力ととらえられ、無用なトラブルを招くこともあります。また、会社や上司に「育児は女性がするもの」という考えがあるとトラブルにつながりやすいので注意が必要です。

ワンポイントアドバイス
妊娠・出産・育児に関して女性社員への対応を間違い問題をこじらせてしまうと、最悪の場合、世間から「ブラック企業」と見られてしまう恐れもあります。労働基準法や男女雇用機会均等法など関係法令をチェックして注意点を知っておきましょう。

産休中とその後30日間は社員を解雇することは法律で認められていませんが、解雇予告は可能です。コンプライアンスを重視して従業員を解雇したい企業の方は、ぜひ労働問題に強い弁護士にご相談ください。

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